パルデアでアイドルを目指す   作:ゾネサー

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声を合わせて私達は歌い出す

 ジムテストとジムリーダー戦の間には猶予がある。チャレンジャーがジムリーダーと戦う準備を整えるための時間だ。だからバトルコートといえども今は人がまばら。かくれんぼ終わりで既に到着している私にとっては休憩時間と言える。

 

「ねえ、クワッス。今貴方が使える技って何があるの?」

 

「チルッ!」

 

「それは……『はたく』と呼ばれていたわね。他には……」

 

「チル!」

 

「わっ! もう少しでかかるところだったわ」

 

 クワッスが口から水を勢いよく噴射した。海に降り注がれていくのを見届け、スマホロトムに目をやる。生物のジニア先生が作ったポケモン図鑑のアプリを通して撮っていたの。それによると今のは『みずでっぽう』らしいわ。水で攻撃する。分かりやすくて良いわね。

 

「チルゥ!」

 

「……今のも技なの?」

 

 クワッスがいつもより鋭く声を発したかと思うと、不思議そうにする私に向かって頷いた。そういえば、技というのは攻撃することが全てでは無かったわね。その証拠に『なきごえ』と表示されている。

 

「相手のこうげきを下げる……? へぇ。相手の攻撃を全部抑えられるなら凄いのかしら」

 

「違う違う〜! ここで言うこうげきはぶつりこうげきのこと!」

 

「えっ。あ……いつの間に」

 

「勉強してるなんて感心感心〜。今は図鑑って手書きじゃないもんねー……なんてね! その調子でどんどん利用しちゃえ!」

 

 クワッスに意識を向けていたから、彼女がすぐそばに来ているのに気付けなかったわ。この感じだと、しばらく前から見ていたみたいね……なんだか恥ずかしいわ。

 

「ここでナンジャモのワンポイントアドバイス! 攻撃技にはぶつり技ととくしゅ技の二種類がありマース! 詳しいことは帰ってからね〜」

 

「攻撃はイメージしやすいと思っていたのに一筋縄ではいかないのね……」

 

「他にも分類あるくらいだからね〜。そこもおいおい教えたげる!」

 

「お願いするわ。……それで、何か用事があったんじゃ」

 

「そーだった! アップに付き合って欲しくてさ〜」

 

 妙ね。適任とも思えないし、そもそもこれまでアップをしていた様子は無かったのに。

 

「今からだと、もしダメージを負えば挑戦に響くのでは」

 

「ほぉ〜? ボクはジムリだよ〜? とーっても強いのだ! 初心者トレーナーにダメージを負わされるとお思いかね?」

 

「むっ……」

 

 ニッシッシ、と歯を見せながら笑うナンジャモさんはいつになく意地悪だ。私もそこまで言われて引くわけにはいかない。と、引き受けたは良いものの……。

 

「『みずでっぽう』を当てて!」

 

「縮んで『みずでっぽう』返し! これがとくしゅ技だよ〜!」

 

 ナンジャモさんとハラバリーの息はピッタリだ。対する私達はまるでばらばら。考えてみれば当然のこと。指示を出すのは初めてだし、クワッスも初めて出されている。ポケモンバトルはトレーナーとポケモンが合わさって初めて成立する……。そのことが否応なく身に染みた。最後はぶつり技らしい『スパーク』が寸止めされ、アップが終えられた。

 その日からナンジャモさんは毎日アップを頼んでくるようになった。正直なところ、最初は渋々だったわ。明らかに加減している彼女に、何もできないんだもの。だからこそ、かしら。私の指示とクワッスのタイミングが噛み合ってきたことは分かりやすく表れた。

 

「……! 後ろに跳んで!」

 

「チルッ!」

 

 ハラバリーはほとんど『みずでっぽう』しかしてこなかった。そのおかげもあって攻撃のタイミングが分かり、出した指示に合わせてクワッスが下がる。すると先程までいた場所に砲撃が着弾していた。それが私達が初めて成し遂げられたことだった。

 

「『ふるいたてる』よ!」

 

「チルル〜!」

 

 そうした日々が続き、気付いたらクワッスが新しい技を習得していた。自分のこうげきととくこうをそれぞれ上昇させるらしい。状態変化の一つなんだとか。

 

「『みずでっぽう』だ〜!」

 

「『はたく』で弾いて!」

 

 クワッスが奮い立てている間に狙われてしまう。迫ってくる水を払うことでなんとか無防備に受けることだけは避けられた。

 

「んじゃもー『スパーク』!」

 

「『みずでっぽう』を撃ちながら下がって!」

 

「……! や、やばっ……!」

 

 水を受けている間にハラバリーが電気を纏って突撃していた。しかしこうげきが上がったおかげか、水が早めに途切れた。おかげでクワッスの反応が間に合い、同様に威力が増したとくしゅ技が放たれる。水を放つ反動で『スパーク』から逃れつつ、ようやくハラバリーに攻撃を当てられた。

 

「あー! しまったぁ! やったな〜!」

 

「何を言っているの。あれだけ『スパーク』を制限しておいて」

 

「何のことやらやら〜。これはアップだもんね」

 

「アップ……そうだ。早くポケモンセンターに向かわないと」

 

「キズぐすり使うよ〜」

 

「キズぐすり……?」

 

「ポケモンの体力を回復させられるどうぐ! ボールとキズぐすりは持っといた方が良いよ〜! フレンドリィショップで買えるから!」

 

「ポケモンセンターの横にある……? そういう施設だったのね」

 

 紫色の装置から霧状に噴射された薬が傷を塞いでいく。ポケモンのためのどうぐ……。道中、野生のポケモンは避けてきたけど。万が一クワッスが倒れたら、私はどうしていたのだろう。近いとも限らないポケモンセンターに駆けていただろうか。そんな事態を避けるどうぐがあったとも知らずに。……もっとクワッスの立場になって、考えよう。今の私は、一人ではないのだから。

 さらに日が経ち、アップも最早恒例になった。時々、攻撃は当たるようになったけど。当たることを想定しつつ、攻撃の隙を突かれるようになったわ。なんでも攻撃を受けるとハラバリーの特性『でんきにかえる』によって、次の電気技の威力が倍加する『じゅうでん』状態になるんだとか。ここに来て発揮された本領に、まだまだなのだと思い知らされたわ。でも……どうしてかしらね。負けてばかりなのに、こうも胸が躍るのは。

 

「アー♪ アアー♪ アアアアッアー♪」

 

 今日のジムリーダー戦もクライマックス。指示の邪魔にならない程度にバックコーラスを添える。観戦している人が一体となって盛り上がりを共有しているこの時間が、私は好きになっていた。

 そんな時間も終わってしまい、ジムで献立を考えながら帰り支度を整えていた時だった。リョウタさんとヒロユキさんに話しかけられた。

 

「明るくなった? そうかしら……特に言葉遣いを変えたつもりも無いのだけど」

 

「そこら辺は相変わらずだけど、なんだろうな……」

 

「雰囲気かな? 今日のコーラスとかもさ」

 

「ああ、そうだな。元々美声だなーとは思ってたんだけど、今日のは一段と雰囲気が良かったっていうか」

 

「雰囲気……曖昧ね。けれど歌を褒めてもらえるのは嬉しいわ。ありがとう」

 

 返礼に驚いたのかしら。二人とも私の顔を見て目を丸くしていたわ。ふふっ、胸元につけている怪獣のようなポケモンの人形そっくり。

 支度を終えたのでジムを後にし、またポケモンセンターとフレンドリィショップに寄る。最近は帰り道の景色が前までとは少し変わっていた。

 

「アアアアッアー♪」

 

「チルルルッルー♪」

 

 ハッコウシティらしく道のりは明るく照らされていた。今日はどんなことを教えて貰えるのだろうか、明日はどんな風に戦ってやろうか。そんなことを考えながら、クワッスと共にその道を歩き出した。

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