何も知らないと知ったから
長いようで短かった宝探しも終わり、登校日を迎えた。普段は寮暮らしだけど、今日は家から向かうわ。
「帰ってきたばかりなのに、もう行っちゃうのね〜」
「しょうがないじゃない。落ち着いたらまた帰るから」
「そうね〜……。……ミラ、わたしね。ビックリしちゃった〜。少し見ない間に大きくなったのね〜。嬉しかったわ」
「もう、子供扱いはやめてよ」
「ふふっ。いつまで経っても自分の子供は可愛いもの〜。夢を叶えるためには、色々大変なこともあると思うけど。これからあなたの進む道が甘く優しくありますように〜」
「ありがとう。行ってくるわ」
昨日合間を縫って色々話を聞かせてもらったのに、わざわざ見送りにまで来てくれたお母さんの後押しを受けて私は出発した。テーブルシティまで大した距離はないけど、折角なのでトレーナーを見かけたら声を掛けていくことにした。最近ネモさんがあれだけポケモン勝負を熱望してくる理由が分かった気がする。もっともっと色んなことを試していきたい。
「おーい! ミラー! おはコンハロチャオー!」
「あ、ネモさん。おはよう」
「あれっ!?」
噂をすればなんとやら。ネモさんが何故かナンジャモ語で挨拶してきたわ。
「聞いたわ。チャンピオンランクおめでとう」
「ありがとー! ミラの応援嬉しかったからさ! わたしとにかく頑張ったんだー!」
チャンピオンランクになるためにはジムバッジを八つ全て集めた後、チャンピオンテストというものを受ける必要があるらしい。それらを全てクリアしたのだから、本当に尊敬すべき姿勢だとは思っているわ。
「……お祝いに今度料理を振る舞うわ。滋養強壮に効くものをね」
「ホントに!? 嬉しいー! お腹空かせていくね!」
「ええ。ほどほどにね」
今、水を差すような真似はしたくない。まずこなされたであろう相当な無茶を注意するのは落ち着いたらでも構わないでしょう。とりあえず元気そうで良かったわ。
「それじゃあやりましょうか」
「えっ!? 良いのー!?」
「私で良ければだけどね」
謙遜のようだけどそんなことはない。チャンピオンランクに到達した彼女とジムバッジ一個のトレーナーでは正直結果は目に見えてる。ただその過程で起こることを私は肌で感じたかった。どちらかと言えば問題は彼女の方に実りが望めないことだけど。
「やったー! チャンピオンランクになってから、みんなやたらポケモン勝負避けるんだよー!? ひどいよね! 声を掛けたらポケモン勝負! なのにー!」
……そんな弊害が生まれたのね。正直どちらの気持ちも分かるだけに、返答に困っていたら、ネモさんはいつの間にか対面に移動していて準備万端だった。
「ネモさんはバトルを始める前に注意していることはあるのかしら?」
「バトルコートの立地とか材質とか予め知っておくといいよ。戦況を左右するかもしれないから!」
「なるほど……考えたこと無かったわ」
直前どころかそんな前段階から戦いは始まっているのね。奥が深いわ……。
そうして勝負が始まった。今回はお互いに二匹ずつ。戦っているうちにネモさんが捕まえてそこまで日が経っていないポケモンで戦っているのが分かった。私達は総力を結集して一匹倒すことに成功したけど、そこまで。もう一方に余力を残したまま全滅させられてしまう。今回は連携で分かりやすい差は生ませなかった。ただ相手の指示に対する切り返しの速さで負けていた……。トレーナーが正確に素早く判断することが出来れば、それだけポケモンに余裕を持たせることができるのね。否応なく感じさせられたわ。
「ミラ、前より強くなってる!」
「ありがとう。今の私の精一杯の意地は見せられたわ」
「うんうん! まひになりそうなくらいビリビリ来たよ! ね、ポケモンセンターも近くにあるしもう一回
「残念だけどこれ以上は遅刻してしまうわよ」
「そっかー……」
「また今度こちらからお願いするわ」
「……! やったー! 持つべきものは友達だね!」
本当にポケモン勝負が大好きなのね。今の私は連戦でパフォーマンスを落とさない自信がない。それだけ勝負の間は集中力を求められる。ポケモン勝負で戦うのはポケモン自身だけど、こういう形でトレーナーも戦っている。私もこの子達の足を引っ張らないように頑張ろう。
「宝探しすぐに始まったからさ! 入学式とかレクリエーションとかでまだろくに授業受けられてなかったよねー。ミラと勉強できるのすっごく楽しみ! あ、でもミラはアイドルに関係ないのには興味ないんだっけ」
「……!! ……その記憶は消してもらえるかしら」
自分の顔が沸騰したかのように熱くなった。世間知らずで狭量なのに自信だけはあって……。やめて……思い出させないで……。
「今は色んなことに興味があるわ。沢山のことを学んで見聞を広めたい……。今回の旅で世界は私の知らないもので溢れ返っているって分かったから」
「そうこなくっちゃ! いっぱい学んでもっともっと勝負しようねっ!」
「ええ!」
西門を通り、地獄の階段を上って私達は再びアカデミーへと足を踏み入れた。入学時には感じなかった胸の高鳴りが心地良く響いていた。それが身に付けたポケモンボールを揺らしているようで、なんだか可笑しかった。
宝探しから帰ってきた生徒をグラウンドに迎え入れ、クラベル校長が労いの言葉を掛けてくれる。……芽生えた夢を叶えるために具体的にどうすれば良いのか、まだ想像できていない。前よりマシというだけで、今も尚私は無知なのでしょう。知らないのだから、知っていけば良い。以前のように一人で突っ走るのはもうやめて、これだけいる先生や他の生徒……色んな人に話を聞こう。だってここはアカデミー。知らないことを学べる場所なんだから。