モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか? 作:そりだす
ハルトは今、マリナードタウンにいるジムリーダーの忘れ物を届け終わり、ジム戦のためカラフシティに戻っている途中である。
「ハイダイさんに財布、渡せてよかったな〜!何とか競りにも間に合ったし!」
先ほど通った道を今度は戻りながら、ゆっくりと歩いていく。
さっきは急いでいたため、あまり周囲の探索やこの辺りに生息しているポケモンの観察などができなかった。
その分、行きで出来なかったことをじっくりやっていこうと気合いを入れた。
そうして、ロースト砂漠に足を踏み入れたハルト。
先ほどは砂嵐で周囲がよく見えなかったが、今はあれほど吹き荒れていた砂嵐も止み、眼前には草木ひとつも生えていない砂の海がどこまでも続いていた。
しばらく探索を続けていると、鞄の中から突然聞き覚えのある音が聞こえてきた。
ロトロトロトロト……
スマホロトムは着信音を鳴らしながら、鞄から飛び出してくる。
目の前に出てきたスマホロトムの画面を確認すると、どうやら電話の相手はペパーのようだ。
ハルトはポチッと応答ボタンを押した。
「よう、ハルト!今どこだ?」
開口一番、現在地を聞かれるとは思っていなかったハルトは少し慌てながら答える。
「い、今?今はロースト砂漠にいるよ!」
「おっ、そうなのか!俺もロースト砂漠にいるんだ。電話したのも、今から砂漠に来てくれないか?って言うためだったんだが、その手間が省けたぜ!」
「何かあったの?」
「……実は、この砂漠のどっかに土震のヌシがいるらしい」
「土震のヌシ?」
「あぁ、オマエも砂漠にいるなら地面が揺れてるのが分かるだろ?」
立ち止まったハルトはじっと周囲の様子を伺う。
すると、ペパーの言った通り、地面が不規則に細かく揺れているのに気が付いた。
「……本当だ。言われてみれば、確かに揺れてるね」
「今気がついたのか?……ったく、ハルトは鈍感ちゃんだな!」
ペパーはそう言った後、ふぅと少し疲れたようなため息をついた。
「どうしたの?大丈夫?」
「さっきからちょいちょい地面が揺れて気分悪くてよ……悪いけどオレはちょい休んでからヌシ探し再開させてもらうぜ……」
「うん、分かった!無理しなくていいからね!」
「おう、ありがとな。……それじゃ」
そうして、ペパーの通信は切れたスマホロトムはカバンへと戻っていった。
ジムリーダーに挑戦する前ではあるが、ぬしポケモンという強力な相手と戦うのは、手持ちポケモンを鍛える絶好の機会だ。
是非とも戦ってみたいが、しかし……。
ハルトは砂漠を見回した後、唸りながら腕を組む。
「とは言ったものの……土震のヌシ、この広い砂漠の中で見つけられるのかな――」
考え込むハルトがふと前へ視線を向けると、見上げるほどの巨大な物体が凄まじいスピードで転がっていくのが見えた。
その物体が転がる度に地面は細かく揺れており、その揺れは歩きながらでも感じ取ることが出来るほどだ。
思わず絶句しながら、その転がっている物体を目で追うハルト。
「……もしかして、あれ?」
ポケモンというにはその身にまとう雰囲気はあまりにも荒々しく、加えてその大きさもこれまで出会ったポケモンと比較しても規格外だ。
呆然としているうちに、あっという間に見えなくなったぬしポケモンと思われる物体。
ハッと我に返ったハルトは慌ててミライドンの背に乗り、その後を追いかけた――。
◆◆◆
「――ようやく追いついた……」
転がるぬしポケモンの近くまで辿り着いたハルトは、改めてその巨大な身体から放たれる威圧感に驚かされる。
ぬしポケモンもハルトの存在に気が付いたらしく、その動きを止めて振り返った。
「……このポケモンは……ドンファン?というか……本当にポケモンなの?」
その姿はどことなくドンファンを彷彿とさせるフォルムをしているが、部位ごとに見ていくと別の存在であることが分かる。
四肢は生物のそれではなく、機械化された形状をしておりその体表は金属光沢を放っている。
中でもその顔、生命体に付属されていることはまずないであろう液晶画面のようなものが取り付けられ、そこに吊り上がった真っ赤な目が映し出されている。
おおよそ、ポケモン……そもそも生命体とは呼べないような特徴を持った存在に、困惑の表情を浮かべるハルト。
しかし、そんな事など関係ないとばかりに、そのぬしポケモンはハルトに対して身構える。
「ウィ・ルドン・ファー!!」
大きな咆哮を轟かせるそのヌシから、他の野生ポケモンからは向けられることのない感情を感じ取った。
それは、スター団のアジトで出会ったあの少年……ルベウスから感じた敵意や殺意といった感情そのものだった。
これまで出会ってきたポケモンとは明らかに一線を画す存在であることを確信した時、スマホロトムが再び着信を知らせる音を鳴らした。
電話の相手はフトゥー博士であった。
「ハロー、ハルト。こちらフトゥーだ。テツノワダチは本来、パルデアの大穴のポケモン。くれぐれも注意して対処してくれ」
フトゥー博士は感情を感じさせない抑揚のない声でそれだけ言うと、通信を終了させた。
「テツノワダチ……やっぱりポケモンなんだ……。けど、パルデアの大穴のポケモンって……?」
頭の中にいくつもの疑問符が浮かび上がる。
しかし、今はのんびり考えている暇はない。
すぐに頭からそれらの疑問を締め出し、目の前の脅威へ思考を切替える。
テツノワダチはこちらをまっすぐに見据えたまま、剥き出しの殺意を思い切りぶつけてくる。
思わず怯んでしまい後退りしそうになるが、ハルトは首を横に振った。
「ここで逃げちゃダメだ……あの子の力になるのなら、こんなところで逃げていられない!」
ハルトの脳裏をよぎったのは、あの時見たルベウスの後ろ姿だ。
彼を見た時に感じた、押し潰されるほどの邪悪な感情。……だが、その後ろ姿はどこか悲しげに見えてならなかった。
言葉ではうまく表現することができない……まるで誰かに助けを求めているような、そんな必死なまでの悲哀の感情が、ほんの一瞬垣間見えた気がした。
あれからしばらく経つが、その時の彼の姿が瞼の裏に焼き付いて離れない。
それに、自分と同じくらいの少年が、どうしてあれほど憎悪に満ちた眼をしなければいけないのか。
それほどまでの何かがあったのだと考えるだけで、胸が締め付けられる思いがした。
「僕は……僕たちはもっと強くなるッ!」
自分の胸の中心を強く握り締め、決意の込められた強い眼で真っ直ぐにぬしポケモンを見つめる。
そして、手持ちのモンスターボールからポケモンを繰り出した――。
◆◆◆◆
「――はあっ、はぁ……!ようやく追い詰めた……!」
テツノワダチとバトルをしたハルトは、あと少しというところで逃げられてしまった。
だがしかし、ミライドンに乗ってすぐに転がって逃げるテツノワダチの後を追いかけ、今ようやく岩壁まで追い込むことに成功した。
しかし、少し違和感を感じていた。
というのも、この場所に追い込んだというより、テツノワダチが自らこの場所に逃げ込んだように感じたからだ。
だが、状況的に有利なのはこちらであることに変わりはない。後は油断なく――。
そう考えた瞬間、テツノワダチは岩壁へと激しく攻撃し始めた。その攻撃により、岩壁は破壊され衝撃波が巻き起こり、目を開けないほどの土煙がもうもうと舞い上がる。
薄目を開けるのがやっとの状態だったのと、その巨体に隠れてハッキリとは見えないが、岩壁に開いた穴に顔を突っ込み、ヌシのテツノワダチは何かを食べ始めた……!
その時、後ろから誰かが駆け寄ってくる音とハルトを呼ぶ声が聞こえてくる。
振り返ると、そこにはちょうどペパーが息を切らして近づいてくるところだった。
「ハルト!ヌシ見つけたみたいだな!」
満面の笑みを浮かべるペパーだったが、テツノワダチの姿を目を凝らして見た瞬間、その表情が曇った。
「アイツが土震のヌシ……!?えっと……アレって……ポケモンなのか!?」
ペパーもハルトと同じ感想を抱いたらしく、その表情から困惑が隠し切れていない。
土煙も収まってきて、その姿の全体が見えるようになるほど困惑の色は濃くなっていった。
「分からない……。分からないけど、僕もあれがポケモンだとは思えない……」
そう答えながら、目線はずっとテツノワダチに固定したまま動かさない。
目を離した瞬間、どんな行動を取ってくるか全く想像がつかない上、得体の知れない何かを食べ始めてからテツノワダチが放つ気配が明らかに変わったからだ。
「なんか食って一段と元気になってそうだな……」
「だね……やっぱりぬしポケモンは一筋縄ではいかないね。……けど、僕たちならきっと大丈夫!」
ハルトはペパーにニコッと笑いかける。
それにペパーもニヤリと笑い返し、大きく頷いた。
「あぁ、ハルト!……踏んばりどころだぜ!」
2人は身構え、迫りくるテツノワダチを迎え撃つため、それぞれモンスターボールを取り出した。
――今、まさにポケモンバトルが始まろうとしているこの瞬間。
そのはるか上空……冷徹な眼差しで彼らを見下ろし傍観する白い影の存在があることに、まだ誰も気が付いてはいない。