モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか? 作:そりだす
「……ミュウツー?」
ハルトの小さな呟きは、テツノワダチの攻撃をバリアーを張って防いでいるミュウツーの背に向けられた。
しかし、ミュウツーはハルトに一瞥もくれず、真っ直ぐに眼前の敵を見定める。
その身体からは、以前スター団で会った時にも感じたビリビリと肌を刺すようなプレッシャーを感じた。
以前はそのプレッシャーを前にした時、緊張のあまり体が硬直してしまっていたが、今は全く問題ない。
むしろ、その存在が自分に背を向け、生命の脅かす脅威から守ってくれていることに凄まじい安心感を感じていた。
……しかし、何故突如目の前に現れ、そして守ってくれているのか。状況は全く読めないが、まず最優先はテツノワダチをどうするかだ。
バリアーを張り、テツノワダチのこうそくスピンを受け止めているが、その回転は今もなお止まることなく、むしろ徐々に回転を上げている。
そして、バリアーと衝突し続けている間、まるでドリルで穴を開けるため削っているかのような金属音と、激しい火花が舞い散る。
だが、ミュウツーもそれを黙って見ているわけではない。
バリアーを展開するため突き出した手とは反対の手を、テツノワダチへと向ける。
その瞬間、先程まであれほど激しく回転していた身体はピタリと止まり、その巨体はいとも容易く空中へと浮かび上がった。
ミュウツーのサイコキネシス……その凄まじいまでの出力に、抵抗しようと身をよじろうとするテツノワダチの動きを完全に封じた。
バリアーを解いたミュウツーは、そちらに使っていた力も全てサイコキネシスへと回したのだろう。テツノワダチが浮かんでいる高度がさらに増し、かなりの高さまで浮かび上がった。
もはや身動きひとつ取る事が出来ないテツノワダチは、ミュウツーの手首を下げる動作と同時、その高さから一瞬で地面へと叩きつけられた。
その瞬間、激しく舞い上がる砂埃と立っていられないほどの揺れがこの場の全てに襲いかかる。
「ぐわあっ!いったい何が起こってるんだ!?」
ペパーは状況が飲み込めないようで、しゃがんで体勢を崩さないように注意しながら困惑の声を上げている。
しかし、ミュウツーに見入ったままのハルトの耳に、その声は届いていなかった。
……普通であれば、今の一撃で決着がついたと思ってしまうが、ミュウツーは未だ立ち込める砂煙に視線を向けたまま微動だにしない。
今の攻撃では倒しきれないとまるで分かっているかのようだった。
その数秒後、咆哮を轟かせる事で砂煙を吹き飛ばしたテツノワダチが姿を現した。
その目には、先程よりも色濃く殺意の感情が現れており、完全にミュウツーを敵とみなしたようである。
その眼には既にミュウツー以外は映っていないようで、ハルトやペパー達には目もくれず、真っ直ぐにミュウツーへと突進していく。
――しかし、その実力差は圧倒的であった。
今度はバリアーなどは張らず、なんと片手1本を突き出してその突進を真正面から受け止めたのだ。
あの巨体が本気で踏ん張り、どれだけ地面を蹴り上げても、対する純白の華奢な肉体は微動だにしない。
そのうち、再び宙へと浮かび上がったその巨体は岩壁へと叩きつけられる。
再度、立ち込める砂煙と襲いくる衝撃波。
その砂煙がゆっくりと晴れていくと、その中から限界が近いであろうテツノワダチがフラフラと顔を出した。
あれだけの攻撃を喰らいながらも、まだ立ち上がり敵へと向かっていく姿、そしてその目には未だ光がギラリと鈍い光を放っていた。
レベルの違うバトルに、ハルトとペパーは言葉を失いその場に立ち尽くす。
テツノワダチは間違いなく強い。
恐らく、二対一のあのバトルを続けていれば、遅かれ早かれこちら側が負けていただろう。
だが、そのポケモンを持ってしても、全く歯が立たない存在が目の前にいる……。
どれだけ先へと進んでも先が全く見えてこない、深淵という名のトンネルをひたすら歩いている感覚に陥ったハルトは、呆然と見つめる他なかった。
テツノワダチは全ての力を出し切るつもりなのか、これまでで最も大きな咆哮を上げ、ミュウツーへと突っ込んでいく。
その速度も一番だが、地面を伝って伝わってくる激しい振動……あまりの力強さにしゃがんでいるだけでやっとというほど、全身全霊でぶつかっていくエネルギーを感じる。
それに対し、ミュウツーも両手を突き出し、目の前に巨大な漆黒の球体を作り出す。
恐らくはシャドーボールだと思われるが、他のポケモンが使用するものとは明らかに次元が違っていた。
その球体からは、離れたところにいても身体が勝手に震えてしまうほどの恐怖かつ莫大なエネルギーが放たれていた。
その強大すぎる力と力は、ついに衝突し、周辺の地形を変えかねない激しい爆発を引き起こした――。
◆◆◆◆
「――……い!おい、ハルト!」
名前を呼ばれながら身体を揺さぶられたハルトは、意識を取り戻した。
やや混濁する思考のまま、周囲をキョロキョロと見回す。
「……あれ、僕……」
自分の中にある最後の記憶を引っ張り出し、状況を整理する。
「あぁ、もう大丈夫だ。あのポケモンが俺たちを守ってくれたんだ!」
そう言ってペパーが指差した上空には、ミュウツーが冷徹な眼差しで、地面に横たわったテツノワダチを見下ろしていた。
……結果を見ると、ミュウツーは土震のヌシであるテツノワダチを相手に、一切のダメージを負うこともなく完全な勝利を収めた。
その圧倒的な実力に畏怖の感情を覚えながらも、ハルトは慌てて立ち上がり、ミュウツーの傍へと駆け寄った。
そして、ミュウツーを見上げながら、ニコリと微笑み深々とお辞儀した。
「あの……ありがとう。僕たちを助けてくれて。君がいなかったら、きっと僕たちは無事では済まなかったと思う」
それは心の底からの感謝の言葉だった。
きっと無事では済まないどころか、この場の全員の生命が危なかったはずだ。そんな状況を救ってくれたミュウツーには、いくら感謝してもし足りない。
ミュウツーはほんの一瞬、目を見開いてこちらを一瞥すると、すぐにテレポートで姿を消した。
そのまま晴天の青空を見上げながら、様々な感情がないまぜになったハルトはポツリと呟く。
「……ミュウツー。キミはいったい……」
◆◆◆◆
「――うん、分かった。しばらくしたらボクも向かってみる。……裏で何かが起こっていないとも言い切れないからね。自分の目で確かめてみることにするよ。後、ハルト達を守ってくれてありがとう。やっぱり任せて正解だったよ」
ニッコリと笑いながら、顔の見えないミュウツーへと感謝の言葉を述べた。これにミュウツーからの応答は無い。
きっと照れているのだろうと、そのまま流していく。
そして、ミュウツーから土震のヌシについての報告を受けたベリルは、とりあえず聞いた話から様々な可能性を検討する。
……他のポケモンやトレーナーに対し、そこまで強い敵意や殺意といった感情を向けるポケモンはまず普通ではない。
考えられる可能性は、悪の組織が行ったポケモンに対する実験による弊害か、あるいはそもそもこの世界とは別の世界から現れたポケモンか。
実は今挙げたふたつの可能性……どちらも過去に前例があり、ベリルはこのどちらの状況にも出くわしたことがあった。
仮にそのふたつのどちらかだとして、これまでの経験から行くと、最も恐ろしい結末を迎える可能性があるのは――。
(あぁ……それと、もうひとつ話がある……)
「――うん?話?」
ミュウツーからの話で思考が遮られたが、別に問題はない。むしろ、最悪の想像を考えずに済んだことで、束の間心の平穏が保たれたというものだ。
そんなことを考えながら、ミュウツーからの返答を待つ。しかし、待ってもその答えが聞こえてこない。
珍しくミュウツーが発言を躊躇しているのが伝わってきた。
「どうしたの?どんなことでもいいから、感じたことをそのまま言ってみて」
ベリルは穏やかな口調でそう語り掛けた。それを聞いたミュウツーは、意を決したように話し始めた。
(……あのポケモン……あれはこの世界にとって、異質な存在だ。……恐らく『この世界のポケモンではない』)
『この世界のポケモンではない』と、そう聞いた瞬間、先程中断した最悪の想像の続きが頭の中で流れ出した。
「もしも、ウルトラビースト……アイツらか、アイツらよりもとんでもない存在だったら――」
ベリルはギリッと歯を噛み締め、ランニングシューズの紐を固く締め直し、すぐさま話のあった場所に向かって走り出した。