モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか?   作:そりだす

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 ベリルは急いでミュウツーから聞いた場所へと駆け足で向かう。

 しかし、砂の大地に足を取られてしまうことと断続的に起こる地震のため踏ん張りが利かず、思ったように前に進むことが出来ない。

 それに装着したゴーグルにより視界が狭まったもどかしさも相まって、ベリルは下唇を噛んだ。

 気持ちが焦れば焦るほど、嫌な想像が何度も頭の中をよぎった。

 

 ――これまで、ミュウツーが他のポケモンに対し『異質』や『この世界のポケモンではない』などと表現したことはほとんどない。……それは、ミュウツー自身の出生も理由のひとつなのかもしれないが、一番の理由はそう表現せざるを得ないポケモンに出会わなかったことだろう。

 

 だが、そのミュウツーも過去に一度だけ、明確に『別世界のポケモン』と表現した相手がいた。

 

 それが、ウルトラビースト(UB)。

 

 UBはウルトラホールと呼ばれる、この世界と別次元の異世界とを繋ぐ空間から出現した、まさに別世界のポケモンである。

 彼らは従来のポケモンよりも非常に攻撃的であり、時折他のポケモンやその場にいる人間に対しても無差別に攻撃するほどであった。

 加えて、それぞれが持っている能力や特性も極めて異質なもので、そのあまりの危険性から国際警察と呼ばれる組織が動いたほどである。

 

 もしも、この地方でもUB……あるいは、それに準ずる別の何かが現れたのだとすれば、多くの人々が危険にさらされることとなる。

 

「早く……早く行かなくちゃ……」

 

 空回りする歩みに歯痒さを感じながら、ベリルはその足を止めることなく前へと進む。

 

 ――そうして、ミュウツーから話があった場所へと辿り着いた。

 

 ベリルは目の前に飛び込んできた光景に思わず言葉を失い、ゆっくりとゴーグルを外した。

 そこには、周囲の断崖を上回るほど巨大なポケモンが猛り狂っていた。

 その大きさは、世界最大のポケモンであるホエルオーと同等かそれ以上だろうかというほどだ。

 

 ……ベリルは知らなかったが、この時のテツノワダチの体長はハルトたちが戦った時の倍以上の大きさにまでなっていた。

 

 その姿は、もはや小さな山が歩いていると言っても過言ではない。

 その巨体が一歩踏み出すだけで、立っていることすら困難なほどの激しい揺れが起こる。

 土震のヌシたる所以の地面の揺れも、ここまでくると最早『歩く天災』と形容する他ない。

 

「これは……ポケモンなのか……?」

 

 その明らかに異常な巨躯はもちろんだが、その生命の要素が全くない機械のような姿かたちは今まで出会ったどのポケモンにも該当しない。強いて言えば、ドンファンと呼ばれるポケモンにどことなくシルエットが似ている気がする程度だ。既存のポケモンに、目の前のポケモンと同じ姿をした個体は存在しないはず。

 

 ベリルは目の前のポケモンの正体について思考を巡らそうとするが、そんな隙など与えないと言わんばかりに身体を丸め、ベリルが来た方向とは逆方向に向かって転がりだした。

 そのポケモンの進行方向に何があったかを思い出したベリルの顔から一気に血の気が引く。

 

 その先にはマリナードタウンがある。

 その町は大きな港と大型市場があることで有名であり、競りのために他の町や地方から訪れる客も多く、住民や民家の数も他の町と比較してもかなり多いとアカデミーの授業で学んだことがある。

 ……もしもこんなものが突っ込めば、町はそれこそ大災害に見舞われたものと同程度の被害に及ぶだろう。

 

 そちらに行かせてはいけないと考えたベリルは、咄嗟に指笛を鳴らして注意を引こうとする。

 指笛の甲高い音は断崖にぶつかり、木霊として周囲一帯に響き渡った。

 

 瞬間、ポケモンの動きはピタリと止まり、ゆっくりとベリルの方向に振り向いた。

 目が合うと、ポケモンは耳をつんざく咆哮を轟かせ、その巨躯を丸めてすさまじい速度で迫ってくる。完全に敵として認識されたようだ。

 

 ……普通の人間であれば、そのあまりの光景に恐怖して逃げ出すことはおろか、腰が抜けて立っていることもままならないだろう。

 

 しかし、そんな状況に直面してもベリルは一切の動揺を見せない。

 まっすぐに眼前の敵を見やり、接敵までの残り僅かな時間を使って対象を見定める。

 

 そのまま目線を逸らずに、ベリルはカバンからモンスターボールをひとつ取り出した。

 ボールを手にしたベリルの瞳は先ほどまでの穏やかな光が消失し、ただ目の前の障害を薙ぎ倒さんとする冷徹な眼になっていた。

 

 「さあ、任せたよ――」

 

 そう呟いたベリルの声には、感情は一切込められていなかった。

 

 ◆◆◆◆

 

 ハッコウシティの大型モニター前。

 そこでは普段は通り過ぎる大勢の通行人が足を止め、流れるニュースを食い入るように見つめていた。

 

「――それでは次のニュースです。昨日、ロースト砂漠に正体不明の超大型ポケモンが現れたとの情報が相次いで寄せられました。マリナードタウンからそのポケモンを見たという方の情報から、超大型ポケモンの体長はホエルオーを上回るのではないかとされており――」

 

 アナウンサーは超大型ポケモンの特徴について簡単に触れた後、こちらが本題と言わんばかりに声のトーンを少し上げ、話を続けた。

 

「――そしてほぼ同時刻、全世界で観測史上最大の異常な豪雨を観測しました。豪雨はすぐに収まったものの、この異常気象と今回の超大型ポケモンの出現に関連があるのか、現在ポケモンリーグ等各機関が調査を行っています」

 

「専門家の方をお呼びしています。お天気研究所所長のバールさん、よろしくお願いします」

 

 司会者が名前を読み上げるとカメラが切り替わり、白衣を着た40代ほどの男性が映し出される。

 バールと紹介された男性は軽く会釈すると、司会者に早速異常気象についての感想を尋ねられた。

 それに対し、バールはフリップボードなどを用いながら話始めた。

 

「この異常なまでの豪雨を引き起こした雨雲は、パルデア地方を中心としてあっという間に世界中に広がり、各地で観測史上最大の降水量を記録しました。……これだけでも、気象学上絶対に有り得ない事象なのですが……」

 

 徐々に声が震え始めるバール。

 

「実はこの豪雨が止む直前、ほんの数分程度のごく短い時間に、瞬間的に降水量が跳ね上がったんです。もしその数分間の降水量が、数時間降り続いていたとすれば……データ上……あくまでデータ上ですが――」

 

 バールは次の言葉を躊躇する。

 その沈黙に、テレビを見つめる人々は息を吞み、次の言葉を静かに待つ。

 数秒沈黙した後ようやく意を決したバールは、ひとつ深呼吸をすると唇を震わせながらポツリと呟いた。

 

 「――世界は海の底に沈んでいたでしょうね」

 

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