モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか? 作:そりだす
ハルトは土震のヌシと戦ったその後も、各地のジム攻略や他の ぬしポケモン、そしてスター団への挑戦を続けていた。
スター団については、残るアジトはあとひとつ。
今は最後のアジトへと向かっている途中だ。
ハルトはそうして一歩一歩ゆっくりと歩きながら、少し前の記憶を遡っていた――。
◆◆◆◆
――ふたつ目のアジトへ挑戦する時、ハルトの頭の中はこれから行われるであろう激しいバトルより、ルベウスのことでいっぱいであった。
次に会った時こそちゃんと話を聞いて何か力になりたい……そんな思いを胸に向かったスター団アジトで、カシオペアから以前と同じようにスマホロトムに連絡が入る。
ハルトは思わずルベウスについて尋ねた。
カシオペアなら何か知っているのではないかと考えたのだ。
しかし、しばしの沈黙の後にカシオペアから返ってきたのは「もうルベウスは現れないだろう」という一言だけだった。
なぜそこまで言い切れるのか、ハルトには全く分からなかった。
理由を訊いてみても明確な答えは返ってこなかったが、カシオペアの言う通りそれ以降スター団アジトに挑んでも、ルベウスが姿を見せることはなかった。
だが、ルベウスが現れなかったことで、スター団のボス達から様々な話を直接聞くことができた。
その話を聞いたことで、これまでハルトが持っていた『ただの不良生徒の集まりなのだろう』というスター団に対するイメージが大きく変わった。
実はスター団とは、元はアカデミー内でいじめられていた生徒達がいじめっ子に対抗するため……そして、いじめをやめさせることで平和なアカデミーを取り戻そうとマジボスを中心に結成された組織なのだという。
その理想を実現するために考え、そして実行されたのが『スター大作戦』。
いじめっ子達を呼び出していじめをやめるように訴える、もしも抵抗されても傷付くことを恐れずに立ち向かう……それほどの強い覚悟を持って彼らは作戦の計画立案、実行に踏み切った。
そしてスター大作戦決行当日。
作戦は途中までは上手く行っていた。……だが、途中で予想外の事態が起きた。
取り囲まれたいじめっ子達は自分がしてきたことと同じことをされるのではないか……きっとそんなことを考えたのだろう、謝罪の言葉を残すことなくその場から逃げ出したのだ。
だが、それだけではなくいじめっ子全員が、アカデミーを自主退学しスター団の前から完全に逃げたのである。
結果を見れば、スター団の勝利だろう。
しかし、生徒の集団退学というもはや当事者間だけでは片付けられないほど大きな問題となってしまった。当然、このままではスター団員にもこの問題の火の粉が飛ぶかもしれない。
そこでマジボスは、他の団員の責任も全て自分が被ることで仲間たちを守ったのだった。
……しかし、事態はそれだけで終わらなかった。
なんと、この件のアカデミーの教頭が隠蔽工作を行い、スター団を含めた今回の事件のすべての情報を削除したのだ。無論、教頭は厳しく罰せられた。
しかし、当時の校長は『この問題に気付けなかった我々教師にも責任はある』と事態を重く受け止め、自分を含む全ての教師陣を全員退職させたのだ。
そうして、今のクラベル校長をはじめとした教師陣になったのだという。
……だが、当時はよほど混乱していたのであろう。後継の教師たちに対し、スター団等の情報の引継ぎが全く行われていなかったという。
つまり、アカデミー内に当時の状況を把握している者は、作戦に関わったスター団員や一部の生徒以外誰もいなくなってしまったのだ。
さらに、噂とは人から人へと伝播する毎に事実は歪曲した形で伝えられていく。
結果、いじめをなくすために戦ったスター団が、いじめやトラブルの原因であったと語られることになる。
そして、マジボスを失った彼らは、統率を失い今や噂通りの不良の集団同然になってしまった……。
……きっと、いじめっ子たちが自分たちの過去の行いを真に反省していれば、謝罪の言葉が出たのだろうが、彼らは報復を恐れ自分の身可愛さに逃げ出した。
結果、スター団は振り上げた拳を下ろす機会を完全に失ってしまった。
……きっと、そこで一言でも謝罪の言葉があれば、結果はまた違っていたかもしれない。
だが、スター団のおかげで今の平和なアカデミーが存在している。それは紛れもない事実だ。
そんな彼らが今、長い欠席等のため退学の危機に瀕している。これまではさほど大きな問題とは思ってこなかったが、事情を知ってしまった今、それではあまりにも彼らが報われない。
ならば、多少強引な方法を使ってもアカデミーに戻ってほしい……もし、自分がマジボスだったらそんなことを考えてしまうかもと一瞬頭をよぎった。
そういえば、この『スターダスト大作戦』を立案したカシオペアは、当初スター団の元関係者と名乗っていた。
そこまで考えたところで、この時のハルトはまさかねと首を軽く横に振り、それ以上は深く考えることは無かった――。
――そんな時、ジム戦を終えて建物の外へと出ると、丁度ジム巡りを行っていたネモに出会った。
彼女はアカデミーの生徒会長兼パルデア地方でトップクラスの実力を持つチャンピオンランクのひとりだ。
……ルベウスもハルト達と同じアカデミーの制服を身に着けていた。
もしかしたら、あれだけバトルが強い生徒のことであれば、ネモは何か知っているのではないかと考えたのだ。
まずは挨拶がてら一試合戦った後、早速聞いてみることにした。
「ねぇ、ネモ……『ルベウス』って人の名前、聞いたことある?」
そう尋ねた瞬間、ネモは途端に目を輝かせて顔をグッと近づけてくる。
「えっ!もちろん知ってるよー!ポケモン勝負好きなら大体の人は知ってると思うよ!」
予想以上の反応に思わず息を呑むハルト。
「……その人ってどんな人なの?」
「ルベウスさんはね、別の地方でチャンピオンだった人なんだ!わたし、あの人の試合中継は全部録画してるよ!」
「チャンピオン……」
ハルトは思わず口に出す。
だが、そう言われて自然と納得がいった。
……ポケモンは、自分が力不足とみなしたトレーナーの言う事は決して聞かないという。
よく言われているのが、他のトレーナーと交換したポケモンは早く強くなることができるが、あまりにもトレーナーと実力に差がついてしまうと指示を無視するようになる、というものだ。
もし仮にあのポケモンが、人からもらったポケモンだったとすれば、それはルベウスが主人として認められるほどの実力の持ち主であることの裏返しとなる。
自分で捕まえ、育てたのであれば尚更その実力の証明となるはずだ。
あれだけの強さを持ち、そしてそのポケモンを指示にしっかりと従わせ、使いこなしている様は確かにチャンピオンの名にふさわしいといえるだろう。
だが、ひとつ疑問がある。
「そんなに有名な人がアカデミーにいるのに、話が全く聞こえてこないのは何でなんだろう……?」
自分の思考の中だけに留めようとしたのだが、頭が混乱しているせいなのか思わず言葉を漏らしてしまった。
これを聞き逃さなかったネモは、またずずいと顔を寄せてくる。
「このアカデミーにって……生徒でってこと!?それって本当!?すごいすごい!」
「ネ、ネモも知らなかったんだね……。ただ、まだ確定じゃないよ。ルベウスを名乗っている偽物の可能性もあるわけだから」
ハルトはネモの圧力にたじろぎながらそう答える。
「そっか!でも、もし本物なら1回でいいから戦りたいなぁ……」
ネモがいつもの通り何だか物騒なことを言い始めたが、ハルトは気にせず話を続ける。
「それでさ……ルベウスの手持ちにミュウツーってポケモンはいる?」
ハルトの問いかけにネモはすぐさま首を横に振った。
「ううん、ミュウツーなんて名前のポケモンは使ってなかったはずだよ。そもそも、あの人の手持ちは一匹しか見たことがないかな。……でも、そういえばいつからだったかは思い出せないんだけど、その一匹もぱったり出てこなくなったっけ」
ネモは顎に手を置き、うーんと考え込みながらそう言った。
「手持ちが出ない……?それでどうやってポケモン勝負をするの?」
これは純粋な疑問だった。
ハルトにとってのチャンピオンとは、自らが育て上げた強力なポケモン達の中からどんな状況、どんなポケモンにも対応できるようにタイプ相性などを考慮しながら、最善のパーティを組み上げる……それら全てが一流であるからこそチャンピオンという最強の肩書きを得ることができるものだと思っていた。
ネモは「そういう反応になるよね」とうんうんと頷きながら、話をしてくれた。
「ルベウスさんはね、ポケモンリーグからレンタルしたポケモンでバトルするんだよ!……もちろん、公式戦のレンタルポケモンはみんな強いよ、技とかも様々な戦術に対応できるように調整されているからね。けどね、当たり前だけどレンタルポケモンだと、これまで一緒に戦ってきた手持ちのポケモンより連携とか呼吸はうまく取れないんだ。そんな理由もあって、みんな自分のポケモンを使うんだけど――」
ネモは嬉しそうに笑いながら話を続ける。
「――彼の凄いところは、そのレンタルポケモンと完璧に連携を取ることができるんだよ!中でもポケモンと心を通わせて、アイコンタクトで意思疎通ができるのは多分彼しかいないんじゃないかな!」
それを聞いたハルトは何か引っかかるような表情を見せた。
今の話と同じような状況が、過去にどこかであった気がする。
どうやら考えることはネモも同じだったようで、あっと声を出し手をポンと叩く。
「そういえば、このアカデミーでもアイコンタクトを使ってる子がいるんだよ!けど、本人は偶然だって言ってたけど――」
ここまで聞いたところで、ハッとした表情でハルトが静かに訊く。
「……まさか、その子っていうのは――」
◆◆◆◆
――そうしているうちに、最後のスター団アジトが見えてきた。
ハルトは自分の両頬を叩き、これまでの思考を切り替えると同時に気合を入れ直す。
そうだ、全てを解決するためには戦って勝つしかない。覚悟を決めたハルトは、目の前に迫ってきたスター団かくとう組のアジトへと向かった。
かくとう組のボスであるビワは、スター団全体で最もポケモン勝負が強いという情報を受け、ハルトは万全の状態で挑んだ。
実際、彼女はこれまでバトルしてきた誰よりも強かった。
もしも万全でなければ……一瞬でも気を緩めたら、勝敗は容易く相手へと傾いていただろう。
しかし、そんな一進一退のかつてない激闘を乗り越え、ハルトはギリギリのところでボスのビワを倒すことができた。
これにより、現在スター団の各アジトからボスが全員いなくなったことになる。
カシオペアから立案された『スターダスト大作戦』もとうとう終わりへと近づいている。
後は、ひとり残されたマジボスを倒せば完遂となった時、そのカシオペアから連絡が入り衝撃の事実が明かされた。
それは、自分こそ『スター団』を結成し、各組のボスを束ねる存在である『マジボス』だということ。
「団のみんなは仲間でわたしのかけがえのない宝だった。だが、今のスター団はみんなを不幸にするだけ……。だから、諦めがつくよう掟に従って解散させたいんだ」
カシオペア……改めマジボスは悲しげな声で絞り出すようにそう呟いた。
「ハルト……夜に学校のグラウンドで待つ」
そう言い残すとマジボスはぷつりと通信を切った。
……マジボスはまず間違いなく、そこで全ての決着を付けるつもりだろう。
だが、本当にこれで終わっていいのだろうか……。マジボスが考えているであろう結末を迎えたとして、果たして幸せになる者などいるのだろうか。
答えの出ない問いをハルトは頭の中でグルグルと考える。
――だが、そんな状態ながらも彼の瞳には優しく、そして強い意志が確かに宿っていた。