モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか?   作:そりだす

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こちらは没となった18話です。正式な18話については、この次となりますので本編を読みたい方は飛ばしていただければと思います。
そして、この没18話ですが、消さずにこのまま残しておきます。もしかしたら、こんな世界線もあったのかなーくらいの感覚で読んでいただければ幸いです。


没・18

 

 「……ルベウス」

 

 ハルトが彼の名前を呼ぶも、ルベウスの耳には届いていないのか一切反応がない。

 帽子を深く被っていることと照明の当たり方の関係で、その表情ははっきりとは分からない。

 しかし、以前スター団あく組で会った時よりも明らかに目の輝きや覇気が感じられず、それこそ何かに囚われた亡霊のようだった。

 ルベウスは空虚な瞳でボタンを見ながら、うわ言のように何かをブツブツと呟いている。

 

「ボクが……守らなくちゃ……」

 

「……ルベウスの様子がおかしい。いったい何が起きているんだ……」

 

 明らかに正気とは思えないルベウスの様子に、ハルトは思わず言葉を漏らした。

 それを受けたボタンは、拳を握り締めながら表情を歪める。

 

「……ごめん、多分うちがあの人のトラウマを抉っちゃったせいだと思う……」

 

「どうしてそんなことを……」

 

 クラベルが困惑した様子で訊いた。しかし、それに対する弁明や説明はなく、目を伏せたまま重たい沈黙が続くのみであった。

 そのまま沈黙が続くかと思われたが、ボタンはゆっくりと顔を上げ、静かに口を開いた。

 

「……これはうちの問題。こんなことになったのはうちの責任だから、これ以上みんなを巻き込むわけにはいかない」

 

 そう語るボタンの目には先ほどまでと同じ、強い覚悟が刻み込まれていた。

 そうして、ポケットからモンスターボールを取り出し、ルベウスに向かって歩き始める。

 

 ハルトはそんなボタンを見て、もしかしたら彼女はこうなることが分かっていたのかもしれない……と感じた。

 おそらくルベウスに対しボタンは秘密裏に接触し、何かしらの交渉をおこなったのだろう。その理由は間違いなく、以前ルベウスがあく組に襲撃をかけた関係に違いない。

 そして、その結果としてハルトが次のアジトへ向かった際に聞いた『もうルベウスは現れないだろう』へと繋がった。

 ……しかし、それは最悪な形で破られてしまったわけだが。

 これまでの過去のボタン……カシオペアの行動や言動から鑑みるに、きっと彼女はこう考えたのだろう。

 

 ……仲間が傷つけられるくらいなら自分一人でその罪を被って、自分だけが傷つけばいい……。

 

 彼女はスター大作戦の時も、スター団員の処分を免除してもらう代わりに一人で全ての責任を取っていた。

 ……大切な仲間を守るために。

 

 ――だが、そんなボタンを守るように、スター団のボスたち5人が前へと歩み出る。

 

「み、みんな……なにしてるの?」

 

 自分に背を向け立ちふさぐ彼らに、ボタンは目を見開きながら震える声で訊く。

 その問いかけに5人はルベウスから視線を逸らさず、優しく語り掛けるように答える。

 

「ボクらはもうマジボスに守ってもらってばかりじゃないよ」

 

「一人で抱え込もうとするんじゃねえよ……仲間だろうが」

 

「我らはきっとこの時のため、強くなったのかもしれませぬな」

 

「オレらを差し置いてマジボスと戦おうなんて生意気だね」

 

「今度こそわたしたちが戦って、大切な宝を守る番だよ」

 

 彼らはまっすぐにルベウスを見据え、彼を見るその眼には怯えは一切ない。

 

「そんなわけだからさ、マジボス、ハルトくん、校長――手、出さないでくれるかな?」

 

 ピーニャが普段と変わらない穏やかな口調で、だが拒否できないほど強い意志を感じさせる話し方でそう言った。

 そこまで言われて彼らの決意を踏みにじることになりかねない。ここはもやは頷き、彼らを信じて見守ることしかできない。

 ハルトは静かに頷く。

 それに続き、クラベルも苦渋の表情を浮かべながら頷いた。

 

「……分かりました。ですが、万が一生命を脅かす状況と判断した場合、全力で止めに入ります」

 

 そして、ボタンは自分のせいでこうなってしまったという罪悪感や敵がいかに強大であるかを知っているが故の不安、そして5人の熱い気持ちを受け取り、仲間からここまで思われていたのかという嬉しさ等の様々な感情が混ざり合った、言葉で言い表すことのできない複雑な表情で彼らの背中を見つめる。

 しかし、ひとつ息を吐いた後、ボタンの表情から負の感情は消え去っていた。

 

「みんな……うちはみんなを信じてる」

 

 ――この時の彼らにとって、きっとこれ以上力がみなぎる言葉は他に存在しなかったに違いない。

 

 5人は一斉にポケモンを繰り出した。ポケモンたちはまるでトレーナーたちの意思が宿ったように、その目に鋭い光をぎらつかせ咆哮を上げる。

 

 ルベウスはそんな彼らの様子をいまだ濁った瞳で見つめたまま、ゆらりとモンスターボールを取り出し、そのまま流れるように真上へと放る。

 

 ……彼が以前、使用していたのは『ミュウツー』と呼ばれる圧倒的なまでの超能力を使いこなし、最強と呼ばれる伝説のポケモンだった。その実力を間近で2回見る機会のあったハルトは、その戦いぶりを思い出すと背中を冷たいものが伝っていく。

 あれほどの戦闘能力を持っているのだ、きっと彼の手持ちの中ではミュウツーが最も強いポケモンのはずだ。であれば、繰り出してくるポケモンはミュウツー以外には考えられない。

 

 ――そう考えていたハルトだったが、予想は大きく外れることとなる。

 

 ルベウスのモンスターボールから放たれた眩い光に皆、視線が一瞬遮られた。

 すぐに視線を戻すが、彼らの目にはつい数秒前まではいなかった信じられない存在が飛び込んできた。

 

「なんだ……このポケモン……」

 

 それは誰の呟きだったか、今となっては分からない。だが、この場の全員の意思はその言葉に詰められていた。

 

 目の前に現れたポケモンは、これまで見たこともない巨大なドラゴンポケモンだった。

 その全身は引き込まれるような深いエメラルドグリーンに輝き、その身体には黄色の不思議な模様が刻まれている。

 鋭い爪の付いた前足を向けながらとぐろを巻いた状態で空中に浮かんでおり、その状態のままハルト達を見下ろすその迫力や神々しさに思わず誰もが言葉を失い、その姿に惹き付けられる。

 

「――あれは『レックウザ』。グラードン、カイオーガに並ぶ伝説の超古代ポケモンがなぜ……!?」

 

 クラベルが驚愕に満ちた声を上げる。

 レックウザと呼ばれたポケモンは、目の前の敵意をむき出しにした5体のポケモンと5人のトレーナーをゆっくりと見回すと、さきほどの5体のポケモンを遥かに超える威圧感を放つ咆哮をグラウンド一帯に轟かせる。

 その一声で空気が、地面が、ここにあるもの全てが呼応するかのように激しく震える。

 加えて、見た者を突き刺すような冷徹な瞳から凄まじいプレッシャーが放たれ、普通のポケモンや人であれば恐怖でまともに動くこともできないだろう。

 

 しかし、今の彼らとそのポケモンたちの眼には恐怖の感情は微塵もない。

 そこには強く輝く絆の光が宿っているのみだった。

 

 

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