モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか?   作:そりだす

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 自転車をかっ飛ばして、ようやくテーブルシティへと辿り着いたベリル。

 

 すれ違う学生が自転車型のポケモンに乗って登校していたのには初め度肝を抜かれたが、到着する頃にはさすがに見慣れてあまり目を奪われることもなくなった。

 

 町の入口へと到着したベリルは自転車を折りたたんでカバンへと仕舞い、徒歩でアカデミーへと向かっていく。

 

 実際に自分の目で見たテーブルシティは、まさに学園都市の名に相応しく、都市の奥にそびえ立つアカデミーのインパクトが非常に強い。

 店の並びも学生のニーズに沿ったものが多く、そのどれもが活況を呈している。

 

 そんな街中を抜けた先には、アカデミーへと続く長い長いふたつの階段が待ち構えていた。

 

「うわぁ、これを登らなきゃいけないのか……」

 

 困惑した表情を隠そうともせず、本音を口から漏らしながら階段を見上げる。

 しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。

 ベリルは気合いを入れ直し、ゆっくりと階段を登り始めた。

 

 しばらく登ったところで、ふたつの長い階段のうち、ようやく一つ目の階段を登り終えた。

 

「ふぅ、ようやく半分か」

 

 登ってきた階段とそこから見える景色に小さな達成感を感じていると、どこかから揉めているような声が聞こえる。

 

「なんだ?」

 

 声のする方へ向かうベリル。

 そこにはヘルメットを被る男女の学生が、丸眼鏡をかけた学生に詰め寄るところだった。

 

「――こちとら勧誘ノルマあるんだからさっさと『スター団』に入りなさいよ!」

 

「えと……困ったな……」

 

 途中からしか話が聞こえなかったが、どうやら丸眼鏡の学生がしつこく勧誘を受けているようだ。

 ただならぬ雰囲気と周囲に自分以外がいないこと、そして『○○団』のフレーズに反応し、ベリルは思わず考えるよりも先に体が動いた。

 

「――ん?スター団に何か用!?入団希望なら後でね!今お話し中なのでね!」

 

 思わず彼らの間に割り込んでしまったベリル。行動してから(絶対もっと他にいい方法があっただろ!)と己の行動の浅はかさを後悔する。

 

「あたしら泣く子も笑うスター団。君は知ってるよね?」

 

 ヘルメットを被った女子生徒が問いかけてくる。

 その時、ベリルの頭の中では様々な記憶がフラッシュバックし、最悪の想像がよぎる。

 ……返答次第では、今後の学園生活が大きく変わるかもしれない。

 だが、それを分かっていてもここで知らないフリをすることはベリルにはできなかった。

 

「その『スター団』というのは……もしかして、世界征服をしようとしたり、世界をめちゃくちゃにしようとしたり、理想の世界の創造のため今ある世界を破壊しようとしたりすることを目的にしてる組織?」

 

 もうこれ以上ないというくらいド直球に尋ねる。

 

「は……はあ!?そんなこと、するわけないでしょ!?」

 

「おいこいつ目がヤベーよ、完全に据わってるじゃん」

 

「絶対にないとは言いきれないかなって。中には慈善団体だったり一流企業の皮を被った組織が、実はとんでもないことを企んでたなんて話はいくらでもあるからさ」

 

「いやいや、いくらでもはないでしょ。もうなんなのよキミまで……せっかくスター団に入ったのに、こんな扱い底辺じゃん」

 

「ナメられっぱなしだと団の面目丸つぶれ!勝負するっきゃなくなくない?」

 

「そりゃそうね!あんたは最初のメガネを見はってて!ナマイキな新顔ちゃんはあたしがお星さまにさせちゃうわ!」

 

 なんだか唐突にポケモンバトルをしなければいけないような展開になってきた。

 だが、正直こんな街中でバトルなんて絶対にできない。もしバトルをすれば、きっと色々大変なことになるだろう。

 そう考えたベリルはおずおずと話し始めた。

 

「申し訳ないけど、あの……ボク、ポケモン持ってなくてさ……何とかここは話し合いで穏便に済ませられないかな……?」

 

 とりあえず『ポケモンを持っていない』と嘘をついて、どうにかバトルだけは避けられないかと望みを託す。しかし……

 

「いーや、ダメだね!もしバトルできないってんなら、君たちは今日からスター団の一員になってもらう――」

 

「――それなら僕が相手になるよ」

 

 声がした方を振り向く。

 そこにはこれまで見てきた自転車型ポケモンとはだいぶ違った見た目をしているポケモンに乗った、ベリルと同じ制服を身に着けた少年がいた。

 そのポケモンをボールへと仕舞った少年はこちらに歩み寄る。

 そんな彼にここは甘えることにした。

  

「……申し訳ないけれど、お願いしてもいいかな」

 

「もちろん!」

 

 そうして代わりにバトルを引き受けてくれたその少年は強かった。

 ところどころぎこちない部分はあったが、ポケモンに対する的確な指示と、状況分析力は素晴らしいものを感じ取れた。

 彼は間違いなくポケモントレーナーとしての才能がある。見た者を惹き付ける何かが彼の中にあった。

 

 あっという間に相手のポケモンを倒し、スター団の女子生徒は驚愕の表情を浮かべる。

 

「あたしがお星さまになっちゃった!?……なんなのこの新顔ちゃん、マジ強いんだけど……」

 

「後輩がやられた……!?こうなったら先輩であるオレが相手をするしかないのか……!?」

 

 少年は確かに強いが、それでも連戦はかなり厳しいだろう。いったいどうすればいいのかと考えていると、階段の上から誰かが駆け下りてきた。

 

「ちょっとちょっと!何やってんのー!」

 

「ゲッ、生徒会長」

「めんどくさいヤツに見つかっちまった……」

 

 スター団の二人の表情が一気に引き攣る。

 

「もう!ダメだよ!ハルト!ポケモン勝負するならわ た し と!……でしょ!?」

 

 そう言った生徒会長はニコニコと何故か嬉しそうに少年……ハルトの顔を見る。

 しかし、そのハルトは至って冷静な顔でツッコミを入れる。

 

「いやいやいや、そうじゃないでしょ。ほら、ネモ見てみなよ。今、スター団とかいう人達に絡まれてたところなんだよ」

 

「本当だ、よく見たらスター団!また強引な勧誘してる!」

 

「あ、はい、どうも」

 

「……なるほどね!本来なら生徒会長としてこの騒ぎを収めるべきなんだろうけど、せっかくだからハルトが超・マル秘アイテムで解決しちゃえ!」

 

「……これって、まさか」

 

 ハルトは手渡された物に心当たりがあるようで、少し驚いたような、嬉しさも入り混じったような表情で、手の中の物をまじまじと見つめている。

 それはベリルにとって初めて見る物だった。

 

「テラスタルオーブを持ってると戦闘中にポケモンにテラスタルできるんだ。ハルトのホゲータは、ほのおタイプにテラスタルしそう!」

 

「これもらうのって本当は専用の授業受けないとだけど、わたしが推薦しといたから!ものは試し!戦いながら使い方知っていこーっ!」

 

 生徒会長であるネモから『テラスタル』という聞いたこともない単語がベリルの耳に聞こえてくる。

 ここへ来て、まだ自分の知らないものがあったのだなという喜びと、自分という存在がいかに無知なのかというちっぽけさを痛感させられた。

 

 だが、なにより、まずは一度見てみたい……!

 

 内心、ワクワクしながら様子をうかがう。

 

「あれ?この流れはテラスタルのお試しにされる感じですか……?」

 

 スター団の男子生徒は困惑した表情で訊いた。誰がどうみてもこれからお試しにされる感じだが、あえて何も言わない。

 

「いやならわたしと勝負だよ」

 

「……ぐぬぬぅ、新顔のほうならまだ勝つチャンスはある!」

 

「それじゃ位置について!勝負開始ー!」

 

 ネモの合図を受けて、両者ともポケモンを繰り出しバトルが始まる。

 

 ハルトは今もらったばかりのテラスタルオーブを空へと掲げた。すると、まるで結晶のようにキラキラと光る物質がオーブに取り込まれていく。

 そして、そのオーブを自分のポケモンに投げると、ホゲータというポケモンは結晶に包まれる。それが砕け、中から現れたホゲータの頭部には先程まではなかった結晶が光り輝いていた。

 

 その状態で繰り出されるほのおタイプの攻撃は、さっきのバトルで見た威力を大きく超えている。

 

 ――当然、バトルもハルトの圧勝に終わった。

 

「さっすがハルト!テラスタルもいい感じ!」

 

 ネモは満足そうに頷いた。

 一方、完敗したスター団の二人は、

 

「そ、それじゃ僕はこれで!お疲れさまでスター!」

「あたしもこのへんで!お疲れさまでスター!」

 

 ものすごく個性的な捨て台詞を残し、スタコラサッサとどこかへ走って逃げていった。

 

「……なんだったんだ、いったい」

 

 思わずベリルが呟いた。それにネモが答える。

 

「スター団はいわゆるやんちゃな生徒の集まりなんだ。出席率も低いし、集団で暴走してるし、先生たちも頭をかかえてるみたい」

 

 確かにやんちゃな生徒たちも問題があるのだろうが、反社会的組織じゃないだけマシだなと、学生にしてはえらく達観したものの見方をベリルは口には出さずに思っていた。

 そんな時。

 

「……あの!!」

 

 振り向くと、先ほど絡まれていた丸眼鏡の学生が何か言いたげな目でこちらを見ていた。

 しばらくモジモジとした後、

 

「えと、ありがと……ございます」

 

「……先、行くんで」

 

 それだけ言うと丸眼鏡の学生は逃げるように階段を駆け上っていった。

 その後ろ姿をポカンと見ていたが、自分もお礼を言わなければいけないことを思い出し、2人に向き直った。

 

「……あっと、ボクもお礼を言わなきゃ!ボクの名前はベリル!君はハルト君……でいいのかな?本当に助かったよ、ありがとう。君がきてくれなかったらどうなっていたか……」

 

「気にしないで!困ったときはお互い様だよ!」

 

「ハルト、えらい!人助けしてたんだね!あんま見ない顔……もしかしてベリルも転入生?」

 

 ネモに尋ねられたベリルはこくりと頷く。

 

「え、えぇそうです。実は今日から転入することになってて……あと、会長さん、さっきはありがとうございました」

 

「会長さんだなんてやめてよー!そんな堅苦しいのはナシナシ!わたしのことはネモでいいよー!」

 

「それと、ハルトも今日からアカデミーに転入するんだ!今の様子を見ると二人ともすぐに仲良くなれそう!……とすると、あの子も転入生かな?イーブイのバッグもっふもふ」

 

 そう言うとネモは階段の方を向き、軽く屈伸運動を行う。

 完全にベリルの頭から階段のことが忘れ去られていたが、ネモの行動を見て意識が階段に戻された。

 

「さて!いざこざも解決したし、いよいよ学校へ向かいますか!地獄の階段……がんばってのぼろっ!」

 

 そう言うやいなやネモは颯爽と階段を駆け上っていき、あっという間に見えなくなった。

 残されたベリルとハルトは顔を見合せ、苦笑いを浮かべたのだった。

 

 

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