モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか? 作:そりだす
仕事の関係で多忙であったことに加え、執筆する手が進まず今まで休んでおりました。
また、投稿を続ける中で様々なご意見をいただき、物語の構成などを考えることの難しさを痛感致しました。
本来であれば物語を収束に向かわせたいところではありますが、当初考えていた作品構成ではまだ中盤、ポケモンSVの原作でもスターダストストリートは中盤に位置し、最後のエピソードが控えております。
今後も様々な厳しいご意見をいただくとは思いますが、何とか折れずに最後までは書き切ってやろうと思っています。
今後とも応援よろしくお願いいたします。
「――『メガシンカ』」
呼吸することすら忘れてしまいそうな緊張感が張り詰めた静寂の中、ベリルの発した一言がグラウンドに響き渡る。
直後、ベリルが手首に身に付けているバングルに嵌め込まれた不思議な石が光を放ち始めた。
その光に呼応するようにレックウザの全身も輝き始め、ふたつの眩い光はひとつに交わる。
そして、直視できないほどの閃光に包まれると同時、衝撃波かと錯覚してしまうほどの強烈な突風がこの場にいる全員に襲いかかった。
目を開けるのも困難なほどの激しい閃光と暴風により、皆、思わずその眼を閉じる。
ハルトも皆と同様に、咄嗟に腕で顔を覆いながら眼を閉じてしまったが、今この状況で周囲が見えないことの危険性が脳裏をよぎり、すぐさま眼を開く。
眼を開くまでにかかった時間は、せいぜい数秒といったところか。
――しかし、そのほんの僅かな時間の間に、レックウザの姿は先程までと一変していた。
見上げるほどの巨躯を誇った体長は、あれから更に倍近くまで巨大化しており、その巨体から放たれる圧倒的なまでの威圧感は先程までの比ではない。
下顎は何物も貫く槍が如き鋭さの形状となり、その下顎と頭部から伸びる龍髭のような形状の器官が、吹き荒れる暴風に靡(なび)いている。
そして、レックウザの形態が変わるまでは、不気味なまでに停滞していた空気の流れが、形態が変わると同時に、上空から地上へとまるで叩きつけるような乱気流が吹き荒れた。
……その乱気流はまるで、レックウザを護るかのように吹き荒れており、空でだけでなく、まるで大地や海……この世界の自然そのものが敵となったかのような絶望感を感じながら、改めて目の前の存在の大きさを知る。
きっとこの場にいる者全員が、同じ感情を抱いているだろう。
だからといって、彼らの目が絶望に染まることは無かった。
6人は互いに目配せをして、タイミングを計り同時に攻撃の指示を出す。
ポケモン達もトレーナーの指示に従い、ほぼ同時に激しい攻撃を繰り出した。
しかし、レックウザは襲い来る攻撃をものともしていない。
様々な方向から放たれ飛び交う攻撃を優雅さすら感じる動きで、長い身体を器用に操り、全て紙一重の間合いで躱していく。
その姿はまるで舞っているようであった。
……だが、ここでレックウザの動きにほんの僅かな違和感を感じたハルトは、目を凝らしてその一挙手一投足を観察する。
そして、すぐにその違和感の正体に気が付いた。
レックウザは、舞うように躱しているのではない。
――『舞いながら』攻撃を躱しているのだ。
「まさか『龍の舞』を回避に……ッ!?」
以前もベリルは技を応用し、本来とは異なる別の用途に使ってみせる柔軟な発想を、ハルトとのバトルで見せつけたことがあった。
……あの時はマリルリの『アクアジェット』を攻撃ではなく、その速度を生かして敵へ接近するたの術として使ってみせ、そのまま更に強力な技である『アクアブレイク』へ繋げてみせた。
今回も同様だ。
本来、龍の舞と呼ばれる技の効果としては、舞ったポケモンの攻撃と素早さを上昇させる技だ。
決して回避行動を前提とした技ではない。
それを、今回は龍の舞という補助技を用いて、敵からの無数の攻撃をただ躱すだけでなく、自らの能力をも上昇させる術とした……。
非常に合理的な技の応用に驚かされたが、何より最も驚愕したのは……ベリルはバトルが始まってから、一言もレックウザに指示を出していない事だ。
何も指示を出していないにも関わらず、レックウザがこれだけ的確な判断を下せるのか。これこそ、伝説と呼ばれるポケモンの実力なのか……。
一瞬、そう思いかけたが、過去のバトルでもアイコンタクトでポケモンに指示を出していたという話を思い出す。
そう、恐らく指示は出しているのだろう。……目と目、心と心で。
以前のレンタルポケモンとは違い、レックウザはベリルの手持ちである。
きっとこれまで困難が伴う長い旅を共に乗り越えてきたことで培われた絶対の信頼、そして固く結ばれた絆があるのだろう。
そして、レックウザはその信頼に応えんと、眼前に立ちはだかる彼らを全力で迎え撃つ――。
宙にとぐろを巻き、敵を見下ろしていたレックウザはゆっくりとその身をかがめ、地を這うような体勢をとる。
その瞬間、レックウザの姿がブレたように見えたと同時に、吹き飛ばされてしまうほどの衝撃波がこの場の皆に襲いかかった。
ハルトは体勢を崩し、思わずその場にしゃがみこむ。
衝撃波によって土煙が舞い上がり、周囲の様子が霞んで見えないが、ハルトは目を凝らしてポケモンたちがいた前方を見る。
すると、徐々に土煙は落ち着き、視界が戻っていく。
そうして土煙が晴れた視界の中、最初に目に入ったのは6体のポケモン全てが戦闘不能となり、地面に倒れている姿だった。
――何が起こったのか分からない。
ただ、唯一分かっているのは、レックウザが攻撃を仕掛けたということだけだ。
「あの技は……『神速』……?」
呆然と光景を見つめるクラベルが呟きを漏らす。
『神速』とは、相手のポケモンが技を繰り出すより先に攻撃をする、先制技の中でもトップクラスの威力を誇る技である。
ハルトもこれまでの旅の中で、神速を使用するポケモンに出会ったことがあった。目にも止まらぬ速度で攻撃されるため、対策等も立てにくく苦戦したことが印象に残っていた。
だが、今の神速はもはやこれまで見てきた技との次元が違う。
文字通り、刹那の一瞬に繰り出された一撃……それだけで6体のポケモンが同時に倒された。
だが、能力が上昇したというだけで、たった一撃で6体ものポケモンを倒すことなど、たとえ伝説と呼ばれるポケモンでも可能なのか。
そんな僅かな疑問が脳裏を掠めたその時、レックウザの首元に体表の輝きとは異なる、物質特有の光を反射するような輝きが一瞬見えた。
――その首元にあったのは『いのちのたま』と呼ばれる道具だった。
その効果は攻撃の威力を上昇させる代わりに、代償としてポケモンの体力を消費するという戦闘に特化した捨て身の道具だ。
――メガシンカと呼ばれる形態変化による身体能力の大幅強化、龍の舞による能力の向上、そしていのちのたまの効果による攻撃力の増加……。
「――強すぎる」
無意識にハルトの口から、その言葉が漏れ出た。それは、心の底からの呟きだった。
……レックウザとその他のポケモンでは、素の能力でも圧倒できるであろうほどに実力差がありすぎる。
にも関わらず、ベリルはその実力に奢ることをせず一切の油断をすることなく、最善策を講じてくる。
獅子は兎を狩るにも全力を尽くすというが、目の前の存在は獅子とは比べ物にならないほど生命としてのレベルが違う。
スター団各リーダーの頬を汗が伝っていく。
レックウザとベリルの突き刺すような冷徹な瞳が、真っ直ぐに眼前の彼らを倒さんと捉えて離さなかった。