モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか? 作:そりだす
――とうとう、ベリルとスター団ボス達のバトルが始まった。
当初、実力者同士の激しい戦闘が繰り広げられるかと思われていたが、バトルが始まると文字通り一瞬で、スター団の6体のポケモンが倒されることとなる。
その後もバトルは続いていき、ついに彼らの手持ちの5体目となるポケモン達が、再び強力な一撃によって同時に薙ぎ払われた。
「――そんな」
バトルが始まってすぐに突きつけられた、圧倒的なまでの実力差……。
しかし、その見立てですらまだ甘かったのだと、バトルを継続するにつれて明らかになっていく。
まず、レックウザへ攻撃を繰り出す隙が全くないのだ。その全てを見透かしたような、凍てつく瞳はまっすぐにポケモン達を捉え、一切の油断を感じさせない。
それに、仮に攻撃を繰り出すことができたとしても、全て紙一重で躱されてしまう上、龍の舞を行うためむしろレックウザの能力を大幅に向上させることとなる。
そして、そこから繰り出されるレックウザの攻撃は、どんなポケモンも一撃で倒すほどの威力を誇り、加えてその攻撃範囲は場にいる6体全てに同時に当たるほどの広さがある。
……結果として、1体目のポケモン達が倒されてから、まだそれほど時間は経っていないにも関わらず、あっという間にボスたち6人の手持ちはそれぞれ残り1匹となり、場は最終局面を迎えていた。
6人がポケモンをモンスターボールに戻す様子を眺めながら、もう終わりなのか……と、ベリルは言い様のない虚しさを覚える。
――バトルが始まる前、彼らの様子を見ていたベリルの心の中に、言葉では表現することのできない感情をほんの一瞬だが感じる瞬間があった。
悪の組織や悪になりかねない組織を壊滅させなければならないという目的……もちろん、その意識もある。
だが、目の前にいるスター団の彼らなら、どんな事があろうと間違った方向には進まないのではないか……そんな考えが次第に思考を埋めていく。
そして、その思考が強まれば強まるほど、分厚く覆われていたベリルの心の氷が少しずつ溶けていくのを、確かに感じた。
――自分自身が感じたその思い……果たして、それが正しいのか、間違っているのか……もはやベリル自身にも判断をつけることが難しくなったその真偽を見定めるべく、バトルを挑んだのだ。
しかし、スター団側それぞれ手持ちポケモン残り1体まで追い詰める場面まで来たが、ベリルの疑問が解消されることは無かった――。
無意識に顔を俯かせていたベリルは、思考の海から切り替えて、この戦いを終わらせるべくゆっくりと顔を上げる。
目の前の彼らから、手持ち最後となる6体目のポケモン達が繰り出されたことを確認したベリルは、黒く濁った瞳でアイコンタクトを用いてレックウザに指示を出そうとする。
「もう終わらせよう……」
その時、レックウザを挟んだ向こう側にいるスター団のボス達6人と、そのポケモン達の眼に視線が吸い寄せられる。
――あの眼には、見覚えがあった。
トレーナー達のその眼は――何よりも、人やポケモン……仲間を大切にしていた、他人の幸せを何よりも願い続け、最期まで大切なものを守ろうと立ち向かった、ある少女と同じ眼だ。
そして、ポケモン達はそんなトレーナーを一切の疑念もなく、心の底から信じている。
……これまで出会った悪の組織のポケモン達は皆、瞳の奥を見ると感情を微塵も感じさせない、そんな空虚な瞳をしていた。
それは、どれだけ外面を取り繕っても、隠すことのできるものではない。
ただ、自分に命令してくるトレーナーの指示に従うことのみを強いられたポケモン達……。
そんな操り人形のようなポケモン達とは、スター団のポケモン達は明らかに違っていた。
トレーナーを信頼し、互いに助け合いながら、万が一の時には自らの命も厭わないほどの覚悟が伝わってくる。
……『スター団は悪である』という思考で凝り固まってしまったことによって、視野が極端に狭くなり、本来見なければいけない部分が見えていなかったことに、ベリルはようやく気が付いた。
――そして、互いを支え合う彼らにベリルは、いなくなった者達の面影を重ね合わせていた。
「あ……あぁ……」
彼らからまっすぐに向けられる瞳から、目を離すことが出来ない。
呼吸が上手くできずに途切れ途切れの吐息が漏れる。震える手足の感覚は消失し、その場に立ち尽くすだけで精一杯だ。
そのベリルの様子はすぐに周囲に伝わり、レックウザが困惑したような雰囲気で、チラリとベリルに視線を向ける。
レックウザが明確にスター団から視線を逸らしたのは、バトルが始まってから、この1回が最初であった。
集中力が極限まで研ぎ澄まされた彼らとそのポケモン達は、恐らく二度とないであろうその僅かな隙を見逃さなかった。
「――今だッ!!」
トレーナーの指示とポケモンの行動が重なる。
ベリルのようなアイコンタクトではなく、互いの意識が極限状態の集中力によってシンクロした。
それは一朝一夕で出来るものでは無い。これまで積み重ねてきた絆と共にしてきた時間があったからこそ、この状況で可能となったのだ。
それぞれ、自身が持つ最も強力な技をレックウザへ向けて全力で放った。
ポケモン達の技に、躊躇や迷いは一切感じない。
「――ッ!……レックウザ、『ガリョウテンセイ』ッッッ!!」
動揺により一瞬、反応が遅れた様子を見せたベリルだが、すぐに指示を出す。聞いたこともない技名がベリルの口から飛び出した。
同時にレックウザの全身から凄まじい闘気が放たれる。そのあまりのエネルギーによって、周囲の空間が歪んで見えるほどだ。
レックウザはそのまま前方の目標へと、まるで流星の如き速度で突撃する。
強力な技とレックウザが真正面からぶつかり合い、爆風と衝撃波がグラウンドだけでなく校舎全体を激しく振動させた。
凄まじい威力を持った技同士が衝突したことにより、辺り一帯を包み込む爆煙が舞い上がる。
次第に、舞い上がった煙が晴れ、バトルコートの状況が見えてくる。
バトルコートには、クレーターのように大きく地面が抉れた痕が刻まれ、その衝突の激しさを物語っていた。
そして、激闘の跡が残るその場に立っていたのは――レックウザ、ただ一体のみであった。
レックウザの勝利の咆哮が轟き、その後メガシンカによる形態の変化が解ける。
「――倒せなかった……」
呆然とする者、その場に崩れ落ち膝をつく者……。
ベリルとレックウザのあまりにも圧倒的な実力を前に、彼らはどうすることも出来なかった。
結果……たった一人、たった一体でスター団のボスを全員、そして同時に倒してしまった。
つまり、当初の約束であればスター団はこれをもって解散となる。
ここで、ベリルはスター団のボス達にゆっくりと歩み寄ろうとするが、その間にクラベルは無言で、スター団を庇うように立ちはだかる。
しかし、ベリルの表情を見たクラベルは、目を見開いて驚きの感情とどこか安堵したような表情を浮かべ、身体を横にずらし目の前から退いた。
――なぜなら、今のベリルの表情は先程までの感情が欠落したような無表情や敵意などの負の感情を全く感じさせない、いつもの穏やかな顔に戻っていたからだった。
ベリルに視線を向けるボス達を、どこか懐かしい友人を見るようにその目を細めて、ゆっくり見回す。
「……戦ってみて、君たちスター団の気持ち、ひしひしと感じたよ。ボクは……過去に囚われすぎてしまって、今ある大事なものが見えてなかった……」
「このパルデア地方には……世界征服や人とポケモン達を混乱に陥れようとしたり、今の世界をめちゃくちゃにするような事を考えているような奴は、最初からいなかったんだね……」
絞り出すような声が、静まり返ったグラウンドに溶け、消えていく。
「心のどこかでは分かっていたと思う、君たちは悪い人たちじゃないって。だけど、あと一歩信じられなかった。……ボクの心が弱かったせいだ」
ベリルは俯いて、微かに肩を震わせながら固く拳を握りしめる。そんなベリルの様子を見たボタンは、首を横に振る。
「そんなことない……ウチが……心を傷つけて、疑われても仕方のないことをしたから……!」
「違うよ。ボクが最初にスター団のあく組の人達を傷付けたから、君が動かざるを得なかったんだろう?……それで、許してもらえるかは分からないけど……スター団の人達を傷つけたこと、直接謝りたいんだ」
ここでスター団の皆が困惑した様子で顔を見合わせる。
すると、ここまで静かに聞いていたスター団のピーニャが、話し始めた。
「ボクらは悪の組織と疑われるようなこともしてしまっていたし、実際色んな人にたくさん迷惑もかけていたことも事実だからさ。気にする必要は無いよ」
「……それに、君は誰も傷つけていないじゃんか。今になって思えば、あの時にサイコキネシスを使ったのは、誰も傷つけないためだったんでしょ?もし、君みたいな強い人が最初からやる気だったら、あんな方法は取らないはずだからさ」
それに続いてボタンも話始める。
「むしろ謝らないといけないのはこっち……本当にごめんなさい……」
「ボクの方こそごめん……」
気持ちが込められた言葉には、時として強い思いが宿るという。それは、今この瞬間も例外ではなかった。
彼らからたくさんの暖かい感情を向けられたことにより、ベリルの心に残っていた僅かな氷塊は完全に溶け、そして消えていった。
――そして、ここまで静かに見守ってくれていたハルトに歩み寄る。
「ハルト……本当にごめん。関係のない君まで巻き込んでしまって……」
肩を落としてそう伝えるベリル、
きっとこれまで正体を言わずにいたことや負の感情を向けてしまったこと等が罪悪感となっているのだろう。
しかし、ハルトは肩をポンポンと優しく叩く。
「気にしなくていいよ!だって、僕たち友達でしょ?友達が困ってたら助けてあげたいって思うのは普通だよ!何かあった時は僕に言ってよ!全力で助けるからさ!」
そう言って、ニカッと人懐っこい笑みを浮かべる。が、すぐに気まずそうな笑みへと変わり、「まぁ今回、僕は何も出来なかったけど……」と、ポリポリと頬を搔いた。
そんなハルトにベリルは首を横に振る。
「そんなことないよ。今こうしていられるのはハルトのおかげだよ」
そう伝えられニコリと微笑むハルトに、ベリルも笑いかけながら静かに話す。
「――最後に……最後にもう一度だけ、信じてみることにするよ。世界には悪い人ばかりじゃないんだって。……ポケモンも、人も平和に過ごすことのできる場所があって、それを願う人々がこの世界にはいるんだって」
これでスターダストストリート編は終わりになります。次に幕間を1話挟んで、最終章となるザ・ホームウェイ編に入っていきます。
引き続きよろしくお願いします!