モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか? 作:そりだす
これからちょっとずつペースを戻していきます!
――パルデア地方のほぼ中央に位置するパルデアの大穴。
その最深部へと向かうためのトンネルは、普段は物々しいバリケードによって封鎖されている。
しかし今回、フトゥー博士から直々の依頼ということもあり、アカデミーやポケモンリーグ等から特別にパルデアの大穴へと立ち入ることを許可された。
……本来は例え博士からの頼みだったとしても許可が下りることはまずないのだろうが、同行するメンバーを伝えると何処も渋い顔はしながら最後は首を縦に振ったのだという。
――あまり広いとは言えないトンネルの中を、ハルトとペパーはゆっくりと歩みを進め、二人の足音のみが反響する。
ひとつの足音は未知の場所へと向かうことへの期待からなのか、軽やかなものだ。
ただ、もうひとつの足音はそれとは反対に、まるで身体が前へ進むことを拒否しているかのようにとても重たいものであった。
これから向かう目的地への期待と不安が入り混じる中、トンネルの出口が近づいてきた。
トンネルを抜けた先に佇む奇怪な形状の建物を指差しながら、ペパーは徐に口を開く。
「――アレがゼロゲートだ。パルデアの大穴ん中……エリアゼロを観測する施設、ゼロゲートの中から大穴に降りんだ」
「ほえ〜、何だか何とも言えない雰囲気があるね」
ハルトはゼロゲートを見上げながら、目をパチパチさせた。
しかし、ペパーはハルトのそんな呟きが聞こえていないのか、正面を見据えたまま言葉を続ける。
「そーいやオマエがつれてるアイツ……ミライドンってエリアゼロが生まれた場所?なんだとさ。もしかすっと故郷に帰れるの嬉しかったりしてな。……ま、どうでもいいけどよ」
「オレが呼んだふたりはゼロゲートで待ってるはずだぜ。……行くとするか」
「う、うん……」
そう言いながら、ペパーはゼロゲートの入口に向かって歩き出した。
◆◆◆◆
……建物の中は、得体の知れない機械があちこちに設置されており、何かしらの周期性を持っているように怪しげな光をチカチカと点滅させていた。
そんな機械達が所狭しと並んでいるが、それでもそこそこの広さは確保されており、ちょっとしたホールのようになっている。
しかし、建物の中は何故か薄暗く、機械から放たれる僅かな光や非常灯くらいしか光源がない。
「おわっ!なんか暗っ……」
ペパーも同様の感想を抱いたらしく、中に入るや否やそう漏らした。
「そうだね。これじゃ周りもあんまり見えないや……ん?」
ここでハルトは前方からこちらに向かって歩いてくる人影を見つけた。
顔はこの暗さでよく見えないが、鉄で出来た床を踏みしめる足音を響かせながら、その人物は近づいてくる。
ようやく見える距離まで近づいてきたその人物は立ち止まり、聞き慣れた声で挨拶してきた。
「やほ!ハルト!」
「ネモ!来てくれたんだ!」
パルデアの大穴に挑戦する緊張や誰かが近づいてくる不安から強ばっていた表情が、彼女の顔を見て言葉を交わしたことで一気に破顔する。
「ペパーから強いポケモンがわんさかいるって聞いてさ!」
小さな子どものように目をキラキラさせ、ソワソワと落ち着かない様子でネモは言った。
そんなネモを見ながら、ペパーは肩を竦める。
「すげーポケモンと戦えるって教えたら秒で来た。学校では小うるさいだけだけど、頼りになりそうだな」
「おー?戦(や)るか!?」
ポキポキと指の節を鳴らしながら、ペパーに凄んでみせるネモ。
こんな場所でも相変わらず、いつも通りのネモとペパーのやり取りが繰り広げられることに、緊張がほぐれていく。
「っていうか暗いよ!すげーポケモンどこにいるの!?」
いつもの声色でキョロキョロとしきりに周囲を見回しているネモを見て、ペパーも首を傾げた
「確かに変だな……前来た時は電気ついてたんだけど……」
そう言って3人揃って周囲をキョロキョロと見回していると、突如建物全体に大きな起動音が鳴り響き、施設内を照らす照明が一斉に点灯した。
「ついた!」
感嘆符の付いた声をネモが上げた。
「なんで?」
ハルト達は何もしていないのに、先程まで消えていた照明が突如点灯したのだ。何が起きたか分からないと言った表情で、天井の照明を見つめるペパー。
「う……うちがやった」
困惑するハルト達だったが、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきたことにより、そちらに視線を向ける。
そこには以前のスターダストストリートにて、ハルトとぶつかりあったボタンが立っていた。
しかし、あの出来事がきっかけでハルトにとっては今やネモとペパーに並ぶ気心の知れた友人である。
「ボタン!」
「なんかオートで省電力モードになってたっぽい」
当のボタンは若干、視線を泳がせながらそう語る。
「ハッキングして強制的に解除……」
ボタンが何かを言いかけた時、ネモがボタンの顔を指差しながら声を上げた。
「あー!イーブイバッグがもっふもふの!!」
「もふ……?えと、名前、ボタン……」
「話すのは初めまして!わたし、ネモ!クラスは1-A!機械得意なんだね!ポケモン勝負は好き!?」
再び目を輝かせ、モンスターボールを両手で握りしめながらネモはボタンに詰め寄っていく。
「うぐ、グイグイ来るし……」
ボタンは頬を若干引きつらせながら、1歩後ずさる。
そんな平和な光景を眺めながら、ハルトとペパーは話す。
「ボタンも呼んでたんだね!」
「あぁ、ハイテクに強いヤツ、校長から紹介してもらった。ハルトの助けになるって声かけたら秒で来た」
すると、その話が聞こえたのかボタンは真剣な表情でこちらに向き直った。
「冒険とかガラじゃないけど……ハルトに借り返さなきゃ。約束は果たす」
「ボタン……ありがとう。君がいればすごく心強いよ」
「意外と硬派なヤツ」
感心したような表情でペパーは言葉を漏らした。
その後、3人の顔を見渡すとコホンと咳払いした。
「改めてオレはペパーだ!好きなものはマフィティフと料理で……」
と、ペパーが自己紹介を始めるや否や、施設内のスピーカーから以前も聞いたことのある声が聞こえてくる。
『生体認証確認中……生体認証確認中……』
「ハロー、ハルト。待っていたぞ。優秀な仲間を集めて来てくれたようだな」
人間味を感じさせない淡々とした口調が響く。
「いや、どちら様なん」
その声を聞いて訝しげに眉をひそめるボタン。
それに対し、ペパーは若干躊躇するような様子を見せたが、徐に口を開く。
「オレの父ちゃん……多分」
「え!フトゥー博士!?」
ネモは目をパチクリさせ、驚きの声を上げた。
「学籍番号805C001、ネモ。学籍番号803B121、ボタン。来てくれて感謝する」
「博士!お会いできて光栄です!まだ会えてないですけど!」
「えと……うちらのこと話したん?」
「んなわけあるかよ……」
困惑した様子の2人は顔を見合わせている。
しかし、フトゥー博士は何も答えず淡々と話を進めていく。
「キミたちにはまず、パルデアの大穴に入ってきてほしい。右手に見えるエレベーターから、下の部屋に降りられる」
降りる方法について事務的な口調で説明を終えると、これ以上話すことはないといったようにスピーカーは静かになった。
沈黙が流れる。
「――あのさ……父ちゃん!」
表情に緊張の色を滲ませたペパーが、意を決したように声を発した。
「……先へと進んでくれ」
だが、それに対する答えは帰ってくることはなかった。
「…………」
「え、仲悪いん?」
「うーん……?」
気まずい沈黙が周囲を包み、ペパー以外の3人が困惑した様子で視線を泳がせる。
その泳いだ視線は自然と先ほどフトゥー博士が話したエレベーターの扉へと集まる。
だがここでハルトが控えめに手を挙げながら、申し訳なさそうに話し始めた。
「ご、ごめん。みんな準備は出来てると思うけど、ちょっとだけ待ってくれないかな。実は僕も1人だけ声を掛けてる人がいるんだ……」
そう話している最中、ハルトの背中側にあった出入口の自動ドアが突然開いた。
全員が今開いたドアへ振り返り、視線を向ける。
外から太陽の眩しい光が差し込み、思わず目を細めるが誰かがゆっくりと施設内へと入ってきたのが分かった。
今ここに入ってくるのは、後1人しか考えられない。
ハルトは嬉しそうに表情を輝かせ、その人物の顔を見ようとした。
――そして、ピタッと硬直した。
おそらくこの時、ハルト以外の3人についても状況が理解出来ず硬直していたに違いない。
「……宇宙人?」
ボタンの絞り出すような呟きが聞こえる。
……確かに、目の前の人物を一言で表すならその表現が近いかもしれない。
というのも、今目の前にいる人物は宇宙服のような見たこともない服装を身に着けているのだ。そのせいで表情を読み取ることも出来ない。
だが、中の人物はそんなことには気付いていないらしく、頭部全体を覆うヘルメットを被っているのに頭を搔く仕草をした。
「ごめん、遅くなっちゃった!中々防護スーツが見つからなくてさ!まさか、また着る機会が来るとは思わなかったよ〜!」
防護服の中からくぐもった笑い声が聞こえてくる。
しかし、困惑を隠しきれないハルト達は目を真ん丸にして、見つめたまま固まっている。
そんな様子を見た宇宙服の人物は、何かに気づいたのかハッとした様子を見せた後、しょんぼりと肩を落とした。
「…………あ、ご、ごめん。遅れてきたのにヘラヘラしてるのはあまりにも失礼だったね……」
「いや、そこじゃねぇ」
「ベリル……その格好は何?」
ハルトは困惑しながら訊いた。
それに対し、ベリルはポカンとした様子で答える。
「え?だってパルデアの大穴ってすごく危険なところって聞いたから……もしかして、周囲に溶岩が流れてたり、深海に潜ったりするのかなとか……」
「いや、溶岩は流れてないし深海にも潜らないぞ」
「あるいは防護スーツを着ないと生きていけないくらいの極限の環境なのかなとか……」
「大丈夫だ、最深部まで生身で行けるらしい。というか、父ちゃんはそこにいるし」
「……そっか……」
しばしの無言の後、ベリルは徐に防護服を脱ぎ出し、それをカバンの中にギュウギュウに仕舞い込んだ。
明らかにカバンの容量を大幅に超える質量のものが、みるみる中へと吸い込まれていく光景を目の当たりにしながら、ハルト達は静かに待った。
「……お待たせしちゃってごめんね」
そう言ってベリルは少し寂しそうに笑った。
……まさかとは思うが、今言ったような場所に本気で行こうとしていたのだろうか。というか、まるで行ったことがあるような口ぶりだったが……。
とんでもないパンドラの箱を開いてしまう気がして、ハルトはこれ以上考えるのをやめた。