モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか? 作:そりだす
こうしてハルト達5人は、ゼロゲートよりミライドンの滑空によってパルデアの大穴の中へと向かった。
大穴と地上を分かつように立ち込める厚い霧を抜けると、そこには緑豊かな大地と透き通る小川や滝が流れ、ポケモン達も静かに暮らしている豊かな自然が広がっていた。
その光景を見る限り、普通では立ち入ることすら許されない危険地帯であるとは思えない。
そんな地面へと降り立ったハルト達は周囲を見回している。
好奇心に駆られた視線を周囲に向けている者がいる中、ペパーだけは複雑な感情を浮かべていた。
「……また、来ちまったな」
それもそのはず、以前パルデアの大穴に来た時、相棒であり家族同然のマフティフが大怪我を負ってしまい、長い間歩くことさえできないほどに衰弱してしまっていた。きっとその時の記憶が蘇ったのだろう。
その近くでグッタリした様子の2人もいた。
「ハア……ハア……途中、2回は死んだ……」
「そりゃ後ろ向きはキツイよ……ていうか、なんでボクだけミライドンのタイヤにしがみついての滑空だったんだろ……」
まぁ、楽しかったからいいかと呟くベリルに青白い顔色のボタン。
そんな中、ミライドンが何かに怯えたような様子を見せる。
「……ミライドン、どうしたの?」
優しく撫でながら問いかけるハルトだったが、細かく震えるミライドンはとうとう自らモンスターボールの中へと戻っていってしまった。
「自分からボールに戻ってった?」
「どうせ腹でも減ってんだろ」
その様子を見ていたボタンが不思議そうな声を上げるが、それに対しペパーはやや冷たい態度を見せた。
「そうだといいんだけど……」
新しい場所での冒険はこれからというところでこれは、幸先があまり良いとはお世辞にも言えないが、この場の仲間たちであればそんな状況も跳ね飛ばせるだろう。
そんなことを考えていると、ペパーは何かを探しているかのように周囲をキョロキョロと見回し始める。
「…………そういや生徒会長は!?」
「え、いないし。まさか……」
ついさっきまでは確実にいたネモの姿がいつの間にか見えなくなっている。
今のところ目に見える危険はないようだし、あのネモの事なので危険な場所には行かないだろうが、場所が場所なだけに皆の中に最悪の状況が脳裏をよぎる。
「い、急いで探しに行かないと……」
「……いや、どうやら大丈夫そうだよ」
ハルトの発言にベリルは慌てる様子もなくそう言った。皆はベリルが見つめる視線の先を見る。と、同時に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ねー!ねー!みんなー!」
キラキラした瞳と満面の笑みを浮かべたネモは、やや離れたところからこちらに駆け寄ってくる。
呆気に取られる4人に、ネモが興奮した様子で話す。
「エリアゼロすっごいの!はやく行こーっ!」
どうやら我慢しきれず一人で周囲を見て回ってきたらしい。
ピョンピョンと跳ねながらこの先を指差しているネモに、すっかり毒気を抜かれた皆が顔を見合わせ、顔を綻ばせる。
「……特性マイペースなん?」
「生体認証確認中……5名共、コンディションオールクリア。バイタルは正常な数値です」
ボタンが安堵のため息と一緒に呟いた直後、フトゥー博士の声で機械的なアナウンスがスマホロトムから響いてきた。
皆の視線がスマホロトムに集まると、そこから再びフトゥー博士の声が聞こえてくる。
「無事に降下できたようだな」
「ハッ!ずいぶんと快適な着地だったぜ!」
「それはよかった。現在可能な降下方法は難易度が高いため心配していたのだ」
ペパーが皮肉たっぷりに言った発言は、まるで全く聞いていないかのように真正面から返される。
分かっているが敢えてそう答えたのか、あるいはそもそも今のが嫌味だと分かっていないのか……どちらにせよこの思いもよらないカウンターに困惑しているペパーは首を傾げる。
「イヤミ通じてないし」
「ははは……」
ボタンとベリルもそんなやり取りを見て、やや戸惑った様子でぼそりと呟いたり半笑いを浮かべた。
「ご心配ありがとうございます!」
ネモだけは真正面から来た言葉をそのまま受け取り、丁寧に感謝の言葉を述べた。
やはりアカデミーの生徒会長を務める人物は、礼節がしっかり身に付いているのだなと、屈託のない笑顔を浮かべるネモの横顔を見ながらハルトは思う。
しかし、博士はそれらに触れることも無く淡々と話を進めていく。
「これから最深部……ボクの待つゼロラボを目指してもらうわけだが……その扉は外部から4つのロックがかかっており、ボクでは解除できない」
「4つのロック……」
博士の発言をボタンが眉間を抑えながら小声で復唱する。
「キミたちには途中に建造されている観測ユニットを4か所めぐってもらう。その施設でロックを解除しながら進んできてほしい」
スマホロトムにはその観測ユニットと呼ばれる建物の写真が表示されている。建造されてからかなりの年月が経過しているのだろうか、元は真っ白だったと思われる壁には無数の蔦が絡みついている。
「では、健闘を祈る」
博士はそれだけ伝えると連絡を切り、スマホロトムはハルトのポケットへと戻っていった。
「4つのロックかー!ゲームみたいで楽しそう!」
再びテンションが跳ね上がるネモ。
「だねー!ボクも久々の冒険でワクワクが止まらないよ!」
ベリルも興奮しているらしく、楽しそうに周囲を見ながらソワソワと落ち着きがなくなってきた。
「それじゃあエリアゼロの奥底目指していざ出発っ!」
ネモの掛け声を受け、5人はエリアゼロの最深部を目指して歩き始めた――。
◆◆◆◆
――それから、観測ユニットを巡っていく道中で、様々なポケモン達と出会った。
ほとんどはこれまで見たことのあるポケモンだったが、中には地上にいるポケモンと近い外見を持っているにも関わらず、その気性は非常に荒く図鑑にも表示されないという、明らかに異質なポケモンも存在していた。
当然、5人はその異質さを感じ取っていた。
そして、あのポケモンはバイオレットブックに記載されているエリアゼロの怪物なのではないかと、ペパーが話したその時だった。
再びスマホロトムが着信音を鳴らし、皆の前に飛び出した。その画面に映るのはフトゥー博士だ。
そうして、通信してきた博士から衝撃の事実が伝えられる。
それは、エリアゼロ内に生息している一部の生物は、この世界のポケモンではない――今よりはるか未来のポケモンなのだという。
「未来のポケモン……!?」
「えー! すごすぎ!」
「いやいやいや、無理があるし……」
三者三様の反応を見せる彼らに、フトゥー博士は続ける。
「ボクがいるゼロラボにタイムマシンが存在しており、未来のポケモンを呼びだしているのだ」
ただ事実を並べているだけと言わんばかりに、淡々とそう語る博士。
驚愕の表情を浮かべるハルトやネモ、ボタンの横で、他の2人は険しい顔でスマホロトムに映る博士を睨む。
「父ちゃ……オマエは何のためにオレたちをエリアゼロに呼んだ?」
「割り込むようで申し訳ないんだけど、ボクも聞きたいな。……あなたは、それを使って何をしようとしてるんですか」
ペパーとベリルの2人とも、普段より低い声色でフトゥー博士に問いかける。その声には有無を言わせぬ迫力があり、他の3人は思わず言葉を飲み込んだ。
「ペパー、ベリル、それは……可能であれば直接話させてくれ。実物を見せながら説明できれば理解もしやすいはずだ」
フトゥー博士は若干、言葉を途切れさせながら言った――。
――その後、今いる観測ユニットのロックを解除した5人は、にわかには信じがたい話を聞き、かなり困惑しながらもそれぞれの意見を語る。
「違う時代のポケモンと戦えるなんて最高じゃん!エリアゼロ、来てよかった!」
「タイムマシンとか一気にSF感増してきた」
ネモとボタンはまるでどこかの物語のような状況に置かれていることを知り、だいぶ興奮しているようだ。
もちろん、ハルトも見たこともないポケモンやボタンが言ったSFのような体験が出来ることに胸が躍っているのは事実だった。
しかし、これまで見たこともないほど考え込むペパーと、血の気が引いた真っ白な顔で機械を見つめるベリル。この2人を見ると徐々に不安が波のように押し寄せてくる。
皆から少し離れたところで、ペパーは腕を組みながら、先ほどのフトゥー博士とのやり取りを思い出していた。
「アイツ……誰だ?」
まるで自分自身に問いかけるようなペパーの小さな呟きは、幸か不幸か誰の耳にも届くことなく、再び思考を巡らせた。
そして、ハルトは先程と比べると明らかに様子がおかしいベリルの肩を叩き、心配そうに声を掛ける。
「べ、ベリル……大丈夫?」
「……うん、大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけだから」
そう言ってベリルは軽く微笑み、観測ユニットの奥に向かい乱雑に積み重ねられていた書類に目を落とす。
……しかし、笑顔で隠された瞳の奥には、以前スター団との争いの中で見せた時と同じかそれ以上の闇が広がっていたことを、この時は誰も気がつくことが出来なかった。