モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか?   作:そりだす

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 ――あれから、ハルト達は全ての観測ユニットを巡り、最深部まで辿り着くことが出来た。

 

 しかし、その道中は順調に進んだわけではない。

 博士の言っていた『未来のポケモン』の襲撃が地下に進むほどに頻度を増し、5人で協力しながら何とか退けてきたのだ。

 その中には以前、砂漠で遭遇したドンファンによく似たポケモンと同じ種類もいた。どうやら、あのポケモンも未来のポケモンのようだ。

 これであれほどの強大な力を持っていた理由が分かると同時、もしこのポケモン達が同じようにパルデアの大穴を抜け出した時、地上にどれほどの被害が出るのかを考えゾッとした。

 

 それ以外に、ミライドンがモトトカゲの未来の姿であることも博士から告げられた。ミライドンの種族は、今ハルトの元にいる個体ともう一体の計2体が、未来より転送されたという。

 もし家族なら再会させてあげたいという全員の意向もあり、ゼロラボへと向かう目的がひとつ増えた。

 

 

 ――そして、いよいよ最深部のゼロラボ入口へと辿り着く。

 

「ここが……エリアゼロの最深部か!?」

 

「到着ー!財宝伝説、確かめちゃう!?」

 

「あれって教科書に書いてるだけっしょ」

 

 それぞれが周囲を眺めながら、思い思いの感想を口にする。しばらくして、スマホロトムが着信音を鳴らしながらポケットから飛び出てきた。

 画面に映るのはフトゥー博士だ。

 

「ハロー、子供たち。よくぞ辿り着いた。キミたちの目の前にある建物こそがゼロラボだ」

 

「博士がいるとこですね!」

 

 ネモが画面のフトゥー博士に反応する。

 そう、ここが最終地点。

 この建物の中にフトゥー博士がいるのだ。

 と、ここで話を聞きながらゼロラボを見ていたボタンが声を上げる。

 

「結晶体に取り込まれてる……!?」

 

「本当だ……」

 

 てっきり結晶体の内部に建設されているのだと思っていたが、よく見ると確かに結晶体に取り込まれ、建物自体が結晶体そのものとなっている。

 

「エリアゼロ内部の結晶体は、不思議なエネルギーを持つ。生物の能力を変化させたり、機械の機能上昇にも効果がある。ポケモンがテラスタル化するのも同じエネルギーなのだ」

 

「……つまり、この建物もテラスタルしてるってことか?」

 

 ペパーは頭の上に『?』を浮かべながら首を傾げた。

 

「……ペパー、ちょっと黙ってて。…………テラスタルオーブは、エリアゼロの結晶体で出来てるってこと……すよね」

 

 これにボタンは眉間に皺を寄せ、腕を組みながらしばらく考え込んだ後、こう言った。 

 このボタンの発言に、思わず全員が驚愕の表情を浮かべる。

 これにフトゥー博士はこくりと頷く。

 

「……一部の者しか知らないがね」

 

 ハルト達は思わず自分のポケットにあるテラスタルオーブを取り出し、まじまじと見つめた。……確かに、ポケモンをテラスタルさせる際に現れる結晶やその輝きは、今目の前にある結晶体と全く同じだ。

 まさか普段から使っていたものと、パルデアの大穴にこんな関係があったとは知らなかった彼らだったが、フトゥー博士は話を続ける。

 

「4つのロックを解除したなら、ゼロラボのゲートを開けるだろう。だが、ゲートを開けば中にいる危険なポケモンたちが一気に外へと飛び出してしまう」

 

 危険なポケモン……つまり、未来からやってきたポケモン達の事だろう。しかし、この道中何度も戦ってきたが、ポケモン一体を相手にするのでも簡単には行かなかった。

 それが一度に、それも大量に現れればさすがのハルト達でも苦戦を強いられるだろう。

 

「……大丈夫でしょうか」

 

「……キミたち5人なら乗り越えられるはずだ」

 

 ハルトが思わず呟いたその言葉に、フトゥー博士は静かな、それでいて優しい声色でそう言った。

 4人もハルトの目を真っ直ぐに見つめ、微笑みながら力強く頷く。

 

「しっかりと準備してからゲートを開いてほしい」

 

 そう言い残すと、スマホロトムの通信は切れた。

 一瞬、静寂が周囲を包む。

 だが、ベリルがその静寂を破る。

 

「……いよいよだね」

 

「どんな相手でもハルトとわたしがいれば大丈夫!」

 

「ははー、心強いっす」

 

 ベリルがゼロラボを見つめたまま呟いたそれに、ネモは目をテラスタルのようにキラキラと輝かせながら言った。そんなネモを見て、ペパーは少しおどけてみせた。

 

 ……そんな彼らのおかげで雰囲気は元に戻り、ハルトの表情もだいぶ柔らかくなった。

 

「よし、それじゃ開けるよ――」

 

「――ちょっと待ったー!」

 

 ゼロラボの扉を開けようと、入口前の機械に触れようとした瞬間、ペパーからストップの声がかかる。

 

「えー、何?いよいよってときに……」

 

 いい感じの流れをぶった切られたネモはぶーと唇を尖らせる。

 

「ヤバいポケモンが出てくるなら、ミライドンもいたほうがいいんじゃねえか?」

 

「確かに、入り江のほら穴でのミライドンなら心強い!あの戦いっぷり、見たい!」

 

 ペパーの提案にネモはポンと手を叩き、こくこくと頷く。しかし、それにボタンとベリルはその案にあまり乗り気ではないらしく、うーんと唸り首を捻った。

 

「えー、でも……。エリアゼロ来てからライドするんも嫌がってるし……。ってか、バトルフォルムになれんのでしょ?」

 

「ボクも同じかな……ミライドンが嫌がってるのにも何か理由がありそうだしね」

 

 だが、ペパーは首を横に振る。 

 

「アイツは本当は強いんだ。秘伝スパイス食ってたし、ここぞってときは戦うだろ!それに、エリアゼロはアイツがしばらく暮らしてた場所だし……。ボールから出しとけば家族も見つけてくれるかもだぜ?」

 

「ペパーにしては一理あるよね!」

 

「ううーん、そうなんかなぁ……」

 

「まあ……確かになぁ……」

 

 結局、ネモとペパーの2人の意見が採用される形でミライドンを呼び出すこととなったが、確かにモンスターボールから出していないと近寄ってこないのは間違いないだろう。

 それに、この現状では未来のポケモンに対抗する方法はひとつでも多い方がいい。

 

「ハルト!ミライドン出しちゃえ!……大丈夫だって!ミライドンが戦えなくってもわたしが守るから!ね!」

 

 流石、この地方最強のチャンピオンであるネモが言うと説得力が凄い。これほど心強い存在も中々いないだろう。

 

「うん、分かったよ。それじゃ……出てきて!ミライドン!」

 

 ハルトはモンスターボールからミライドンを繰り出した。

 やや戸惑った様子を見せるミライドンだったが、取り乱しているわけではないようだ。 

 

「おっしゃ!ハルト!ミライドンボールに続いて、ラボのゲートもオープンだ!」

 

「うん!それじゃ開けるよ!」

 

 そう言って、これまでの観測ユニット同様に機械を操作しロックを解除する。すると、ゼロラボからけたたましい音量の警報が周囲に鳴り響きながら、ゆっくりと扉が開き始めた。

 

 ハルト達はその様子を固唾を飲んで見つめていると、突然後ろから何者かが飛んできて着地したような地響きや音、風を感じた。

 

 慌てて振り向くと、そこにはハルトが持っているミライドンよりも大きく、バトルフォルム状態のもう一体のミライドンがいた。

 

「家族が会いにきてくれた!?」

 

「おお……マジか!」

 

 まさかこんなに早く外へ出した効果があるとは思っていなかったが、何はともあれミライドンの家族が見つかったのなら良かったとハルト達は思う。

 

 しかし、その野生のミライドンはハルト達を見回すと、威嚇するかのように大きな咆哮を上げた。

 特に、ハルトのミライドンを敵対視しているようで唸り声を上げながらゆっくりと近付いてくる。

 

 それに怯えてしまっているのか、ネモやベリルの後ろに隠れようとする。2人はハルトのミライドンの頭や頬を優しく撫でて落ち着かせようとするが、あまり効果はないようだ。

 

 なおも野生のミライドンは接近を続け、とうとう目と鼻の先まで来てしまった。そして、見て分かった。

 そのミライドンの目や態度に優しさなどは皆無であること。

 ただ、自分の縄張りへと踏み込んだ、眼前の邪魔者を排除しようとするだけの、冷徹無比な見下した視線が突き刺さる。

 

「いや……なんか変――」

 

 ボタンが感じ取った違和感を口にした次の瞬間、野生のミライドンは殺気を剥き出しにしながらこちらに向かって手を振り上げた。

 

「――ッ!」

 

 このポケモンは、これまで出会った未来のポケモン達と比べても明らかに異質だ。

 まるで敵対心と戦闘本能の塊のような、互いを理解し合い絆を紡ぐことなど到底叶わないと、理性より先に生存本能が拒否反応を示してしまった。

  

 そして、このポケモン……かなり強い。

 立ち居振る舞いもそうだが、接触する直前まで殺気を含む気配を完全に殺し、ハルト達の死角から一気に背後に降り立つことで対応させる隙を与えない。

 そこから不意打ちへと繋げることもできたのだろうが、敵の戦力を把握するまでは無闇に敵対行為を取らない辺り、戦闘経験も相当なものだろう。

 

 ミライドンと同じ種族だから家族かもしれないと油断してしまった、その一瞬の隙がハルトの行動を1拍遅らせることとなった。 

 そんな相手に与えてしまった一瞬の隙は、即座に致命傷へと繋がってしまう。もし、この場にハルトだけであればそうなっていたに違いない。

 

 ――だが、ミライドンが手を振りあげると同時、ベリルとネモが皆を守るように1歩前へと歩み出ていた。

 

 ベリルもネモもミライドンから一切視線を逸らさず、真っ直ぐに見つめる。

 1秒にも満たない時間の睨み合いの後、野生のミライドンは何かの気配を感じたかのように周囲をゆっくり見回す。

 その際にゼロラボの入口が開いているのが目に入ったミライドンは、途端にハルト達への興味を失ったらしく、ハルト達の横を通り抜けゼロラボの中へと入っていった。

 

 その後ろ姿を見送ったハルト達。

 姿が見えなくなると、ネモは少し困惑したような表情を見せる。

 

「なんか……感動の再会?意外とあっさりだったね?」

 

「いや、どう見ても!違うでしょ!!バチバチカチこみ!一歩手前!だったから!!」

 

「え!そうだったの!?」

 

 いつも通りの明るい声色のまま驚いたような様子を見せながらも、ネモはいつの間にか手にしていたモンスターボールをポケットへと静かにしまい込んだ。やはり、ネモもあのミライドンの危険性は無意識かもしれないが感じていたのだろう。

 

「ミライドンもほら、おびえちゃってる……。仲間じゃないのかも?」

 

「そうだね……さっきもボクたちに攻撃しようとしてたみたいだし……。仲良くなるのはちょっと難しそうだね」

 

「アイツ、なーんかヤな感じだったな……。えっと……おい!気にしなくていいぞ!オマエがバトルフォルムになれればあんなヤツ……!」

 

 ペパーの言葉を受けてしょんぼりと項垂れるミライドン。それを見たペパーは自分が失言してしまったことに気づいたようで、すぐに謝罪の言葉を口にした。

 

「あ、すまん……」

 

「……ミライドン、大丈夫さ。君は強いよ、だって君はあの子が持っていないものをちゃんと持ってるからね」

 

 ベリルはミライドンを優しく撫でながら、語りかけるように言った。確信に満ちたその声は、まるで聞いた者を心の底から安堵させる特別な力が宿っているようだった。

 

「……そういえば、博士が言ってた危険なポケモンってもう1匹のミライドンのこと?」

 

「えーっと?博士、中から出てくるって言ってなかった?」

 

 ネモが思い出したように訊いた声に、ボタンが首を傾げながら答えた。

 つまり、フトゥー博士が話していたのはあのミライドンの事ではなく……。

 

「中から……」

 

 全員が強ばった表情で恐る恐るゼロラボの入口へと視線を向ける。すると、遠くからだんだんと地響きが近づいてくるのが分かった。

 

「まさか……」

 

 誰が呟いたか分からなかったが、恐らくそのまさかが着実に迫り来る。

 

 そして――。

 

ドドドドドドド……!

 

「うおおおおー!?」

 

 ペパーが驚きのあまり、咆哮のような叫び声を上げた。

 ……だが、それも仕方ないだろう。

 ゼロラボから現れた未来のポケモン達は、10体や20体どころではない。絶え間なく溢れ続けるポケモン達の流れは止まることなく、恐らく全部で100体は超えてくるだろう。

 この道中で見た種類もいれば、今初めて見たポケモンも少なくない。しかし、共通しているのがどのポケモンも非常に殺気立っており、一体一体が凄まじい力を持っていることが分かった。

 

 そうしているうちに、あっという間に周囲を完全に囲まれてしまった。もはやネズミ1匹逃げ出す隙間がないほどひしめき合う未来のポケモン達。

 

「囲まれちゃった!」

 

 明らかに絶体絶命の状況だと言うのに、ネモの声にはどこか楽しんでいるような感情が見え隠れしている。

 

「明らかに……友好的じゃねえよな」

 

「いや、数多すぎ!全部、未来のポケモン!?」

 

「これ、結構マジでヤバイちゃんなんじゃ……」

 

 周囲のポケモンを見回しながら、ペパーは一歩後退りした。

 ペパーの言う通り、逃げ場のないこの状況は相当危機的状況である。それは他の仲間たちの強ばった表情を見ても明らかだ。

 しかし、ネモだけはこの状況を楽しんでいるような笑みを見せる。

 

「わたしの出番!待ってました!ハルト!力を合わせて戦っちゃうよ!」

 

「……分かった!ネモがいれば心強いよ!僕も全力で頑張るね!」

 

 ハルトも覚悟を決めたようで、ネモに向かって大きく頷くとポケットからモンスターボールを取り出し、ポケモンを繰り出した!

 

 ネモとハルト……この2人のチャンピオン同士の連携は凄まじく、互いがそれぞれの弱点や足りない部分を補いながら、効率よくバトルを進めていく。

 ペパーやボタンも既にモンスターボールを手にしているが、この2人の完璧な連携の間に入る事が出来ず、構えたまま様子を伺っている。

 

「いいね、強いねー!手ごたえある!」

 

「頼もしいけどなんかムカつく~!」

 

 ポケモンに指示を出しながら、ネモは心の底から楽しそうに笑い、それにボタンも信頼しきった笑顔を向けながら言った。

 ……しかし、ポケモンの数は一向に減らない。むしろ、ゼロラボから現れるポケモンが先程よりも増えているようだ。

 多対一の状況が続けば、先に限界が来るのは間違いなくハルト達だろう。それに、今目の前にいる敵だけを倒せばいいとも限らない。今後、さらに強大な敵が現れないとも言い切れないからだ。

 とすれば、ここでの消耗は最小限に抑えることが最適解に違いない。

 

「……ネモ、ハルト。ここはボクに任せてくれないかな?ちょっと試してみたいこともあるんだ」

 

 1歩前に出てバトルしていたネモとハルトの背に、ベリルは静かに訊いた。

 それを聞いた瞬間、ネモはグルンと勢いよく振り向いて目をキラキラと輝かせる。

 

「いいよー!ベリルが自分のポケモンでバトルするの!わたし初めて見る!すっごく楽しみー!」

 

 だが、これに不安げな表情を見せるのはペパーだ。 

 

「……ベリル、お前バトル出来んのか?しかも、この数相手にだぜ?……生半可な気持ちじゃポケモンや皆を傷付けることになっちまうぞ」

 

 確かに、ペパーやネモの前で自分のポケモンでバトルしている所を見せたことはなかった。彼らにとってベリルの実力は未知数である。

 ましてや、ペパーはかつて未来のポケモンの攻撃により相棒のマフィティフが大怪我してしまった経緯があり、その不確定要素に頼る事に不安を感じているのだろう。

 しかしその時、ボタンとハルトが声を上げる。

 

「ベリルがこう言うなら大丈夫っしょ、実力はうちが保証する」

 

「僕もボタンに賛成だな。ベリルは強いよ……多分、この場の誰よりも」

 

 確信していると言わんばかりの2人の真剣な表情に、驚いた様子を見せるペパーとネモ。

 何より現在のパルデア地方チャンピオンランク最強のハルトが「この場の誰よりも強い」と断言したことが、2人を最も驚かせた。

 

「ありがとう。けど大丈夫、みんなの命が掛かってるんだ。生半可な気持ちはこれっぽっちも無いし、出し惜しみはしないよ。最初から本気で行く――」

 

 ベリルはポケットからひとつのモンスターボールを取り出す。

 すると、先程までの優しげな柔らかい眼が一変し、以前見た時と似た、立ちはだかるもの全てを一切の容赦無く薙ぎ払わんとするような、そんな形相となる。

 だが、今回は見た者をゾッとさせるような恐ろしさだけではなく、皆を守らんとする強く優しい決意を感じ取れた。

 

 ……しかし、何度見てもその表情や放つ雰囲気は普段のベリルとは完全に別人である。

 ハルトとボタンは以前にも何度か見ているため、気圧されてしまうようなことは無かったが、この状態のベリルを見るのが初めてだったネモとペパーは、彼の全身から迸る迫力に息を呑むのが分かった。

 ベリルは握り締めたモンスターボールをジッと見つめた後、そのモンスターボールを上に向かって軽く放る。

 

「――頼むよ、『カイオーガ』」

 

 その声が周囲に響く。

 眩い光とともにボールの中から現れた『カイオーガ』と呼ばれたポケモンは、この場にいる誰もこれまで見たことがなかった。

 その全身は海のような深い青色の体表をしており、所々赤い不思議な模様が刻まれている。胴体は全体的に丸みを帯びた形をしており、その横腹の辺りから大きなヒレが左右それぞれに付いていた。

 

 ハルトは以前にも一度、同じような模様をその身体に持つポケモンを見たことがあった。

 そう、確かあのポケモンやそれと同等の力を持つポケモンはこう呼ばれていた――。

 

「――超古代ポケモン」

 

 ハルトは思わず口に出した。

 太古の昔よりこの地球上に存在し、その存在は伝説とされている、世界すら滅ぼしかねない強大な力を持つ存在……。

 このポケモンは一体どんなバトルをするのか、そんなことを考えていた時、ハルト達の顔に冷たいものが落ちてきた。

 

「……雨?」

 

 ここはパルデアの大穴、その洞窟の最深部だ。雨なんて降るはずがない。

 しかし、ここから見える洞窟の天井には全てを飲み込まんばかりに黒雲が禍々しい渦を巻いている。

 もはや、目の前にいるこの存在の前には自然の理は通用しないらしい。

 

 雨が降り始め、雨は次第にその強さを増していく。 

 カイオーガが放つ圧倒的な存在感と威圧感により、周囲が静まり返る。

 

 だが、これだけでは終わらない。

 

「――『ゲンシカイキ』」

 

 ベリルはカバンから藍色に輝く珠を取り出すと、それをカイオーガに向けてかざした。

 すると、カイオーガの全身がみるみる藍色の宝石のような物質に包まれていく。直ぐにその全身が覆われてしまったが、直後、『α(アルファ)』のような記号が全体に大きく浮かび上がり、全体を覆う石は砕け散った。

 

 再度、姿を見せたカイオーガは、先程までとは全く別の生命体では無いかというほど、身体から放たれるエネルギーが膨れ上がり、またその姿も大きな変貌を遂げていた。

 

 先程まででも充分巨大だったその身体は、更に一回り以上巨大になっている。

 身体の深い青色は更にその濃さを増して深い藍色のように見え、それ以外の部位は半透明の状態となり、身体の内側が橙に淡く光り、より神秘的で壮麗な姿となった。

 変わった部分はそれだけではない。

 降り続いていた豪雨がさらに勢いを増し、まるで世界が沈んでしまうのではないかと思ってしまうほどの強烈な雨が襲いかかった。

 

「な……なんなんだ、コレ……こんなの、次元が違うじゃんか……」

 

「すごい雨……!立ってるのもやっとだよ!これをポケモンが起こしているなんてすごい!」

 

 ネモとペパーが驚愕の表情を浮かべながら言ったその言葉は、吹き荒ぶ雨のせいなのだろうか……ベリルに届いていないようで反応はなかった。

 

 吹き荒れる豪雨の中、ベリルは無言であるものを手に取り、そのまま前へと突き出す。

 それを見たハルトは目を見開き、思わず声を出した。

 

「ベリル、まさか――」

 

 ベリルがカバンから取り出したのは、見覚えのある球体――それこそ、ついさっき話に上がったあのアイテムだった。

 

「――それは……『テラスタルオーブ』……!」

   

 

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