モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか? 作:そりだす
ついに、ベリルとハルトによる1VS1のポケモンバトルが始まった。
両者、睨み合いから始まったが、先に動いたのはベリルだった。
「――それじゃあ僕から行かせてもらうね!マリルリ!『はらだいこ』!」
早々にベリルが仕掛ける。
指示を受けたマリルリはポンポンと軽快なリズムで、自らの腹部を叩く。
一見、隙だらけに見える動きだったが、ハルトは動かない。
おそらく『はらだいこ』を実際に見たのは、今回が初めてなのだろう。
その技を繰り出す事で起きる技の効果を理解していなかったため、下手に動かず様子を見る判断を下した。
初見の技や行動を警戒し、様子を見る。普通であれば、その決断は間違っていない。
――しかし、相手の行動理由が読めないというのは、ポケモンバトルにおいて致命的なハンデとなる。
結果、マリルリの『はらだいこ』を止めることはおろか、戦闘前に持たせた『オボンのみ』という木の実を食べる時間まで与えてしまった。
ネモがソワソワしながらベリルに視線を向けてくる。その意味が分かったベリルは、ネモに向かってコクリと小さく頷いた。
今このタイミング、そして対戦相手のベリルへ確認を取るということは、真剣勝負の妨害をしないように、情報の重要さを理解した上での行動だ。
きっと、彼女なりに気を遣ってくれたのだろう。
ベリルからの合図を見たネモはハルトに向かって声をかける。
「ハルト!『はらだいこ』って技はね!体力をものすごく消費する代わりに、攻撃力が最大まで上がる大技だよ!」
「ええ!?そんな技があるの!……でも体力を消費するなら今が攻め時……?違う、マリルリははらだいこの後に木の実を食べていた……とすれば体力は戻っている……?」
ベリルは鳥肌が立つのを感じた。
ハルトは敵の動きが読めないながらも、しっかりと行動一つひとつを確認、記憶していた。
さらに、行動の意味を理解した今、その知識を活かしたフィールド全体の状況分析も的確だった。
「ハルトは凄いね……君は間違いなく、これからもっと強くなるんだろう……それなら――」
ベリルの視線に鋭さが増し、その目に宿る眼光が一瞬、鈍く光った。
「――君のためにも、負けられないな」
「マリルリ、『アクアジェット』」
「アチゲータ!『かえんほうしゃ』だ!」
両者、ほぼ同時に技を繰り出した。
お互いの技が真正面からぶつかり合う形となり、凄まじい衝撃と水蒸気が周囲に襲いかかる。
一瞬、拮抗するかに思われたが、マリルリのアクアジェットの威力が全く落ちていない。
それどころか、徐々に威力を増しており、なんと『かえんほうしゃ』を引き裂きながら、アチゲータへと突っ込んでいく。
「なっ――!」
もはやその勢いを止めることなどできず、『アクアジェット』はアチゲータに直撃した。
そのまま、壁に激突し、砂煙が舞う。
しばらくして、その砂煙が晴れると中から真っ直ぐに立ったマリルリと、壁にもたれて動かないアチゲータの姿が見えた。
「……これで終わりかな」
ベリルが小さく呟いた。
ポケモン同士のタイプや技などの相性も悪く、ましてマリルリは最強の強化技『はらだいこ』で攻撃力が限界まで上昇している。
耐えられるわけがない。
この場にいるほとんどの者がそう思った。
しかし……。
「……まだだ」
ハルトの声がバトルコートに木霊する。
「まだ……終わっていないッ!アチゲータッ!!」
ハルトの呼びかけに応えるように、アチゲータはフラフラの体を起こす。
有り得ない。
マリルリの、あの攻撃を耐えられるわけがない。
耐えられるわけが、なかった。
だが、今こうしてアチゲータは立っている。
ボロボロの、今にも倒れそうな体で。
それは、トレーナーとポケモンの絆が生んだ奇跡と言わざるを得ない。
「――すごい……ッ!」
思わず目を見開き、口元に笑みを浮かべるベリル。
だが、それだけでは終わらなかった。
「それは……まさか」
「アチゲータッ!『テラスタル』だッ!」
ハルトが取り出したのは、以前スター団とのバトルで見せたテラスタルオーブだった。
ハルトはアチゲータへ向かってテラスタルオーブを投げた。
アチゲータの全身が結晶に包まれ、中からほのおテラスタルしたアチゲータが現れた。
「負けない……ッ!アチゲータは絶対に負けないッ!!いけッ!『かえんほうしゃ』ッッ!!」
その瞬間、アチゲータから先ほどのとは比べ物にならない威力のかえんほうしゃが繰り出された。
ベリルの体は細かく震えている。
恐怖ではない。これは歓喜だ。
歓喜のあまり、鳥肌と武者震いが止まらないのだ。
これほどまでに熱く、燃える戦いをしたのはいったいいつ以来だろう。
ベリルはそんなことを頭の片隅で思い出しながら、マリルリへと指示を出す。
「マリルリ!『アクアジェット』ッ!」
マリルリは先程と同様、真正面から突っ込んでいく。
テラスタルした際の威力は確かに強力だ。
だが、どのくらい威力が上がるのか、ベリルはスター団とのバトルで直接見ており、そして覚えている。
それを鑑みれば、今のマリルリが突破することは可能だと考えたのだ。
しかし、いざぶつかってみるとその威力は拮抗……いや、若干ではあるがアチゲータが押しているではないか。
この時、ベリルは自分が犯した致命的なミスに気が付いた。
「特性……『もうか』が発動したのか……ッ!」
『もうか』とは一部のポケモンが持つ、ピンチになるとほのおタイプの技の威力が大きく上昇するという特性だ。
負ける。
ベリルは瞬間的に悟った。
だが、負けたくない。
しかし、頭の中に浮かぶ可能性全てが数手先には敗北が待ち構えている。
どうすれば勝てる、どうすれば負けない。
グルグルと思考を巡らせていると、マリルリが一瞬、こちらを見た。
その目はまだ、勝ちを諦めてはいなかった。
ベリルとマリルリの視線が、お互いの眼に重なる。
それは、ほんの一瞬であったが、彼らにはそれで十分だった。
「――えっ!」
「――ッ!」
ネモとキハダ先生が驚愕の表情を浮かべる。
その瞬間、マリルリは大きく動きを変えた。
その動きは力と力のぶつかり合いから、かえんほうしゃを受け流す動きになった。
本来であらば、一撃で倒すことができる技をただの接近する手段に切り替えたのだ。
ベリルが、声を出して指示は出していない。
急に変則的な動きをされたアチゲータとハルトは、その動きに全く対応できない。
アクアジェットの速度を活かして一瞬で懐まで潜り込んだマリルリは、全身にまとった水のベールを振り解き、その力を右手へと集中させた。
「――『アクアブレイク』ッッ!!」
ベリルの指示とほぼ同時、その右手から繰り出された一撃はアチゲータの胴体を打ち抜いた。