モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか?   作:そりだす

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「――そこまでッ!アチゲータ戦闘不能により、勝者ベリル!」

 

 キハダ先生の声がグラウンドに響き渡った。

 しかし、グラウンドはしんと静まり、クラスメイト達は呆然とハルトとベリルを見つめている。

 

 アチゲータとマリルリが熱いバトルを繰り広げたことで、その迫力や緊張感が伝わったというのもあると思う。

 

 だが、明らかにそれだけで静まり返ったこの空気にはならない。

 

 すぐに空気の異変を感じ取ったベリル。

 冷静に考えれば当然だろう。

 ポケモンを持っていない奴が借りたポケモンをいきなり使いこなし、ましてテラスタルした相手に勝ってみせたのだ。

 驚くなという方が無理だろう。

 

 一瞬、負けてもいないのに目の前がまっくらになりかけるが、なんとかこの状況を打開しようと混乱する頭を働かせる。

 

「……せ、先生から貸してもらったポケモン、すごく強かったー!最後は自分で判断して動いてくれたし!アチゲータもあのアクアジェットを耐えたのも凄いし、かえんほうしゃもすごい威力だった!……ハルト、ありがとう。いい勝負だったよ」

 

「……うん!ボクとアチゲータもまたひとつ強くなれたよ!ありがとう!」

 

 お互いが歩み寄り、固く握手を交わす。

 それを見たクラスメイト達はようやく、緊張の糸が切れたように動き出した。

 

「アチゲータもマリルリもすげーよ!俺、見てて鳥肌立っちまった!」

「ハルト!ベリル!今度バトル教えてー!」

 

 クラスメイトが二人に駆け寄り、それぞれ感嘆や称賛の声をかける。

 

「キミたち!興奮する気持ちは分かるが、静粛に!……転入生!キミたちのバトルは実に見事だった!思わず、見ているわたしも熱くなってしまったほどだ!この調子で引き続き押忍押忍だ!」

 

 先生がそう締め括ったタイミングで、授業時間の終わりのチャイムが鳴った。

 

「ムム!もう時間か……それでは解散だ!おのおの元気に過ごしてくれ!」

 

 

◆◆◆◆

 

 

「ふぅ……久しぶりのバトルでなんだか疲れちゃった……」

 

 ベリルは少し疲れた様子で廊下を歩いている。

 しかし、不思議とその足取りは軽やかだ。

 

 確かに、ポケモンバトル自体が久々だったので、少なからず疲労はある。

 だが、その疲労の中に、負けないくらい強い爽快感も感じていた。

 絶対に負けたくないという気持ちが胸の奥から湧き上がり、本気でバトルができたことが理由だろう。

 この気持ちは、きっと勝っても負けても感じていたに違いない。

 そんなことを考えながら、フワフワした気持ちのまま歩いていると。

 

「ベリルー!」

 

「あっ、ネモ!」

 

 廊下の向こう側からネモが手を振りながら駆け寄ってきた。

 

「ねえ!さっきのポケモン勝負!すごかったね!見ててすっごくワクワクしたし、わたしもベリルと戦りたくなっちゃった!……それに、あんなすごいものが間近で見れるなんてわたし驚いちゃった!」

 

 ベリルはすごいものと言われ、一瞬違和感を感じたが、当然バトルの話だろうと理解し、うんうんと頷いた。

 

「……ん?ああ、確かに!キハダ先生もあんなに強いポケモン貸してくれるなんて、僕も驚いたよ!技構成とか色々と――」

 

「――違うよ!わたしが驚いたのはベリルにだよー!」

 

 ニコニコと笑って首を横に振るネモ。

 

 しかし、ベリルはその意味が分からない。

 自分は何もしていない。ただ、ポケモンに指示を出していただけ。頑張ったのはマリルリだ。

 驚かれるようなことは何もしていないはずだ。

 

「僕?僕は何も――」

 

「――だって、さっきの試合の最後、ポケモンにアイコンタクトで指示出してたでしょ?」

 

「――――」

 

 思わず言葉を失うベリル。

 

 ネモの言う通り、テラスタルしたアチゲータのかえんほうしゃとアクアジェットがぶつかりあった時、ほんの一瞬だがマリルリとアイコンタクトを取った。

 しかし、あんな一瞬では普通の人は絶対に気づかないと思っていた。

 

 ネモは邪気のない笑顔を浮かべながら語る。

 

「他の地方のチャンピオンに、アイコンタクトで指示する人がいるのは知ってたし、バトルの中継も見たことはあったの」

 

 ベリルの手足から急速に血の気が引いていく。

 冷たくなっていく手足とは裏腹に、鼓動は激しさを増し、胸と顔が火照り熱くなっていく。

 

 ネモは話を続ける。

 

「でもね、アイコンタクトを直接見るのは初めてだったからすごく驚いたし、そんな事できる子が同じアカデミーの、しかも同じクラスにいるんだって思ったらワクワクしちゃったんだ!」

 

 先ほどのポケモンバトルの時と同じくらいに、思考を回転させようとするが上手く考えがまとまらない。

 そんな状態で思いついた言い訳を、手を必要以上にワチャワチャと動かしながら話す。

 

「た、たまたまマリルリと目が合ってね、なんかこう、たまたまビビッ!ときたんだ!そこからマリルリがすごい動きでアチゲータを倒してくれたんだよね。僕も驚いたよ!そもそも、僕バトルの経験ほとんどないし!」

 

 ベリルはたまたまであることを連呼し、あれは狙ってやったんじゃないよ、偶然だよという主張を繰り返す。

 だが、今度はネモの別の地雷を思い切り踏み抜いてしまう。

 

「えっ!!!ポケモン勝負、ほぼ初めてなの!?すごいすごい!ベリル、絶対ポケモン勝負の才能あるよ!」

 

 しまった!と思った時にはもう遅い。

 ネモの話は加速度的にドンドンと進んでいく。

 

 その結果、近々宝探しの課外授業が始まるのだが、そこでベリルはポケモンを捕まえることになった。

 そして、そのポケモン達を鍛えた後、ネモと本気のポケモンバトルをすることとなったのだ。

 

 もちろん、何か理由をつけて断ろうとしたが、『はい』以外の返事は受け付けないぐらいの勢いに押し切られてしまった。

 

 その約束を取り付けたネモは「楽しみだね!」と言い残し、嬉しそうな笑顔を浮かべながら去っていった。

 

 「……なんだか、疲れちゃったな……」

 

 さっきまでの軽やかな足取りとはどこへ行ったのか、今のベリルはフラフラとおぼつかない足取りで自分の部屋へと帰っていった。

 

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