モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか? 作:そりだす
ハルトとのポケモン勝負から数日が経過した今日、いよいよ宝探しと称した課外授業が始まる。
グラウンドに集合するようにとのアナウンスを受けて集まったベリル達は、校長であるクラベル先生から宝探し始まりの挨拶を聞いていた。
その挨拶は、パルデア地方を冒険することで自分の知らない土地や人々、そしてポケモンに出会い、見聞を深めてほしい……というものだった。
自分の目で見て考え、触れることで知ることが出来る。そして、自分だけの宝物を見つける……。
その話を聞いた者は、皆一様に目をキラキラと輝かせ、これから待っている冒険に胸を躍らせていた。
「――それでは宝探し開始!……いってらっしゃい!」
クラベル先生の挨拶を聞き終えた生徒たちは、冒険の旅へと飛び出していった!
◆◆◆◆
……ベリルもその勢いのままアカデミーを出たところまでは良かったが、ここから何をすればいいのか分からないことに気付く。
もちろん、自分の行きたいと思ったところにはどこにでも行くことができるし、やりたいと思ったことは何でもできる。
……ただ、自由すぎるというものは、逆に動きにくかったりもするのだ。
何か目標があればそれを成し遂げるため動くことができるのだが……。
だが、それを考え、見つける過程も学びのひとつなのだろう。
そんな状態でエントランス入口の芝生の辺りをウロウロしながらどうしようかと考えていると、見知った顔が見えたので駆け寄ってみる。
「ハルトー!ネモー!」
ベリルに気が付いた二人は、笑顔で手を振ってくれた。
「おっ、ベリル!宝探し!始まったねー!!」
「だね!……ただ、宝探しって言われても何をしたらいいか分かんなくて……」
「実はボクもあんまり分からないんだよね……」
ベリルとハルトは互いに困惑した様子で顔を合わせ、それを見ながらネモがうんうんと頷く。
「初めてだもんね!歩きながら教えるよ!」
そう言ってネモは歩き出し、二人はその後ろをついて行く。
ゆっくりと階段を下りながら、話を続ける。
「グレープアカデミーのメインイベント、宝探しはね……宝探しとは言っても本当に宝があるわけじゃなくて、パルデア地方を自由に冒険していろんなことを体験すればいいの!」
「ジムに挑戦したり、こまってる人を助けたり……本当にお宝を探しちゃうのもアリ!普段学校の中じゃ学べないこといっぱい学べるよ!」
「そっか……本当に何でもいいんだね〜。それだけ選択肢が多いと何をしていいか迷っちゃうな」
「あはは!たしかにね!けど、何をしようかなって考えてる時間も楽しいよね!」
そんな話をしているうちに、あっという間に長かったはずのあの階段を下り切ってしまっていた。
「勝負の機会もたくさんで、わたし的には最高のイベント!宝探し中に再開したらハルトとベリルとも戦わせてよね!」
ネモはニッコリと笑いかける。
ハルトは「もちろん!」と頷いたが、一方ベリルはやや表情を曇らせて曖昧な返事に終始した。
「そうだ!スマホのマップアプリ!行きたいところを設定できるんだ!この前登録したジムの場所!目的地に登録してみたら?」
ネモからの提案を受けて、スマホを取り出したその時だった。
「――生徒会長ネモ!抜けがけとは卑怯だな!」
「うわっペパー!?」
階段から下りてきたのは長髪の少年だ。
「抜けがけって人聞きが悪いな!ジムをオススメしてるだけ!何するか決めるのは自分自身だもん!」
「ハルトはオレとヌシポケモンを探してスパイスちょろまかすんだ。チャンピオンなってるヒマないぜ。秘伝スパイスを守るヌシのすみか!一緒に行くんだもんな!」
「ちょっと!ズルい!ハルトに変なこと教えないでよ!」
「はぁ!?誘ってるだけで決めるのはハルト自身だろ?」
「ふんぬー!」
お互い、睨み合いながらも殺伐とした雰囲気はない。
ふんわりとした空気感を感じ取ったベリルは、フニャリと笑いながら交互に見る。
「二人とも、仲がいいんだねぇ……」
「「仲良くないっ!」」
そういう息ピッタリなところとか特に……と、喉元まで出かかったがベリルはギリギリで堪えた。
と、ここで長髪の少年はようやく面識のないベリルの存在に気がついたようだ。
「……ん?アンタ、よく見たら見たことない顔だな……」
「あっ、挨拶が遅くなっちゃったね!僕の名前はベリル!ハルトと同じ転入生なんだ、これからよろしくね!」
「ベリル……?ああ!ハルトと同じくらいアカデミーで噂になってるバトルつよつよちゃんか!オレの名前はペパーってんだ!よろしくな!」
「……ん?ちょっと待っ――」
――ロトロトロトロト……
……今、ベリルの耳に聞き流せない発言が飛び込んできたが、タイミングよく着信が入ってきたため、サラリと流される。
「ん?ハルト、スマホ鳴ってんぞ」
「……誰からだろ?とりあえず、出てみるね」
ハルトはスマホの応答ボタンを押した。
「やあハルト、カシオペアだ。以前伝えていたスターダスト大作戦についてだ」
唐突によく分からない話が始まったが、少し席を外した方がいいのだろうかとオロオロするベリルをよそに、ドッシリと構えて動かない二人。
話を聞くために残っているというよりは、この電話が終わったら相手より先に勧誘を再開したいという意志をヒシヒシと感じる。
その様子を見たベリルは苦笑を浮かべながら、二人と同じく電話が終わるのを待つことにした。
その間も、電話の相手は淡々と説明を続けている。
「スター団には5つの組がありアジトもそれぞれ分かれている。ハルトにはそこへ向かい、組のボス5名を倒してほしいのだ」
要は、あのスター団がわんさかいる複数の本拠地に単身乗り込み、そこのボスを倒して組織を潰してこい……ということだ。
えらく物騒な話だなと思うと同時、それに巻き込まれるハルトの身に危険が生じる可能性があるのではと脳裏をよぎる。
その組織が人々やポケモン……その全てに危害を加える思想を持っていないとは断言できない。
もし、可能性が少しでもあるのならば、取り返しがつかなくなる前に対処しなければならないだろう……。
思慮するベリルのその眼から、ほんの一瞬ではあるが、光が消失したことをこの場の誰も気付くことは無かった。
そして、ネモとペパーに流れる空気も少し緊迫感が漂い、その表情が硬くなったのを感じた。
「したっぱ軍団が邪魔してくるだろうが、わたしも遠くからサポートさせてもらう。ボスたちは組の名前となっているポケモンタイプの使い手だが……あなたならきっと大丈夫だろう。というわけで、勝手ながらアジトの場所を登録しておく」
スマホがピピピと音を鳴らし、どうやら本当に遠隔操作か何かで位置を登録したらしい。
「ボスを倒すたびにたんまりと報酬を差し上げよう」
……報酬だとか言いたいことだけ言ってきて、ハルトの安全のことは何も考えていないのか?
ベリルは拳を握り、我慢の限界に達したその時、ネモが先に口を開いた。
「いや、いきなり誰なの!?スター団って不良で危ないし!ハルトには関係ないよ!」
「そうだそうだ!コイツはオレと一緒にすげえ食材を探すんだよ!」
……ペパー、君はもう少しだけ本音と建前を覚えた方がいいよ……。ちょっとはハルトを心配してあげて……。
あまりにも自分の願望モロ出しすぎるペパーに、ベリルは苦笑を浮かべそうになる。
ただ裏を返せば、それだけハルトを評価してるとも取れないことはないが……。
ペパーの真っ直ぐな瞳を見ていると、よく分からなくなる。
「決めるのはハルト自身……だったかな?ネモ、ペパー」
「なんで名前……!」
ベリルの名前だけ呼ばれなかったことはさておき、ベリルはかなり警戒感を強めていた。
というのも、カシオペアが連絡してきてから、そのフレーズは一度も使っていなかったはずだ。
……一体どうやって、そしてどこまで話を聞かれていたのだろうか。
加えて、この流れで名前を出すことで、相手にどれほどこちらの情報を握られているのか分からないという脅迫にも似た行動により、強い警戒の感情を抱かせる。
皆、息を飲んで電話の相手の出方を伺う。
すると、相手もここが引き際だと察したのだろう。
「ハルト……あなたの活躍を楽しみにしているよ」
それだけ言い残すと、一方的に通信を切られてしまった。
「なんだったんだよ……」
「ハルト……友達多いのはいいけど、危ないことに深入りしすぎないでね」
「う、うん……」
さっきより雰囲気が重たくなってしまい、皆俯き気味になってしまったが、ネモがパンと一回手を叩いて笑いかける。
「さあて気をとりなおして!冒険の始まりをしよーっ!わたしは出会ったポケモントレーナーと、かたっぱしから勝負していく!」
「最強を追い求めてれば、その経験が自分だけの宝になるはず!とりあえず、もう一度ジム行って新しいポケモン鍛えよっかな!ジムの建物写真、送っとくね!」
そう言うと、ネモがベリルとハルトのスマホにジムの外観写真を送ってくれた。
「いろいろ口出しちゃったけど、決めるのは自分だから!行きたいところに行って、やりたいことをやっちゃえ!」
「自分だけの宝……ねぇ。オレの場合はマ……秘伝スパイスに決まってる!スパイス見つけたら、うーんとうまいサンドウィッチ!作って食わせてやるからな!」
そう言ってサムズアップするペパー。
次の瞬間、ハルトの手持ちからモトトカゲに少し似た雰囲気を持つポケモンが飛び出してきた。
「げっ、なんで出てくんだよ!」
「あはは!サンドウィッチって言葉に反応したのかな!?」
「オマエにはやらねー……」
しかめっ面をするペパーに、ネモは鈴を転がすような笑い声をあげる。
そのポケモンはハルトの身長に合わせて屈み、体をスリスリと近付ける。
「はやく行きたいみたい?ハルトに乗れって言ってる?」
「ミライドン……よし!それじゃお願いしようかな」
ハルトがミライドンと呼ばれたポケモンに跨ると、その身体が変形しまるで本当の自転車やバイクのような姿になった。
「おー!変形した!やっぱりモトトカゲっぽい……!ミライドンと一緒ならどこにだって行けそうだね!」
「フン……どうだかな」
「おぉ!ミライドンって言うんだ!見た目も変形するのもカッコイイね!」
目をキラキラと輝かせるベリルに、ハルトは首を傾げながら訊いてくる。
「ベリルはライドポケモン、持ってないの?」
「僕にはこれがあるからね!」
そう言ってカバンの中から、明らかにサイズオーバーな折りたたみ自転車がズオオッと取り出された。
絶句する三人。
「そ、それは……?」
「これ?昔から使ってる自転車なんだ!靴もランニングシューズだし!一応、冒険の準備は万端だよ!やっぱり冒険に出るのなら、これらは必需品だよね〜!」
「……やる気まんまんちゃんなのはいいんだが……カバンと自転車の大きさが合ってないんだけど……どこに入ってたんだ?もしかして、四次元ポケ――」
「まあまあ!細かいことは気にしないで!」
細かかったか……?というペパーの困惑した呟きは華麗にスルーするベリル。
「ま、まあいいか!ヌシポケモン探すなら東門から出るといいぜ!ベリルも一緒に来いよ!」
「ハルトとベリルはジムに行くから西門から出発がオススメだよ!東門は迷いやすいし!」
「フンッ!先行ってっぞ!さっさと追いついてこいよな!」
「わたしもジム行こっ!またね!ハルト!ベリル!」
怒涛の勢いで話をして、嵐のように去っていった二人。
目をぱちくりとさせたハルトとベリルは、しばし互いの顔を見合っていたが、二人同時にぷっと吹き出すとそのまま声を上げて笑い出した。
――冒険の始まる日がやってきた!
ここまで読んでいただきありがとうございます!遅くなってしまいましたが、近いうちにタイトルにもあります伝説ポケモンを出していきたいと思っています。引き続き応援よろしくお願いします!