モブトレーナーのボクが伝説ポケモン使うのはやっぱりマズイですか? 作:そりだす
ベリルは一人、山々に囲まれた道を黙々と歩く。
その向かう先には、スター団のあく組が拠点を構えているという。
どれほどの規模なのか、どれほどの設備があるのか、そして一体何を目的としているのか等、詳細な情報については未だ不確かな部分が多い。
ただの不良の集まりだという話から、極端なものでは危険思想の集団またはその下部組織……なんて話まで聞こえてきた。
……実際、ベリルが過去に対峙した組織の中には、地元の不良グループを利用して裏の仕事をさせていた、というものもあった。
一方、自分たちの組織はポケモン保護の慈善団体を騙り、世間からは正義の象徴として敬われていた。
そして、驚くことになんと自称慈善団体の下っ端の多くは、その闇の部分を全く把握していなかったのだ。
彼らは自分たちの行いを正義と信じて疑わなかった。
……当然だろう。
実際、彼らは表の……弱い者を救うという素晴らしい仕事を、一生懸命頑張っていたのだから。
下っ端が上の真の目的を知らされず動いていることなど、ざらにあった。
言ってしまえば、彼らも被害者だ。
そんな彼らに話を聞いても、事態の把握・解決には至らない。であれば、どうするか。
最も確実な方法は直接、上の奴に話を聞くことだ。
今回、ベリルがスター団に向かっているのは、それが理由だった。
しかし、万が一のことも考え、完全に素顔を晒すことは躊躇してしまう。
そこでベリルは、パルデア地方に来るまでの長い冒険で身に着けていた白い帽子を、カバンから取り出して深く被った。
……その帽子を選んだのは、きっとこれまで一緒に苦難を乗り越えてきた故のゲン担ぎという意味合いもあったのだろう。
そうして歩いていくと、やがてスター団の拠点と思わしきバリケードが見えてきた。
入口の前にいた見張りの二人が、ベリルに気が付いたらしく近寄ってきた。二人は男女のスター団のようだ。
女子生徒の方がまるでチンピラのような威圧的な態度で、肩を揺らしながら歩いてくる。
片や男子生徒は、何故こんな組織に所属しているのか分からないほど優しげな雰囲気を漂わせていた。
「はいはい!ストップ!」
肩を揺らしながら近づいてきたスター団の女子生徒が、手を大きく広げ道を塞いできた。
「この先ボクたちスター団あく組……通称チーム・セギンのアジトです」
男子生徒は穏やかな口調で話す。
「そそ、不法侵入とかさ勘弁してほしいわけ!」
一方、女子生徒はズボンのポケットに手を突っ込みながら、ベリルにガンを飛ばしてくる。
そんな様子に冷ややかな視線を向けるベリル……そして、何故か男子生徒まで同じような目で彼女を見ていた。
同じ組織の仲間なのではないのか?と一瞬違和感を感じたが、あえて何も触れないことにした。
男子生徒は視線をベリルに戻すと、困ったように頬を軽く掻く。
「……ごめんね、帰ってくれないなら追い返さないといけないんだよ」
「いや、僕は君たちのボスにちょっと聞きたいことがあって……。少しだけでも会わせてもらうことって出来ないかな?」
その時、女子生徒がベリルの顔を覗き込むような仕草を見せた。ベリルは帽子を深く被り直し、あまり顔を見られないようにする。
「あれーもしかしてだけどアンタ、ハルト?スター団にケンカ売って指名手配中なヤツだったり?」
動揺が顔に出そうになる。
喧嘩を売った?指名手配中?……ハルトはこんな奴らに、本当に目を付けられてしまっているのか。
もし、本当にとんでもない組織だったら……。
ベリルの背筋に冷たいものが走った。
とりあえず、ここはハルトではないことを伝える必要がある。
だが、ベリルの名前を出すと後々動きづらくなってくる可能性がある。
一瞬だけ考え、ここは本名を出さないことにした。
「僕は……ルベウス。ハルトなんて人は知らないよ。それに、僕はスター団を攻撃しようなんて思ってない。話を聞かせてほしい、それだけなんだ」
「……ただ、今この子が言ったように、スター団全体に宣戦布告を受けてて、みんなかなりピリピリしてるんだ。……お願いだから帰ってくれないかな?」
「そっ!センパイの言う通り!アンタが何者でも帰んな!さもなくばアタシに負けていきなよ!」
……だが、もう引き下がれない。
やるしかないのか。
だけど、本当はやりたくない。
だけどきっと、ここで動かなかったことで万が一の事態が起きた時、僕はまた、後悔することになる。
「……………………」
俯き沈黙するベリルの様子を見た女子生徒は、それを怯えていると受け取り、さらにまくし立てる。
「ま、私たちを倒しても仲間はまだいるからね!仲間全員を倒せれば、ボスに会わせてやってもいいけどね!」
しかし、ベリルは俯いたまま動かない。
やがて、小さな声で呟き始める。
「……実は僕、平常心を装ってるけど結構余裕がないんだ。君たちとは本当に戦いたくない。……ただ、邪魔をするというのなら――」
そう言うと、カバンからモンスターボールをひとつ、そっと取り出す。
その手は細かく震えており、震える唇をぐっと強く噛んでいる。
そして、気持ちを落ち着けるためだろう、一度、息を小さく吐き出した。
「――ごめんね」
謝罪の言葉をポツリと口にした後、彼の目から確かに光が消えた。
◆◆◆◆
――ハルトはスター団のあく組へと向かっていた。
その隣には、特徴的なリーゼントヘアーのネルケもいる。
彼はカシオペアという人物と連絡を取っていた時、ぜひ自分も参加させて欲しいと突然名乗り出てきた。
カシオペアは抵抗があったようだが、人数は一人でも多い方がいいと、急遽協力することになったのだ。
「もうすぐだな」
歩きながらネルケは言った。
「え、えぇそうですね……あれ?あそこがスター団の拠点……ですよね?」
「ああ、そうだろうな……ッ!」
ハルトの指差すその先を見て、目を見開き息を呑んだ。
「様子が……おかしい」
ハルトの呟きがやけに響いた気がした。
二人の視線の先にある、人の気配を感じない拠点からは、いくつもの煙が立ち昇っていた。