ヘタレ霊夢   作:ブナハブ

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悪魔と、人間

(さて、啖呵を切ったのはいいけど、どう動くべきか)

 

 魔理沙は未だかつて戦った事のない化け物と対峙しながら思考を巡らす。というのも、今の魔理沙にはボム……即ちスペルカードが残っていないのだ。

 魔理沙が最初に所持していたスペルカードは二つ。一つはパチュリーとの戦いで使い、もう一つはパチュリーを救出する際に使った。つまり今の魔理沙に回避不可能な弾幕をボムで掻き消し、強引に突破するという手段は使えない。

 だからそれなりに対策を練って挑まなければならないのだが……。

 

「なになに? 人間さんが遊んでくれるのォ?」

 

 相手はそんな事を猶予を与えさせてはくれない。

 

(チッ、考えても仕方ない。とにかく今は弾幕を避けて、チャンスが来るのを待つんだ)

 

 敵は圧倒的な格上。思考の全てを回避に注ぎ込んでもなお油断ならない。逃げに徹し、そして隙を見つけた瞬間にフルパワーの弾幕を浴びせてやる。

 そんな魔理沙の魂胆も……フラン(悪魔)の前では何の役にも立たなかった。

 

「それじゃア……すぐに壊れないでね?」

 

 

【禁弾:スターボウブレイク】

 

 

 天井を覆う色とりどりの弾幕、それらが思い思いに落下して魔理沙に襲いかかる。

 

「ッ……!」(おいおいおい、隙間がほとんど無いじゃねえか)

 

 フランの扱うスペルカードは、弾幕ごっこという遊びの範疇から逸脱している。弾幕をばら撒いてはいるが、それも適当にばら撒くだけで攻略させる気が皆無な物だった。それに加え、

 

(あれに一発でも当たったら……)

 

 一目見て分かる弾幕に込められた殺傷能力、掠っただけでも危険極まりない凶器、それが何百何千と天から降り注いでくるこの状況。

 

「やっっってやらぁぁあああ!!」

 

 だけどそれがどうした? 自分のやる事は既に決まっているし、それを変える気は毛頭無い。

 

 避ける、避ける、避ける、弾幕ごっこで培われた回避能力を魔理沙は存分に発揮していく。

 

「アハハハ! ぜんぜん当たらないや! 人間さん凄い!」

「そりゃ! どう! もっ!」

 

 フランの言葉に不敵な笑みを浮かべて返事をする魔理沙だったが、その声には一つ一つの弾幕を回避するのさえ必死だという事がひしひしと伝わってくる。

 

「───へへ、スペルカード・ブレイクだぜ」

 

 しかし、その必死さが魔理沙をゴールまで導いた。

 窮地を切り抜けた彼女は、今度こそ不敵な笑みを浮かべてスペルカードの突破を宣言する。

 

「すごいすごい! まだまだ行くよォ!」

 

 だが、フランはそんなの関係ないと言わんばかりに間髪入れず新たなスペルカードを宣言する。

 

「おいおい小休憩ぐらい挟んでくれよ!?」

「【禁弾:カタディオプトリック】!!」

 

 魔理沙の悲鳴も虚しく、新たな弾幕が展開された。

 次なる弾幕は、辺りに中弾や小弾をばら撒きながら追尾してくる大弾の乱射だった。

 

「おっと、へへ、さっきのと比べたらチョロいもんだぜ!」

 

 向かってくる大弾を回避し、魔理沙はニヤリと笑う。

 大弾から不規則にばら撒かれる中小の弾幕は厄介だが、それでもさっきの大雨のような弾幕と比べたら幾分か避けやすかった。

 

 魔理沙はその自信に違わず、スイスイと弾幕を避けていく。

 

(これなら……ッ!?)

 

 が、その余裕もすぐに消えた。

 

 突然、脳裏に今日一番の警鐘が鳴り響いた。

 それは霊夢が良く頼っている勘と同じ類いの代物。魔理沙のそれは霊夢と違って天性の才能ではなく積み重ねた経験による物ではあるが。

 

 右へ動く。視界内に迫って来ている弾幕は無かったが、これが最善の行動だと魔理沙の勘は叫んでいた。

 

「っぶな!?」

 

 そして直後に背後から過ぎ去った弾幕を見て、魔理沙自身もその選択が誤りでない事を理解する。

 

「……なるほど、こりゃ舐めて掛かる訳にはいかないな」

 

 何が起きたのかを把握する為に魔理沙は辺りを見渡し、そして気付いた。

 

 フランが放った大弾、それが床や壁にぶつかると、その勢いのまま跳ね返っていたのだ。真後ろから弾幕が放たれたのもそれが原因だと魔理沙は察する。

 

「今のを避けるんだ! もしかして人間さんって凄い?」

「ああそうだぜ、それとあたしの名前は霧雨魔理沙だ」

「魔理沙ね? 分かった! ねえ魔理沙、もっとたくさん遊びまショ?」

 

 そう言ってフランは笑う。純粋無垢な笑顔は子どものようで、しかしその目は狂気に染まり切ってるのを見て、魔理沙は苦笑するのを抑えられなかった。

 

▼▼▼

 

「はぁ、はぁ、はぁ……スペルカード・ブレイク、だぜ」

 

 反射する弾幕の猛襲を突破し、更に続けて放たれたスペルカードも突破した魔理沙は、ゼェハァと息を切らしがなら宣言する。

 

「アハハハ!! 凄い! 本当に凄い! 人間ってこんなに壊れないものなんだ!」

「おいおい、人間って括りで、ハァハァ、纏めんなよ。こんなに凄いのはゴホッ……あたしだから、なんだぜ?」

 

 疲労困憊、息も絶え絶え、それでも魔理沙は虚勢を張って減らず口を叩く。まだまだ自分はやれると、ここで終わるタマじゃ無いと、相手と自分自身にそう言い聞かせる。

 

「うン? ……うん、そうだね! 魔理沙凄い! こんなに凄いんだったら───」

 

───もっト張り切っても大丈夫だヨね?

 

 

【秘弾:そして誰もいなくなるか?】

 

 

 フランが次なるスペルカードを切った瞬間、彼女はその場から忽然と姿を消した。

 

(は? 消え───ッ!)

 

 その直後に出現した発光する大弾、それが小弾を撒き散らしながら魔理沙を追尾して来たのだ。

 

「やばっ!?」

 

 慌てて逃げる魔理沙だったが、

 

「くっ……!」

 

 逃げても逃げても、発光する大弾を引き剥がすが出来ない。追いつかれる心配は無さそうだが、注意すべき事は他にもあった。

 

(しまっ───!)

 

 追尾してる間もずっとばら撒き続けていた小弾、それらが包囲網を敷くように魔理沙の逃げ道を塞いでいたのだ。

 

 逃げ道は───あるけど遠い、行き着く前にやられてしまう。

 なら気合いで避けて───それも無理、既に気合いでどうこう出来る話じゃない。

 抜け道をこじ開ける手段は───無い、ボムは既に使い切っている。

 

───詰み。そんな言葉が魔理沙の脳裏によぎった。

 

(何か、本当に何か無いのか!?)

 

 しかし魔理沙は諦念に呑まれず、最後まで突破口を探そうと足掻き続ける。

 

 諦めない、諦めきれない、諦めたくない。そんな彼女の諦めの悪さは、きっと幻想郷の中でも上位に食い込むだろう。

 

 そして、最後まで足掻こうしていたからこそ、最後まで逃げるスピードを落とさなかったからこそ、

 

───運命は彼女に、味方した。

 

 

 

 

【霊符:夢想封印】

 

 七色の極大の弾幕が、周囲一帯の弾幕を掻き消した。

 

「これは!」

 

 七色の弾幕は魔理沙を避けるように移動しており、その光景はまるで彼女を守っているかのよう。

 

「……一つ一つが恐ろしい威力ね。しかも、強力な退魔の力が込められているわ」

 

 魔理沙とフランの戦いを傍観していたパチュリーは、その洗練されたスペルカードに思わず見入ってしまっていた。

 

「……へっ、なんだよ。わざわざボムを使わなくたって、私一人でも余裕だったぜ」

 

 魔理沙はこれを行った人物が誰かを悟ると、隠し切れない笑みを浮かべて相変わらずの減らず口を叩く。

 

「……そう」

 

 件の人物は静かに、呟くように言った。

 

「手助けしない方が良かった?」

「いんや。……へへ、助かったぜ霊夢」

 

 紅白の巫女装束を身に纏うその少女は、

 

「むぅ〜」

「……」

 

 ただジッと、不機嫌そうに睨んでくるフランを眺めるだけだった。

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