「おーおー、ヤバイ事が起きてんな」
空を覆う真っ赤な霧に、あたしこと霧雨魔理沙は圧倒されていた。
「たった数日で何があったんだ?」
最近始めた弾幕ごっこ。それで使うスペルカードを開発する為に数日間引きこもってた訳だけど……まさかその間に異変が起きていたなんてな。
「……お? あれは」
どうしたものかと赤くなった空を眺めていると、見覚えのある人影が上空を横切った。
それに気づくや否やあたしは手に持っていた箒に跨り、その人影を追って空へ飛ぶ。
「おーい、霊夢!」
あたしが人影に向かってその名を叫べば、そいつはピタッと動きを止める。
「……魔理沙」
静かにこちらへ振り向き、相変わらずの仏頂面で短く一言、あたしの名前を呼ぶ。
博麗霊夢、無口で仏頂面なあたしの親友にしてライバルだ。
霊夢は一見すると冷血とも取られかねないぐらい感情を表に出さないが、表に出さないだけで人情に厚く、お人好しな奴である。
「何の用?」
「いやなに、異変解決で動いてるんだろ? あたしも手伝うぜ!」
博麗の巫女である霊夢が異変解決に赴かない訳が無い。
「いいの?」
そう断定して聞いてみれば、やっぱりそうだったらしい。
「おうとも! スペルカードも出来た事だし、その試運転も兼ねてな!」
「ありがとう、心強いわ」
ニカッとあたしが笑顔で答えれば、霊夢も小さいながらも笑みを浮かべて承諾してくれた。
(……まあ、こう言ってはくれてるけど、霊夢は一人で異変を解決するつもりだったんだろうな)
霊夢は強い。それはもう尋常じゃないぐらいに強い。
付き合いの長いあたしには分かる。霊夢なら今回の異変もあっさり解決しちまうってな。
……でもな霊夢、そんな理由であたしが霊夢を追うのを諦めると思うか?
霊夢は強い。あたしなんかとは比べようもないぐらいに強い。だけど、それでもあたしはお前の親友だ。親友を戦場に一人だけで向かわせる訳ないだろ、霊夢が心細いなんて思ってなくてもな。
「腕が鳴るぜ」
こうして霊夢に同行出来たのは運が良い。
霊夢、今回の異変解決で証明してやるぞ。あたしが霊夢に相応しい親友だって事をな!
▼▼▼
───魔理沙が密かに決意を抱いていた時、霊夢はというと。
(いよっしゃー!!! 魔理沙が来てくれるー!)
激しく喜んでいた。
(ふっふっふっ、粘ってみるもんね。往復して数十回、遂に魔理沙が出てくれたわ!)
実はこの巡り合わせ、偶然でもなんでもない。霊夢は魔理沙と出会う為、さっきまで彼女の自宅周辺をずっとウロウロしていたのだ。
魔理沙は霊夢の事を盛大に勘違いしている。まず霊夢はヘタレだ。一人だとめちゃくちゃ心細いし、まず異変に立ち向かおうともしなかった。こうして紫に脅され、魔理沙が見つけてくれなかったら今も魔理沙の自宅周辺をウロウロしていた事だろう。
では何故こうも魔理沙が霊夢の事を勘違いしているのか? というのも、実は霊夢の本性を知る者は非常に少ない。それは何故か? 霊夢が外では仮面を被っているからだ。
過去に霊夢、いやヘタレは考えた。危険を遠ざけるにはどうしたら良いのか? 妖怪退治という殉職率の半端ない仕事を少しでも改善する為に考え、そして答えを導き出した。
簡単な事、舐められなきゃ良いのだ。弱いと思われるから無駄に突っかかる相手が増える。逆に只者でないと思わせれば、迂闊に近寄ろうとする奴は現れない。
そう考えた霊夢は自分を偽った。なんか只者じゃ無さそうな奴を演じる事にした。常に強者のオーラを放ち、ちょっとやそっとじゃ驚かないよう鉄仮面を被り、口数を減らす事を徹底的に意識した。
こうして生まれたのが楽園の素敵な巫女である。外面強者、中身ヘタレな残念巫女の爆誕でもある。
(なんだか魔理沙も乗り気みたいだし、全部の敵をやっつけちゃって良いのよ? というかして下さいお願いします)
ヘタレ、実にヘタレである。こんなのが博麗の巫女で良いのだろうか? それとヘタレは気付いているのだろうか? 博麗の巫女に戦わない選択肢など無い事を。