ヘタレ霊夢   作:ブナハブ

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vs紅美鈴は〜? バッサリカットです。


ヘタレはアフターケアに余念がない

 博麗の巫女は妖怪退治のプロフェッショナルでなければならない。これは人間と妖怪が同じ世界で生きていく上で必要な事である。

 

 妖怪が人間にとって恐怖の象徴であるとするならば、博麗の巫女は人間にとって希望の象徴である。

 博麗の巫女という頼れる存在がいるからこそ、人間は無理に妖怪と争おうと考えず、妖怪もまた人里に行ってまで人間を襲おうとしない。いわば博麗の巫女とは、人と妖怪の抑止力なのだ。

 

 故に強くなければならない。妖怪を必ず退治出来ると人間達に証明する為に。

 

 故に公平でなければならない。人の恐怖なしでは生きられない妖怪達でも生きれる世界を作る為に。

 

 こうして幻想郷は妖怪の、そして極小数の人間の楽園となるのだ。

 

……まあ何が言いたいかというと、博麗の巫女は強い。それは弾幕ごっこであっても、いや弾幕ごっこという遊びの範疇だからこそ、その力を存分に発揮できると言えよう。

 

▼▼▼

 

「……これが、博麗の巫女」

 

 大の字で仰向けになる美鈴は、悠然と宙に浮かぶ霊夢を見上げて呟く。

 

「スペルカード・ブレイク……これで全部かしら?」

 

 地上へと舞い降りながら、霊夢はなんの感慨もなくそう言った。

 

「……っ!」

 

 その態度は美鈴の門番としてのプライドを傷つけるには充分だった。

 

 完敗だった。自身の弾幕は相手に掠りもせず、相手はボムすら使う事なく、全てのスペルカードをあっという間に突破された。

 

(本当に末恐ろしい。まさか汗一つ流さないとは)

 

 まるで空気を相手にしてるかのような手応えのなさ。勝てる勝てないではなく勝負にならない。霊夢の常に平然とした振る舞いは、戦闘中でも美鈴の精神にブレを起こさせた。

 

 弾幕ごっこは精神的な強さも密接に関わってくる。心が敗北を認めてしまえば、戦況も自然と傾いてしまう。

 

「通ってもいい?」

「……私の負けです。どうぞ、お通り下さい」

 

 悔しいが負けは負けだと、美鈴は渋々ながら門を通す事を許す。

 許可を貰った霊夢はスタスタと美鈴を横切り、門を開いた。

 

(しかし、人間に負けるというのは悔しい物ですね。……女々しいですが鍛錬を重ねた後、また一戦申し込んでみましょうか)

 

 いつもは敗北を認める美鈴も、全く見向きもしない霊夢を見て自分の技は通用するのだと認めさせたくなっていた。

 

 次はどう戦おうか、そんな考えが自然と頭の中を巡る。

 

「……どうしましたか?」

 

 そんな事を考えていたから気付かなかったが、霊夢は門を開くばかりで中に入る様子が無い。

 どうしたのかと美鈴は霊夢を見ていると、彼女は顔を美鈴の方に向けて言葉を紡ぐ。

 

▼▼▼

 

 さて、ここで博麗の巫女さん(ヘタレ)の視点を見てみよう。

 

「スペルカード・ブレイク、これで全部かしら」(ひっ、ひゅっ、ひょえ〜! 怖かったよぅ!)

 

 美鈴との戦いを終えた霊夢は、平然とした外面とは裏腹に内心では大変情けなく喚いていた。改めて見ると物凄い落差である。

 

(怖かった! 弾幕の数凄かった! というかなんで本体も接近してくるのよ怖いでしょ! スペルカードを打つ側が動くのはルール違反でしょう!?)

 

 そんなルールは無い。

 

 確かにこの戦いで美鈴は弾幕と混じって自身も接近して攻撃するというトリッキーな戦法を使った。しかし肉弾戦はして来なかったのでルール違反にはならない。それは霊夢もきちんと理解しているので、内心で汗をだっらだらに垂らしながら文句を言うだけに留めている。

 

(ま、まあなんにせよ、これで中に入れる。早く魔理沙と合流して残りの敵を片付けて貰いましょう)

 

 ここまで来て未だ魔理沙に頼ろうとする霊夢、もはやヘタレではなくクズなのでは?

 

 そうして門を開いてさあ突入……という所で霊夢の脳内に電流が走った。

 

(っ!? こ、この感覚は)

 

 その正体は『勘』であった。

 

 勘は叫ぶ。このままあの門番をほっといて良いのか? 放っておけば将来面倒な事が起きるぞ、と。

 

(何か言わないといけない気がする。でも何をすれば?)

 

 霊夢が持つ才能の一つに鋭い勘がある。この才能は霊夢のヘタレな性格に引っ張られ、身の安全の為に働く事に特化した物となっていた。

 

 故に霊夢は何よりもこの勘を信用し、頼りにしている。なので無視する事は到底出来ない。

 

「どうしましたか?」

(ど、どうする? 何か言ったら良いの!?)

 

 霊夢は考える。しかしとうとう美鈴に訝しまれた事で振り向かざるを得なくなった。

 

(こ、こうなったら弾幕ごっこの感想を言って間を繋いでおこう!)

 

 何も良いアイデアが思い浮かばず、とりあえず時間稼ぎをしようと霊夢は口を開いた。

 

▼▼▼

 

「強いのね」

「……は?」(なんだ? 急に喋ったと思えば褒め言葉だと?)

 

 美鈴は呆気に取られた後、無意識に歯がみして霊夢に怒りを向ける。それも仕方ない事、ああまで圧倒的な差を見せつけた勝者が敗者に初めて掛けた言葉が『強い』などと、煽ってるようにしか見えないだろう。

 

(見損なったぞ博麗の巫女、まさか敗者を貶める趣味があったとは)

 

 失望する美鈴が何か言うより先に、霊夢は語る。

 

「いえ、強いというより巧いのかしら。武術と弾幕の組み合わせ、射程に大きな違いがある二つを上手く掛け合わせている」

 

「……」

 

 急に饒舌になった霊夢に美鈴は困惑し、思っていたより深く褒められた事でさっきまでの怒りが霧散した。

 

「鮮やかな虹色の弾幕も美しかった。魅せる弾幕と言えばあのような物になるのかしらね」

「えっと、あの」

 

 流石に褒めすぎでは無いだろうか? 恥ずかしさから美鈴は静止しようとするも、霊夢は更に語る。

 

「スペルカードはその人の精神で色を変える。故に誰もが個性的なのだけれど、あなたはその中でも『自由』なのね。……私と違って」

「……」

 

 最後にぽつりと溢れた一言を美鈴はしっかりと聞き取った。そして一瞬、ほんの一瞬だけ霊夢の表情が曇った事も。

 

「あの、あなたの戦い方も素晴らしい物でしたよ。何物にも囚われず、それこそ自由という言葉が相応しい姿でした」

 

 咄嗟に出た言葉だが、それは霊夢の表情に陰りを落とさせるだけに終わった。

 

「私が自由だなんて……あり得ないわ」

 

「……」

 

 唖然とした。まさかあの妖怪賢者から太鼓判を押された博麗の巫女がこんなにもか弱い存在だったなんて。

 

(いや、年齢を考えればそれも当然か)

 

 改めて見ると霊夢は見た目通りの華奢な少女だった。妖怪のように人外の膂力がある訳でも、年を多く重ねた大人ですらない。悩み一つない事なんて、ある筈なかろう。

 

(……この子は、博麗の巫女という肩書きと強さを持っただけの、ただの少女なのかもな)

 

 だとすれば、自分のわがままで彼女に戦いを申し込むのは違うだろう。

 

(いや、それどころか私は彼女のわがままを聞く側だな)

 

 それは、そこらの妖怪より年を重ねた彼女だからこその考えだった。

 

(門番の仕事を疎かにするつもりはないし、そこまで深入りするつもりもない。……が)

 

 だからだろう。美鈴は自然とその言葉を口にしていた。

 

「暇な時は此処に来ても良いですよ。中に入れるかは別ですが、話し相手にはなれます」(彼女の理解者ぐらいにはなっておこう)

「……ありがとう」

 

 霊夢はそう言うと、今度こそ門を通った。

 

「私も、これを機に仕事以外の事にも目を向けましょうか」

 

 霊夢が最後に見せた微かな笑みを見て、ふとそう思うのだった。

 

▼▼▼

 

(よっしゃぁー!! なんだかよく分からないけどフラグを折れた気がするわ!!)

 

 もう大丈夫やで、彼女の勘は確かにそう言っていた。

 

(にしても、ちょっと不味いかもね。あの門番に弱味を見せちゃったわ)

 

 なるべく他人に隙を見せたくないヘタレな霊夢、感想を述べただけなのに思わずいらない事まで話してしまった事を猛省していた。

 

勘)大丈夫大丈夫、そんな心配せんでええで〜。

 

(うぅ、勘は大丈夫だって言ってるけど、やっぱり不安だぁ! どうしよう、この弱味を幻想郷中に言い回されたら、きっと調子に乗った妖怪達が私を殺しに来るんだぁ〜!)

 

 勘は正しい事を言ってるのだが、それでもヘタレ具合は変わらない霊夢なのであった。

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