門を通り、館の玄関前に立つ霊夢。
「……」
少し何かを思案した後、扉を開ける。直後───無数のナイフが霊夢を出迎えた。
四方八方から迫り来るナイフ、それを霊夢はすり抜けるように全て避けた。
「驚きました。完全に不意を突けたと思っていたのですが」
扉の先は大広間が広がっており、その前方にある大きな階段の上に立って霊夢を見下ろすのは、メイド服を着た銀髪の少女だった。
「……」
「無言ですか。いえ、元々感想など欲しておりません。私はお嬢様の命を遂行するのみ」(まあこの様子を見るに合格だと思いますが)
彼女の主、レミリアからの命はただ一つ。戦ってその実力を見極める事。
しかし突然の奇襲に声を出さないどころか、汗一つかいていない霊夢を見て、紅魔館のメイド長『十六夜咲夜』は十分評価に値すると判断していた。
……で、実際の所どうなのかというと。
(あっぶ! あぶ! ……あぶな!?)
余裕など欠片もなかった。
それは突然の出来事だった。館の扉に立った途端、いきなり勘が緊急警報を鳴らし始めたのだ。
何事かと霊夢が一気に警戒レベルを最大にして扉を開けた次の瞬間、急にナイフの雨が自身を殺しに現れたのだ。
ちなみにこれは余談なのだが、霊夢は寝ている時以外は基本的に周りを警戒している。そして自身の勘が少しでも危険を知らせれば警戒レベルを最大まで上げるよう習慣付けていた。……常に周りを意識するなんて凄まじい労力だと思うが、呆れた事に傷一つ受けてしまう方が忌避すべき事だとヘタレは考えていた。
とまあこのように警戒レベルを引き上げたおかげで擦り傷一つ負う事なく回避出来たのだが、突然現れたナイフの雨は霊夢に大きな動揺を与え、その結果声すら出せない状態に陥った。……正確に言うと、今声を出せば非常に情けない物しか出ないから、気合いで抑えているだけであるが。
「ではそろそろ参りましょうか」
そう言って咲夜は両手に複数のナイフを構え、襲いかかる。
「……」(ヒイィィィ!? 凶器! あの人普通に凶器持ってるんだけど!?)
これまた余談になるのだが、霊夢は刃物が苦手だ。なんの力も持たない赤子でも、人間相手なら容易に傷付ける事が出来るからだ。
(あんなの食らったら絶対痛い! 血が出ちゃう! というか、なんでこんな連戦しなきゃならないのよぉ!!)
それは敵の本拠地だからなのでは? 誰かが聞けば思わずそんなツッコミが出てしまう事だろう。
いつも通りヘタレな霊夢、対する相手は時を操る紅魔館のメイド長『十六夜咲夜』。
頑張れ霊夢、ヘタレるな霊夢、彼女を倒せば次は親玉だぞ。勘もそう言っている。
(もうやだぁぁぁ!!! お家帰りたいいいい!!!)
心の叫びは外へ漏れる事なく、もちろんそんな願いも叶う筈なく、普通に戦闘が始まった。
▼▼▼
場所は変わって紅魔館の何処かにある巨大図書館、そこでは人知れず一つの弾幕ごっこの決着が付いていた。
「だぁっはあ! ダメだ全然勝てねー」
床に大の字で仰向けとなる少女、霧雨魔理沙は先の戦いで完敗した。
「なってないわね、魔力の使い方が拙すぎるわ」
そう言って空からふわふわと降り立つ少女はパチュリー・ノーレッジ、魔理沙との戦いで圧倒的な勝利を収めた魔女である。
「魔に対する造詣がなさ過ぎるわ、魔法をお遊び以外で使いたいならまず知識を身につける事ね」
辛辣に話しかけるパチュリーだが、これも魔理沙を心配しての事だ。
数十分前、突然の来訪者にパチュリーは何事かと向かい、そこで本をくすねようとした魔理沙を見て弾幕ごっこを仕掛けたのが始まりだった。そして戦いを通じてパチュリーは悟った。
(……未熟ね、魔法使いを名乗るにはまだまだ幼いわ。あの不安定な魔力行使は恐らく独学で培った物、このままいくとこの子いつか魔に呑まれるわね)
そう考えたからこそ、パチュリーは他人ながらに忠告したのだ。
「あー、やっぱ無学なのは不味いかぁ、うーん」
何やら考え込む魔理沙、不審に思ったパチュリーがさっさと図書館から出て行けと声をかける直前、魔理沙がこんな事を言ってきた。
「よし決めた! パチュリー、あたしに魔法を教えてくれ!」
「……は?」
突然の申し出にパチュリーは思わず冷たい声が出る。しかし魔理沙はそれに怯む事なく続けて言う。
「悔しいけどパチュリーはあたしより魔法使いとして優秀だ。だから教えて欲しい! あたしはもっと魔法を学びたい。強くなりたい。あいつに、霊夢に追いつきたいんだ!」
「いやちょっと待って、なに熱くなってるのよ。そもそもなんで私が……」
やらなきゃいけないのか、そう言いかけてパチュリーは考える。頭の回るパチュリーには嫌でも目の前の少女の未来が想像できる。
「……もし私が、危険だから魔法を使うなと言ったら?」
「そんなの嫌に決まってらぁ!」
「そう言うと思ったわ」
パチュリーは短い時間ながらも弾幕ごっこを通じて魔理沙の事を多少理解していた。そしてやはり自分の予想が間違っていない事にも。
このままいけば、いつか魔理沙は大きな失敗をして命を落とす。魔に身を堕とした者の末路は大抵これだ。
(見殺しにすれば楽なんでしょう、けど)
どうにもその選択を取れない自分が居る事に気付き、パチュリーは深々とため息を吐いた。
「……分かったわ。教えてあげる」
パチュリーは渋々ながら、本当に渋々ながら魔理沙に魔法を教えるという選択を取った。
「本当か!!」
「ええ、けど教えると言っても私の気分次第よ」
「それでも良い、闇雲に学ぶよりは断然良いからな!」
そう言って魔理沙はニカッと笑う。
(待ってろよ霊夢、すぐにお前の所まで追いついてやるからな!)
この日、一人の少女に師が出来た。ひよっこの魔法使いが大成する日はそう遠くない……筈。
vs咲夜andパチュリーは〜? バッサリカットです。