博麗霊夢の強さの本質は何か。
圧倒的な才能から成る基礎スペックの高さ?
弛まぬ鍛錬により洗練された動き?
人並外れた勘が成せる回避能力?
……違う。どれも当てはまりはするが、戦いにおいて霊夢のそれらは本領を発揮されない。
恐怖で体はガッチガチに強張り、頼りの勘は多少ではあるが鈍ってしまう。それでも並大抵の敵なら倒せるから流石と言えよう。
霊夢の強さの本質、それは、
「……スペルカード・ブレイク」(ヒィィィ! 怖い! 弾幕多い! 最後掠りそうだった! あれ絶対死ぬやつ!)
ヘタレである事だ。
……いや、それは少し語弊があった。正確にはヘタレな性格が齎す思考、危険察知能力である。
霊夢は常日頃から被害妄想だろというレベルで今後訪れそうな危険を考えている。それは戦闘では如実になり、あらゆるパターンを予想しては瞬時に対応策を組み立てている。
ああ来たら怖い、こうされたら死ぬ、そっちにあれがあるなら……と、現実味のあるものからあり得ないだろというものまで、あらゆる状況を想像し、対策し、その上で行動に移すのだ。
「くっ……!」(スカーレットマイスタも突破された。残ったスペルカードはあと一つだけ)
まるで未来が見えてるような動き。詰みとなるよう弾幕で誘導しても引っ掛からず、全てをすり抜けるように突破されてしまう。
───曰く、彼女には何者も触れる事は出来ない。
(本当、まるで空気のような奴ね)
博麗の巫女に関する噂を思い出し、実際に戦って確かにその通りだとレミリアは苦笑する。
(どうする? どうすれば奴に当てられる?)
序盤にあった余裕はもう無い。残り一つのスペルカードを突破されれば自分の負け。普通に弾幕を撃ち続けても当たりはしないだろう。
(……いえ)
だが、ある事に気付いたレミリアは思考を中断させる。
(なぜ私は人間相手にムキになってるのかしら?)
それは人間にとっては傲慢で、妖怪にとっては当然の考え方だった。
この場においての挑戦者は誰か? 博麗霊夢だ。ではそれを受けるボスとは誰か? 他ならぬレミリア本人である。
(そうよ、何を考えたって私のやる事は変わらない)
ボスならば、紅魔館の主ならば、誇り高き吸血鬼ならば、
「……人間にしては頑張った方じゃないかしら? けどこれで終わりにしましょう」
最後まで堂々と振る舞い、そして正面から打ち砕けばいいだけ。
【紅色の幻想郷】
……それは、最後を飾るに相応しい攻撃だった。
視界いっぱいに広がる大小様々な弾幕、それら全ては血に濡れたように赤く、まるで世界が赤く染まったかのようだった。
「さあどうする、博麗の巫女?」
レミリアは足掻いてみせろと嗤う。それは人間と根本的に異なる吸血鬼の、絶対的な強者の振る舞いだった。
「……」
向かってくる無数の弾幕を前に霊夢は黙々と考える……事は無い。
(アカンアカンアカンアカンアカン)
もうめちゃくちゃ焦っていた。内心汗ダラッダラである。
不規則な軌道で動く弾幕、そういった予測の難しい攻撃の対処が霊夢は苦手である。なにせ気合で避けるしか方法が無いのだ。対策のしようが無い。
(どうする? どうする? ボム使う? いやでも万が一の時があったら死んじゃう!)
霊夢にはボムの使用を躊躇ってしまうという悪癖があった。ヘタレな霊夢にとって、保険は絶対最後まで取っておきたいのだ。そんな彼女はエリクサーを最後まで取っておくタイプだろう。
(ああああどうすればぁぁあー!!?)
しかし時間は霊夢に考える余裕を与えてなどくれない。
いつの間にか間近まで迫って来ていた無数の弾幕、それをギリギリで避けた霊夢は、
(ひぃぃやあああ!?)
心の中で悲鳴を上げながら気合避けを開始した。
▼▼▼
弾幕ごっこ。それは妖怪達の争いで幻想郷の平和が壊れないようにと作られた決闘、もとい遊戯である。
弾幕ごっこは四つの理念を元に作られている。そしてその理念の中には、こんな物がある。
───美しさと思念に勝る物は無し。
意味はそのまま。無意味な攻撃や体力任せに攻撃を繰り返すのは言語道断。張り巡らされる弾幕の美しさこそ至上であり、攻撃に込められた『意味』こそが直接的な力となる。これは人が妖怪や神を相手に互角で戦えるようにする為に設けられたルールである。
この他にも様々なルールがあるのだが、詳細は省いても問題ない。しかしこれだけは言っておこう。
弾幕ごっことは、『精神的な強さが物を言う勝負』である。
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動く、動く、動く、一旦止まって……また動く。
その全ての動作に無駄が無く、僅かな隙間に体を通すという絶技を幾度となく成功させていた。
「……これが、博麗の巫女」
冷徹な仮面から滲み出る強い意思、それを感じ取ったレミリアは目を見開いて思わずたじろいでしまった。
(抑えきれない強い意思、何が貴女をそこまで突き動かすの?)
……さて、ここで疑問になってくるのが霊夢の力の源だ。
先ほども言ったように、弾幕ごっことは精神勝負だ。純粋な力より強固な意思、高い精神性、そういった目に見えない力に比重が置かれる。
そういう考えなら普通、霊夢は精神勝負で完敗するだろう。だってヘタレなのだから。というか勝負以前に敵前逃亡する。そういう人間なのだ。
なら彼女がここまで強いのは何故か? それは、
(いやだあ! 死にたくないよぉ!!!)
『生存本能』である。
生存本能、それ即ち生きる意思。何が何でも生き延びる。泥水啜ってでも……いやそれは病気になりそうで怖いからとやらなそうだ。
ともかく、霊夢には人並外れた生きる意思というものが備わっている。そこに空を飛ぶような優雅さは無く、あるのは地べたを這ってでも乗り越えてやるという意地汚さだけ。
美しくない、確かにそうだろう。だが生物が生まれつき持っているそれは、特別な輝きがある。
「うそ、でしょ」
吸血鬼や紅魔館の主としてのプライドを主軸に置くレミリアが、職人の作った一級の人工宝石だとするなら霊夢のそれは、
「───スペルカード・ブレイクよ」(ア、チョットチビッタ)
ダイヤモンド、大自然が作り出した天然の宝石と言えるだろう。