ヘタレ霊夢   作:ブナハブ

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勝利とヘタレとEX

「スペルカード・ブレイクよ」

 

 弾幕をかわし切った霊夢は、スペルカードの突破を静かに宣言する。

 

「……負け、た?」

 

 レミリアは信じられないという様子で唖然とする。

 全てのスペルカードを突破される。それは弾幕ごっこにおいて敗北を意味していた。

 

「私が、負けた? 人間に?」

 

 プライドの高いレミリアにとって人間相手の敗北という意味は重い。

 

「……」(ヒィィィ!? めっちゃ悔しがってる! あれ逆恨みとかで殺しに来ないよね?)

 

 こんな時でも平常運転をかますヘタレは放置しといて、わなわな震えているレミリアの方を見てみよう。

 

(これが、博麗の巫女の力?)

 

 強いとは聞いていた。あの賢者のお墨付きだから本当に強いのだろうとは思っていた。だからこそ自身は博麗の巫女に興味を持ち、戦ってみたいと思った。……だが、負けるとは微塵も思っていなかった。

 

 吸血鬼が人間に負ける筈ない。それは傲慢で、やはり妖怪にとっては当然の考えだった。

 例え博麗の巫女が強くとも自分なら勝てる。勝利した後も、満足いく戦いだったならまあ異変を終わらせても構わないかと思っていた。

 

 それがどれほど甘い考えだったか、実際に敗北した事で痛感させられ、そして同時に納得する。

 

(なるほど、道理で勝てない筈ね)

 

 レミリアは賢者、八雲紫から聞かされた弾幕ごっこの理念を思い出す。

 

 妖怪が異変を起こしやすく、人間が異変を解決しやすく。

 完全な実力主義を否定し、そして、

 

(美しさと思念に勝るもの無し……確かにこれなら、妖怪と人間のバランスも保てるわね)

 

 紫に聞かされたこれらの意味、レミリアは霊夢と戦う事で初めて理解した。

 

 要するに弾幕ごっことは決闘だ。どこぞの某アニメがサッカーで全ての物事を解決するように、皆が弾幕ごっこで勝敗を決めるよう流れを作る。それが紫の思惑だった。

 

(そしてこのルールなら……)

 

 レミリアは目線を霊夢へと向ける。

 

 彼女の表情は戦う前と変わらず無機質で、戦っていた時にあった意思の力を感じられなかった。

 

(あの美しく力強い精神。あれほどの物を持ってあの実力なら、確かに私を相手にしても勝てるわね)

 

 殺し合いでなら負けないだろう。だが弾幕ごっこでなら……自分が負けるのも納得だ。

 

「強いのね、貴女」

「……そう」(え? な、なに? 許された? 私は許されたの?)

 

 自身の賛辞に何も思ってないような振る舞い。それにレミリアは少しイラッとした。

 

「貴女の方こそ、殺し合いなら私が負けてたかも知れないわ」(あ、ヤバいなんか不満そう。もっと何か言わなきゃ)

 

 その僅かな苛立ちを正確にチャッキした霊夢は、思っていた感想をそのまま言う。それが功を成してレミリアの機嫌は若干だが良くなる。

 

「ふふ、当然よ。なんなら今からでも貴女を殺せるわ」

(ヒィイイヤアアア!!!!?)

 

 殺せるというワードを聞いて絶叫するヘタレ。レミリアは普通に冗談で言ったつもりだろうが、ヘタレにとってそれは禁句だった。

 

「……けれど、そんなの美しくないわ。貴女とは弾幕ごっこで、完膚なきまでに叩きのめしてあげる」

(あ、やらない? 良かったぁ。あ、いやでも再戦はホント勘弁願いたいです)

 

 どうにかしてレミリアとの再戦を止められないかなと考えていたその時、

 

───下から豪音が聞こえた。

 

▼▼▼

 

 時は少し遡り、魔理沙がついさっきパチュリーを魔法の先生にした時のこと。

 

「……っ!」

 

 互いに魔導書を読む静かな時間。パチュリーが溢した驚きの声は、魔理沙の耳に良く届いた。

 

「ん? どした?」

「封印が破られた」

 

 急に立ち上がるパチュリーは、苦々しい表情を作りながらそう言った。

 

「封印? ……って、おいおいなんだこの気配は」

 

 少しして、魔理沙もその気配を感じ取った。

 

 悍ましく、背筋が凍るような寒気。そんな感覚を齎すナニカが突如として出現したのだ。

 

「……魔理沙、貴方はもう帰りなさい」

「はあ?」

「地下で封じていた彼女が表に出た。彼女に目をつけられる前にさっさとここを離れるのよ」

 

 パチュリーの焦った表情を初めて見た魔理沙は、かなり不味い事が起きているのだろうと悟った。

 

「封じていた? ……なあもうちょい説明してくれないか? 何がなんだかさっぱりだぜ」

 

 なるべく平常心で、事情を話してくれと頼む魔理沙。早く逃げて欲しいと思うパチュリーだったが、魔理沙の絶対に引かないという目を見て仕方なさそうに語り始めた。

 

「……彼女は、レミィの妹なのよ」

「レミィ?」

「レミリア・スカーレット、ここの館の主よ」

「あー確か吸血鬼の……って、なんで家主の妹さんを閉じ込めてるんだ?」

 

 魔理沙の素朴な疑問の問い。その答えは想像以上のものだった。

 

「……彼女は、正気じゃないのよ」

「正気じゃないって、随分とアレな言い方だな」

「けれど本当の事よ。彼女には万物を破壊する力を持って生まれてきてね。それが原因で色々と苦悩し、そして狂気に呑まれた」

「万物を破壊する力……」

「比喩でもなんでも無い。文字通りなんでも壊せる力、それも簡単にね」

「……そう、か」

 

 生まれた時から他者を害せる力がある。それが何を意味するのか、容易に想像できた。

 

「とにかく、彼女は危険極まりない存在なのよ。このまま外に出ればとんでもない被害が出る。その前にもう一度封印の準備を───」

 

 そうしてパチュリーが動き出す直前、図書館の扉が吹き飛ばされた。

 

「な、なんだ!?」

「くっ、遅かったみたい」

 

 二人は扉の方を見る。そこには倒れ伏すメイド服を着た少女、十六夜咲夜が居た。

 

「ぐぅ……も、申し訳ありませんパチュリー様。妹様を抑えられませんでした」

「いえ、ここに誘導しただけ十分よ咲夜、少し後ろで休んでおきなさい」

「申し訳、ありません」

 

 そう言うと咲夜はそこから忽然と消え、魔理沙の側に出現する。

 

「うおっ!? い、いつの間に」

「下がっていて下さい。パチュリー様の客人である貴女を守るのもメイドの務めですので」

「いや怪我人なんだから休めよ」

 

 パチュリーにさっき言われた事を忘れたのかと呆れる魔理沙だったが、次に図書館へ入って来た人物を見て警戒せざるを得なかった。

 

「アハハハ!!」

 

 ソレは、何が可笑しいのかケタケタと笑いながら狂気に染まった瞳をこちらに向ける。

 

「咲夜ァ、どうしたの? 代わりに遊んでくれるんじゃなかったの?」

「フラン」

「あれェ? パチュリーじゃん! どうしたの? そんな怖い顔してさァ」

「……フラン、いい子だから部屋に戻ってくれないかしら?」

「え? なんデ? 楽しそうな事をしてるじゃん、私も遊びたイよ、仲間はずれにするノ? 仲間はずれハいけないんだよ?」

「……」

「知ってるよ? 上でお姉様がすっごく強い人と遊んでるんでしょ? 私も遊びたいなァ」

「……そう」

 

 パチュリーは巨大な魔法陣を展開し始める。

 

「レミィの邪魔はさせられない。悪いけど無理やりにでも部屋へ連れて行くわ」

 

「アハハ! なぁに? 今度はパチュリーが代わりに遊んでくれるの? アハハハ!!」

 

 フラン……フランドール・スカーレットはケタケタと笑う。その姿は先ほどパチュリーが言ったように、正気では無かった。

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