ヘタレ霊夢   作:ブナハブ

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悪魔と、魔女

 パチュリー・ノーレッジ、彼女が扱う精霊魔法は多彩で豊富だ。

 

「【水符:ベリーインレイク】」

 

 大小様々な複数の魔法陣を展開、そこから無数の泡とレーザーを放つ。

 

(……ッ! あたしの時より多い)

 

 魔理沙が戦った時とは違う、明らかな殺意の込もった攻撃。

 魔理沙は手加減されていた事を実感して悔しく思うのと同時に、部屋へ連れ戻すだけでそこまでするかと若干引いた。

 

 だが次に起きた出来事を見て、魔理沙は自分の考えが甘かった事を知る。

 

「アハハハ! なにそれおっそーい」

 

 迫り来るレーザーを回避し、未だにやって来ない泡の弾幕を見てケタケタ笑うフラン。それは確かにその通りで、泡の動きは鈍く訪れるのに時間が掛かる。が、そんなのは些細事だった。

 

 見るべきはその圧倒的な物量。その密度は魔理沙を相手にしてた時よりも遥かに多く、ほんの僅かな隙間さえ即座に泡を生成して潰していた。

 これが弾幕ごっこならルール違反だと咎められるだろう。だが、これは遊びでは無い。

 

【禁忌:レーヴァテイン】

 

 フランが両手を合わせると、そこから巨大な燃え盛る剣が顕現する。

 

「みーんな吹っ飛べェ!」

 

 フランは燃える大剣を横一文字に薙ぎ払う。泡の弾幕は半数以上が弾け飛び、更に大剣から発生した弾幕によって残る泡も一掃された。

 

「うっそだろ!?」

「……ッ、やっぱり一筋縄じゃ行かないわね」

 

 魔理沙はあの物量を剣の一振りで一掃したのかと驚き、パチュリーはそれをまあ当然の事だなと受け入れた。

 

 フランは破壊の異能を持ち、それに当てられるかのように彼女の扱う技は攻撃力に特化している物が多い。並大抵の弾幕ではそれを上回る威力の弾幕によって圧殺される事だろう。

 

「【金符:シルバードラゴン】」

 

 しかしパチュリーは攻撃の手を緩めず、次なる一手を打ちに行く。

 

 今度はフランの全方位を弾幕で囲む嵐のような攻撃。弾幕の量は先ほどと比べて少ないものの、その威力と速さは泡の弾幕を遥かに凌ぐ。

 

「【禁忌:クランベリートラップ】!!」

 

 それに対抗してフランは周囲に四つの魔法陣を展開し、そこから追尾型の弾幕を四方に放つ。

 

 ぶつかり合う弾幕、しかしフランの放った弾幕は追尾能力が備わっている。

 

「うおっ!? こっちに来た!」

 

 弾幕の嵐から抜け出たフランの弾幕が、傍観していた魔理沙と咲夜に襲い掛かる。

 

「……ご安心を」

 

 不意を突かれたせいで対応が遅れた魔理沙であったが、警戒を解かなかった咲夜は即座に動く。

 

「ヤバッ───……って、え?」

 

 魔理沙の視界が一瞬にして切り替わる。忽然とその場から消えた魔理沙達を弾幕は追尾し切れず、そのまま地面へと墜落した。

 

「言ったでしょう、客人はお守りすると」

「た、助かったぜ……っていうか今何をしたんだ?」

「少々時間を止めました」

「おぅ、随分と凄い力を持ってんだな」

 

 咲夜が時間停止を使った事で難を逃れた魔理沙達。

 

(……魔理沙は咲夜に任せておいて良さそうね)

 

 それを一瞥して向こうは問題なしと判断したパチュリーは動く。

 

「……【日符───」

 

 彼女は右腕を頭上に持ち上げ、魔法陣を展開する。そして、

 

「───ロイヤルフレア】!」

 

 そこから巨大な火球を生み出した。

 

 ごうごうと燃える炎の塊、遠く離れた場所に居る魔理沙達でさえその熱波は肌にしっかりと伝わる。

 

 それはまるで小さな太陽。太陽と違って吸血鬼の弱点にはならないが、それでも内包するエネルギーは膨大だった。

 

「火傷は免れないだろうけど、そこは我慢してちょうだい」

 

 そう言ってパチュリーは、その火球をフランに向けて飛ばした。

 

 未だに入り乱れる弾幕の嵐を物ともせず、火球はフランの元へと突き進む。

 

「……」

 

 回避は不可能、出来たとしてもこの弾幕の嵐を突っ切る事となる。

 防御もダメだ。そもそもフランは能力的にも性格的にも防御が不得手なのだ。

 

「……アハッ」

 

 ならばどうするか? 簡単な事だ。

 

「きゅっとして───」

 

 火球へと手を伸ばし、虚空を掴む。そしてそれを握ってしまえば、

 

「ドカーン!」

 

 火球はいとも容易く爆散する。

 

「っ!?」

 

 回避もダメ、防御もダメ、ならば壊してしまえばいい。それは破壊の異能を司るフランだからこそ出来る芸当だった。

 

「アハハハ! すごいすごーい! ドカーンって、火の玉がドカーンってなった! アハハハ!」

「くっ……!」

 

 これでもダメかと無念に思うも、パチュリーは負けじと更なる手札を切る。彼女の強みはその手札の多さなのだ。

 

「【水木符:ウォーター───」

 

……だが、ここに来てパチュリーは運に見放された。

 

「───ゴホッ!!?」

 

 新たな魔法を放とうとした時、パチュリーは突然の咳に襲われて詠唱を中断せざるを得なかった。

 

 パチュリーは喘息持ちだった。その為こうして魔法の詠唱を咳が邪魔をするという事は度々ある。

 

「ゴホッ! ゴホッ! ゼェー! ヒュー!」

「わたシからもいっくヨー!」

 

【禁忌:カゴメカゴメ】

 

 喘息に苦しめられているパチュリーにフランは容赦なく弾幕を放つ。

 

「パチュリー様!」

 

 咲夜はパチュリーの救出に向かおうとする。だが既に弾幕はパチュリーを中心に斑目模様に設置され、介入する隙が無い。

 

(不味い、このままでは……)

「道を開ける! パチュリーの回収は任せた!」

 

 と、その時、後ろに控えていた魔理沙が咲夜の前に出て懐から何かを取り出した。

 

 それは八辺形の形状で中心に陰陽太極図が描かれた道具だった。

 その道具の名はミニ八卦炉。魔理沙が愛用するマジックアイテムであり、頼りになる武器だ。

 

 ミニ八卦炉にエネルギーが収束されていく。その速度、蓄積量はとてつもなく、エネルギー量に限って言えば先のロイヤルフレアにも匹敵していた。

 

「【恋符:マスタースパーク】!!」

 

 ミニ八卦炉から極太の光線が放たれる。その角度はパチュリーの周囲に散らばる弾幕を掻き消すのと同時にフランにも当たるよう計算した物だった。

 

「へ?」

 

 気の抜けた声を出すフラン、それは完璧に不意を突けた事を意味した。

 

 マスタースパークは正面の弾幕を全て掻き消し、その先に居るフランを飲み込んだ。

 

「っ! 感謝します」

 

 咲夜はそう言って一瞬の内に姿を消し、数瞬後には魔理沙の側にパチュリーを俵担ぎして現れた。

 

「……ねえ咲夜、ちょっと雑じゃない?」

「緊急事態でしたので」

「無事みたいだなパチュリー……それじゃあ」

 

 魔理沙はパチュリーの安否を確認すると、箒を使って宙に浮かぶ。

 

「ちょっと魔理沙、貴女なにを」

「まあまあ、パチュリーはそこで休んどけって」

「……よしなさい。これは遊びじゃないのよ」

「大丈夫だって、あたしもそれぐらい分かってるさ」

「いいえ貴女は何も分かってない。貴女レベルの力じゃフランには勝てないわ。それどころか無駄死にする可能性が高い。だから」

「パチュリー」

 

 魔理沙が如何に無謀な事をしようとしてるのか語るパチュリーだが、その本人に真剣な眼差しを向けられて口を噤む。

 

「あたしがそんなの言われて止まるような奴に見えるか?」

 

 そう言ってニカッと笑う魔理沙は、パチュリーには目を細めてしまうほど眩しく映った。

 

「……ええ、そうね。短い間だけど貴女の馬鹿さ加減は嫌と言うほど伝わってくるわ」(ほんと、賢くない生き方してるわね)

「へへ、褒めたって何も出ないぜ!」

 

 じゃあまた後でな! そう言って魔理沙はその場から離れていく。

 

「……良かったのですか? 行かせても?」

「ええ、これで死ぬならその程度の人間だったという事よ。私は何も思わないわ」

「そうですか」

「……埋葬ぐらいならしてあげるわ」

「……」(十分気にしてませんかそれ?)

 

▼▼▼

 

「いったーい!」

 

 突然浴びせられた光線にフランの体はボロボロだった……が、吸血鬼特有の再生力で既にほとんど完治していた。

 

 しかし体力の消費も大きいし、なにより全身が痛い。それは遊びのつもりで戦っているフランにとって許されざる事で、自分をこんな目に合わせた相手を睨み付ける。

 

「ちょっとー! 部外者ガ攻撃するなンて反則でしョ!」

「へへ、悪い悪い」

 

 魔理沙は悪びれる様子もなく、帽子を被り直してフランに向かい合う。

 

(……やっべぇなこりゃ)

 

 相手の正面に立つからこそ分かるものがある。その一つが彼我の力量差。

 

 敵は正真正銘、怪物の類いだ。それも狂暴な破壊の権化みたいな存在である。

 

「あレ? パチュリーは?」

「ああ、それなんだが」

 

 意識せずとも放たれる凶悪な圧、その圧を魔理沙は真正面から受け止める。

 なんら特別な事はしていない。ただ根性で化け物の圧力を受け切っているのだ。

 

「選手交代だ。次はあたしが遊び相手になってやるぜ」

 

 圧倒的な力の差を物ともしない。動じない。怯まない。それこそが彼女の武器、屈強な精神力である。

 

「思う存分遊ばせてやる。せいぜいバテないようにな」

 

 人間の、普通の魔法使いは吼える。格上たる悪魔の妹に。

 

 絶望的な戦いは、その言葉を皮切りに始まった。

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