闇堕ちした初代ギターヒーローを二代目が救う話   作:火内coach

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やっぱり、スパダリなんだよなぁ………
セクシーはいつか消します


初代ギターヒーロー"ナカマ・ミナ"

「お嬢ちゃん、こんなところで何してるの?」

 

 それはオープンハイスクールの帰り道、家族と来たはいいのだが、ホテルへの帰り道で迷った挙句に携帯は充電切れ。他人に聞こうにも、引っ込み思案が行き過ぎる少女は1人、公園で夜に呑まれる。

 

 このまま闇に溶けてしまえばいいのに、と考えていた少女の目の前に現れたのは、黒に紫のメッシュを入れたワンレンボブの女性。

 ハスキーな声、鼓膜を震わす甘い声はあらゆる人を惹きつけるようだが、

 

「あ、あ、あら、臓器なら売るので。見逃してください………」

 

「私、医者に見える?」

 

 目の前の女の子、後藤ひとりには悪魔の囁きにしか聞こえなくて。今の彼女には美少女を誘拐し、臓器を密売する秘密結社の女幹部に見えているのだ。

 

 そんな彼女に制服姿で土下座されれば、声をかけた彼女さえも黒マスク越しに苦笑いを浮かべるほかはなく、何とか立たせようと手を握ったところで、

 

「君、もしかしてギターしてる人?」

 

 震えすぎて、ビブラート状態のひとりに対する最適解を叩き出す。

 指先を触る見知らぬ人の感触に、漸くひとりもその指先の経歴に気がついて。

 

「も、もしかして………お、お、お姉ひゃんは………」

 

「そうだよ? 君と同じギタリスト。メジャーデビュー3年目のね」

 

 掻き上げた耳にはピアスが光る。人見知りを極めたひとりからすれば、関わりたくない人種ではあるのだが………指先が語るその鍛錬の結晶、そこがどうしても心を掴んで離さない。

 

「見たところ、高校生かな? この時期だとオープンキャンパス?」

 

「あ、はあ、い。そ、そうです………」

 

「パンフレットから推測するに、秀華高校かな? いいね。お姉さんの母校だ。卒業してないけど」

 

 煙草いい?と聞いた彼女に赤べこのように頷く、ひとりは黒マスクの下から出て来た艶やかな唇に挟んだ煙草から昇る煙をただ見ていた。

 不思議な雰囲気の人だ。気難しいかと思えば気安い、距離感も近いわけではなく、遠くもない。

 

「………君もプロ、考えてる人?」

 

「うえっ、あっ、いや、できたら、で別に………」

 

「弾いてよ。お姉さんが聞いてあげる。このギター使っていいから」

 

 お姉さんの横に置いてあるギターを差し出され、思わず受け取ったひとりの目の色が変わる。リッケンバッカーの銘が書かれたそのギター、それがどれだけ高価なものかを知っているからだ。

 

「こ、こ、こ、これ………」

 

「気にしなくていいよ。ファンからの貢物だし。ファンサでしか使ってないから、壊しても」

 

(壊したら、弁償できない………きっと、返せないお金から、臓器を売らせるんだ………やっぱりこのお姉さんは悪い人なんだ………)

 

「それに私と同じくらい才能があると思ったから渡したんだ。間違いなら、私の見る目が違うだけ。気にしなくていいよ」

 

(このお姉さんはいい人だ!)

 

 褒め言葉に気をよくし、流れるままにギターを手に取るひとり。何も心配などいらない。何せ、自分はギターだけしか取り柄がないと思っているのだから──

 

「………どう、ですか?」

 

「下手だね」

 

 ひとりは砕け散った。それはもう空から降る雪のように。

 心まで白く染まりそうなぼっち雪をお姉さんは固めて、丸めて、雪だるまひとりを作り上げると、

 

「ああ、ごめん。勘違いしないで欲しいんだ。君のギターテクニックは申し分ない。プロでも通用する。けど、対面でしたことないんでしょ? 人の目を気にしすぎてリズムが滅茶苦茶になってる。良かったら、これ使って」

 

 差し出されたのは、黒いペストマスク。顔全体を覆う、見るからに怪しいマスクを常人がつけるわけもないのだが、

 

「あ、は、派手、ですね。す、きです」

 

「いいね。君ならわかってくれると信じていたよ。視界も覆うタイプなんだ。君の弱点はお客様の前では実力が発揮できないこと。ロックならこんなマスクつけてもキャラ作りで誤魔化せる」

 

 ひとりは随分と気に入ったようで、素直に受けとると仮面をつける。暗くなる世界に自分の鼓動しか響かない世界。

 小さく、閉ざされた世界が何よりも落ち着きをもたらして。

 

「お姉さんも君と同じくらいの時にはインキャだったからさ。ライブの時にはいっつもこの仮面つけてた。最初はバカにされたけど………今では全員、技術で黙らせて来た。そして、ついた渾名は──」

 

「『ギターヒーロー』………ですか?」

 

 知らないはずがない。独学で学んでいた時代から動画で見続けた眼帯をつけた凄腕のギタリスト。今でもその名前はネットの世界では有名だ。

 

「なんだ、知ってたんだ? そうだね。今では別の名前で呼ばれてるけど、君ならその名前を引き継げると思う………運命はロックだよ、本当に」

 

 煙草を吸い終わったお姉さんは立ち上がると、ギターを担いで携帯で電話をかけだした。暫くすると、電話を切って、こちらに向き直り、

 

「じゃあ、ホテルいこっか」

 

「………うえっ!? あ、あばあばばばば」

 

「君、ホテルへの帰り道がわからないんだろ? この辺りなら1つしかないから連れていってあげるよ。私のマネージャーも近くにいるみたいだしね」

 

「あ、はい」

 

 変な勘違いに頬を赤くしながら、かっこいいお姉さんの後ろを下向きながらついていく。下北沢の夜の空気はまた昼とは違い、通い出しても慣れる気がしないのに。

 

「名前、聞いてなかったね。お姉さんは"仲間ミナ"君は?」

 

「あ、あー、ご、後藤ひとりです」

 

「ひとりちゃんか………私とは対象的な名前だね」

 

 このお姉さんの周りでは馴染みすぎていて、まるで女王のようだった。歩くだけで下北沢が避けていくような威風堂々とした態度。

 自分が成長したら、こんな風になるなんて絶対に思えない。

 

「ついたよ。ひとりちゃん」

 

「あ、あ、ありがとうございます………このご恩は忘れません………いつか、耳を揃えてお返しします………」

 

「お金は貰ってないけど、これあげる」

 

 見惚れるようについた矢先に、見覚えのあるホテルがあって。慌ててとち狂った謝罪と感謝を伝えて、逃げ去るようにホテルへ行こうとした矢先、一枚のチケットと………裏面に記載されたロインのIDを渡されて。

 

「高校、受かったらライブに来なよ。お姉さんのファン感謝ライブやるからさ。出来たらギター持って来てくれたら嬉しいな」

 

「あ、この、裏面は………」

 

「ギタリストになりたいならいつでも相談に乗ってあげる。こう見えて、レーベルにも結構顔聞くからさ」

 

 初めての他人からのロインIDに浮かれて、ヘドバン並みに首を振るひとりに優しい笑みを浮かべたミナは、踵を返してマネージャーの元へ、

 

「あ、あのっ!!」

 

「び、びっくりしたぁ………ど、どうかした?」

 

「あ、ごめんなさい。ボリューム調整下手で………あ、あの。私、上手くなれますか? お姉さんみたいなギタリストに!」

 

 勇気を出した問いかけに、ギタリストの彼女は懐かしむように笑って、返答する。

 

「──なれるよ。私よりずっと、いいギタリストにね」

 

 

 

 

 

 

「………ほ、本当に、かなあ?」

 

 お姉さんとの出会いから1ヶ月。高校生になったひとりは………中学時代と何も変わらない生活を送っていた。

 お姉さんのロインIDを登録したのはいいが、送る内容に戸惑って、困惑して、諦める。

 

 そんな事を繰り返してばかりで結局、1回も送れていない。

 

「毎日毎日、ネットに動画を投稿して………お姉さんと同じ『ギターヒーロー』の名前を貰ったけど………このまま私はギタリストになれるのかな………なれないんだろうなぁ」

 

 押入れで渇いた笑いを浮かべながら、暗すぎる未来に想いを馳せて鬱になるひとり。そんな彼女を嘲笑うかのようにはっていたお姉さんのライブチケットが舞い降りて。

 

「………ああ、お姉さんのライブ。今週の金曜日だ」

 

 ぼんやりと呟いて、行くかどうかを考え出す。

 行ったところで、忘れられていたら目も当てられない。というか、間違いなく、思い上がっていた自分の器が砕け散る。

 

 一度壊れた器は2度とは治らないのだ。

 下手したらギタリストをやめる可能性も大いにあり得る。

 

「は、はは………いいや、行くだけ行ってお姉さんのライブが終わったら帰ろう」

 

 誘う友人なんていないので、学校帰りに行くことにする。ギターはとりあえず駅のロッカーに預けて、帰り際に取りに行く。

 どうせ使わないだろうけど、持って来てと言われたから。そんな小さな理由で

 

 

 

「今日はスペシャルゲスト、私の弟子が飛び入り参戦だ。盛り上がって行こうか」

 

「「「きゃあぁぁぁぁぁぁ!! ミナ様〜〜!!」」」

 

(どうして、こうなった?)

 

 ライブスタジオに入ったまではいい。ワンマンライブなのに、パンパンの人混みに吐きそうになったのもまだ許される。

 ちょっと意味がわからないのは、スタジオ上のお姉さんが飛び降りて、ひとりの手を引いて、スタジオに立たせた時だ。

 

 ペストマスク越しの為に、思ったよりかは落ち着いている。心臓が筋肉痛になりそうな鼓動をしているが、体が震えて地震にならないだけまだマシだ。

 

「さて、ひとりちゃん。その感じだとバンドメンバーなんて集まらなかったと思うけど、今の調子は?」

 

「帰らせてください、土に」

 

「なるほど、絶好調だね。役割はシンプルに行こう。私はボーカルとギター、ひとりちゃんにもギターをしてほしい。周りの人は気にしないで、ただの数合わせ。私のギターに合わせなくていい。好きなように弾きな」

 

「え、あ。は? あの、ちょっと………」

 

 意味が、を遮るように始まるカウントダウン。途端に遮られる、視界。訳がわからないまま流れるリズムに合わせて、ギターを弾く。

 それはあまりにも傍若無人な演奏、他人に合わせる事なんてできないギターの音色。

 

 他人の目はペストマスクで遮られて、わからないとはいえ普通ならライブを台無しにしてしまうような先走ったそれを──

 

「いいね。見込みがある」

 

 ──彼女は、問答無用でまとめ上げて、支配する。

 

 黒い雷鳴が轟くようなギターヒーローを超えた圧倒される演奏技術。傍若無人を超えた唯我独尊の音楽が、暴力的な迄に全ての人を叩き潰す。

 

「私は"英雄"には戻れない。倒されるべき、"皇帝"だ。ついて来れる? ギターヒーロー」

 

 歌と音楽にかき消えたはずなのに、そんな言葉がひとりの耳に届く。無我の境地のようなその感覚に、ひとりはいつしか笑っていた。

 鬼気迫りながらも、背中すら見えないギタリストに追いつく為に!

 

「──ついて来てください、"鳴皇"! 私のギターに!!」

 

 その背中すら超えて、倒す為に!

 奏でた音楽が、観客から息を殺す。振動が、鳴動するライブハウスに。

 

 一種のゾーンに入った2人は泊まることなく、際限なく、お互いに影響されて上がっていく。いつしか、ドラム達がついていけないほどに。

 

「thank you」

 

 致命的な崩壊を迎える前に、ライブは終わる。鳴り止まぬ拍手がまるで雨のように突き刺さり、ペストマスクを外しても冷めない夢のような時間はまさしく現実で起きていた。

 

 胃の中から熱が上がる。緊張感から解放され、アドレナリンが尽きた彼女が吐きそうになるのを支えたのは、倒せなかった皇帝で。

 

「お疲れ様、ギターヒーロー。どう? これがいつか君が見る景色の一端だ」

 

 差し出したバケツに胃液を吐きながら、ひとりは手放しそうな意識を最後まで手繰り寄せる。言わなきゃいけない言葉がそこにはあるのだから。

 

「わ、私もなれますか………? 貴方みたいなギタリストに」

 

「なれる。約束する。だって君はギターヒーローだから」

 

「じゃあ………これから、師匠って………よばせでくだ………あっ」

 

 完全に興奮が消えて、弾け飛んだひとりが砂へと変わる。優しく布で包んだ砂を楽屋に持っていきながら、ミナは誰にも見せられない顔で大事に抱え直して、

 

「いいよ。君は………私と同じ"1人"だからね」

 

 初代ギターヒーローは堕ちた世界に二代目を連れて行く。

 自分を裏切った、"仲間"に背を向けて。

 

 

 

 

 

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