闇堕ちした初代ギターヒーローを二代目が救う話   作:火内coach

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君の目を気にしていたから

 ミナの朝は早い。正確に言えば、寝れないのが正しいのだが。

 寝不足による頭痛に耐えながら、あたりを見渡せば自分の部屋ではない事に、瞑目。

 

「あぁ………昨日はファンの子誑かして家に来たんだっけ」

 

 ベッドで寝ているのは見るからに清楚な大学生の女の子、カフェでバイトしてるオシャレな大学生で〜とか何とか言っていた気がするが、忘れた。

 

 興味なんてない。美味い飯と、酒。後はお小遣いが貰えればいい。

 だからって貢がせるだけではない。きちんとリターンを与えなくてはヒモのような繋がりは長続きしないのだから。

 

 床に落ちていた下着を付け直して、Tシャツだけを着て、煙草と携帯を持つ。勝手にベランダを開けて、起き抜けの煙草を吸いながら、数多の着信履歴にげんなりする。

 

 嫌なことに変わりはないが、マネージャーに連絡すれば爽やかな朝から鼓膜を破壊するような破壊音。落としかけた煙草を寸前に拾い直して、相槌を打つ。

 

 反論すれば百で返される。何時間か黙って頷いて、演奏で黙らせれば文句はない。現に今日は1時間で終わったので、ベランダから部屋に戻る。

 

 部屋に入れば、ファンの子が起きていたので甘い言葉と可愛い態度で朝ご飯をねだれば、お小遣いと一緒に朝ごはん代をくれた。

 どうやら今日は彼氏とデートらしい。なのに、女の子と寝るという中々ロックな女の子だ。

 

「また来るね、姫様」

 

 姫様呼びはいい。基本的に女の子は喜ぶし、名前が出てこない時はごまかせて便利だ。手にした朝飯代を持ってカフェでおしゃれに行こうかと入り、メニューを見る。

 

「………お金がない」

 

「………朝にしてはもうちょい軽めかな」

 

「………誰か優しい人はいないかな。奢ってくれる人」

 

「すいません、クラブハウスサンドイッチ下さい」

 

「私はカフェ・オ・レおかわりを。支払いはお姉さんに」

 

「………待ちなさい、君。まさか私から集ろうとしてる?」

 

 独り言にしてはやけに声が大きいと思っていたが、まさかの集ろうとしていた乞食だったようで。青髪の美少女はこちらを見ながら、携帯をぽちぽち、そして私に見せた画面に、私は舌打ちする。

 

「日本を代表するロッカーの仲間ミナ。ファンです。サイン代わりに奢ってください」

 

「初対面で、お金を集ろうなんて………君、中々にロックな生き方してるね」

 

「照れる」

 

「褒めてない」

 

 貰ったクラブハウスサンドイッチを食べながら、青髪の美少女からねだられたサインを書いて返してあげれば、早速店員と交渉。

 しかし、直ぐにしょんぼりとした顔で席に戻って来た。

 

「ダメだった」

 

「でしょうね。携帯で友達を呼んだらどうかな?」

 

「その手があった」

 

 なぜ、友達を頼るという発想がないのだろうか。とはいえミナからしても友人がないので同じような考えに至るかもしれないが。

 携帯をぽちぽちして、数分後、ハヤテのごとく店内に入って来たのは金髪の美少女………

 

「………リョウ?」

 

「ごめん、虹夏。お金ない」

 

 いや、金髪の鬼だった。問答無用で拳骨が突き刺さり、青髪の美少女が机に沈むと、すぐさま可愛らしさ全開の表情を申し訳無さそうに歪めて、

 

「ごめんなさい、ごめんなさい! 本当にこの借りパク女が迷惑かけてごめんなさい!」

 

「君、彼女の友達よね?」

 

 あまりにも友人に向ける言葉ではないが、それはそれ。頭を下げていた金髪の女の子は顔を上げて、漸く顔を合わせて、息を呑んで顔から色が抜けていく。

 

 反応から見るに、彼女もまたロッカーのようだ。

 

「め、鳴皇ミナ様ですか!? 大ファンです! サインください!!」

 

「いいよ。その子は必ず引き取ってね」

 

「わぁ! ありがとうございます! 勿論、引きずってでも帰りますから!」

 

 サインを書いて、渡してあげればファンの子らしく、きゃあきゃあ言いながら飛び跳ねて喜んでいる。こんな無垢な喜び方を見ていると、自分の汚さを見せつけられているようで内心凹む。

 

 ファンの子の前では出さないが、それはそれだ。金髪の美少女はすぐさま青髪の美少女を引きずって店を出ていく。

 騒がしい朝食だったが、悪くはないと彼女は追加でハニーラテを頼んで時間をみる。

 

「マネージャーとの約束まで何するかな………」

 

 家に帰って寝直すのもいいが、間違いなく遅刻して、マネージャーに正座させられるのは目に見えているので、適当に散策することにした。

 ギターは約束の時間前に家に撮りにいけばいいと思って、下北沢の町をぶらつく。

 

(また、ライブハウス潰れてる………時代の流れだね)

 

 時間は残酷で、変化は無情だ。

 変わりたくないと願っていても、時間は全てを押し流して、いやでも変化を促していく。

 

(手放せないものだけ、捨てていくのは変化なのか………私が薄情なだけなのか)

 

 共にいた仲間はもういない、誘ってくれた友人も、何もかも。

 得られたのは学生バンドの頃とは大違いの名誉と地位と富。

 

(最高級タワマンに住んで、朝からシャンパン飲んでみても合わなかった私は結局小市民ってところなんだよね………)

 

 角を曲がって、開けた先。ぼんやりと答えが出ない彼女の耳がとらえたのはパソコンが壊れたような甲高い電子音。

 近くまで来たので顔を覗かせてみれば、先程の金髪の美少女と青髪の美少女、赤髪の美少女に加えて、

 

「ひとりちゃんがノイズ化している………」

 

 最近、自分の弟子は人間なのかを疑い始めたがギタリストになるならいいかと考えるのをやめた桃髪の美少女がいた。というかノイズだった。

 

「わっ」

 

「きゃっ!」

 

 いつの間にやら近づいていた青髪の美少女に後ろから声をかけられて、普段出さない声を出して、前につんのめってしまう。

 そうすれば姿を見られるのは当たり前で、

 

「み、ミナ様!?」

 

「し、師匠!?」

 

「どちら様?」

 

 三者三様の発言に互いにマジかという顔をする美少女達。

 

(ああ………この子達が、ひとりちゃんのバンドメンバーか………)

 

 唯一の幸いは歯噛みしたシーンを見られなかった事だけだ。

 

 

 

 

 

 

「驚きました〜まさか、プロのギタリストが後藤さんの師匠だなんて!」

 

「あれだけの才能を腐らせるのは勿体無いからね。君もギターの練習をしているようだけど。軽くでいいならレクチャーしようか?」

 

「でも、本当なんですか? ぼっちちゃんにギタリストの才能があるって………だって私達より下手ですよ?」

 

 作詞作曲で話があるひとりとリョウを置いて、何故か2人の美少女に連れて行かれたミナはライブハウス『STARRY』にて、レモネードを飲んでいた。

 

「気づかないなら気づかないでいいよ。彼女が大成した時に、あの人の言ってた事は本当だったんだ………ってなるだけだから。君達は学生バンドだから、楽しむほうが最優先でしょう?」

 

「いやいや、私達もプロ目指して頑張ってますから! 今度もライブをここでやるんで良かったら来て──」

 

「"プロ"………ね。その言葉何処まで本気?」

 

 吐かれた言葉、その重さに意味を見出すのに少しばかりの時間が必要だった。気づいた時には虹夏もまた真面目に彼女の目をまっすぐにみて、

 

「ほ、本気も本気です! 夏にはメジャーデビューして………冬にはファーストアルバムを………」

 

「ひとりちゃんの才能に気づかないくらいの才能だと自由な夢を見れて羨ましいわね。才能ある人達は薄々だけど気づいてるのに」

 

「プロだからって、貴方に言われる筋合いはないですよ………そもそも人の夢を馬鹿にする権利は貴方にはないはずです!」

 

「だけど、プロとして現実を突きつける権利はある。店長さん、使ってないギターとか貸してくれませんか? 後は一瞬だけ、スタジオを」

 

 自分の夢を馬鹿にされたような虹夏はムキになって言い返すが、ミナの方は吸っていた煙草を大きく吐いて、自分のサインを飾る位置に迷う店長に声をかければ、ピアスの美女がギターを持って来てくれた。

 

「うん、サンキュ」

 

「いえいえ、お久しぶりです。ミナ様」

 

 彼女から受け取ったギターとマイクスタンドを借りて、黒マスクを外して、咳払い一つ。音源はないがアフレコで問題ない。

 その方が実力差ってのが分かると思って。

 

「聞いてください。曲名は『君の目を』」

 

 いつからだろうか。ギターを弾く指に気持ちが入らなくなったのは。

 いつからだろうか。オーディエンス達が、熱意がこもってる!だのと寝言をほざく様になったのは。

 

「"他でもない君の目を気にし続けて作った歌"」

 

 それが意味するのはただ一つ。

 技量だけで、人の心に響く音楽を奏でられるようになってしまったのだ。才能がある者達ですら気づかない。

 

「"だからこの曲は君のその好きなアーティストによく似てるだろう?"」

 

 かろうじて、今のバンドメンバーと日本や世界で活躍するプロ達だけ。曲の良さなどオーディエンス達には聞き分けが聞かないのだ。

 だからって、手を抜く………そんな事はしない。

 

「"捻りがない、魅力がない、どうぞ罵ってくれても構わない"」

 

 それは音楽の冒涜だ。

 それをしてしまえば今の自分すら肯定できなくなる。

 

「"それでもいい、今はただ──君の目をこちらに向けて置きたくて"」

 

 切り捨てた先に、残ったのがそれだけだ。

 だから──仲間達が消えても、それだけは手放せない。

 

 嵐を思わせる、演奏音が鳴り止んで、静かな空間に喜多とPAの拍手だけが静かに響く。反面、虹夏と店長はずっと押し黙っていて。

 

「す、すごいです! もう、色々邪魔してすごいとしか言えません! どうしたらギターとボーカルを兼用できるんですか!?」

 

「相変わらず暴力的な音楽ですね。古参として変わらなくて良かったです」

 

「君の才能なら、全てをギターに注ぎ込めばいい。歌はある程度なら矯正できる。でもギターは練習が何より差を分ける。ひとりちゃんは毎日6時間練習しているよ? 彼女を目標にするなら、その倍はやらないとね」

 

 汗を拭いながら、自分の音楽に魅力された彼女の返答に答えていく。自分の音楽を聴いた反応は主に二つだ。こうしてファンになるか、

 

「認められない………認めたくない………だけど………」

 

「虹夏、それが今のお前の位置って事だ。受け入れろ、受け入れなきゃ前へ進めない」

 

 自分をライバル視して、更なる上を目指すかの2つだ。

 金髪の美少女はそっちの方だったらしい。

 

「さて、時間だから私は行くよ。レモネードご馳走様」

 

 だからって、今のままではひとりの足手纏いでしかないのは事実。このまま才能が開花しなければ、彼女はきっとお荷物になる。

 そうなるくらいなら、自分が彼女達に引導を渡してやった方がいい。

 

「恨む相手がいないのは辛いからね………」

 

 自分がかつてそうだったように、引導を渡したならば弟子にとって自分が恨みを受けるべきだと。自分達のように自然消滅した結果、恨みをぶつける相手がいない事で情緒不安定になるくらいなら。

 

「私は、君達の敵として立ち塞がるよ………結束バンド」

 

 プロの壁として立ち塞がろう。

 弟子の成長を望むがゆえに。

 




歌ってるのは『キミノメヲ』って言う曲です
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