闇堕ちした初代ギターヒーローを二代目が救う話   作:火内coach

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とある2人のギタリストは北の大地で出会う

『ぼっちちゃん!? 昨日、仙台でミナ様と路上ライブしたって本当!?』

 

『後藤さん! ねえ、これ後藤さんでしょ!? やっぱり、後藤さんは磨けば光るダイヤの原石なのね! どこかのタイミングで新しい服、一緒に買いに行きましょ!!』

 

『ぼっち、牛タンのお土産期待してる』

 

「凄い数のロインが鳴ってる………」

 

 花火を見た後の翌日、チェックアウト寸前まで寝落ちした2人はバタバタと焦りながらも部屋を出て、車を飛ばして北海道へと向かっていた。

 

 その道中、鳴り止まぬ携帯に個人情報がネットで悪用されているのかとビクビクしながら開いたひとりに飛び込んでくる数多のメッセージ。結束バンドのみならず、名前だけ入ってるクラスロインからもメッセージが飛んでくる始末。

 

 どうやら昨日のライブ光景がネットの海に流れているようで、ロインニュースでも流れていることを見て意識を失いかけたが、自らを褒め称えるコメントばかりで思わず笑顔が溢れてしまう。

 

 とはいえ好意的なものばかりではなく、中には自分の体に関するセクハラ的なコメントやアンチコメ、更にはクラスロインからも

 

『この仮面つけてるのって、もしかして後藤さんだよね!?』

『ミナ様と後藤さんって知り合いなの!? 弟子ってほんと!?』

『良かったらミナ様からサインもらえないかな!?』

『私はチケットが欲しい! 融通してくれない!?』

 

 なんて、話したことすらないクラスメイトから縋られる始末。どう返事しても角が立ちそうな上、下手したらいじめに発展するかもしれない未来に感情がキャパを超えて、口からこぱぁと溢れ出す。

 

「あわあわあわわわわ………ど、どうしましょう、師匠」

 

「一度ひとりちゃんを経由すると際限なく来るだろうから、無視でいいよ。理由としては師匠が事務所的にNGだって言っていい。とりあえず断る理由には全部お姉さんを使いな。遠慮しなくていいから」

 

「わ、わかりました」

 

 おっかなびっくり、言われた通りにメッセージを返せば最初はごねていたが渋々と言った感じで引き下がってくれた。それらを処理した後、溢れた感情を飲み込み直して、ひとりは結束バンドのグループラインに返答する。

 

『ご、ごめんなさい………許してください』

『あ、別に責めてるわけじゃないからね? ただ、ちょっとびっくりしちゃって』

『ぼっち、ソロだとあんなに上手いんだね。下手したら、ううん。私よりも上手い』

『だから言ったじゃないですか! 後藤さんは凄く上手ですって!』

『うん。郁代の言葉が真実だとわかった。だからこそ、ちょっと真面目にならないといけない』

『そうだね、リョウ。あ、ぼっちちゃんは気にせず旅行楽しんでね! お土産は白い恋人でよろしく!』

『後藤さん! 今度は皆んなでどこかに行きましょうね〜!』

 

「つ、疲れた………普通の人って、こんなキラキラしたやり取りを毎日してるのか………」

 

「そこは人によるだろうけど………うわ、電話だ。ごめん、ひとりちゃん、スピーカーにしてもらっていい?」

 

「あ、はい。よいしょ」

 

『ちょっと、ミナ!! アンタ、ライブ前に何してんの!? 今何処にいんの!? まだ宮城!?』

 

 師匠から震える携帯を受け取り、スタンドに立てかけてスピーカーにすれば、鼓膜をつんざくほどの怒声が飛び、ひとりは衝撃に耐えられず粉となって後部座席に避難した。

 

「聞こえてるよ、マネージャー。今、青森ついたとこ。何か機嫌悪いね。何かいい事でもあったのかい?」

 

『アンッッタタチのせいでしょうがぁぁ!! 飛行機のチケット、わざとアンタの分だけゴミ箱に捨てられてるわ、ススキノで豪遊に加えて、キャストをお持ち帰りして問題起こすわ! とどめにロインニュースよ! 私に朝のコーヒーも飲ませないつもり!?』

 

「普段飲むの、紅茶じゃないか。それより、男達は使い物になるのかい? 今日は午後から打ち合わせだろう?」

 

『2日酔いだから休むわ〜だってね! ふざけてんじゃないわよ! その癖、後からうだうだ文句を言う癖に! 私はアンタらの召使いじゃないのよ!! というかそもそも今回はリーダーが詳細決めたいから場を設けたのよ! 私の労力返してちょうだい!』

 

「わかった、わかった。午後からの打ち合わせには私が参加するよ。それまでには北海道着くから………ホテルの手配だけ出来てるかな?」

 

『………出来てるわよ。弟子を連れてくるんでしょ? ついでに部屋も取ってあげたからお金は自分で払いなさいよ。念のため、奴らとは別のホテルにしたから。スキャンダルはやめてよね?』

 

「わかってるよ、それじゃあまた後で」

 

 スピーカーを切ってため息を吐く師匠の横にツチノコ一人が助手席へと舞い戻る。渋い顔の師匠は心配そうな弟子を見ると表情を切り替えて、いつものように安心させるように笑う。

 

「いやあ、皆から頼られるギタリストは辛いねえ。悪いけど、ひとりちゃん。お姉さんは仕事が入ったからホテルについたらすぐに行かなくちゃならないんだ。部屋には入れるようにしてるから、観光してもいいし、引きこもっても構わないから………」

 

「あ、あの………もしかして、バンド仲間と上手くいって、ああいや! なんでもないです! わ、私海鮮丼が食べたいな〜!」

 

「誤魔化し方が下手だね、ひとりちゃん。昨日から結構ぶっこんでくるけど、何か心境の変化でもあったのかい?」

 

 言えるわけもない。後藤ひとりは対コミュ力が著しく低いのだ。こういった感情はあるけれど、言葉として出力することができない。音楽としてしか出力出来ない悲しきロックモンスターなのだから。

 

 ただ、あの夜見た横顔が泣くのを耐えているように見えたからなんて。今、彼女に伝えて何になるというのだろう。

 

「い、いえ、ただ気になった、だけなので」

 

「いいよ。気になるのも分かるからね。いつかはちゃんと話すさ………私にギターで勝てたらね」

 

 遠回しに話す気はないと告げられて、ひとりはそれを最後に口を閉ざす。少しでも滞留する良くない空気が変わるようにと窓を開けながら。

 

 

 

 

(こ、こんな高級ホテルに私みたいなやつが入っていいの!? あ、今すぐにでもなんでもないですよ、ぐへへって顔をしながら立ち去りたい! でも師匠がここで部屋を取ってくれたって言うし………いやでも、その)

 

 北海道石狩市の某ホテルの真ん前に放置された後藤ひとりはホテルの前に立ち尽くしていた。ちょっとしたイベントすら起きそうな高級ホテルを右往左往するひとり。あまりのラグジュアリーさに気圧されているようで見るからに挙動不審だ。

 

(そ、そうだ。師匠が帰ってくるまで待てば………いや、帰りが遅くなるかもって行ってたから入らないと不味いかな………ギターも重いし、部屋に預けられるなら預けたいけど………荷物を開け閉めたりしたらホテルマンの人が気遣いで声をかけてくれたりしないかな)

 

 ホテル入り口で荷物を開け出した姿に、いよいよ警備員はマイクを口元に当て始めたし、観光客達も気味悪がって近づかない。このままでは不味いと意を決して、ホテル内に入ろうとするが、そそくさと入り口から離れてガラス越しにロビーを見るという犯罪者より露骨な行動を繰り返すのみ。

 

 剛を煮やした警備員が遂に動き出そうとして、

 

「見つけたわよ!! あんたがあいつの女ね!!」

「ふれでぃ!??!」

「ちょっと話があるからついて来なさい!」

「えっ、あっ、チェックイン………」

「いいわね!?」

「あ、はい」

 

 そこに割り込んだのは黒を基調にしたコートと帽子と言うクールなファッション、小柄な身長と人を少し威圧するツリ目。大きなツインテールが特徴のクールな美少女だった。

 

 彼女は肩を怒らせながら、荷物をかぱかぱ開くひとりに詰め寄るとその手を引いて、ホテル内へと入り込む。そのままロビーを通過して併設されてる喫茶店の席に座ると、彼女の方から切り出した。

 

「貴方、あいつの女なの?」

 

 鋭い目つきのまま、刺々しい印象は隠そうとせず、直球ストレートに投げかけられた言葉に対し、バッター後藤ひとりは、

 

「す、すいません。埋めないでください………お金なら払いますから。こ、殺さないでくださいぃぃ」

「人聞きの悪いこと言わないで!? 私はただ聞きたかっただけよ!」

「あっ、断末魔とか聞きたいタイプなんですね………その、い、いいご趣味をお持ちで………」

「私は殺人鬼か!! 別に取って食ったりしないわよ! ただ、私の質問に答えて欲しいだけだから!」

「実はアカウントの概要欄は全部嘘なんですぅ………だから、陰キャ嘘つき罪で死刑はやめてください………」

「アンタの世界で私はどう見えてるの!?」

 

「すいません、お客様。他のお客様もいますので、もう少し声を落としてください。後、ご注文を」

「「ごめんなさい」」

 

 注文した珈琲が届き、ミルクと砂糖を大量にいれるひとりの姿に引きながらもツインテールを結った彼女から話を切り出す。

 

「自己紹介がまだだったわね。私は大槻ヨヨコ。高校2年よ。新宿FOLTってライブハウスにある【SIDEROS】って言うバンドでギターボーカルをしているわ」

 

「あっ、後藤ひとりです。高校1年で………下北沢で結束バンドのリードギターしてます………て、手を出すなら私だけにしてください………み、皆んなには手を出さないで」

 

「だーかーらー………いえ、私が悪いのよね。ごめんなさい。私はその、言葉は強いけど………貴方を害する為に来たわけじゃないの。ただ聞きたいことがあって、わざわざここまで来たのよ」

 

 差し出されたのはスマホ。映っているのは昨日の対戦動画で、フリックすれば肩を並べた記念写真などがあった。それを慈しむかのような彼女の顔からは角が取れた年相応の表情が浮かんでいる。

 

「聞きたいのは彼女のこと。私が作ったSIDEROSの初期メンバーでリードギターやキーボードをしてくれた大事な人──仲間ミナについて」

 

「し、師匠の事についてですか?」

 

「やっぱり………貴方、【二代目】ギターヒーローね。貴女の動画見させてもらったわ。悪くないわね、まあまあよ。私に比べて、まあまあ」

 

「あっいやぁ……えへぇ……違いますよぉ……へへへ」

 

「それだけ緩み切った顔見せられて信じられると思ってんの? というか、アカウントの方にもピンク髪乗ってるんだからすぐに分かるわよ」

 

「に、人気者は困りますねぇ………有名税って奴かなぁ………えへへ。次から、歯ギターとかで盛り上げた方が………にへえ」

 

 師匠と同じバンドで活動していたギターボーカルから褒められて、だらしがない破顔し切った顔を隠せないひとり。いつものように承認欲求が満たされて、変な行動をやり出そうとする彼女にヨヨコは眉を顰めて、

 

「そんな事言ってる場合? 貴女達は今、分岐点にいるのわかってる?」

 

 ひとりに冷や水を浴びせてくるのだった。

 

 

 

 

「………良かったなお前ら。チケット完売だぞ、完売。これ以上ないくらいのスピードでな」

 

 ライブハウス【STARY】の空気は重い。

 開店前の室内には、ひとりを除いた結束バンドの仲間達が集まっていた。別に彼女を仲間はずれにしたいわけじゃない。ただ、彼女を傷つけたくないからこその集まりだった。

 

「やっぱり、そういうことだよね」

 

「事態はかなり早く動いてる。多分、この問題の扱い方を間違えたら………()()()()()()()()()()()()()()

 

「え!? なんで後藤さんがやめるとかそういう話になってくるんですか!?」

 

 虹夏とリョウの顔は深刻だ。一方で事情を知らないまま、緊急だからと呼び出された喜多の質問に2人は顔を見合わせると、とある動画を喜多の前に差し出す。アカウント名は【guiterhero】

 

「え、これって後藤さんですか!? 凄い! 100万人からフォローされてるし、再生回数も半端じゃないですね!」

 

「郁代、そこじゃない。コメント欄を見て」

 

「コメント欄………えっと、『ギターヒーローはやっぱりミナ様の弟子だった!』『見た感じかなりの美少女ギタリスト! 下北沢だっけ? バンドで活躍してるのって!』『見つけた! STARRYってライブハウスにいるみたい!』凄く話題になってるじゃないですか! 何が問題なんですか?」

 

 事の重大さが分からない喜多にどう切り出そうか悩む二人。それを見て、助け舟を出したのは今回の騒動での恩恵を受けた店長だった。

 

「話題になってるのが()()()()()()()()なのが問題なんだよ。例えばだが、ジョン・レノンがいきなり日本でライブをする事になった。バックバンドはビートルズではなく、日本の知名度が低いバンドだ。ライブの結果は失敗。この場合、聴衆たちは何が問題だったと考える?」

 

「うーん、やっぱりビートルズが演奏しなかったら?とか言うんじゃないでしょうか」

 

「正解。要は世界的なボーカルと実力が釣り合っていないからな。ファンが多いほどボコボコにされる。じゃあ、今回の場合は?」

 

 そこまで言われて喜多の体から血の気が引く音がした。ギターヒーローが後藤ひとりであるとバレた事は観客を増やすことに成功し、利益や知名度は爆上がりしただろう。

 

「でも、私達の………()()()()()()()()()()()()()()()()。それどころか、付属品扱いされてる?」

 

「ぼっちの技術は間違いなくプロでも通用する。今はそれを抑えてリードギターを続けてもらってるけど、ファンからしたら関係ない」

 

「私達がギターヒーローの足を引っ張ってるって思われちゃうよね」

 

 虹夏の意見にリョウも真面目な顔で頷いた。今では仮面のおかげで合わせやすくはなったが、それでも画面の向こうのヒーローの魅力は半減している。

 

 皆が想像するのは、画面の向こうの最高にかっこいいギタリストだ。それが学生バンドにしては滅茶苦茶上手いくらいの演奏を見せられたら、一気に掌を返してくるだろう。

 

「それにきっとぼっちは耐えられない。ネットに作った自分の居場所が、現実で漸く出来た居場所を壊そうとする。きっとぼっちは責任感じて抜けるかもしれない」

 

「そんなのダメですよ! 私達は後藤さんも含めて結束バンドなんですから!」

 

「だからこそ、私達も覚悟を決める必要がある。これをミナ様が気づいていない訳がない。わかっててやってるんだ」

 

「ぼっちちゃんをわざと孤立させようとしてるってこと? 何のために?」

 

「分からない。弟子っていう自分の所有物をずっと手元に置きたいからかもしれない。もしくは単に試練のつもりかもしれない。でも乗り越えられなかったら、私達はここで終わる」

 

 現状を再確認し、重たい空気が場を支配する。

 だけれど、ある意味でいい空気だった。

 

「つまり、私達はまだまだ成長しなきゃいけないって訳だね」

 

「ん。色々言ったけど、そういう事。ライブのスケジュールや新曲とかももっと色々考えなきゃならなくなった。もう、私達はお遊びではやれない」

 

「やるからには本気で、って事ですね。わかりました! 私が一番足を引っ張ってるんですからもっと練習量を増やします! 後、リョウさん! 良かったら私にギター教えてもらえませんか!」

 

「レッスン料金は高いよ。それで虹夏、具体的な目標はどうする?」

 

 お遊びではいられない。本気で音楽に取り組まなければもう居場所がなくなるところまで来ていると。むしろ、好都合だ。尻に火がついた事で逆に燃えてくるのが彼女達だった。

 

 そして、1番燃えているのが虹夏だ。

 夢であるこのライブハウスを人気にしたいと、そのチャンスがピンチの中に眠っていると知り、無意識に腕を抑えていた。

 

 ──武者震いだ

 

 あの日、皇帝に馬鹿にされた時から今日まで悔しさをバネにして頑張って来たのだ。だからこそ、あのライブで人の目を惹きつけることが出来た。

 

 自分達なら、絶対にやれる。無理だ無駄だと言われたら余計に燃えるのがロックなんだと、反骨心をメラメラと燃やしながら提案する。

 

「なら、見せてあげようよ。皆んなが見たがる景色を"10秒"だけ」

 

 そして、彼女達は結束する。

 そして、北の大地にいる彼女は──

 

 

 

 

「お話は分かりました。ですが、私達は負けません」

 

 ヨヨコが噛み砕いた今後に起きる話を聞いて、ヨヨコが想像していたのは慌てふためくひとりの姿。しかし、彼女は全ての話を聞いた後でもその顔に翳りはなく、むしろ堂々と言い放つ。

 

「私達は4人で結束バンドです。普段は、結束なんてないですけど………実際、私は夏休み誘われてなかったですし」

 

「貴女も友達がいないのね………」

 

「でも、バンドでは繋がっています。音楽を通じて何かを成したい。それが私達結束バンドの結束力です。私を、私達をみくびらないでください!」

 

 ヨヨコの目が大きく開き、そして不敵に笑った。

 

「なら、私達はライバルね。絶対に負けないから」

 

「いえ、勝つのは私達です」

 

 目の前に生まれた今まで知らなかった強敵の存在を楽しみながら。




「と、ところで貴方はこの後暇かしら? 良かったら、北海道見て回ったり………」
「え、あ、はい」

(観光地を一緒に回るギタリスト………これってもう友達よね!)
(し、知らない場所で心細かったし、いい人そうだし、いいよね)
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