闇堕ちした初代ギターヒーローを二代目が救う話 作:火内coach
「いや、私もね、考えてなかったわけじゃないのよ? 本当は今日だって、バンドの練習があったわけだし、ただあの動画を見ていてもたってもいられなくなっただけで、急いで飛行機の最終便に飛び乗ったわけ」
「あっ、そうなんですね」
「まあだから、バンドメンバーからはお叱りの電話受けたし、泊まる場所がないからネカフェで体は痛いし、べたつくし、散々だったわよ。本当に」
札幌市まで移動して、何故だかソフトクリームを食べながら歩く2人のギタリスト。あの後、話の流れから明日のフェスまで暇だと言う事で2人して、観光地に飛び出して来たのだ。
基本的にはヨヨコが話題をふっかけて、ひとりが相槌を打つだけだったがギターやロックの話という共通の話題もあってか、気まずい沈黙が流れることもなく、なんだかんだで和気藹々と観光地を巡っていた。
時計台のしょぼさにがっかりしたり、赤れんが庁舎で歴史を学んだりと比較的メジャーな観光地を巡ったところで、2人は大通公園で並んで座ると、
「ほ、本日はありがとうございました………今日という日は忘れません」
「何でもうクライマックスに!? これからでしょ!? まだ海鮮丼も食べてないわよ!?」
楽しもうと思った矢先に終わろうとしてる全身ピンク。今はガーリー系の美少女は観光してソフトクリームを食べたのが、かなりのビッグイベントだったらしい。
「これで涙拭きなさい。大丈夫、まだまだ楽しい事はこの先もあるから。気持ち切り替えなさいよ。明日だってフェスがあるんでしょうが」
「う、うぅ……」
ハンカチを借りて楽しかった思い出が涙になっていくのを止めようと模索。それを邪魔しないようにと座り直したヨヨコは透き通るような空を見ながら、なんて事ないように呟く。
「昔、私もミナにそうやってもらった事があったわ。私の時はシルクのハンカチで。値段に目玉が飛び出しかけたけど」
「え、えっと………ヨヨコさんは、その、いつから知り合いなんですか?」
「ミナは、私の家の近所に済むお嬢様でね。一代にして成り上がった建設会社だったのよ。幼い頃から、習い事たくさんさせられて嫌気が差していたらしいわ」
彼女の視線は目の前を見ていない。過去の情景を瞳に写し、懐かしむように歌うように聞かせる。まるで過去に起きた事実を知って欲しいかのように。
「私は幼い頃からそのピアノの音が好きだったし、ミナの事も好きだったわ。よく遊びに行ってはケーキとか食べさせて貰ってたの」
「な、仲のいい姉妹みたいですね」
「ええ。ミナは私と3つ離れてただけだし、実際姉妹と言われても過言ではないわよね」
今、聞き捨てならないことを聞いた事でひとりの脳がフリーズ。再起動に5分かけると、現在の年齢から逆算して恐慌する。下手したらきくりや店長さんよりも年下である事実に。
「………え? って、事は、今の師匠は………20歳ですか!?」
「何よ、その顔。まさか、アンタもっと歳食ったババアとか思ってたわけ!?」
「べべべべ別にそそそそんなことはないですよよよよ!? 28歳くらいかなとか思ってないですから、本当に! だから師匠には内密にお願いします!!」
「言わないわよ………本人も老け顔な事気にしてるらしいし。まあ、あんだけ煙草を吸ってピアスバチバチに開けてたら肌も劣化するってもんよね。昔はもっと清純派だったのよ、信じられる?」
(全く信じられない)
「信じてないって目してるわね。えーと、確か………あったあった。ほら、これ見てみなさいよ! 初代SIDEROS結成時の記念写真! これが私で隣がミナよ!」
ヨヨコが差し出すスマホの中には今より幼い顔つきの彼女がギターを持っている姿。その隣で軽やかに笑う背の高い女性がいた。ポニテをした健康的な美少女が秀華高校の制服をきっちり着こなしながらキーボードケースを持ち歩いている。
脳裏に午前中、車を運転していた師匠を思い返す。耳にはバチバチのピアスを決めて、黒に紫のメッシュを入れたワンレンボブ。笑い方は冷めていて、陰気的。キーボードはファンからの貢がれた手入れすらしてないギターへと変わっている。
何というビフォーアフター。人類の神秘、ここにあり。
「えっ、あっ、その………ワープ進化、しました?」
「分かる。それ、私も思ったわよ。久しぶりに再会したらあんなホストに金を貢ぐためにパパ活やってそうな見た目になる!? ドロップアウトしすぎでしょ!」
「あっ、はい」
「いやまあ、確かにミナは高校中途退学してるから人生投げ捨ててるんだけど初恋の人がそういう姿になってるのは精神的にクル、って言うか、原因の一因を担ってるってなるとやっぱりちょっとね………」
(私みたいに陰のオーラの高まりを感じる………)
ヨヨコが過去を思い返して行くたびになんだか背中からきのこが生えて来そうなくらいに陰気なオーラが集まっていく。ひとりはちょっと自分を見てるみたいで安心した。
それはそれとして気になるワードが逐一入って来る事に、ひとりは頭を悩ませていた。
(どうしよう………師匠とヨヨコさん過去話、すごく気になる。師匠は絶対に話さないだろうから、こういう場じゃないと聞けないだろうし、でも他所様の黒歴史を漁るのは………ああああっ!)
「ミナはきっと私の事を恨んでる。そうよね、許されない一言を………ってアンタ何して、いやそもそもどうなってんのアンタの体!? タコ!? タコ人間なの!?」
思考がパニックに繋がった事でメンダコと変わったぼっちを信じられないものを見るヨヨコ。それでも彼女が人間になるまで見守ってくれるのはある意味いい子である事には違いない。
「世の中にはアンタみたいな変人がいっぱいいるからね………17歳と偽ってぶりっ子してる23歳のライターとか」
ただ、歯に物着せない言い方が多いだけで。
*
「あのライター、きっとバンドマン舐めてんのよ! そりゃ、私達は歳下だろうけど、仮にもインディーズで話題のバンドなんだからもう少し礼儀ってもんがあると思うわけ! アンタもそう思わない!?」
「あっ、はい」
(どうしよう、結局聞き出せなかった………)
その後、会話は遭遇した事ある変人に移行。自称17歳と偽る23歳のライターと愚痴で滅茶苦茶盛り上がっていた。主にヨヨコが。
何か恨みでもあるのだろうか、止まることを知らない口撃に海鮮丼で回復したひとりの精神ポイントはガリガリと削られていく。
「ついたわね。じゃあ、私は別のホテルだから」
(ああ、まずいまずいまずい! せっかくのチャンスが………こんな時、喜多さんなら、虹夏ちゃんなら、リョウさんなら!)
だからって、自分から切り出す勇気があるわけもなく、ヨヨコの話題に頷く赤べこ状態を続けているうちにホテルへ帰宅。もう、解散の空気が漂う中、何とかして師匠の取っ掛かりを掴もうとひとりは脳内の仲間たちに助けを求める。
『簡単よ! ミナさんについて教えてください!って言えばいいの!』
(それが出来たら苦労しません!)
『ご飯とか食べながら遠回しに聞いてみる?とか?』
(そんなコミュ力ありません!)
『バンドマンなら音楽で語ろうぜ!』
(役に立たない!!)
本当に大事な時以外は結束できない脳内仲間達。頼りにならない味方を差し置き、ひとりは背を向けて駅へ歩き出そうとするヨヨコを目で追って情けない自分に嫌気が刺す。
(そ、そもそも自分が聞き出したところで師匠に何か出来るわけでもないし………余計なお世話とか思われたら確実に死ねる! そう、これでいいんだ………これで)
「後藤ひとり」
「は、はひっ!?」
「ミナの事、頼むわね。歳上の癖に甘えん坊でだらしがなくて、誰かの為に頑張れる素敵な女の子だから。アンタには懐いてるみたいだし………私みたいに手を離しちゃだめよ」
うじうじと自分を責めていた彼女へヨヨコが振り向きながら声をかけた。その顔には何かを諦めたような色がありありと浮かんでいるのに、声だけは自分を卑下するような感じに既視感を覚えた。
その対象が誰かなんてすぐわかった。同時に、今ここで彼女を帰らせてはいけないことも。既視感の正体が色々やめる理由をつけて、逃げようとする今までの自分によく似ていた事も。
「あ、あの! 良ければ! 明日! 私とフェスを見に行きませんか!」
「………え?」
だからこそ、声が出た。間違ったような震え声で。されど初めて出した誘いの言葉。情けなくてみっともない。断られたりしたら、涙が出てくる自信がある。だけど、彼女を放っておけないのは後藤ひとりも同じなのだ。
「わ、わざわざ宮城じゃなくて北海道に来たって事は分かってたんですよね? チケットも取ってるんですよね? なら、尚更です! 行きましょう! 一緒に! 師匠を応援しましょう!」
「いや………でも、彼奴が元気そうなら」
「元気なだけなら、ニュースを追えばわかったはずです。聞きたかったんですよね? 見たかったんですよね? し、師匠が今、どんな顔でどんな音を出しているのか。心配だったから、来たんですよね?」
「だとしても………貴方にそこまでする筋合いはないわよ。だって、私達別に今日初めて会っただけの関係でしょう? ミナを起点にした繋がりの浅い仲じゃない」
なんで?と言いたげなヨヨコの目は鏡でよく見た自分に似ていた。ずっと妄想していた。何で自分に仲良くしてくれるのか。と聞いて、こう返して欲しいとずっと思っていたから。
憧れていた関係性を言葉にして、伝えて欲しかったから。
「──と、友達だからです! 友達を心配するのはおかしな事ですか!?」
一瞬、なにを言われたのかわからないとばかりにヨヨコの中の時間が止まった。時間が動き出すまでにおそらく数秒。しかし、動き出してからも彼女はひとりの言葉の意味がイマイチ飲み込めない。彼女は今、なにを言ったのか。
「な、なんでそんな驚き顔で固まってるんですか」
「いえ、突然に私の知らない人物名が出たものだから話についていけなくて。それで、そのトモダチさんってのは、えっと?」
「どんな結論に達したんだかわかりませんけど、さ、最初から間違ってますよ! トモダチじゃなくて友達! 友人です!」
「友達!? 誰と誰が!?」
「わ、私と! ヨヨコさんが!」
信じられない、と目を見開くヨヨコに緊張に息を切らすひとりも愕然。言葉選びを間違えたかもしれないと慌てて手を振りながら、弁明する。
「た、確かに私みたいなプランクトンより少しマシな人間でも………同じ人を心配して、だけどその技術に憧れて………こんな北の大地まで来てるんです。同じギタリストでバンドマンが。それだけの共通点があって何より──楽しかったです。今日一日が」
途中から照れ臭くなったのか、鼻を指で掻きながら視線をそらすがひとりの言葉を聞きながら、沈黙を守り続けるヨヨコに不安げにちらちらと視線を向けてしまう。
不安が見えるのは、彼女の口にする内容にヨヨコが肯定らしいことをなにも言わないからだろう。友情の押し売り、とでも考えているのかもしれない。
「──っ!!」
「え?」
「そ、そうよね! 一緒に遊んで、観光して、ギターの話やミナの愚痴で盛り上がって………不安な顔で心配してくれる。そっか、これが友達なんだ。そっか」
大槻ヨヨコに友達はいない。バンド仲間達はかろうじて言えるかもしれないが、その関係性以外ではあまりにも狭いと言えるだろう。
少し前までは仲介してくれたミナがいなくなって、自分があまりにも他人との対話スキルがない事を知って、それでも治せなかった自分が情けなくて、泣いた事すらあった。
本人のストイックな気質に荒い口調、噛み付くような態度を嫌って離れていく人達が多い中で、"友達だから"と口にして、心配してくれた彼女がどれだけ救いになったか。
ヨヨコの自嘲と自戒、それがわからずにひとりは今も疑問を顔に浮かべている。そんな彼女にヨヨコは微笑を作り、どこか晴れやかな気分で息を吸い、
「ありがとう。貴女は私の友達よ、ひとり。──誘ってくれてありがとう。明日、一緒にフェスに行きましょう」
ヨヨコは逃げ出すことよりも進む事を選び直した。
そろそろ主人公を出したい
この小説はどこで終わるべき?
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文化祭ルート(新宿FOLTでミナと勝負)
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未確認ライオット