闇堕ちした初代ギターヒーローを二代目が救う話 作:火内coach
仲間ミナにとって"ライブの日"は憂鬱なモノだった。
演奏すること、歌う事。それだけが唯一の楽しみで心の支えであり、聴衆を楽しませる事だけが、生き甲斐であった。
「皆、出番だよ。準備だけはしといてね」
「口うるせえな、オレらの母親かよおめーは」
ライブをやる事、それ自体は問題ではなく、"このバンド"でライブをやる事。それが彼女の悩みのタネだった。
自分が入った当初はまだマシだった。問題を起こすこともあったが笑って許せるくらいの些細なものだったから。
それがライブで成功を重ねるにつれて、あれこれ文句を付け出した。
『作詞作曲してるからって給料が多いのはズルい』
『あのスタッフが文句をつけて来たから変えたい』
『この女優を口説きたいから仲良くしてこい』
インディーズが憧れるメジャーレーベルのバンドだとしても、彼女にとっては苦痛なものだった。
"真面目に音楽に向き合わない"
全てを捨てて、唯一手元に残った自らの証明を汚すバンドメンバーが彼女にとっては許せなかった。
急かすマネージャーに平謝りして、大勢の観客たちの前に飛び出す時に彼女はいつも思う。
『SIDEROSにいたら私はまだ………笑えていたかな』
ライブが──始まる。
*
「何よ、これ」
当日、友達とのフェスという初体験にドキドキワクワクして眠れなかったギタリスト2人は死にかけの体にカフェインをぶちこんでアドレナリンで無理矢理覚醒していた。
しかし、ひとりはライブに来た観客の多さに既にグロッキー。ヨヨコはそんな彼女を情けないと言いつつも甲斐甲斐しく世話を焼くと言う美しい友情のひとときを過ごしながら、彼女の出番を待つ。
そして、遂にその時が来た。
「レディース、エーンド、ジェントルメーン!! 長らくお待たせいたしました!! 彼女らを見るために北海道まで来た人たちも多いでしょう!! さあさあひれ伏せ! 愚民共!【INSH×ROCK】の登場だぁぁぁぁぁ!!」
大地が爆発したような歓声に土に還かけていた後藤ひとりが息を吹き返す。黄色い悲鳴が、発狂するような叫び声がステージに立つ4人に突き刺さる。
その中でも目を引くのは、気高さを纏うギターボーカル。
音の皇帝、"鳴皇"仲間ミナだった。
「やあ、臣下達。今日は来てくれてありがとう!! 君たちの熱はまだ冷めていないよね!! ならよし! せっかくだ! 北海道に雪を降らせないほど………熱く盛り上がっていこうか!! リーダーお願い!」
MCを終えてリーダーと呼ばれた金髪の男がギターをかき鳴らす。全身に込めた情熱を流すように奏でられるリードギターは観客達の心を鷲掴みにしていた。
そして、ドラムは安定感ある音でテンポを刻んでいるがよく悪くも響いてこない。音が抜けてこないのだ。力任せに叩きつける荒っぽい音は確かに場の熱気を上げるにはもってこいだが、ただ五月蝿いだけとも思えた。
最後にベースは過度なアレンジにやたらハイポジションで動きたがるし、そこで?というところでベースライン動きまくっていた。自分の世界中心で弾く分に楽しいかもしれないが、ここはステージで観客もいるというのに。
ただ1人を除いてお遊びバンドだと言われてもおかしくはなかったが、ライブに来た観客たちは関係なく盛り上がっている。
ひとつひとつを分解すれば、落第もいいところのバンドをたった1本の旋律でかろうじてバンドの形を成しているのだから。
今更ながら、ひとりは思った。誰もが、師匠を褒める時にバンド名ではなく、"鳴皇"と呼ぶ事を。これを聞いて、師匠がバンド名で名乗らない事を漸く理解した。
「あの、何か………息が合ってないような気が………」
「こいつらよくやるのよ。自分の楽器すらまともにやらないとかバンドマン舐めてんの? これだったら私達の方が百倍いい演奏するわよ」
下手すぎる。そんな強い言葉を使えるわけもなく、オブラートに包みまくった言葉をばっさり切り捨てたヨヨコに慄きながらも、耳を澄ませて手を握る。
正直な話、もうここにいる意味が見いだせなくなった。噛み合わないギター、突っ走るベース、乱暴なドラムが奏でる不協和音をもう聞きたくなかった。けれど、ひとりはただ耐えていた。1番辛いのが誰か分かっていたから。
(誰よりも辛いのはきっと師匠だ)
自己主張が強いメンバー達をなんとか纏めて、調律し、ライブを失敗させないようにする事だけに苦心する孤独の王にひとりは小さく応援する事しか出来なかった。
2曲、3曲と時は過ぎる。あっという間なんて言えやしない。あまりにも退屈な時間の中で、遂に最後の曲が始まる。その時に、確かに見えた。彼女の視線が自分達に向いたことを。
そして、申し訳なさそうに笑っていた事も。
「これは………道を違えた仲間に捧げる曲です。"ライト"」
初代ギターヒーローのソロから始まるその曲は今までとは一味違った。周りのメンバーがでしゃばらず、自分の役割を忠実に演奏していたからだ。
「ミナの奴………最後の曲だけ、まともにやらせる為にわざと好き勝手にやらせてたわね」
「つ、つまり、師匠は最後の曲以外捨ててたって事ですか?」
「ええ。だからしっかり聞きなさい。ひとり。ここからがミナのライブよ」
「"ひと回り小さい君の手が痩せて骨ばってる僕の手を"
ためらいなく ぎゅっと捕まえて握り締める"」
最後だからと落ち着いた曲調で始まったのはバラードだった。恐ろしく寒い音色から伝わる孤独の音は観客達に息を忘れさせるほど、悍ましく美しいものだった。
「""「こうすれば迷子にならないね」"
それはこっちの台詞と 一笑したっけ"」
聞き逃せない、自分と対峙した時よりも遥かに上手いその演奏にあの時ですら本気で戦ってくれてはいなかったこと。ただのレッスンであったことにギタリストの矜持が酷く傷つくが、それすら飲み込んで耳をすませる。
「"君はright いつだって隣にいてくれた"
"迷子になった僕の右隣 もう君はいないけど"
"幸せな未来を 手放さないように"
"そのやさしい手で 繋ぎとめてよ"」
「"君は正しい僕の光 闇に差し込む一筋の光
ずっと守るよ。そう願っていたはずなのに。
そして君はいなくなった。年月だけが過ぎてった。
なのに、僕は今でも奏で続けてるんだ" 」
最後のサビ、盛り上がる寸前のタメ。今か今かと待ち構える観客たちに響く──空気を読めないベースのアレンジ。
「………あっ!」
「さいっあく!」
上手くミナが誤魔化したので、気づいた者はほとんどいなかったが、いきなりのアレンジに、あの輪郭の冴えた精緻な構築物のような音楽は、既に見る影もなかった。
「"キミはright いつだって正しかった
新たな運命に 「幸せにして!」と願われたから"」
「"僕は夜明けの道を行く 君の思い出を抱えながら
奏で続ける 幸せの四文字を"」
それでも彼女は歌い切る。不調であっても技術的には高度なだけに、却って指だけよく回る表面的な演奏に聞こえつつもライブはここに幕を下ろしたのだった。
「何よ、これ」
時間は冒頭に戻る。帰ろうとする人波の中で抗うように立ち尽くすヨヨコにひとりはかけられる言葉がなかった。
強く握られた拳から悔しさや怒りがありありと伝わってきたから。
「あ、あの………ヨヨコさん」
「………そうね。帰りましょうか、ひとり」
「い、今から師匠に会いに行きましょう!!」
「へ? え!? ちょっと!?」
だから、ひとりは行動に移す。普段は承認欲求を満たす為だけに動き回る無駄な行動力が今日ばかりは功を奏した。戸惑うヨヨコの手を引いて、人波に飲まれながらもバックヤードへ向かう2人。
「はい、はい、この度はうちのメンバーがご迷惑を………はい、はい。早急に対応しますので、はい、はい。誠に申し訳ありません。以後、気をつけるように強くいいますので。はい、それでは、はい。失礼いたします」
何も考えなしの行動であったが、すぐに行動に移したことが良かったのだろう。バックヤード近くにいた眼鏡の女性が疲れたようにため息を吐いて、携帯をしまっていたからだ。
「あっ」
「えっ」
「あの人って確か………」
今にも死にそうな彼女はこちらを見つけると、目を擦り、つかつかとヒールを鳴らしてこちらに近づいてくる。ひとりはすかさずヨヨコを盾にした。ヨヨコは困ったように視線を空に漂わせている。
何か喋らなくてはいけない。ひとまず、ここに来た目的だ。相手は歳上、下手に出つつ、弟子の存在を仄めかせて彼女に会うために、ヨヨコは言葉を選んだ。
「み、ミナを返しにもらいに来たわ!!」
(うわぁ………)
期待を裏切らない攻撃的ロックモンスター。腕組みしながら、鼻を鳴らすというあまりにもあんまりな態度に相手の女性も眉を顰める。ヨヨコも肌寒いくらいなのにだくだくと汗を流し、宣言する。
「せ、選手交代を要求するわ!」
「許可します」
「行きなさい! ひとり!」
「あっ、はい」
悲しいかな生贄に差し出された消極的ロックモンスター。目の前に立つパンツスーツの女性に対し、ヨヨコの態度を見て省みた結果の最適解をここに叩き出す!
「も、モノマネします! 武田信玄!! 風林火山!」
「おばかっ!! なんでここで一発芸やるの!? 馬鹿なの!?」
空気を台無しにして場を白けさせる事なら天下一品のギターヒーロー。自分よりもイカれた発言にがっくんがっくんとひとりを前後に揺らすヨヨコを冷めた目で見ている彼女は眼鏡をくいっとあげて。
「お話は以上ですか?」
「「さ、作戦タイムを要求します………」」
「いいでしょう」
アホとバカの2人は最後のチャンスを無駄にしないためにもひそひそと会話をして、作戦を決めると向き直る。
「し、師匠に会いに来ました。一言、声をかけさせてください」
「ミナとは友人なんです。話だけでもさせてください」
「最初からそう言ってください。案内するように言われてるんですから」
シンプルイズベスト。頭を下げて誠実にお願いすれば、ミナのマネージャーは踵を返してついて来なさいと告げる。その背中を追いかければ、ベンチに座りながら煙草を吸う彼女がいた。
その灰皿にはしまいきれない煙草の量が彼女の不満を表してるようで。
「ミナ、連れて来たわよ。貴女の弟子と………親友の子」
「ありがとう、マネージャー。後はこちらでなんとかするよ。マネージャーはアイツらをお願い」
「ええ。あんまり飲みすぎないでよ」
マネージャーがその場を後にすると、最後に吸ったタバコと空の箱を捨てて水をかけてから立ち上がる。むせかえるほどの煙草の匂いに普段の彼女が自分に気を遣ってくれていたのかを、知ることにもなった。
「──久しぶりね、ヨヨちゃん。ご飯にでもいきましょうか」
そして、師匠の声が本来はもっと可愛いことも。
*
「えへへ〜ヨヨちゃんがいる〜ヨヨちゃん、ヨヨちゃん、なでなでして〜!! だっこして〜! ちゅーして〜!」
「だる絡みするな! それにこんな場所でしないわよ!」
「じゃあ、2人ならしてくれるんだぁ。なら、ホテルいこ?」
「誰が行くか!! ちょっと、ひとり! 助けてって………こっち見なさい! 目を逸らすな! ポテトで遊ぶなっ!」
(どうしてこうなったんだろう………)
師匠と友人と来たライブ成功の打ち上げはまさに地獄だった。ひたすら酒を飲む師匠に、どこで買って来たか不明なテーブルゲームを広げ出すヨヨコにひたすら唐揚げとポテトを食べるひとり。
あまりにも空気が重すぎる上に、誰も会話を切り出さないと言う絶望的な状況。普段、会話を回してくれる師匠はヨヨコをチラチラ見ては目を逸らしてひたすらに酒に逃げていく為、頼りにはならず。
『ライブ良かったですよね………』
『そうね』
『いまいちかな』
(だれかたすけて)
ひとりが頑張って会話をしても、全く続かないまま時間だけが過ぎる空間にひとりはもはや泣き出しそうになっていた。脳内結束バンドはリードギターのピンチに集結せず、解散の空気も流れないまま、無情に時が過ぎるのを待っていた。
だが、奴は弾けた。
「というかいい加減離れなさいよっ!! いつまで人のお腹に顔を埋めてんの!? セクハラで訴えるわよ!」
「いやだー!! 私はヨヨちゃんのお腹に還るのー! ヨヨちゃんに産んでもらって親子としてやり直すんだからー!!」
「アンタ、相当アウトな発言してるの分かってる!?」
ミナのキャパが遂にラインを超えたのだ。耳まで真っ赤な彼女は酒をジュースみたいに飲み干すと、隣に座っていたヨヨコに抱きつき、膝枕を強要。そのままお腹に腕を回し、妄言を吐き出し始めたのだ。
(こんな師匠見たことない………というか、見たくなかったなぁ)
ひとりの中で尊敬ポイントがガリガリ削られていく。もう少しでお金を返さないリョウとかと同じ値になりかけたところで師匠の声が少し変わった。
「えへへ〜嬉しいなぁ。ヨヨちゃんが来てくれるなんて〜ヨヨちゃん的には今日のライブどうだった〜?」
「さいっあくね。最後のバラード以外、下手したら私達の方が上手いってレベルよ。アンタもそう思うでしょうが」
「知ってる〜みんな酷いんだよ? 辛い事ばかり、お姉さんにやらせる癖に楽しいことから阻害するんだもん。お姉さん、疲れちゃった〜」
後悔が入り混じったような声だった。ひとりが知らない師匠の苦悩が酒の力で吐き出されている。またとないチャンスにひとりとヨヨコは頷き合い、ヨヨコが優しく問いかけた。
「そう? なら──SIDEROSに戻る気はないの? 今、私のバンドは最高のメンバーが揃ってるの。後は、キーボード。そう、貴方さえいれば………」
「それは、むりだよ。よよちゃん」
師匠の髪を撫でながら問われた慈愛の質問に、師匠は甘えながらもキッパリと拒否をする。それにヨヨコの目は揺れた。なんで?どうして?と言わんばかりの目を見ずに、師匠は彼女の腹に伝えるように唇を動かす。
「あの日、私の家族が夜逃げしたのも、ヨヨちゃんに拒絶されても、ぽやぁに引き抜きされても………全部、決めたのは自分だから。だから、今が辛いのは全部私の………せい、だ………から」
すーすー、と小さな寝息に師匠は寝てしまったことに気づき、ヨヨコは彼女の体制を少し変えさせた。流れる沈黙は何よりも痛かった。師匠の過去、その片鱗にひとりは戸惑えば、ヨヨコはコーラを一口飲んで、
「ミナはね………私達が泊まり込みで練習してた時に両親に夜逃げされたのよ。帳簿を誤魔化して借金もあったみたい。ミナは生贄なのか、囮としてなのかはわからないけど置いていかれたのよ」
静かに語り出した師匠の過去はあまりにも重たく、肝臓に拳を撃ち込まれたように響きわたる。それでも聞かなくてはならない。それはきっと師匠が仲間や絆を嫌う理由になるのだから。
「それでもミナは私達に隠して笑ってたわ。バンドは第二の家族って言うし、SIDEROSが心の支えだったんだと思う………なのに、私はその居場所を奪ったのよ」
「な、何があったんですか?」
「始まりは私が原因のメンバーとの対立だけど、その日の私は上手く演奏出来なくてイラついてたのよ。それを咎めたメンバーと喧嘩まで行きそうになって、ミナが宥めようとしたんだけど。私は言ってしまったの」
「な、何を?」
「──私の言う事に従えないならバンドをやめなさいって。もう、貴方達なんか仲間じゃないって」
「───」
絶句した。陰キャである自分が、他人より価値がないと思っている自分ではとても言えない台詞で、自分が言われたらもう2度とバンドを組めないような重たい言葉。
それをはずみで言ってしまったとしても、当時の師匠からすれば心の支えをいきなり奪われたようなものだろう。原因の一端はこの事だったようだ。
「翌日、私は反省したわ。だから謝ろうと思ったのよ。ライブハウスで私は待っていたわ。謝罪の言葉を考えながらね──そのまま、日付が変わったわ。誰も来なかった。ミナでさえも」
「し、師匠は? 師匠はどうなったんですか?」
「暫く、音信不通で私も受験生だったから暫く時間を置こうと思ったのよ。その間にバンドメンバーも集めながらね………ミナがメジャーデビューしたのは受験が終わってから知ったわ」
上手く呼吸が出来なくなりそうだった。泣きそうなヨヨコはそれでも涙を流そうとせず、毅然とした態度で何とか笑おうとしていた。大した事はないんだよ。とひとりを安心させたいがために。
「だから、ミナが弟子を取ったなんて聞いた時は驚いたし、恨みもしたけど、同時に安堵した覚えもあったの。今のミナが奏でる音に昔の彼女はもういなかったから」
それはひとりも思っていた。師匠との対決、自分の音すら奪ってくる圧倒的な演奏技術に、何故だか妙な空虚さを感じていたから。もし、彼女が心をこめなくてもあれだけの演奏が出来るなら………それはどれだけ虚しいのだろうかと考えるくらいに。
「だから、本当は今日で諦めるつもりだったのよ。だけど、ひとりがそれを止めてくれた。おかげで彼女の本音も聞くことができた」
「い、いや、私はそんな大した事はしてないですよ………」
「なら、私がそう勝手に思っておくわ。貴方は確かにヒーローだったってね」
今日1日浮かない顔をしていたヨヨコの初の笑顔に真正面からの賞賛に彼女は耐えられず、砂になろうとするのを何とか理性で押し留めて、ぎこちない笑顔で返すのだった。
*
「連絡ありがとね。ミナも久しぶりにこんなに潰れるまで飲んじゃって………全く」
「あ、あのホテル手配ありがとうございます………」
「気にしないで。料金は皇帝持ちだし、やけ酒に付き合ってくれたらしいからね。じゃあ、2人とも真っ直ぐ帰るのよ」
「ちょっと待って! ミナのマネージャー、貴女に聞きたいことがあるわ」
電話で呼び出したマネージャーがミナをタクシーに押し込む姿を見送ろうとした矢先、ヨヨコが強い言葉で彼女を呼び止めた。また下らない喧嘩を売るような態度なのかと、ひとりは身構えたが、
「貴女のところのレーベルにはどうやったら入れるの?」
投げかけられた質問は予想外のものだった。恨み言をぶつけられる覚悟をしていたマネージャーの目が大きく見開くと、僅かな静寂を経てその答えを静かに語り出した。
「私達のレーベルはある一定の実力を示せば、経歴は問わないわ。かなりの実力主義といっても過言じゃない。ミナがある程度自由を許されているのも国内トップクラスのギタリストだからに尽きるわね」
「まどろっこしいのはいいわ。具体的な条件を教えてちょうだい」
「
(む、無謀だ………未確認ライオットって確か師匠が言ってた。合計3000チームを超える全国からバンドマン達が集まる大会。勝つなんて、とてもじゃないけど無理………)
「なんだ、その程度でいいのね? 決めたわ。私達、SIDEROSは来年の夏の未確認ライオットに出場する」
今度はひとりが驚きのあまり、目を見開いた。絵に描いた餅、机上の空論。幾らでもその無謀さを馬鹿にできたのに、誰もが彼女の………SIDEROSのリーダー、ヨヨコの姿を笑えなかった。
「私達は優勝して、ミナを迎えに行くわ。今日、本音を聞いて決心がついた。私はまだ………ミナを諦めきれない」
「夢を見るのは若者の特権です。どうぞ、ご自由に。それで二代目はいかがしますか?」
「えっ!? いや? あのう………わ、私達は別に………」
急に水を開けられて戸惑うひとり。それもそのはず、彼女の中で大舞台で演奏するなんて夢のまた夢だと思っていたから。そもそもゴミ虫クソ陰キャの自分にそんな舞台は相応しくは──
「そうなの? じゃあ、ギタリストの腕は私が上って事でいいわね?」
「──ちょっと待ってください」
ない、と言おうとしていた口から別の言葉が漏れた。自分でもらしくない言葉だとは思うし、ヨヨコの方がボーカルも出来て多彩だとは思っている。
だけど、ギターの腕が負けているなんて………一度も思った事はない。自分を弟子だと、二代目だと認めてくれた自分の腕が劣っているなんて思わない!
「わ、私は師匠の名を継いでるんです。他はけちょんけちょんなプランクトンなので構いません。ですが、ギターだけは………これだけは譲れない」
その目に迷いはない。自分にはギターヒーローとしての自負があると言わんばかりの強気な態度にヨヨコもそうでなくっちゃと不敵に笑う。
「………決まりね。アンタ達も出なさい。未確認ライオット。10代バンドの頂点で決着をつけましょう。親友として、ライバルとして」
「構いません。だけど………勝つのは私達、です」
挑発に啖呵で返したギタリストをマネージャーは感慨深く見守るとタクシーに乗り込み、その場を後にする。揺れる車内の中、ぐだっているミナに膝を貸しながら、笑っていた。
「良かったわね、ミナ。もう、アンタを一人にしないって奴らがいっぱいて………アイツらと違っていいバンドマンじゃない」
マネージャー、かつてミナの追っかけだったファンは2つの光に小さな期待を抱かずにはいられなかった。
闇堕ちした初代ギターヒーローを救ってくれる、そんな淡い期待を。
⭐︎3評価が着いたのでルート分岐のアンケートです。
文化祭→ミナとの勝負で終了か、未確認ライオットまで行くか。
この小説はどこで終わるべき?
-
文化祭ルート(新宿FOLTでミナと勝負)
-
未確認ライオット