今回はアルラウネ族のお話となります
僕は彼岸花が好きだった。
理由は分からないが、あの花を見ていると安心する気がして好きだった。
9月中旬頃、知り合いからテニスボールより一回り大きいくらいの歪な形の種と植木鉢を貰った。
その種は花屋で買った物らしく、美人な人から言われるがままに買ってきたらしい。
しかし彼は花に疎く、育てる自信もないので僕に押し付けたのだと言う。
「育て方とかは聞いてないのか?」
「あぁ……そういえば『愛情を込めてお世話すれば大丈夫』って言われたけど」
「適当だな」
「まぁ、お前なら何とかできるだろ?頑張れよ!」
そんなことを言われて渡された種だが、僕はとりあえず植木鉢に土を詰めて水を注いだ。
そして水やりをする為にベランダに出て、そこで異変に気付いた。
「ん?芽が出てるぞ……」
僕の目の前には緑色の小さな稲のような葉が生えていた。
まだ植えていないにも関わず、既に葉が出ていることに少し驚いたが、きっと向こうの世界の植物か何かなのだろうと思い特に気にしなかった。
それから数日後、いつの間にか開花した。
「……綺麗だな」
開いた花は真っ赤に染まっており、思わず息を飲むほど美しかった。
彼岸花に似ていたが、それよりもずっと美しく感じた。
「でも何で急に咲いたんだろう?」
この種を植えてから10日も経っていないし、別に特別な肥料を与えたわけでもない。ただ単に水を与え続けただけだ。
不思議に思いながらも、何故か悪い気はしなかった。
それから数日経ったある日、いつも通りに家に帰ると花弁が閉じて蕾になっていた。
その次の日にまた帰ると、今度は完全に閉じており蕾すら見当たらなくなっていた。
「……えっ?」
訳がわからなかった。何故こんなことになったのか理解できなかった。
枯れてしまったのだろうかと思ったが、よく見ると根はまだ生きているようだった。
それから1週間後の事だった。
突然、茎の部分が伸び初めて数分後には蕾ができた。
「なんなんだこれは……」
もう意味が分からず、考えることをやめようとした時、それは起きた。
蕾が大きく膨らみ、ゆっくりと開き始めたのだ。
血よりも赤い彼岸花の花弁の中からは女性の上半身が現れた。
彼女は長い黒髪に白い肌をしており、目はどこか虚ろで光が無かった。
まるで人形のように生気が感じられず、呼吸をしている様子もなかった。
ただそこに存在するだけの彼女を見て、僕はなぜか恐怖を感じなかった。
むしろ美しさを感じる程だった。
「……やっと…あえたね……」
彼女は拙い言葉でそう言うと、ゆっくりと手を伸ばしてきた。
僕はそれを掴んでいいものなのか迷ったが、結局彼女の手を握り返した。
「君の名前はなんていうの?」
「……わたし…なまえ…ない……」
「そっか……じゃあ僕が付けてあげるよ」
「うん……つけて……」
彼女に名前を考えている間に、ある疑問が生まれた。
そもそも彼女はいったい何者なのだろうか? 植物のようなものに見えるが、それにしては人に近い姿をしている。
それに先程の会話も普通に成り立っていた。
「……どうしたの?」
「あっ!ごめん……そうだな……」
考え事をしていたせいで黙り込んでしまった僕を心配して彼女が声をかけてくれた。
「君は『ラジィ』っていう名前はどうかな?」
「ラジィ?それが……なまえ?」
「うん、どうだい?」
「うれしい……ありがとう……」
そう言って彼女は嬉しそうな顔をすると、そのまま静かに消えていった。
それからというもの、毎日のように彼女と話すようになった。といっても大体彼女が一方的に話しかけてくるだけで、僕が何かを話すということはなかったのだが……。
しかし彼女はとても楽しそうだったので、僕も自然と笑顔になった。
「ねぇ……あなた……はな……すき……なの……?」
「あぁ、好きだよ」
「そう…なんだ……じゃあ……わた……しも……す……き?」
「もちろんさ」
「ふふ……うれ……しい……」
そんな他愛もない話ばかりしていたが、僕はそれでも良かった。
彼女といる時間が楽しくて仕方がなかった。
「今日は何をしようか?」
「ん……きょうは…あなた……といっしょ……にいた……いな」
「分かった。ずっと一緒に居よう」
それから僕は仕事に行くのを辞めた。
彼女を一人にする時間を作りたくなかったからだ。
部屋の中は蔦のような植物が蔓延っていたが、不思議と気持ち悪さはなかった。
そしてある日の事だった。
「ねぇ……あのひと……だれ……?」
彼女は突然そんなことを言い出した。
「あぁ、彼は僕の友達だよ」
「ともだち……でも……わたし…いるの……に」
「大丈夫、心配しないで」
「……わかった」
それから数日が経った。
朝起きると僕の薬指に蔦が絡まっていた。
「これは……」
その植物は指輪のような形をしており、台座の様な所からはザクロの実のような粒が実っていた。
「なんだよこれ……こんなの知らないぞ」
「やだ……はずさないで……!」
「えっ……?どうして……」
「だって……それ……たいせつ…だから」
彼女は泣きながら必死に訴えかけてきた。
「大切な物って……」
「だめ……いかない……で……ひとりに……しないで……」
彼女は僕の腕に絡みついてきた。
振り払おうとしたが、思いのほか強くて解くことができなかった。
「くそッ……」
蔦が足に巻き付き、動けなくなったところで彼女は僕の唇を奪った。
「んむぅ……んちゅ……んん……」
舌を絡められ、口内を舐め回される。
「ぷはぁ……」
「はぁ……はぁ……」
息継ぎをする暇もなく何度もキスをする。甘い蜜のような味がした。
そしていつの間にか身体から力が抜けて抵抗できなくなっていた。
「んっ……」
そして彼女は首筋に噛み付いた。
鋭い痛みと共に血が流れ出す。
「痛っ……」
「ごめんなさい……でも……こうしないと……」
彼女の顔を見ると、涙目になっていた。
「いいんだ……君が満足するまで好きにしていいよ……」
「ほんとう……?」
「本当さ、約束するよ」
「ありがとう……大好き……」
それから彼女は、まるで自分の物にマーキングするように体中に吸い付いてきた。胸元に無数の赤い花が咲いた頃には、僕はもう抵抗することを諦めていた。
もうどうなってもいい、この子の為ならなんだってできると思った。
「ねぇ……もっと……ほしい……ちょうだい……あなたの……ぜんぶ……」
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特殊事例担当室長 ヨウスケ・アスモデウス
本個体はアルラウネの突然変異により発生したと思われる個体です。
個体名『ラジィ』は〇〇県×〇市のアパートの一室で20代男性を蔦により拘束した状態で発見されました。
男性の証言によると、友人が買った種子を貰いそのまま植えたところこの個体が発芽したそうです。
販売元の店に確認したところ、観賞用マンドレイクの種を販売しておりほかの種子は問題なく観賞用マンドレイクが発芽した模様。
成長が他アルラウネよりも遅く、種子を植えてから数分後に発芽、2、3日で1度花を開花させた後に蕾に戻り、1週間後に急成長し再度開花。そこから成体になるまで1年かかる模様。
彼岸花のような花弁が特徴的だが調査の結果毒性は無いと判明した。後の調査により人間に限り有毒であり、同種の花粉を接種することで解毒可能と判明した。
個体名『ラジィ』から発生した種子を確認したところ観賞用マンドレイクと似ていた事から故意の販売では無いことが判明。引き続きこのような事例がないか調査を継続する。
20代男性の胸部と首元には赤い彼岸花の様な花弁が開花していたため調査したところ血管との癒着が確認されたため摘出は不可能と断定。薬指の蔦の核によって人体の成長が止まっていると思われる。
本個体は魔界で戸籍を登録の後、異種族交流法第六条三項に則り人間界への定住を許可するものとする。
男性は本個体の戸籍登録後、異種族交流法第一四条六項に則り人間と異種族との婚姻を認めるものとし、外務省魔界交流担当部門特殊事例担当室の所属とする。
本個体はアルラウネ族アマリリス種として分類する。なお、アマリリス種に関しては生態が未だ不明瞭なため本資料の閲覧と複製、貸出は一部権限の元許可する。
人間 :体に花を植え込まれて強制的に依存させられた悲しき存在。当の本人は満更でもなかったりする。
アルラウネ族アマリリス種:強い毒性と成長が遅いのが特徴、独占欲が強く逃げようとすると依存させられる。
外務省異種族交流担当部門特殊事例担当室:特殊な事例を調査し、結果を報告書として纏める部署。人員は全員被害者達であるため他の部署からは特例被害者の会と言われている