感想教えてください。
美しい宝石は磨かれてこそ美しくなる。かたちを整え、磨かれ、金や銀などで装飾されてこそ価値が出るのだ。
しかし、何もせずとも輝きを放つものはいくつも存在する。パイライトやシリウスアメジストなどがその際たる例だ。しかし、それらも磨けばさらに光り輝くだろうし、そうでなければ何の価値もない。
そして、その輝きを引き出してやるのが、私の役目なのだ。
俺は胸中で呟くと、眼前の扉に手を伸ばした。
俺がこの屋敷を訪れたのは、今から数年前のことである。
当時、オレのは父親の仕事に着いて日本中を飛び回っていた。仕事内容は主に宝石や貴金属を扱う会社で、要するに宝石商というヤツである。
そんな生活を続けていたある日のこと、俺は父さんと共に一つの家を訪ねた。なんでも、ある富豪の家らしく、父さんはその家の主と古い知り合いらしい。そこで、その娘さんと会って欲しいという話だった。
正直、俺はあまり乗り気ではなかった。当時の俺はまだ九歳かそこらで、恋愛などに興味はなかったし、ましてや金持ちの娘に会うなんて面倒なことには関わりたくなかった。
だが、父親に言われた以上断るわけにもいかず、渋々承諾した。
すると、数日後。俺達は飛行機に乗せられて、見知らぬ土地へと連れていかれた。到着した先は、どうやらその富豪の屋敷がある場所だったようだ。
屋敷に入ると、一人の女性が出迎えてくれた。彼女がおそらくその富豪の娘なのだろうと思ったのだが。
彼女の顔を見て、俺は思わず目を丸くしてしまった。何故なら、そこにいた女性は、まるでお人形のように可愛かったからだ。
年齢は俺と同じぐらいだろうか? 白いワンピースに身を包んだ彼女は、長い銀髪と碧眼を持ち、とても綺麗な顔をしていた。
こんな可愛い子がこの世に存在するのかと驚くと同時に、同時に強い興味を抱いた。
その後、彼女に連れられて屋敷の中を歩き回った。その間、彼女はずっと笑顔を浮かべていた。
それからしばらくして、彼女は俺達にある部屋を見せた。そこは、大きなガラスケースの中に大量の石ころが収められている部屋だった。
正直言って、石ころにはまったくと言っていいほど興味がなかった。宝石商の息子でありながら、宝石にまったく興味がないというのはおかしな話かもしれないが、当時の俺にとってはそれが当たり前のことだった。
しかし、一つだけ目を引くものがあった。それは、透明なケースに収められた真っ赤なオパールのような石だった。それを見た瞬間、俺は心臓を撃ち抜かれたような衝撃を受けた。
他の宝石とは一線を画す圧倒的な存在感。これまで見たどんなものよりも美しいと感じた。
生まれて初めて見る宝石を前にして呆然としていると、彼女が説明を始めた。
それによると、この赤い石はカーバンクルの宝石らしく、かなり珍しいもののようだった。 本来ならば、滅多に出回ることのない代物なのだが、どういうわけかこの家にはあるらしい。なんでも、先祖がカーバンクルの獣人族だったらしく、その子孫に代々受け継がれているのだという。
話を聞いた後でも、俺はこの石を欲しくなっていた。理由は自分でもよくわからない。ただ、どうしてもこの石を手に入れたくなったのだ。
だが、どうやって手に入れればいいのかわからず困っていると、彼女が助け舟を出してくれた。どうやら、彼女達はそれぞれの石に惹かれた者同士で結婚させるつもりらしく、そのための婚約指輪として渡す予定だったらしい。つまり、俺はその婚約者に選ばれたということだ。
これは願ってもいないチャンスだと思い、即座に了承した。
こうして、俺は彼女の許嫁として過ごすことになった。
最初は彼女に一目惚れしただけだったが、次第に彼女といる時間が楽しくなり、いつしか好意を抱くようになっていた。そして、気付けば好きになっていた。
だが、当然ながら、この想いを伝えることはできなかった。そもそも身分が違う上に、相手は大金持ちのお嬢様だ。釣り合うはずもない。
そう思い続け高校生に上がった頃、俺は彼女に呼び出された。まさか告白されるのではないかと期待していた。
「あの……突然呼び出したりしてごめんなさい」
放課後。学校の屋上で待っていた彼女は開口一番に謝った。
「いえ、別に構いませんよ。それで、どうかしたんですか?」
「実は明日、家の掃除を手伝って欲しいのですけど……」
どうやら頼み事があるようで、それを言いに来たようだ。
「わかりました。手伝いますよ」
特に用事もなかったし、断る理由もなかったので引き受けることにした。
「ありがとうございます。それと、もう一つお願いがあるので聞いてもらってもいいですか?」
「何でしょうか?」
首を傾げながら訊ねると、彼女は少し恥ずかしそうな表情を浮かべた後、意を決したように言った。
「私と一緒に買い物に行ってくれませんか? その…お恥ずかしながら、一人では何を買えばいいかよくわからなくて……」
どうやら、彼女は一人だと何を買ったらいいか判断できないらしく、一緒に行ってくれないかと頼んできた。
正直言って、断ろうかと思ったが、ここで断ったら嫌われるかもしれないと思い直し、承諾することにした。
翌日。俺は約束通り、彼女と二人で街へ繰り出した。
それから数時間かけて様々な店を回り、日用品や衣服などを購入した。その間、彼女は終始楽しそうにしていた。
その姿を見てオレの心は満たされていた。好きな子と二人きりで買い物をするというのは、とても幸せなことだった。
その後、俺達は屋敷に戻ると、早速彼女の部屋の片づけを開始した。
「じゃあ、まずは何をしたらいいんでしょうね?」
とりあえず指示を仰ぐことにした。すると、彼女はしばらく考え込んだ後、口を開いた。
「では、ベッドの下の箱に入っている本を処分して下さい」
「えっ!?」
思わず声を上げてしまった。
「ど、どうしてそんなものを……」
動揺しながら尋ねると、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「どうしてって、必要ないですよね?」
確かに彼女の言う通り、この部屋にはすでに本棚がある以上、そこに入らないサイズの大きな段ボールがあっても邪魔になるだけだ。だからといって、捨ててしまうのはどうかと思うのだが……。
とはいえ、ここは大人しく従おうと決めて、言われた通りに作業をした。
だが、いざ作業を始めてみると、気になって仕方なかった。一体どんなものが入っていて、どんなことをしていたのかが。
気になった俺は、彼女に気付かれないようこっそりと中身を確認した。そこには、大量のエロ本が詰まっていた。それも、全て無くしたと思っていたオレの秘蔵コレクションだった。
「……」
俺は言葉を失った。目の前にある光景が信じられず、夢を見ているのではないかと思ってしまった。しかし、頬を引っ張ると普通に痛かった。つまり、現実だということだ。
「どうしました?」
彼女が怪しげな視線を向けてきたので、慌てて何でもないと誤魔化した。
その後、何とか平静を保ちつつ、淡々と仕事を続けた。
やがて、全ての荷物を運び終えると、彼女は俺に向かって頭を下げた。
「手伝って頂いて本当に助かりました。何かお礼をさせて下さい」
「いいんですよ。好きでやったことですし」
本当は凄く嬉しかったが、それを悟られないように素っ気なく答えた。
「ですが、それでは私の気が済みません。なので、今日は家で夕飯を食べていって下さい」
「いや、でもそれは悪いんじゃ……」
「遠慮しないでください」
結局押し切られてしまい、俺はそのまま彼女の家で夕食をご馳走されることになった。
その後は他愛のない話をしながら、楽しい時間を過ごした。こんな時間がずっと続けばいいと思った。だが、終わりは必ず訪れるもので、別れの時間が訪れた。
「そろそろ帰らないと」
時計を見ると、すでに午後八時を過ぎていた。あまり遅くなると親も心配するだろう。それに、これ以上ここにいると迷惑がかかるかもしれない。そう思い、立ち上がろうとするが、身体が動かなかった。まるで金縛りにあったかのように、全く動けなくなっていたのだ。
「どうかされましたか?」
異変に気付いたのか、彼女が声を掛けてくる。
「すみません……ちょっと足腰に力が入らなくて……」
「ふむ……どうやら薬の効果が現れ始めたみたいですね」
彼女は顎に手を当てながら呟くように言った。
「あの……どういうことですか?」
訳がわからず訊ねると、彼女は不敵に笑いながら言った。
「実は先程、貴方に飲んでもらったお茶には特殊な睡眠薬が入っていたのです。そして、その効果が今頃現れ始めています」
「な……なんのために……」
恐る恐る訊ねると、彼女は妖艶な雰囲気を放ちながら微笑んだ。
「決まっているじゃないですか貴方を私のものにするためですよ」
「……ッ!」
背筋が凍り付くような感覚を覚えた。
「大丈夫ですよ。怖いことはしませんから」
彼女はゆっくりと近づいてくる。「やめてくれ……」
必死に抵抗するが、体が思うように動かないため逃げることができない。その間にも、彼女はどんどん距離を詰めていく。
「さあ、一緒に気持ち良くなりましょう?」
そう言って彼女はオレの首に腕を回してきた。その瞳は潤んでおり、吐息からは甘い香りが漂っていた。
「貴方が悪いんですよ? 私という女がいるのに、他の女性にも色目を使うんですから……」
彼女はそう言いながら、オレの唇に自分の唇を重ねてきた。
「んっ……」
その瞬間、全身の細胞が歓喜に打ち震えるのを感じた。脳は快感に支配され、思考能力が低下していった。オレは無意識のうちに彼女の口の中に舌を入れていた。すると、彼女もそれに応えるように絡めてきた。互いの唾液を交換し合い、混ざり合った液体を飲み下すと、更に興奮が増した。もっと欲しいと思い、さらに激しく貪った。
それからしばらくの間、オレ達は互いを求め合っていた。永遠に続くと思われた時間は、唐突に終わりを迎えた。彼女が糸を引きながら口を離したからだ。名残惜しく感じたが、同時にホッとした。もしこれで終わっていなかったら、理性が飛んでしまうところだった。だが、まだ終わりではなかったようだ。
猫のような耳と尻尾が現れたかと思うと、顔つきが変わった。
「まさかここまで効果があるとはね……」
口調まで変わっており、まるで別人のようだった。
「まあいいわ。これからじっくり堕としてあげるから」
そう言うと、再びキスしようと顔を近づけてきたが、寸前のところで止めた。
「忘れるところだったわ」
彼女はそう呟くと、ポケットから何かを取り出した。それは注射器だった。
「これは媚薬よ。知り合いの淫魔族から貰ったんだけど、これを打てばどんな男でもイチコロだって言われてるの」
彼女は針の先端を首元に押し当てた。
「安心して。少しチクっとするだけだから」
彼女は躊躇うことなく、一気に刺し込んだ。直後、得体の知れない熱さが体内を駆け巡った。
「ぐっ……」
「すぐに効いてくるはずだから楽しみにしてなさい」
その言葉通り、徐々に身体に変化が生じ始めた。心臓が激しく脈打ち、呼吸が荒くなる。全身が火照り、下半身が疼き始める。
「あら、もう効果が出てきたみたいね」
そう言って笑う彼女の目は、獲物を狙う肉食獣のように鋭く光っていた。
「それじゃあそろそろ本番といきましょうか」
彼女は服を脱ぎ捨てると、オレの上に跨ってきた。
「さっきまでの続きをしましょ」
彼女は妖艶な笑みを浮かべ、オレの顔を見下ろしている。
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特殊事例担当所属 花崎ラジィ
本個体は獣人族において非常に珍しいカーバンクル族で○○県の街の古物商の一家が確認されました。
普段は人間と変わらない容姿をしていますが、興奮状態の際に赤いオパールのような宝石が額に現れ、ネコ科の耳と尻尾が現れます。
産まれた際に落ちた宝石は伴侶を探すための道具として利用され、対象となった人間は激しい物欲に駆られます。
カーバンクル種は非常に珍しく、一時期絶滅してしまったのではないかと噂されていました。
本個体の宝石は流通及び販売を禁止すると共に、異種族交流法第一四条四項に則り人間と異種族との婚姻を認めるものとし、種の存続のため国からの補助金と一部施設の利用を許可するものとする。
人間:クソボケレベルの鈍感力でクソデカ感情に気付かないまま数年過ごしてしまった宝石商の息子。朴念仁にも程があるぞ。
カーバンクル種:魔界でも非常に珍しい種族。人間に擬態して生活しているため基本的に気付かれない。結構アプローチしてきたつもりだったが朴念仁には通じなかった模様。