イライザ・エルメロイ・ベルベットの進学   作:C-Mech

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書いてあるのは次の話までです。


#2イライザ・エルメロイ・ベルベットの入学

 お久しぶり読者諸兄。元気だっただろうか。ちなみに私は元気じゃない。というか機嫌が良くないからそれが体調に出ているのだ。理由?二科生合格だったからじゃないぞ。

 

 入学式後に呼び出されたと思ったら私が魔術師であることがすでに露見していたからだ。

 

 順序だてて説明しよう。入学式前、校門をくぐったときまで遡って、私がいかにして体調が悪くなっていったのかをご覧いただこう。

 

「何故お兄様が補欠なのですか?入試の成績はトップだったじゃありませんか!本来ならばわたしではなく、お兄様が新入生総代を務めるべきですのに!」

 

 一応、一高近辺に魔術的なものがないかとか霊脈がどうかとかを確認するため入学式より大分前に学校に着いたら、人目を気にせず大声で叫び散らかす何者かの声が聞こえる。素晴らしい。入学式の風情もあったもんじゃない。これが魔法科か…。などとバカなことを考えながら騒音源である少女たちを見やる。

 『お兄様』という口振りから察するに叫ぶ美少女一科生の方が妹、叫ばれて周りに気を遣っている可哀想な二科生が兄か。

なんとなく兄妹の関係を超えた『愛』もとい『執着』を双方から感じる。インモラルは私の望むところ。兄妹で禁断の恋なんて実に好いじゃないか。なんなら別に時計塔では珍しいことでもない。奨励する一族もあるくらいだ。

 とはいいつつあんまりじろじろ見てやるのもあの哀れな兄君に申し訳ない気がして歩を進め、着々と目的を果たしていく。

 

 うん、わかってはいたがここの土地はカスだな。魔術的には意味のある場所とは言えない。この近辺ではよほど自前の魔力に自信のあるものしか魔術を為せまい。私は少し安心して、ゆったりとこれから三年を過ごす学舎の庭を見て回った。

 

 時間になって大講堂に入ると、一科生と二科生で座席が前後に別れていた。

 なるほど、やはりというかなんというか。現代の魔法も古来の魔術も考え方は変わらぬらしい。才あるものに拓かれ、才無きものは切り棄てる。

 我ら貴族主義も、怨敵民主主義も、中立主義でさえその考えのもとに成り立っているのだ。後に続く魔法科高校でも脈々とその思想が受け継がれているようで嬉しい限りだ。

 今更ながら雑に解説すると、一科生は魔法の個別指導を受けられるのに対して二科生は受けられない。教員に限りがあるため致し方ないというのが建前だが果たしてその実、差別意識の温床となっているのは魔法科高校に通うものなら誰でも知っている暗黙の常識である。

 まぁ座席を分けてくれてあるお陰で迷わずに済むからありがたいが。

適当な二科生席に座り、入学式が始まる。新入生総代はあの大声ブラコン美少女だった。『司波深雪』と言うそうで、新入生総代答辞では明らか兄君の評価が不当であるということを訴える一科生としてはスレスレなスピーチを展開していた。

 いいね、こういう反骨精神の持ち主は嫌いじゃない。それなりにいい気分になって、彼女への評価を見直した。

 

 つつがなく(?)入学式が終了し、学生証IDカードを受け取ってクラスが1-Eであることを確認し…どうしよう別に家に帰ってしまってもいいのだが、一応明日から通う学校なら内部の施設も見ておくべきか?はてさて…と悩んでいるとつつーと近づいてくる影が一つ。

 

「あのー、あなたがイライザさん?」

 

 黒髪の巻き毛ウェーブが美しい、少女のような表情の、しかして乳尻はちゃんとでているプロポーションは良いちぐはぐな女が声をかけてきた。

 

「ええ。イライザ・E・ベルベットと申しますが、何か?」

 

 淑女然と応える。これでも英国貴族の末裔、性格がひん曲がっていることを度外視すればこれ以上ない令嬢なのがイライザなのである。ちなみに、アーチゾルテを外しているのは単純に長すぎるからと言うのと、アーチゾルテそのものが嫌いだからである。

 

「よかった!あってたわ!私は三年生の七草真由美。『ななくさ』と書いて『さえぐさ』って言います」

 

「はじめまして、七草先輩。それで、何かご用がおありのようですが?」

 

「そうなのよ。ちょっとお時間いただけないかしら?」

 

 そうして連れてこられたのは生徒会室。今思えば少しはこの女のことを疑うべきだったし、日本の魔法師のヒエラルキーを確認しておくべきだったと反省している。

 

 室内に入ると、そこには一人の人物が私を待ち受けていた。

 

「紹介するわね。彼は十文字克人くん。この学校の部活連会頭をしています。それで、私は生徒会会長をやらせてもらってるの」

 

「部活連会頭で十師族十文字家次期当主の十文字克人だ。よろしく頼む」

 

「はぁ…」

 

 なにをよろしくすればいいのか何を頼まれているのか。いずれにせよなんか雲行きが怪しい。具体的には十文字殿が発した『十師族』という単語。

 

 このとき私は愚かにも知らなかったのだが、日本魔法師界というのは数字を家名に持つ『ナンバーズ』を中核としていて、特に有力なものを最上位から順に『十師族』『師補十八家』『百家』という明確な序列のもとに管理されているのだそうだ。情報収集を怠るとロクなことがない。というか時計塔なら七草嬢の『ちょっとお時間』にホイホイついていった先にデストラップがあるのが普通だ。随分と人との関わりに緩くなったもんだ、私も。

 

 いけないまた話が脇道に。ええと、つまり、ここ日本の魔法大学附属第一高等学校の生徒会室にて、日本における君主の家系(と言って過言ではあるまい)の継承者と、本家本元英国の君主の令嬢が一同に会してしまっているのだ。歴史的会合である。

 

 そして非常に拙いことは続く。

 

「まさか、魔法成立以前の古い魔法…いや、魔術だったか?の遣い手がよりにもよって英国ではなく日本の魔法科に入学してくるとは驚いたぞ」

 

 驚いてるのは此方のほうだ!ふざけるな!なんて内心を一ミリも面に出さぬよう、顔面の筋肉を操作して微笑にとどまる。そして、

 

「何故そう思われたのですか?私は古式魔法の家系でそこまで歴史は古くないはずなのですが」

 

 嘯く。

 必死である。なぜ、いつ、どこから、どのくらい、なにが、どうやって洩れたのか探らなければ。

 

「隠す必要はないわ。遠坂殿から貴女をよろしくと、連絡があったのよ」

 

 遠坂、とおさか、Tohsaka…

点と点が一撃で線として繋がる。お節介すぎるぞ母上、遠坂のご当主殿!

 

 遠坂殿は先代のエルメロイの君主が指導し、成功した家系だ。そして義理堅い。エルメロイに何か恩返しをしようと思っていて不思議ではない。

母上は自ら追い出した娘を表立って援助出来ない。となると、どこか仲介しないといけないが、日本で顔が広く、口が固く、かつ裏切らない義理人情篤い人間に任せたい。

 両者の損得は見事一致し、遠坂は私の知らぬところで私の後見となり、母はそんな遠坂に謝礼をする事で間接的に私を援助していたのだ。この八年間もの間ずっと。

 

「そういうことでしたか。てっきり私について不躾に探ろうとしたものがいたのかと…」

 

 少なからぬ衝撃はあったが、とりあえず平然を装いそう返す。ついでにこれ以上勘ぐるなと釘を刺す。

 

「それは失礼した。だが我々にも君の行動は奇妙に映る。なぜ日本なんだ?」

 

 『なぜ日本なんだ?』か。確かに私の立場なら普通は時計塔に進学するし、魔法師になるとしても英国の魔法科高校に行けばよろしい。なのに『なぜ異国の魔法科に?』と思うのは当然だろう。

 つまりこの男は警戒しているのだ。私がブリテンから齎された日本魔法師界を揺るがす不和の種でないかと。

 

「いろいろありまして…。もう八年も日本に住んでいますから、今更故郷に戻って学位を取得しようと思えなかったのが大きいですね」

 

「え?貴女はまだ15歳よね?八年前からって、独りで?」

 

「いえ、召使いという訳ではありませんが、家の…いいえ、私の世話をしてくれる人は1人だけいます。なので、厳密には二人暮らしですね。」

 

 そう、私が追放されたあの日、なんでか知らないが甲斐甲斐しく私の世話を焼いてくれる婆やがついてきたのだ。曰わく、『拙は先代のエルメロイ様に御世話になりましたので…その後継者たる貴女様にお仕えするのは当然で御座います。』だそうだがそれなら大人しい我が兄たちに気を配るべきだっただろう。あいつらのほうが継承序列上なんだから。とはいえ無碍にも出来ないし、実際世話してくれるのは凄く助かっているので実家に送り返すことなくずるずる八年私に従わせてしまっている。

 

「そうだったの…」

 

 私が言外に故郷に戻れない事情があることを示唆すると、七草嬢は哀しそうに目を伏せた。どうやら私に結構本気で同情してくれているらしい。

それでいいのか日本の君主家よ、英国の君主共ならここから私の才覚のなさを嘲る皮肉の一つや二つ欠かさないぞ。

 

「複雑な事情があることは把握した。その上で今日この場に呼んだ理由だが…本来は我々生徒ではなく教師がやるべきことなのだがな。君は本籍を日本に移していないだろう。そこで、学校側が君の戸籍を取り寄せたわけだが…イライザ・エルメロイ・アーチゾルテ・ベルベットがフルネームになっている英国戸籍に対して、入学に必要な書類にはアーチゾルテの家名が出てこない。記載漏れなら至急直して欲しいそうだ」

 

 なるほど。アーチゾルテは私怨で自分の名前から外していたが、現代において役所に届けられている名前と公的文書に記載する名前がずれているのはまずい。書き直せ。という旨を伝えるメッセンジャーの名目で、十師族と引き合わせる場所をつくったわけか。加えて年代も同じくらいの二人だから心理的障壁を下がることを期待しているのかもしれないな。大人しく従おう。不服だが。

 

「すみませんでした。この国で生活する分には長すぎるかなと思って、外していたのです」

 

「いや、勝手がわからなったのなら仕方ない。が、今回のような措置は毎回あるわけではないからな。これからはしっかり必要記載事項を確認しろ」

 

 恩を売られたことを不満に思いながらArchisorteと名前欄に書き足す。

 

「…ねぇイライザさん。もしよかったら愛称で呼ばせて貰ってもいい?」

 

「かまいませんよ。『リザ』でも『リズ』でも『エルザ』でも」

 

「じゃあリザちゃん。もし私たちが助けられることがあったら頼ってね。さっきも言ったように学生組織の人間だし。」

 

 十文字殿と七草嬢の暖かい視線を浴びせられ、鬱々とした気持ちで(無論一切微笑を崩さず)

 

「はい。そうさせていただきます」

 

 とだけ、応えた。

 

 

 

 

────────────

 

 イライザが去ったあと。

 生徒会室に残った二人は会話を彼女について話していた。

 

「ねぇ十文字くん。彼女のことどう思う?」

 

「お前が遠坂殿の名前を出した直後から表情が和らいだ。とすれば彼の家となにかしら関わりがあるのは間違い無い」

 

 そう。実際には遠坂は十師族に連絡など入れていない。七草家当主七草弘一のネットワークによって捕捉されたカネの流れの中にエルメロイ発遠坂経由イライザ着のものがあっただけ。それを確認するための壮大なカマかけに彼らは使い走りさせられたのだった。

 

「ホントにどういうことなのかしら、ここ60年近く沈黙どころかロクな活動すら見せなかった遠坂家が急にイギリス人の少女に仕送りだなんて」

 

 『遠坂』は魔法師たちの間で半ば伝説もとい怪談と化した家だった。魔法黎明期、国立魔法研究所に莫大な支援と『魔術師』としての技術指導を行ったにもかかわらず、2030年頃にはぱったりと表舞台から姿を消し、十師族へ『十坂』として迎えようという計画も他ならぬ遠坂の断りによって立ち消えた。

 なぜ中途半端な援助をするだけして裏へ引っ込んだのか、なぜ十師族入りを断ったのか、目下不明。

 加えて現在の一族構成すら不明…これはまあ四葉も同じようなものだから不思議ではないが。

 にもかかわらず未だ国家予算の5パーセント近い資産があると目測されており、裏舞台で暗躍する七草弘一も監視の目を緩められずにいる。今回イライザが彼に捕捉されたのはこれが原因だった。

 

「…お前の父親は彼女の背後関係まで隈無く調べたのだろう。そして不審な点は見当たらず、唯一わかったのはどうやら英国貴族の末裔らしいということだけ。ならば我々は彼女を一生徒として扱わねばならない。たとえ『あの』遠坂と関わりのある『魔術師』だとしてもだ」

 

「そうね。でもこれは表に出すべきじゃない。彼女も望まなかったし…私たちも胸に秘めておきましょう。父には私から言っておくわ」

 

「頼む」

 

 帰り際、イライザは二人に

 

「どうか私が魔術師の家系であることはご内密に。我々も、犠牲は望みませんので」

 

 とだけ言い残した。

 家で手酷い仕打ちを受けたであろう彼女をして、恐らくは一族という意味の『我々』という言葉を遣ったのだ。知られてはならない何かが彼女たち魔術師にはあるのだろう。

 

「今年の新入生たちは…なかなかに波乱を生みそうね…」

 

 呟いて、未来の日本魔法師の代表となる二人は生徒会室をあとにした。




*『補足』となっていたものを『捕捉』に直しました。ご報告、感謝します。2022/12/17

改稿方法につきまして。活動報告に記載いたしましたが、改稿します。展開全部変わります。本当に申し訳ないです。ですがコレ以外で自分がこの作品更新できる自信がないのでやります(断行)。以下の2つの方法から選択していただけると幸いです。

  • 新しく改稿版『イライザの進学』を投稿する
  • 本作品を1話から全部改稿する
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