イライザ・エルメロイ・ベルベットの進学   作:C-Mech

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#4イライザ・エルメロイ・ベルベットの新入生歓迎期間:序

 司波達也は『忍び』九重八雲に師事している。現在ある寺の住職をやっている八雲のもとに毎朝通い、稽古をつけてもらっているのだ。

達也は稽古終了後すぐに『本題』を八雲に向かって切り出した。

 

「師匠、『イライザ・E・ベルベット』という女性に憶えはありませんか」

 

「…ない訳じゃない。ただ、正直一部オカルトっぽい話を含むから、信憑性は薄いかもよ?」

 

 意外にも八雲は弱気なことを言う。いつも確度の高い情報を提供してくれる彼がそんなことを言い出すのは、少なくとも達也は見たことがなかった。

 

「構いません。なんであれ、自分は彼女の情報が欲しいのです。」

 

「ならいいけどさ。君は『遠坂』って知ってる?」

 

「『十』の『数字落ち(エクストラ)』ですか?」

 

 『数字落ち(エクストラ)』とはもともと『百家』に数えられる家柄だったが、当時の政府の方向に従わなかったためにその枠組みから除外されたり、もっと単純に能力が足りなかったりでその地位から陥落したものたちのことを指す。

 

「いや、全然そんなことはなくてね。魔法黎明期に国立魔法研究所を支援したり、魔法研究の指導をしていた家らしい」

 

「それほどの家が百家にも入っていない?」

 

 魔法研究の指導をしていたのなら師補十八家くらいにはなっていてもおかしくなさそうなものだが。

という意味を込めて達也は聞き返す。

 

「2030年頃には表舞台から消えた、というよりかは十師族入りを断って一切関わりを絶ったようだね。理由は60年経つけど不明のまま。けれど九州の端っこの方に今でも遠坂一族は存在している」

 

「その家と彼女に関係が?」

 

「つい先日、その遠坂に英国からまぁまぁな額の金が振り込まれて、奇怪なことにほぼそのまま東京のとある人物のもとに送られたんだよ。英国から振り込んだ人物の名義は、巧妙に偽装されていて突破できなかったそうなんだが」

 

 魔法師は軍部とも深いパイプを持つ。その情報収集能力は国家にとって重要なライフラインとなりうるため、それ相応の実力はあるはず。

それでも追い切れぬ英国の人物とは何者なのか、達也は少なからぬ驚異を感じる。

 

「そして彼女が受取人だったと」

 

「そ。そしてついでに彼女の戸籍もあらためられてね、結果としてわかったのは彼女の省略ナシのフルネームがEliza El-Melloi Archisorte Velvet. っていう貴族の末裔だってことだけ」

 

「なるほど…」

 

 確かに彼女の立ち居振る舞いは貴族然として、相当家柄のよい育ちだったことは窺い知れる。

 が、達也が知りたいのはそこではない。

 

「んで、ここからがオカルト。件の『遠坂』だが…どうにもいかなる系統にも属さない、奇妙な古式魔法を使っていたそうでね。宝石を触媒として『奇蹟』を起こしたそうだよ」

 

「『奇蹟』?」

 

 達也は八雲の言葉に眉を顰める。

 

「いや、ボクも実際見たわけじゃないしわからんけども。そうとしか思えないことが起きたという記述があってさ」

 

「つまり師匠はイライザさんと遠坂が『奇蹟』の担い手であると?」

 

「…まぁ状況証拠的に関わりがあって似たようなこと出来てもおかしくないかなって」

 

「俺も実際、あの結界に入る前にこの話を聞かされたら信じなかったでしょうけれどね」

 

「へぇ、『奇蹟』を見たんだ?警戒されたもんだね」

 

 達也は彼女が駅に張った結界について、『精霊の眼(エレメンタルサイト)』を見破られたことの二点を八雲に話した。

八雲は前者は驚かなかったが、後者については目を見張って驚愕していた。

 

「いやー参ったね。つまり彼女は我々には原理のよくわからない知覚系魔法を持ってるってワケだ。まぁそうだね、うん、しばらく彼女のことを重点的に探ってみよう」

 

「ありがとうございます」

 

 そう言って達也は家へ向かう。その最中も彼女への『穏便な』対抗策が浮かばないことに頭を悩ませていた。

 

────────────────

 

 私にとっての重要事項、不躾な視線(達也)への釘刺しも終わり、なかなかよい目覚めである。

 

 期せずして試したかった魔術結界『路傍の石』のテストも出来た。この結界の効果は術者と術者の選んだ対象者にはなんの影響も与えず、周囲の人間が術式の中心人物の会話内容を邪魔しないようになると同時に、その内容がどれだけ物騒であっても────たとえば『世界滅亡』だとか『暗殺』だとか『魔術』だとかであっても───取り留めの無いものとして認識してしまうというもの。密談にはもってこいの魔術だ。

 探せばこれよりお手軽で効果の高い魔術もあるだろうから車輪の再発明甚だしいが、やはり自分オリジナルの術理が成立しているところをみるのはなかなかに嬉しいものがある。

 

 ホクホクとした気分で階段を下り、いつものように四六時中フードを被る老人とともに朝食をとる。

 そうだ、昨日一晩考えて決めたことを話さなければ。

 

「ねぇ婆や、やっぱり私は遠坂殿に手紙を出そうと思う。これまでは知らなかったから仕方ないけど、知ってしまった以上無礼を通すのは私のプライドが許さない。だから遠坂殿の所在を教えて」

 

 知らなかったで済まされるのは本当に知らなかった瞬間までだ。事実を知った後で厚かましく遠坂殿のご温情におんぶに抱っこという訳にはいかない。

 それを聞いた婆やは私の顔をじっと見つめて

 

「そういう義理を特別に重視されるのは、お父上に似ましたねぇ」

 

 とだけいって、先月遠坂に送った手紙の郵便番号を書き付けて私に寄越した。

 

「ありがとう。…ところで婆や、私の父上ってどんな方だったの?」

 

 私は父のことをよく知らない。いや一切知らない。私の黒髪が彼譲りであることと、ベルベットという今現在の時計塔で聞いたこともない家系の出身であったことだけが私が知る父のすべてだった。

 まぁ継承順位最下位の私の父なんだから、おおかた顔がいいだけの母上の愛人だったのだろうと勝手に推測しているが。

 

「とても、臆病な気質で御座いましたが、それが良い方に作用することの多いお方でしたね」

 

「…それだけ?普通ここまできたらもっとヒント出さないかい?」

 

 その後、婆やは本当にヒントを出さずにニコニコしているだけだったので、父の追求を諦めて家を出る。

 

 今朝も欠かさず行った『瞑想』も相まって昨日よりだいぶいい気分で登校出来そうだ。

 

────────────────────

 

 第一高校前駅から一高までの一本道の中程で達也一派と合流する。深雪のほうは少し私によそよそしいが、達也の方は流石の処世術で平然と振る舞っていた。

 深雪嬢にはいささか悪いことをしたなと思いつつも、元はといえば君のお兄様がいけないのだよの精神でフランクに話し掛け、なんとか親密度を元の地点まで巻き戻していたところ、後ろから達也を呼ぶ声が駆け足で近付いてくるのがわかった。

 

 七草嬢である。

 

「妹君と二股とはなかなかやるな、ミスタ?」

 

「何を勘違いしているのか知らんがどちらとも恋愛関係は無い。特に深雪に関してはあったらまずいだろう」

 

「まずいからこそ燃え上がるのでは?まぁたいてい骨すら遺らぬ大火災になるがね」

 

「なんでそんな見てきたような口振りなんですか…?」

 

 美月嬢が私の情操教育を危ぶんでいるが、魔術師の家に生まれたものは、遅かれ早かれ私のように歪な愛に脳を灼かれるのだ。今更である。

 

「あら、リザちゃんもこのグループにいるのね。お姉さん安心しました。一匹狼になっちゃうんじゃないかって少し気懸かりだったから」

 

 皆への挨拶を終えた七草嬢がこちらに視線を向ける。前回愛称を許してしまったためか自分のことを私の姉であると誤認しているようなので

 

「私にいるのは20離れた兄が二人だけですよ。しかも両方種違うし」

 

「えっ?」

 

 爆弾発言の爆風に乗って馴れ馴れしいこの女から距離をとり、話を本来の目的であろう司波兄妹に向けさせる。

 

「それよりミスタ達也になにか話すことがあるのでは?彼の名を情熱的に叫びながらこの大通りを走り抜けるのは、大概目立ちますよ」

 

「あっ、そ、そうよね、えっと────」

 

 彼女は深雪を生徒会に参加させるためにランチのお誘いに来たらしかった。達也は七草嬢の彼に対する馴れ馴れしい態度と、生徒会副会長殿に睨まれている旨を不服としながら、お誘いを断ったエリカと、兄にすがる妹のために二人で生徒会室に赴くことを決めたようだった。

 

 やはり彼とは気が合う。あの視線さえなければ。

しかし、エリカが誘いを断ったのは意外であった。あの社交的…体当たり外交的な性格の乙女が一番悪ノリしそうだと危惧していたのだが。誰か生徒会に苦手な人物でもいるのであろうか。

 

「…さっき言ってたことって、本当なの?」

 

 七草嬢が立ち去ったあと、美月嬢が私に問うてくる。心配症な小動物のようで可愛らしい。

 

「本当でなければあんな下世話な話はしないさ。

残念なことに私の両兄はそれぞれ我が父とは格が違う家柄の血筋でね。

 そこから私まで20年空いたのは…おそらく私が私生児だからだろう。幸い宗家が母方だったこともあって認知はされている、金には困ってないから心配は無用だよ、レディ」

 

 美月嬢はいまだ心配しているような顔だが本当にそんなものは必要ないのだ。

 むしろ哀れなのは我が両兄だろう。長兄はアーシェロットにこき使われ、次兄はガイウスリングの傍系血族に婿入りさせられていびられていた。私が四歳の時点で二人して大規模な円形脱毛症を発症していたぐらいだ。今頃ピカピカのツルテカ禿であろう。まだ40にもなってないと言うのに。

 

「というかそもそもイライザさんが会長と知り合いだったことが驚きなんだが」

 

「言ってなかったからね。まぁなんだ、入学式の日に戸籍問題で呼び出されたのだよ。たいしたことじゃなかったからこれも心配要らない」

 

 おっと、『戸籍』という単語にピクリと反応したのを私は見逃さなかったぞ、達也君よ。どうやら昼食時に私のことをとっくりと七草嬢から聞き出す腹積もりらしい。

 

「そうだ、断ってしまった後だけれど、生徒会長殿には私もちょっと聞きたいことがあったんだ。今更ながらお昼休みにご一緒させていただいてよろしいかな?」

 

「…俺たちが決めることじゃないな、それは」

 

「では、有り難くご相伴にあずかろう。いやぁ助かるよ。持つべきものは友だなぁ」

 

 そうはさせるか、達也の情報収集の妨害と七草嬢への情報漏洩の聞き取りを同時にこなす荒業をやってのけてやる。

 

 決意を新たにする私と達也の愉快な仲間たちは学校への一本道の終わりに差し掛かっていた。

 

──────────────────

 

 決戦の日《昼休み》来たれり。

 

 歓待を受けながら深雪、達也、私の順で入室し、自配機(オートクッカー)から料理が出力されるのを待つ間に生徒会メンバーの紹介があった。

 生徒会長:七草真由美

 会計:市原鈴音(通称リンちゃん)

 書記:中条あずさ(通称あーちゃん)

 この場にいない達也嫌いの副会長は『はんぞーくん』というらしい(通称はすべて真由美命名、なお本人たちは嫌がっている模様)。この調子では七草通称シリーズで名字(セカンドネーム)が『服部』ってだけの可能性も多分にあるな、まだ見ぬ『はんぞーくん』。しかしミスあーちゃんはいじめられっ子気質のようで、とても弄りやすそうなボディをしている。彼女だけは通称通りに呼んで反応を愉しもうと心中ひそかに決定する。

 なお、この場には昨日の麗人も居合せ、身分は風紀委員長、名前は渡辺摩利というそうである。私の中の彼女の冷たい印象と風紀委員のかっちりとしたイメージがピタリと重なり、私は大きな納得感を得た。

 

 ここで私の自己紹介が求められた。当然といえば当然、達也と深雪は望まれてこの場にいるが、私に関しては部外者でしかない。

 

「初めまして、皆様。イライザ・E・ベルベットと申します。ミス七草に少しばかりお伝えしたいことがありまして、今日、司波兄妹とご一緒せていただいた次第です。それ以外はお邪魔しませんのでどうかご同席をお許し願えないでしょうか」

 

 七草嬢が不可解そうに首をかしげる。私の『お伝えしたいこと』の見当がつかないからだろう。

 達也も私の発言に何か感じるものがあったようだが、口には出さなかった。

 

 その後成績優秀な深雪は生徒会に、達也は風紀委員にドナドナと売られかけたところでタイムアウト。昼休み終了5分前になり、ミス渡辺が残りの話は放課後に持ち越すことを半ば強引に達也に認めさせた。

 

「ああ!いけない、リザちゃんのお話何にも聞いてない!」

 

 七草嬢は叫ぶ。私の『目的』はあの自己紹介のときにもう果たしたも同然だし、そもそもおまけでしかない私のことなど忘れていても仕方ないと思っているのだが、やはり彼女は良い人なのだろう。

 そんな人の昼休みを無駄に過ごさせてしまった事実に僅かな悦楽を覚えるあたり、私は歪んでしまっているが。

 

「いえいえ、本当に大したことではないんです。昨日遠坂殿から連絡がありまして、今後ともよろしくとのことです」

 

「...え?それだけ?」

 

「はい、それだけです。

私もわざわざこれだけ伝えるのは面倒だったのですが、まぁ他ならぬ遠坂殿の頼みですので後回しにせず、今日お伝えしたかったのですよ」

 

 あまりにあっさりした伝言に困惑顔の七草嬢にことわって、私は同様に不思議そうな顔をする司波兄妹とともに生徒会室を出た。

 

──────────────────

 

 深雪と別れ、E組に戻る道すがら、気になっていたことを彼女に直接訊いてみる。

 

「イライザさん、本当にあれだけを伝えるために俺たちと一緒にきたのか?」

 

「ああ、遠坂殿は私にとって重要なパトロンだからね…というのは建て前で、まぁカマかけのようなものさ」

 

「カマかけ?」

 

「入学式の日に七草嬢と十文字殿に呼び出されたのは話したね?あのとき私は七草嬢から『イライザをよろしく』というメッセージが遠坂殿より十師族に寄越されていたと伝えられたんだが、冷静になると、どうもおかしいと感じたんだ。

 遠坂家の家訓は『余裕を持って優雅たれ』だ。そんな彼らが『イライザをよろしく』なんて無味乾燥な文面で挨拶をするわけがないんだよ。」

 

「…つまり、実際にはその遠坂殿は十師族に連絡していないと考えているわけか」

 

「その通りだよ、ミスタ達也。流石に鋭いね。

私は彼らに謀られた訳だが、確かめなきゃいけないことが出てきた。実行犯にされていた七草嬢と十文字殿は遠坂からの連絡が無いことを理解して私を騙したのかどうか。

 彼らはたとえば親とかに『遠坂から彼女によろしくって来てたから、そう伝えて』と言われればその通り伝えるだろう。なにせ親の言葉なのだから」

 

「彼らは嘘をついていたのではなく、そもそも事実を知らなかった可能性があるのか。そうなると──」

 

「あの場面での表情でそれを判別できる。もしも七草嬢が真実を知っているなら私が『お伝えしたいこと』といった時点で『困惑』より『動揺』が先んじるはずだろう?きっと問われるのは『遠坂から十師族に連絡など入れていなかったようですが…』という、非常にかわし辛い質問だから」

 

「その様子が無かったから、少なくとも彼女は『白』だと」

 

「ああ、この調子では十文字殿も白だな。推定無罪だが。彼らの親、十師族の当主というのはなかなかに権謀術数が好きなようだ。

 この謀を仕向けた人物はとても…とても…『魔術師(私たち)』に似ているよ」

 

 そうつぶやいて、俺とともに1年E組の教室に入っていく彼女の姿を、どこか人間とは異質な、 別の生き物に幻視した。




 タグに『ロード・エルメロイⅡ世の事件簿』を追加しました。

 イライザの兄二人は植物科のアーシェロットと動物科のガイウスリングの縁者の父を持ちます。弱体化を重ね、貴族主義派閥内でも立場の低いエルメロイ派に2家が婿入れしたのはそうしないと生き残れないほど神秘が薄れてきているからだと思われます。

ご観覧に感謝します。

改稿方法につきまして。活動報告に記載いたしましたが、改稿します。展開全部変わります。本当に申し訳ないです。ですがコレ以外で自分がこの作品更新できる自信がないのでやります(断行)。以下の2つの方法から選択していただけると幸いです。

  • 新しく改稿版『イライザの進学』を投稿する
  • 本作品を1話から全部改稿する
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