イライザ・エルメロイ・ベルベットの進学   作:C-Mech

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#5イライザ・エルメロイ・ベルベットの新入生歓迎期間:破

 現在魔法という技術は限られた人間にしか扱えないものとしてではあるが、一般に認知されるようになっている。そしてそれ故、行使する人間も公の身分があり、かつ中流階級以上であることが多い。

 であらば、此度の計略を働いた人物は真由美と克人を使い走れるという時点で十師族の当主以上が確定していて、かつ私と遠坂殿の関係を一端でも知り得る人物...

 

「七草弘一...か」

 

 彼は日本で著名な実業家らしかった。それでいながら十師族の当主として関東近辺の多くの魔法師を配下に置いており、巨大なネットワークを形成している。その割にどうにも身辺が()()()()()きな臭い。

 おそらく主犯は十文字ではなくこちらだな。私は昨日の夜の時点であたりをつけ、カマかけの対象を七草嬢に絞っていた。というか、ぼろを出しそうなのはこちらだけだろうと正直思ったのもあるが。

 

 達也にタネを明かしたのはまずかったかもしれんが、あのくらいのご褒美は与えておかないと私について探ろうとする手を停滞させることはないだろうから、案外ファインプレーだったかもしれぬ。

 

 ま、何はともあれ私にとって目下の『政敵』は定まった。この現代の魔法師にありながら魔術師然とした策謀を巡らせる人物に、どうにかお礼をしなくては。

 ああ、時計塔時代を思い出す。わずか5歳の身空の私を文字通り『なかったこと』にしようと差し向けられたアーチゾルテの刺客から逃げ回っていたあの頃。

 あの冷ややかな怒りと悲しみが体を満たす感覚が戻ってくるようだ。

 

「ちょっとリザ?なんか怖いわよ?」

 

「ああ、すまないね。昨日観た映画(フィルム)の主人公たちの行動があまりにもご都合的でね。まるで殺されるために暗い部屋の中で叫んでいるのかと思うほどだった。私に虚無の時間を過ごさせたアレに怒っていたのさ」

 

「そこまでかよ...」

 

 いけないいけない。忘我して感覚時間が間延びしていたようだ。この時間は魔法実技の実習。魔法で台車を行ったり来たりさせるという、まぁ正直なかなか退屈なもの。

 しかし私にはハンデがあるし、ぬるい気分でやったらちょっとまずい。気合を入れなおして課題に取り組む。

 

 魔術師の中には脳内に思考を分割出来るほど大きな演算リソースを持つものもいるが、残念私は凡才なのだ。今ある魔術回路だけでも有り難く思わねば。

 

 現代の魔法師の能力は魔法の発動速度、規模、事象干渉力で決定される。

 …魔法の起動速度だの効果規模だのを計測するというのは、結局魔法師を『戦力』として計上する上で必要なものなのだろう。純粋な学問として魔法を学びにきた人間に軍事的素養を求めるのはどうなのか…。

 なんて、そもそも魔術を教える気サラサラ無いのに時計塔に魔術師を寄せ集めている我々が言えたことではないが。現状まともに魔術を教えているのなんぞ現代魔術科(ノーリッジ)のグラシュエート翁たちぐらいだろう。

 

 気を引き締めたつもりだったが雑念が混じりタイムは一科生落第(二科生)、やらかしたなと感じつつも、過剰想子光(エネルギーロス)は出なくて少し満足しながら彼らのもとに戻る。

 

───────────────────────

 

 その後はつつがなく本日のカリキュラムが終了し、達也と深雪は委員会にケリをつけにいった。

 

 帰り道あの二人を除いた三人と下校する。エリカとレオの漫才を楽しみながらなにか弄れそうな事はないかと傾注していると

 

「そういえばさー、リザってかなり礼儀作法とかしっかりしてるよね。もしかしてスゴいいいとこの出身だったり?」

 

「…まぁあながち間違ってはいないよ、ミスエリカ。私は英国の没落貴族の長女でね、上の兄たちが家督を継ぐはずなので、継承争いを避けるために日本に流れ着いたというのが実際のところさ」

 

 ちょっとしたブラフを混ぜつつ真実を話す。魔術師は常に己も周囲も欺くため、このあたりはお手の物である。

 

「没落ってなにがあったんだ?」

 

「リザだって語りたく無いことくらいあるでしょ!配慮がわからないのこの猿男!」

 

「かまわないよ。ここまできたらミスタレオの質問にも答えよう。ズバリ先々代の当主が家の財産をすべて吹っ飛ばすような死に方をしたそうでね。そのどさくさに我が家に残ったなけなしの資産も身内・敵によって啄まれ、あっという間にハリウッド超大作一本ぶんは優に越す負債だけが残ったというわけさ」

 

「「「ええ…」」」

 

 ここまで言ってしまえば後はもう言葉が出てこないだろう。衝撃的な事実を顔面に叩きつけることで相手の応答を消滅させる初歩的なテクニックである。

 

「その後の二代でそれを完済したんだ。頑張った方だと私は思うね」

 

「なんか外国の魔法師ってそんなドロドロしてるのね…」

 

 さらにお喋りがすすむと、明日から新入生歓迎期間で、新規部員獲得のために校内で魔法飛び交う争乱状態になるという話を聞いた。

 はて、私の聞くところでは対人への魔法使用は厳罰だったはずだが。まぁ箍が外れやすい高校生にCADなど持たせたらそうもなるか…。と納得しつつエリカ達と別れ我が家に帰り着いた。

 

 今日のうちに遠坂殿への手紙をしたためなくては。相手を刺激しないように、かつ私の主張をシッカリ聞き入れてもらえるように慎重に言葉を選び、端々に遠坂殿を讃える美辞麗句を忘れぬように────

 

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 翌日、深雪は喜ばしいことに生徒会へ、達也は哀れにも風紀委員会へ加入したことを聴かされる。いや、彼も見方を変えれば史上初の二科生風紀委員なのだから十分喜ばしいが。

 しかも達也は件の『はんぞーくん』副会長殿と決闘の末、見事委員席を勝ち取ったのだという。目立ちたいのか目立ちたくないのか。

 

「というよりそんな面白そうなイベントを見逃すとは、我ながら不運だな」

 

「勘弁してほしい。あれは深雪の目が曇っていないと証明するための模擬戦だった。別に誰かに見せびらかしたいものじゃない」

 

「妹想いなことで」

 

 あらためて思うがコイツの脳味噌の中には妹以外入っていないんじゃなかろうか。ここまで子煩悩ならぬ妹煩悩なら一周回って健全…いや、一周半回って不健全だな。

 

 さて、放課後と相成って新入生を攫おうと各部・クラブ・研究会が手ぐすね引いて待ち構えるが、そもそも私は自分の魔導の研究がある。

 そのため課外活動には属さないと誤魔化しつつエリカ、レオ、美月(イツメン)に言ってとっとと帰ろうとしたのだが、エリカは風紀委員となった達也と巡回をともにするようだったので、私もついていくことにした。

 

「意外ね、リザはクラブなんて興味ないかと思ってたんだけど」

 

「別に。学校全体がここまで浮かれていれば気まぐれの一つも起こすというものさ。まぁどこかに入るかと問われれば否だがね」

 

「じゃあ無駄じゃない、この時間。一昨日、『無駄なことは嫌いだよ』とか言ってた気がするけど?」

 

「言ってたかねぇ、言ってたかも。ただまぁ本当に気まぐれなんだ。理由のない行動というのは時として慎み難いものだ。だからどうか同行を許してほしいな」

 

「…まぁ良いけど」

 

「ありがとう、エリカ。お陰で我が知的好奇心は満たされる。日本の魔法科のクラブ活動やいかなるものかというね」

 

 半分嘘である。昨日迂闊なことを達也に洩らしたため、その反応を探りにきたのだ。

 もう半分は正直な興味だ、疑い過ぎないでくれたまえ、読者諸兄。

 

 あと加えて言うのなら、エリカが少し心配なのもある。どうにも彼女は調子が悪いようだ。その症状は、ともすると司波兄妹に──どちらかというと兄の方に──執着している、今の私と同じようなものなのかもしれなかった。

 

 彼は異常者だ。間違い無く。それゆえに聡いもの、強いものほど毒牙にかかりやすい。だから、自分とどこか繋がるところのあるこの少女を放ってはおけなかったのかもしれない。

 もしかしたら気まぐれの延長なのかもしれないが。

 

 かくて待ち合わせ場所からがっつりズレた位置にて達也を待ち、軽口を叩きながら巡回を始め───られなかった。

 

 エリカも私も自慢ではないが美少女なのだ。よって人目を集めたすぎた結果、凄まじい数の勧誘勢力によって押しつぶされ、前に進めなかったのである。

 

 耳元で『将棋研究会』だの『古式魔法研究会』だの混沌とした声が聞こえるが、ここまで揉みくちゃでは自力脱出は不可能だ。

 

 隣に居たはずのエリカも遠く離されてしまった。なりふり構わなければ魔術回路を賦活させて周囲の有象無象を吹っ飛ばすことも出来なくは無いだろうがリスクが大きすぎる。

 

 万事休すかと思った瞬間、私たちに群がる魑魅魍魎たちが()()()。その刹那を見逃さず、手が差し伸べられ、

 

「走れ」

 

 という達也の命令に従い、私とエリカは人垣から逃走した。

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手品のように人混みから抜け出し、手を放す。

 

「いや助かった。本当に恩に着るよ、ミスタ」

 

「一応風紀委員だしな。気にする必要は無いが…」

 

 問題はエリカだった。いつの間にやらあの躾のなっていない集団に服をはだけさせられていたようで、それを直そうとしたタイミングを運悪くこの三人の中で唯一の男性である達也に見られてしまったのだ。

 

「拗ねてるな」

 

「ああ、拗ねているな。…エリカ、それはミスタ達也の失態じゃない。怒りを向けるならばあの人垣をつくっていた連中にしたまえ。あんまり彼に恩知らずな真似をするなよ」

 

「わかってるわよ、ばかっ!」

 

 と言いながら早速恩知らずにも達也の向こう脛を蹴っ飛ばし、スタスタと小体育館の方へ歩み去る彼女は、きっと羞恥で涙目だったに違いない。

私の好物のはずだがどうにも愉悦を感じる気分になれなかった。

 

「すまないね。彼女、今は少々不安定なようだから」

 

「いや、正直モミジの一つは覚悟していたからかまわないよ」

 

「紳士的だな。それならきっと倫敦(ロンドン)でもやっていける」

 

「ご免被る。このあいだの駅のような目にそう何度も遭いたくない」

 

 私が釘を刺しに行った時のことを引き合いに出される。彼は私がミス真由美(彼女の父が主犯であると思われるので、呼称を変更)から情報を得るのを警戒していると見て、直接私に問い質す方向にシフトしたらしかった。

 

「おや、お気に召さなかったかな。割と自信作だったのだが」

 

「…見たことも聞いたこともないぞあんな結界術。古式にしても異常だ」

 

「君が言うか。それにそもそもこの世のすべての魔法を暗記している人間がいるわけもあるまいし、未知の魔法があったっておかしくないとは思わんのかね?新しい魔法なのかもしれないとは?」

 

「それもそうだな」

 

 私のはぐらかしを受けて、あれが私オリジナル魔法(魔術)であることを示唆する発言を得られただけでも良しとしているのか、はたまた小体育館に着いたからか、彼はそれきり沈黙した。

 

 小体育館内で、先程のことが無かったかのようにケロッとしているエリカを発見する。食い入るように剣道部の演舞を見ている。そういや彼女は剣術家であったな。

 

 すると、今度は外から剣術部なる一団が入場もとい乱入する。

剣道部の女子生徒(エリカ曰わく壬生紗耶香、一昨年の剣道全国2位)と剣術部の男子生徒(桐原武明、一昨年の剣術関東1位)が言い争い、挙げ句桐原の方が魔法まで使い出した。一科生はどうしてこう魔法を使うのに躊躇がないのか。自制を司る部分を魔法演算領域にまわしているのか?

 

 あわや負傷者が出るところで達也が介入し、桐原を逮捕。それを良しとしない剣術部員を薙ぎ払って部活連にしょっぴいていった。

 

───────────────────────

 

 桐原先輩を部活連に突き出し、退出しようとすると、

 

「司波、少し話がある」

 

 と、部活連会頭十文字克人に呼び止められた。場所を移すことを提案され、したがって部活連本部から出る。

 

「部屋の外ですまない。少々人目を憚る話なのでな」

 

「かまいませんが、そこまで深刻な話をされても二科生の俺には手に余ると思います」

 

()()()の荒事ではないから安心しろ。司波がベルベットと親しいと、七草から聞いてな。…実際のところ、友人として彼女をどう思う?」

 

 ようは、彼もまた情報を欲する一人だったというわけだ。

 

「人格的な面を見れば、シニカルでお世辞にも善人であるとは言えませんが、人の中で生きていくための処世術を心得ているようで、それを繕うことなくコミュニケーション手段として用いるのを是としています。付け加えるなら、人の表情や仕草などから相手が今どう考えているかを正確に推察できる洞察力もありそうですね。…ここらへんでしょうか」

 

「そう、か。そこまで詳細を述べろとは言っていないが、情報提供感謝する。もし何かあれば礼というわけではないが力になろう」

 

「ありがとうございます。自分からも一つお尋ねしてよろしいでしょうか」

 

「言える範囲でなら」

 

「では、十師族(あなたがた)は彼女についてどれだけ知っているのでしょうか」

 

「…おそらく、お前が知り得る以上は知らないだろう。英国貴族の子女で、遠坂がバックにいるということだけだ。それを探っているとなると、お前もなにか隠していることがありそうだが」

 

「そのようなことは。ただ、不思議な術式を使うのと、極めて珍しい純外国人の生徒だったので気になっただけです。お答えいただきありがとうございます。それでは、失礼いたします」

 

「ああ」

 

 十文字は何か言いたそうだったが、話を切りあげて生徒会室の深雪のもとに向かう。

 十師族直系ですら彼女の情報を追い切れていないとなると、正直()()()に頼るしかなかったが、今はまだ、それほどでもない。明確に敵対したわけでもない。今の関係のまま、しばらく様子を見よう。

 

 そう考えながら、なぜか生徒会室ではなく昇降口で待っていたいつもの連中と合流した。

───────────────────────

 

 帰り道、達也の奢りでカフェに行こうという話になったが、私がこれを固辞した。仮にも貴族、貴族の務め(ノブリス・オブリージュ)は果たさなくてはということで会計は私が持つといって譲らなかったのだ。一応達也にあの人の山から助けてもらった恩もある。それを理由に、ついでとして皆のぶんまで奢るといってようやく達也も引き下がった。

 

 彼が桐原に行った魔法は二つのCADで阻害したい魔法と同系統逆方向の起動式を発生させ、相手の魔法式の展開をある程度抑制できるというもの(だと思われる)だった。

 聞いたことのない魔法理論である。独自で発見したと彼がのたまうと、エリカたちもその非常識な博学に驚きを通り越して呆れていた。

 しかも魔法式の阻害など軍事機密スレスレなモノを親しい友人だからといってベラベラ喋るかね…。

 しかしたぶん、彼は副音声で私にこういっているのだ。『俺は一つ秘密を曝した。お前も見せろ。』と。

 なかなか自分勝手で傲慢な男である。私がその程度の誘いに乗ってやるものか。

 気を悪くした私はその後カフェで一言も喋らずに家に帰った。




《グラシュエート翁とその一派》
 現代魔術科(ノーリッジ)学部長とその思想に共感する新世代(ニューエイジ)の集団。グレートビッグベン☆ロンドンスターの教えを細々と繋ぐ。

《先々代の当主》
 アーチゾルテ(アーチボルト)の当主ではなくエルメロイの当主として二代前。
 無視しない訳にはいかないほど時計塔内部に『彼』の教え子がいるのでエルメロイの当主として数えざるを得ないが、アーチゾルテとしては不満。ライネス個人は義兄はちゃんと君主の器だったと認めている。

《何か言いたげな十文字》
 不思議な術式の詳細を聞きたいのと、あまりに落ち着き払っていて不審な達也に警戒している。

 ご観覧に感謝を。

改稿方法につきまして。活動報告に記載いたしましたが、改稿します。展開全部変わります。本当に申し訳ないです。ですがコレ以外で自分がこの作品更新できる自信がないのでやります(断行)。以下の2つの方法から選択していただけると幸いです。

  • 新しく改稿版『イライザの進学』を投稿する
  • 本作品を1話から全部改稿する
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