イライザ・エルメロイ・ベルベットの進学   作:C-Mech

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#8イライザ・エルメロイ・ベルベットに手紙

「この論理でいくと順序的に個別情報体(エイドス)を改変するのに必要な干渉力が規定を上回ってしまうだろう?だから、模範解答にあるような一見面倒な方法をとる必要があるわけだ」

 

「ははーん。つまり、初期条件によってはオレの考えも合ってるワケか」

 

「間違いは間違いでしょ。誇らしげに言われてもねぇ」

 

「もう慣れてきたわその憎まれ口。オレを煽りたきゃ別の方法を考えてくるんだな」

 

「二人とも、そこまでにしましょう?リザちゃんの机で騒いで迷惑にならないようにしないと」

 

「私は仲睦まじい漫才を期待して二人に勉強を教えているんだし、そこまで目くじらをたてるもんじゃないさ、ミス美月」

 

「べべべ別になななな仲睦まじくないし!」

 

「そそそそそうだぞ、犬猿の仲だぞ!」

 

「ああ、はいはい。そういうことにしておこう」

 

 ギャアギャア騒ぎ出す二人が室内の注目を集めだす。美月が懸念したことが現実となり、彼女は慌てふためいている。うむ、小動物のようで可愛い。

 しかしこのコントはここ数日で『いつものこと』になり果てた夫婦漫才なので別段彼女が心配する必要もない。

 

 現在私たちは魔法論理学基礎Ⅰの時限で、複数の系統魔法を連続で行使する場合のタスク処理順序についての課題をこなしていたところだ。

 

「というかレオ、この手の疑問はミスタ達也に聴いた方が確度の高いものを教えてくれると思うが。なぜ私の方に?」

 

「いや、達也には悪いんだけどよ…あいつ時々難しい発展理論まで語り出したりするから頭パンクしそうでさ」

 

「…ああ」

 

 確かに彼はそういうところがある、気がする。自分の中の知識と他人の知識の差を度外視して話す、いわゆる『頭いい人』の喋り方。一種の癖(悪癖だが)のようなものなのだろう、達也は時々そんな話し方をする。

 さらに、彼の『妹以外に大切なものはありません』という態度がそれを助長している。深雪に対してだけはああいう足並み揃えぬ会話はしない。

 

 要するに司波達也は性格が悪いのだ。

 質が悪いのは妹にはその態度を出さないというところだが、身内に甘いのはどこも同じだ。大目に見るべきだろう。なにせ我が母様ですら私にダダ甘なのだから。

 

「俺がどうしたって?」

 

「!…達也かぁ。驚かさないでくれよ」

 

「驚かしたつもりはないが」

 

「声かける直前まで気配なかったらそりゃ驚くし驚かしてやろうって魂胆あるもんだと思うでしょ」

 

 達也が急に背後から現れたらこの世に驚かない人物はいないと思う。事実レオは腕が胴からすっぽ抜けて飛んでいきそうなほど肩を跳ねさせていた。

 そして私たちに近づいてきていた達也の存在に、会話に入っていなかった美月とエリカは気づいていたようだ。達也が気配を殺して近づいてきたのを私たちに言わなかったあたり、彼女たち(多分主犯はエリカだが)も性格が悪い。

 

「授業が終わったらどうする?今日はこれでおしまいだし、特別な予定がないなら私の行きつけの喫茶店に寄って行かないかい?店主が今度新作を出すと言っていてね、試作の味見に付き合ってほしいらしい。なら人数が多いに越したことはないから、君たちにも来てほしいんだが」

 

 『美を望むならば新しきに触れ合え』

 師の教えに従って、私は新しいものに対してアンテナを張っている。今回のこれは、私の数少ない趣味の一つである喫茶店めぐりのさなかに得た情報を最大限の人数で愉しもうという、私らしからぬ善意100%で出たセリフだった。

 

「リザちゃんが誘うの珍しいね」

 

「単純に人と仲良くなるのに時間がかかる性質なだけだよ。私はもともとおしゃべり好きな性格だし、今回は懇意にしている喫茶のマスターの頼みだから」

 

「いいわね。私も予定ないけど…達也君は非番?」

 

「俺はそうだが、深雪の方がどうかわからないな。多分そこまで生徒会の業務は詰まってないはずだし、誘えば仕事を後回しにして来そうではあるが」

 

「んん、だがそこまでしてもらうのは気が引けるな…」

 

「予定が合わなかったら俺たちは置いて行ってくれてもかまわない。誘ってくれただけでも嬉しいよ」

 

「こういう場面で仲間外れが出るとせっかくのスイーツがまずくなるだろう。ミス深雪の予定が合わなければまた日を改めるさ」

 

 なんて言っていると授業終了。とりあえず深雪の予定を聞かないと話にならないのでとりあえず荷物をまとめ、また校門で落ち合おうということになったのだが

 

『全校生徒の皆さん!』

『僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志同盟です』

『僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』

 

 けたたましい校内放送。二回目以降は音量を調整したようだが、放送内容がやかましい。

 なにが差別だ。一科と二科のことか。それなら差別の撤廃など、それこそ意味がないではないか。

 

 魔法師という存在も家系、つまり血筋の影響は逃れ得ない。

 たとえ一科生と同等の環境があっても、そもそも素質がないんだからせいぜい綺麗な石ころが生まれるだけだ。そして世界はそれよりも宝石を一つ磨いた方が豊かになる。国は、それゆえに魔法科高校にこの区別を作ったのだ。

 

 そもそもこの不安定極まる国際情勢で学生運動など周りが見えてなさすぎる。一般的な学生ならまだしも、卒業後に大多数が国防に関わる、関わらざるを得ないこの魔法科高校では事実上それは()()()()()

 そんなこともわからないほど視野狭窄な学生がいたのか、と思ったが一科生にも周り見えないやつ(森崎)いるしなぁ。

 

「放送室を不正利用しているのは間違いない。委員会からお呼びが掛かるか」

 

 達也は風紀委員として事態鎮圧に動くようである。まだ一年生だというのにご苦労なことだ。

 

「そうか、じゃあ私は帰ろうかな」

 

「誰も動かないこの状況で普通に帰ろうとするのはなかなか胆力あるな」

 

「私は差別撤廃などに興味はないし、彼らが交渉をするにしても聞く必要がないからね」

 

「そういうところドライよね」

 

「合理的と言ってほしいね。じゃ、喫茶の件はまた別日に。どうせこんな調子では生徒会も緊急招集が掛かるだろうし」

 

 それだけ言って私は誰もが戸惑う教室を後にした。

 

───────────────────────

 

「ただいま、婆や」

 

「おかえりなさいませ、お嬢様。遠坂殿からお返事が届いております」

 

 帰り着いて早々、婆やから重要なことを伝えられる。彼女はメールなども使えるはずだが、私の学業を邪魔しないように控えてくれているそうだ。でも今回くらい重要な情報は早めに報せてほしかった。

 

「本当か!?魔術的な細工はなかったか?」

 

「封を切っていない状態では何も感じませんでした。念のため魔術をかけて走査しましたが、そちらでも特には」

 

 婆やはしかし、理由なく私に連絡しなかったわけではないようだった。私に危害が加わらぬように届いた封筒を調べてくれていたのだ。

 

「そうか…。うん、なら夕食より先に開けてしまおう。もしもの時は頼むよ、婆や」

 

「命に代えましても」

 

 意を決して、魔術回路を開く。ペーパーナイフを使って封筒を切り裂き、中の便箋を取り出す。ここまでは、何も起きていない。

 一番ことが起きそうなのは内容を目に入れたときだ。いよいよ折りたたまれた便箋を開く段になって私たちの緊張は最大限に達していた。

 

 ちら、と目をあけて手紙を目に入れる。そこには

 

 

 

『八月六日 富士にて 告げる』

 

 

 

とのみ、記されていた。

 

「八月六日?」

 

 いやそこはそこまで問題ではない。学校は休めばいいし。

 とはいえ目的が不明だし、何を告げるのか主語がないからわからない。

 つまり…

 

「謎かけ、か」

 

「魔術の気配もなし。本当にこれだけを伝えるために手紙を送ってきたようですね…」

 

「こういう場合ってだいたい、富士に行けば遠坂殿の使者がきて何かを告げる流れだよな?」

 

 まるで推理小説の序盤だ。しかし問題はこの謎を仕掛けてきている相手が魔術師だということだ。

 魔術師に一般的なトリックは通用しない。魔術師が起こす事件は5W1Hのうち、いつ(when)どこで(where)なにを(what)どのように(how)が欠落している。故にそれ以外の二つの持つ意味が()()

 母様はそう常に私に言い聞かせた。そしてこの場面で『誰がやったか』(フーダニット)は割れている。つまり意識すべきは『なぜやったか』(ホワイダニット)。言葉にせずとも私はそう確信した。

 

「まぁ呼び出された以上応じるほかない。婆や、危険があるかもしれないが…付き合ってくれるかい?」

 

「もちろんです。拙はお嬢様の従者でございます。どこまでも付き従いますとも」

 

「ありがとう」

 

 予定は定まった。私がこの国にいられるかの瀬戸際。エルメロイ派が遠坂殿の不興を買わないかの分水嶺。そのすべてが、家から離れたこの私の口先三寸にかかっている。今から胃が痛い。

 でも大丈夫だ。婆やがいるのなら、私は強くいられる──────

 

───────────────────────

 

 達也は深雪とともに、九重寺(きゅうちょうじ)に来ていた。美月を拘束していた剣道部の主将、司甲(つかさきのえ)の情報を求めてのことだったが、それ以外にも予想外な情報が八雲の口からもたらされた。

 

「そういえば達也クン、クラスメイトのイギリス人ちゃんはその後どう?」

 

「…普通というか、理論面で面白い知識を披露していたくらいですが。どうしたんです藪から棒に」

 

「キミが面白いというほどの理論には興味あるネ。あとで教えてよ。…じゃなくて、彼女について情報が入ったんで、一応君にも伝えておこうと思って」

 

「ぜひお願いします」

 

 八雲が話す判断をしたということは、相当に確実な情報ということか、または確度はどうあれきな臭いかのどちらかだ。聞いておいて損になることもあるが、自分の身の回りの人物のこととならば聞かないわけにはいかない。

 

「なら話そうか。実は彼女のもとに遠坂から手紙が送られていたようでね。その内容を盗み見ようとした勢力がいたようなんだけど…」

 

「なんだけど…?」

 

 背後の深雪が問い返す。八雲は言葉を切って濁すべきかどうかを迷っているような顔をしているように達也の目に映った。

 ここまでしか話さないのは正直面白くはない。

 

「師匠。そこまでしか話さないのなら最初から話さないでいてほしかったんですが」

 

「いや、ほんとに表現が難しいというか。起こった現象を端的に表す言葉がないというか…」

 

「…?どういうことですか?」

 

「うん、順番に頭から話そう。まず、手紙が遠坂の居住地である冬木市のポストステーションから発送されていることが発覚したとき、当の手紙は近畿地方の中継地点にあった。そこで、件の勢力がその手紙を奪取するためにその中継地点に留め置かせたそうなんだけど、なぜか留め置いて入れておいた金庫から消えていて、すでに東京に向けて発送されていたらしいんだ。」

 

「…その勢力というのは七草ですか?」

 

「ノーコメントだが、どうしてそう思うのか聞かせてもらっても?」

 

「そういえば、入学初日に十文字先輩と七草先輩に呼び出されたといっていましたね…」

 

 達也に代わって深雪が答える。いささかあからさますぎる彼らの行いは、達也でなくても深雪くらい頭がキレれば考えつくだろう。

 

「まぁそこからが本番で、慌てた彼らは再び東京の集積所で留め置きを実行。今度は金庫に入れる前に間に合って、勢力の手のものがブツを事務所に持ち帰ったそうなんだけどね…今度も事務所から消滅。そして配達期日通りに彼女の住む街のステーションに忽然と現れた。しかも東京集積所から最寄りステーションまでの記録は一切ない。つまり誰がどう運んだのかも不明ということだ」

 

「古式魔法という線は」

 

「いやぁ、少なくとも僕の知識に荷物を絶対に目的地に送り届ける魔法なんてないよ。古式にしても実用性がなさすぎる」

 

 確かにその通りだ。攻撃性のない魔法は少なくないが、それでも古式は他人の意識に左右する精神干渉系が多かったり、魔法式に書き起こせないものが多かったりするだけで、本質的に現代の魔法と変わらない。

 となると今回のような魔法は無意味どころか無駄ですらある。手紙に効力を発揮し続けるという動作原理不明の異常に高度な技術によってやっていることが、九州から関東まで第三者からの干渉を拒んで手紙を届けているだけなのだから。

 

「そもそもどうして手紙なんでしょう?以前聴いた遠坂の資金力があればヴィジホンがないとは考えられませんし…」

 

 これまたその通りでもっともな疑問点だった。情報網の発達した現在、もはや手紙文化はほぼ死に絶えているといっていい。 

 ポストステーションはかつての郵政グループの残骸、あくまで少数の文通愛好家のために存在する細々とした私企業なのである。つまり、それを使う方が圧倒的にコストがかかる。

 

「遠坂はずっと昔からそうみたいだよ。記録に残ってる文献ってのは遠坂からの指令状だったり、魔法理論について初期の魔法師たちと議論したものだったりだから」

 

「そこまで徹底して現代機器嫌いなのは、正直呆れを通り越して尊敬しますね」

 

 そう結んで、今日の会合は終わった。明日は討論会当日だというのにいらぬ厄ネタまで拾ってしまった気がするが、やるべきことは変わらない。

 妹を護り、日常生活を保つ。それだけだ。

 それだけを考え、妹を背に乗せて達也は家路についた。




《イライザから遠坂への手紙がばれなかった理由》
 そもそもイライザは現代の郵便網を使っていない。伝書鳩によって遠坂邸まで手紙を送っている。

 ご観覧に感謝いたします。

改稿方法につきまして。活動報告に記載いたしましたが、改稿します。展開全部変わります。本当に申し訳ないです。ですがコレ以外で自分がこの作品更新できる自信がないのでやります(断行)。以下の2つの方法から選択していただけると幸いです。

  • 新しく改稿版『イライザの進学』を投稿する
  • 本作品を1話から全部改稿する
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