『明日、いつだか予定が合わなかったカフェへ行かないか?』
私は友人たちとのグループチャットにそう書き込んで、送信ボタンをタップした。
今日は討論会当日である。この馬鹿馬鹿しい催しに駆り出された
エリカ『あたしはok』
レオ『オレも空いてるぜ』
美月『私も』
達也『今のところ俺たちは何も予定はないから行ける』
深雪『ほのかと雫も誘っていいかしら?』
全員大丈夫そうである。
深雪に『私は彼女らのフレンドコード持ってないからグループの招待はそっちでやってくれ』と返信してから、目的のカフェ『アーネンエルベ』の位置情報を共有する。
ここの店主は寡黙ではあるが心を開いた相手にはなかなかフランクで、今回創作デザートの味見を依頼してきたのも彼の気安さ故と言えるだろう。
店主──ジョージ氏との出会いはまぁまぁ複雑であったが、今では最初期の剣呑さはどこへやら。お互いに表面上ではうまくやれる程度の関係までに歩み寄った。
と、彼との邂逅を思い出していたら高校の最寄り駅に到着した。
討論会は放課後だ。後に尾を引く終わり方をしなければ(面倒な事務処理や暴力行為の取り締まりなどがなければ)、達也と深雪の予定はさっきの連絡通りだろう。私はささやかながら、友人二人の平穏を祈りつつ、駅から学校までの一本道を歩き始めた。
放課後。
あの頭のおかしい集会に加わる気が起きなかった私は、気まぐれに図書館に赴いていた。
この高校の図書館はさすがに魔法大学付属だけあって魔法学という一般人には縁遠く高価な書物が多数所蔵(だいたいはデータ上にだが)されている。
私とて学生だし、なにより『魔法』には正直疎い。これは私が魔術師であり、日常の大部分を魔術の研鑽に費やしている結果であって、もちろんその時間を割けば学年5位くらいならいけるだろう。
だがやはり悲しきかな、魔術師の性として、根源に至るための
なので、時折私はこのように図書館籠りをして周囲の魔法師連中についていけるように知識を蓄えているのだ。
魔術回路を巧いことつかうと情報の処理、精査、取捨が高速で行える。多くの魔術師が22世紀が近い現在でも頑なにコンピュータを使おうとしないのはこういう理由がある。
私もその要領で最近の論文をオートスクロールで画面上を滑らせながら情報を取り込んでいく。
それにしても、と作業中の意識の間隙に浮かんでくる疑問。
正直言って差別撤廃有志同盟?とやらの主張はあまりにも具体性がない。
学生運動などこんなものとは言うまい。紛争が世界中そこかしこで勃発する不安定な情勢は魔法師にもそれ以外にも早熟であることを求めた。そのために現在高校教育のカリキュラムは細分化され、理科高校、文科高校、体育科高校、魔法科高校などという区別が存在している。
その中でこの学校の門をくぐった生え抜きのエリートたちがこんな杜撰で軽率な行動を起こすだろうか?
また、時期も不自然だといえよう。
新入生という自分たちの思想に染めやすい相手が大量に獲得できるこの時期にその手を止めて討論会を開催する。普通、新入生の洗脳が完了する秋口から冬にかけて多くの手駒とともにことを起こすもんじゃなかろうか?少なくとも私ならそうする。
…考えても詮無きことか。
そう思いながら魔術回路を一時的に休めようと画面から目を離し、ぐいと身体を伸ばす。
今日は婆やに淹れてもらった紅茶を魔法瓶に入れて持ってきている。図書館は飲食禁止だがちょっとくらい許されるだろう。なにせ今日の私は真面目に勉強している一般魔法科高校生なのだ。後ろ暗い実験をやってる魔術師じゃない。
そんな陽気な気分で魔法瓶から付属のコップにアッサムティーを注ごうとした瞬間。
轟音が鳴り響き、私は驚きとともに魔法瓶を取り落とした。
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小野遥から此度の襲撃犯の狙いが図書館であること、壬生紗耶香もそこにいることを告げられた司波兄妹とエリカ、レオは、レオを図書館前の衝突の増援、他で館内に突入するというプランのもと所定の位置についた。が──────
「…館内が制圧されている?」
「ええ!?」
「どういうことですか、お兄様」
意識を拡張し、内部の様子を探っていた達也がこぼすように呟いた。
階段の踊り場に四人と、その先に四人が、それぞれ砂のようなもので縛り付けられていた。
「砂のようなもの」という形容は、彼の言葉の中に
砂は、彼の眼では魔法式を確認できず、しかし実際にそこに人間を拘束してのけるだけの物理的干渉力を伴って視界内に横たわっている。
達也の視界にこの状況を創り上げた術者が映る。
瞬間、
「イライザか」
「は!?なんであの娘が!?」
「俺もわからんが、館内にいる以上合流すれば説明してもらえるだろう」
階段を昇ると、先に見ていた通りイライザが待っていた。しかしその姿は、知覚系魔法を持つ達也にも、彼女をよく知るエリカにも、さして関わりの深くない深雪ですら普段の彼女とまったくの別物であるように映った。
まず、彼女の想子の流れが全身に広がり、よどみなく循環している。いつぞや彼女の話していた想子操作理論の完成形といっていいほどの完成度だ。普段の彼女の魔法力は今の彼女のおよそ3割に満たないだろう。彼女は自分の実力を完全に偽装していたことになる。
次に、彼女の無感情な瞳。達也の知るイライザという少女は、いささか倫理観が薄く、人を嗤うのが好きというどうしようもない性癖がある点を除けば親しみやすい方で、社交性や暖かみすら感じるときもあった。だが今はどうだろう。妹に対する感情が一定以上高まることのない自分においてすら底冷えするような感情のない表情。これほど芯の冷えた同類がいたにもかかわらず、彼はそのことに気づけなかった。
「リザ…よね?」
最初に声をかけたのはエリカだった。声が震えているのは気のせいではないだろう。
「ああ、そうだよレディ。私はイライザ・エルメロイ・ベルベットだとも。それ以外何がある?」
心底平坦な、ともすれば突き放すような声音でイライザは応えた。
「これは、君が?」
侵入者の中には一高の生徒もいるようだったが、情け容赦なく銀色の砂によって床や壁に叩きつけられ戒められている。
何人かは骨折や打ち身(後遺症は遺らないだろうが)になっているだろう。ただの学生ではないと思っていたが、ここまで外敵に対して無慈悲になれる人物だとは予想外だった。
「ここに無事な人間が私しかいない以上、私がやったに決まっているだろう。わかりきっている事実を何度も問答するな。時間の無駄だ」
こともなげに言いながら、彼女は自分の胸の前で十字を切りながら何事か呟く。
「───
瞬間、彼女を取り巻いていた
「それは呪文か?古式魔法っぽいけど」
「他人の術についてとやかく聞くのはご法度だったと記憶してるんだがねぇ。まぁそんなものさ。現代魔法における起動式のようなもんだよ」
言い終わると、彼女は左手に持っていた布袋を掲げた。
紗耶香たちを拘束していた銀砂が袋の中に納まっていく。どういう動作原理なのか知りたかったがそれよりも。
「いいのか?拘束を解いてしまって」
「構わんとも。どうせそいつらは何もできん。私が神経を狂わせている。口は聞けるだろうが自由になるには数日かかるだろう」
確かに彼らは砂が去ったあともぐったりと這いつくばり動こうとしない。
「君らの仕事を奪ってしまったのは謝罪しよう。私もちょっとむしゃくしゃして八つ当たりをしてしまった」
「いや、ありがたいよ。俺たちも面倒事はゴメンだったし」
「あたしは物足りなかったんだけど~」
「そうか。じゃあ後始末任せていいかな?」
不満を零すエリカをがっつり無視して
一番面倒な部分を肩代わりしてくれたわけだからこの程度の要求を呑むのは達也としては吝かでは無かったが。
「全部は無理だぞ。一応当事者として事情と状況を説明してもらわないといけない」
「そこをどうにか頼むよ達えもん」
「誰が達えもんだ」
「嫌だ!ただでさえ入学初日に生徒会長に捕まって目をつけられてそうなのに!あんなとこに行ったら絶対根掘り葉掘り術式についてまで聞かれるじゃないか!」
「なにやらかしたのよアンタ…」
荒れるイライザと呆れるエリカ。彼女らはともに親しい友人だからこそ対象的な反応をすることが多い。
言い合っている二人をよそに、達也は意識を覚醒させる存在を認識してCADを構える。
「うう…」
イライザの攻撃によって気を失っていた壬生紗耶香が意識を取り戻した。
この段になって女子3人はようやく気がついたようで、エリカ、深雪は自分の武器をつかむ。イライザだけはもはや抵抗できないと高をくくっているからか、悠然と壬生の方に向き直っただけだったが。
「おやおや…お早いお目覚めですね、
「………なんでよ…!」
イライザの軽口を無視して、紗耶香が激情を滲ませながら呟く。
「『なんで』とは?」
「そんなに強いのに!あなただって二科生で差別されてきたはずでしょう!差別をなくそうとするのが間違いだっていうの…!?」
紗耶香は心の中を絶叫した。達也は一切心を動かされず、深雪は怒りと憐憫を抱き、エリカはその程度のことに悩んでいたのかと肩透かしを食らった。
そして、問われたイライザはというと─────
「ふっ、ふふふ…」
──────本当におかしさをこらえきれないような調子で、さっきの非人間的な瞳で笑っていた。
「何がおかしいのよ…!」
「いや、失敬。あまりにも道化が堂に入っていて、ついつい…ね」
「道化ですって!?」
「ああ、貴女はまごうことなき道化だよ。鬱屈した自己憐憫を利用され、ただの窃盗行為に加担した挙句、今この瞬間その事実を受け入れきれなくて自身の思い描いた理想像、差別撤廃という大義を盾にして後輩を糾弾する。
これほど滑稽な人間を道化と呼ばずして何と呼べばいいんだ?」
その言葉の刃の数々は、壬生紗耶香という少女を黙らせるには十分な威力を持っていた。
言葉を失った紗耶香にとどめとばかりにイライザは続ける。
「道化ですらないかもな。なにせ今の貴女には愉しませるべき観客がいない。
まるで野良犬だ。目的もなくうろつき、自分に大義という餌を与えてくれる者に従うだけの走狗。ピッタリじゃないか。そのまま野垂死にするのは勝手だが、私に迷惑をかけないでもらいたいね。」
辛辣に言い切って、イライザは達也に向き直る。
「仕方ない、私も出頭しよう。だが始末書は書かんし、これ以上の面倒も御免だ。そこらへんの便宜ははかっておくれよ、初の二科生風紀委員殿?」
肩に手を置いて、達也の横を彼女が通り過ぎる。
嗚咽を漏らす紗耶香を背に階段を降りていくイライザは、やっぱりヒトとは全く別の生物に見えた。
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面倒ごとに巻き込まれた私は今保健室に来ていた。
そこにはついさっきメタクソ言った壬生紗耶香もいて、なんでか知らないが自ら進んで説明している。あの一瞬で何があったのか。それはたぶん彼女に付き添っていたエリカのみぞ知るということなのだろう。
彼女の劣等感、賊に付け入られる原因となった心の澱は、渡辺摩利風紀委員長殿に稽古を申し込んだところ、実力不足を理由にすげなく断られたことに端を発していたようであった。
これに対して風紀委員長殿はというと、壬生をすげなくあしらったりしていないという。むしろその逆で、自分の実力が壬生より低く、そのために無駄な時間を過ごさせたくないから断ったのだと記憶していた。
真偽はともかく、この食い違いは少し度を超えている。何者かの作意が透けて見えるようだ。
「ベルベットはどう見る?」
「…なぜ私に振るんです?」
今まで図書館にいた理由とその後侵入者共を捕らえたことを説明して以降沈黙していた私に、十文字部活連会頭が問うてきた。
「古式魔法は精神干渉系が多い。君もその類に明るいんじゃないかと思ってな」
「それは彼女の事実誤認が可能か不可能かということでしょうか?それなら全然可能ですよ。少し記憶の
現代魔法でこれが出来そうな術式というと…
「…古式の線は?」
「少なくとも西欧圏の術式はあり得ません。
「そうか。貴重な意見、感謝する」
威厳たっぷりにそう言って、十文字会頭は話を纏めにかかる。
三巨頭はこれ以降のことは警察に任せようと意見が纏まりそうだったところに待ったをかけたのは、意外にも達也だった。
彼はどうやら自分の生活圏をテロリストに侵されたことにご立腹のようで、それを根本から叩き潰すつもりらしい。
お前目立つの避けてなかったっけ?というツッコミは最早野暮だろう。たぶん彼は風紀委員になってしまった時点で諦めている。
話は進み、十文字、エリカ、レオ、深雪が達也とともに
渡辺風紀委員長とミス真由美は学校に残るようである。
…一応少しだけ手を貸してやるか。死なれたら寝覚めが悪いし。それにこのくらいだったら魔術が露呈することもあるまい。
「エリカ、レオ、深雪、ちょっとCAD持ってこっちに来たまえ」
「なによ急に。時間無いんだけど?」
「少しばかりおまじないをしておいてやる。ありがたく受け取れ」
言うやいなや、私はエリカの手を両手で包んで彼女の神経を走査する。
魔法演算領域からCADまでの経路を意識し、そのバラけた筋道を一本に束ねる────
「
「……!?」
全くもって未知の感覚にエリカが身を捩る。想子経路に直接干渉されるのは初めてだろうし仕方ないが、見目麗しい少女が悶えているのはなかなか美味な画だ。
「あ、あんた何すんのよ!」
「演算領域からCADまでの想子経路を最適化した。『調律』モドキといったところかな。次、レオ」
「オレもぉ!?」
「当たり前だろう。時間ないんだからさっさと済ませるぞ」
矢継ぎ早にレオの調律モドキを済ませると、深雪の番になったが。
「…ごめんなさい、気持ちは嬉しいのだけど、直接干渉されるのはちょっと」
断られてしまった。まぁあの兄貴君がなんか仕込んでる可能性もあるし、そこまで深い調整はできなかっただろうから断られても大して問題はない。
惜しむらくは悶える深雪を見られなかったことぐらいか。
「まぁ仕方ない。本来調律は信用に値する者にしかやらせないもんだし」
「あんたそれを説明なしであたしたちにやったわけ?」
「でも調子はいいだろう?」
「…それは…うん」
正直、成功するかどうかは一か八かだったのは伏せておこう。大昔にいっぺん見たっきりのウェインズの調律の術儀を超小規模かつ
勝てば官軍だし負ければ彼女らが尊い犠牲だったということで納得できる。それに私の実力では死ぬことはあるまい。せいぜい一月くらい演算領域の熱暴走を起こすくらいだ。
「それじゃ、行ってきたまえ」
「おうともさ!元気有り余ってるから暴れてくるぜ!」
「あたしも消化不良ぎみなのよね。少し運動しないと鈍っちゃう」
そう言って十文字会頭の軍用車に乗り込む二人。その後ろで私を凝視する司波兄妹とミス真由美&ミス摩利。
「…なにか?」
「いや、私リザちゃんが魔法つかうとこ見るの初めてだから見入っちゃって」
「あたしも見たことのない魔法だったからつい」
「やったことが説明されても術式がわからないというのはなかなか歯痒いな」
三者三様の理由で私の調律モドキを見守っていたようだ。私が視線を感じていない以上、達也は律儀にも『あの眼』は使わなかったようである。
「先輩方はともかく君らは突入メンバーだろう。早く乗り込みたまえよ」
「ああ、そうだな。…一つ聞いていいか?」
「答えられる範囲なら」
「あの術をかけるときになんで俺は呼ばなかったんだ?」
「単純だよ。君を調律する意味がない。これ以上ないほど精密に調えられた路に手をいれてはかえって不都合がある。それだけさ」
「そうか」
短い問答ののち、突入車は出発した。
結果はまぁ言うまでもあるまい。
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討論会翌日に予定していた喫茶店は結局延期となった。
後始末は十文字会頭がやってくれたし、帰ってきたいつもの連中はケロッとしていたが、ほのかと雫はさすがにそうはいかなかった。学校襲撃の翌日にカフェでスイーツを食べようなんて気にはなれなかったようだ。
私が銀砂の魔術でボコボコにして口撃で精神を膾にした壬生紗耶香は、現在入院中である。どうやら骨折よりもマインドコントロールの影響が残っていないかどうかを診る経過観察の意味が強いものだそうだ。
まぁ正直私も壬生先輩を道化だの野良犬だのと罵ったことは反省している。婆やに淹れてもらったアッサムがこぼれてしまって苛ついて、しかもその主犯格ともいうべき連中が目の前に現れたもんだから後先考えず甚振ってしまった。
でも前半、銀砂での拘束に関しては間違ったことはしていないはずだ。それだけは読者諸兄にもご理解願いたい。
五月に入って、壬生先輩が退院日となった。
私はエリカとともに彼女の退院祝いに来ていた。正直気乗りしなかったし、私がその場にいることで空気が悪くなるだろうと思ったのだが、エリカ曰く、
「さーやが退院したら直々に謝りにいきたいって。そういうのは早い方がいいでしょ?『兵は拙速を尊ぶ』よ」
なんか用法間違ってる気がするし、『さーや』っていつの間にそんなに彼女と仲良くなったのか。
ともかくエリカに引きずられる形で彼女の病院に来てしまった。
病室に入ると、そこには彼女の両親と、たしか桐原武明(問題を起こした剣術部2年)がいた。
「初めまして。イライザ・E・ベルベットと申します。この度はご息女にケガを負わせておきながら、今日まで見舞いにも参らず大変失礼を致しました」
「いえ、顛末は娘からよく聞いています。むしろ私の方があなたに感謝したい。あのまま間違った道に落ちる前にあなたが娘を救ってくださった。
おっと、申し遅れました。紗耶香の父親の壬生勇三と申します」
そんな感じで彼女の家族への挨拶を済ませ、紗耶香本人に向き直る。
「あの時は名乗れなかったから改めて。初めまして、壬生紗耶香です。それから、本当にごめんなさい。あの時は冷静になれてなかった、って言うのは言い訳よね。でもあなたにこれ以上ないほどの正論で諭されて目が醒めた。だから、ありがとう。イライザさん」
「こちらこそ初めまして。ミス紗耶香。この度は本当に申し訳ないことをしました。紅茶を零した八つ当たりをしてしまった。骨折までさせておきながら、今日まで見舞いにも来ず失礼を。
それと、感謝などは不要ですよ。あれは先輩によく似た野良犬にかけた言葉であって今の壬生紗耶香には不要なものです。忘れてしまった方が良いでしょう」
おっと、桐原の眦が吊り上がった気がする。もしかして惚れているのか、とか考えてしまうのはさすがに恋愛脳が過ぎるか。
「そうとも言えないわ。あの時の自分を否定したら今のあたしにたどり着けない。だから、貴女に感謝を。本当にありがとう、間違いに気づかせてくれて」
「…そういうことでしたら、ありがたく受け取っておきましょうか」
「ええ、ぜひそうして」
こうして彼女の退院は私の予想より和やかに進行していった。
「アッそーだ!どうせならさーやも喫茶店メンバーに入れちゃお!」
「喫茶店?」
「私の行きつけの店に行こうという話がたびたび持ち上がっては面倒ごとに潰されてまして。次第にメンバーも増えてハードルも上がっているんでどうしたもんかなと」
どうやらエリカの中では紗耶香の参加は決定事項になっているらしく、すでにチャットグループのコードを紗耶香に送信している。
「じゃあ、お言葉に甘えて参加させてもらおっかな」
「どうぞどうぞ。もともとジョージ氏の夏の新作メニューの試作を味見するという話だったし、人数は多い方が良いんでね。せっかくだし貸切にするかな」
そんな話をしながらしばらく歩いていくと、司波兄妹と行きあう。エリカが弄りに、紗耶香は謝罪と感謝を伝えに、私と桐原先輩という気まずすぎるメンツが残った。
「…お前は行かないのか?」
「いやぁ行く意味がないというか。むしろ先輩はいいんですか?達也に彼女とられますよ」
「うるせぇよ」
その後あまりに重い沈黙に耐えかねた桐原が腰を上げた。
「ありがとな、壬生のこと」
去り際にそう言って司波兄妹たちの環に混ざっていく桐原。
私は今回誰にも感謝されることをしたつもりはないのだが。まぁ、過程、手段に意味を見出す人間と見出さない魔術師の違いか。
今回のことで、結局魔法師も魔術師も殺し合い、利権の奪い合いが起きているということが分かった。違うのは規模と秘匿の心配がないから派手だということか。
これからは一応荒事用の術式も用意していかなけば。ただでさえ遠坂殿からの宿題もあるのだ。
…決意したはいいが、まぁ今は。
今度のジョージ氏の新作メニューに思いを馳せよう。しばらくなんにも考えたくない。
そう思って、脱力して、思考を放り投げた。
《壬生が立ち直った理由》
たぶんエリカのおかげ。
だいぶ間が空いてしまいました。お待たせして申し訳ありません。
*いくつかの誤字を修正させていただきました。ご報告感謝いたします。2023/2/9
改稿方法につきまして。活動報告に記載いたしましたが、改稿します。展開全部変わります。本当に申し訳ないです。ですがコレ以外で自分がこの作品更新できる自信がないのでやります(断行)。以下の2つの方法から選択していただけると幸いです。
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新しく改稿版『イライザの進学』を投稿する
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本作品を1話から全部改稿する