〜レイside〜
「・・・・・・・・・・」
「れ、レイ?そろそろ終わりでも・・・・・・」
「まだ。兄さんの反応速度をもっと上げる」
「いやいや!レイや海道ジンが速すぎるんだって!」
アングラビシダスが行われた会場にあるDキューブの一つで、今僕は兄さんのアキレスと戦っていた。
「おいおい。バンの弟、強ぇな。もう何度目だバンに勝ってるの」
「8戦中、5勝3敗ねレイの」
「操作テク速度が速すぎるでごんす。あの海道ジン並でごんす」
「それもあるんだろうが、あの集中力がすげぇよ。まるで意識がここにないみたいだ」
外野からはこの戦いを観ているアミ姉たちがいる。
「兄さん、今回はたまたまあのジ・エンペラーがCPU落ちで勝てたけど、次がそうとは限らない」
「分かってる」
「それに、ダイキさんや海道ジンだけじゃない。アルテミスにはもっと上のレベルのプレイヤーがいる。今のままじゃ勝てない」
「・・・・・・っ!」
「だから、今は兄さんの反射神経と反応速度をあげる。これを上げれば、大抵の事は大丈夫」
「だけど俺はレイみたいに速くはないよ?」
「別に僕みたいになってって言うつもりはないよ。けど、これからの戦いを生き抜くためには、もっと強くならないと、ね!!隙あり―――必殺ファンクション!【アタックファンクション!シャープネイル!!】」
獣が爪で引っ掻いたような傷を彷彿とさせる三連撃の斬撃をアキレスへと叩き込み、アキレスをブレイクオーバーさせる。
「うそぉ!レイ、いつの間にこんな強く」
「兄さん、
「わ、わかってるけど」
「次が最後ね。最後はあのVモード使ってもいいよ」
「!わかった」
それぞれのLBXのリペアを済ませ、再び準備をする。
「いけ、アキレス!」
「疾く在れ!クロノス!」
フィールドに降り立つ二体のLBX。
それぞれの武器を構え、同時にその場を駆け出した。
何故僕が兄さんとバトルしてるのかは、アングラビシダス準決勝まで時間を遡る。
数時間前
「―――お兄ちゃん、あとでお説教」
「き、キヨカ!?ダイキさんはツンデレだから!」
「そ、そうだよ!ツンデレ=ダイキさんなんだから!」
こめかみに青筋をピクピク引き攣らせているキヨカを必死に宥めながら兄さんとダイキさんの試合を観る。
現在の状況は兄さんのアキレスが謎に金色に発光し兄さんのCCMがそれに合わせて変形。そして、三体に見せていたジョーカーが本当に三体居たという状況だ。
で、キヨカがここまでお怒りなのは。
「お兄ちゃん、言葉遣い悪い」
である。
だが、ダイキさんの性格を知っている僕とメアはアレがダイキさんのやり方だとわかる。それは一番キヨカが知っているはずだけど・・・・・・・。
「お兄ちゃん、いくら何でもやり過ぎ。・・・・・・でも、今は・・・・・・」
「なにあれ・・・・・・?バン兄のCCMが変形した?」
ブラコンと周知している僕らでもキヨカはいま手に負えない。けど、キヨカも今フィールド内の状況に困惑している。それは僕とメアもだ。
現在のバトルフィールド内の状況は一方的にアキレスが、三体のジョーカーに翻弄されている。
「まさか・・・・・・操作できないのか!?―――クロノス」
クロノスを取り出し、クロノスの望遠機能で兄さんのCCMを視る。
「Vモード、Autonomous Action Attack・・・・・・?」
Autonomous Action Attack―――自律自動攻撃。
つまり、今アキレスは自動で動いているということだ。
「アキレスにあんなシステムが内蔵されているなんて・・・・・・父さん、どういうつもりなの・・・・・・!」
恐らくアキレスにあのシステムを埋め込んだのは父さんだ。父さんがどういうつもりでアレを入れたのかはわからない。
発動条件も不明。性能も不明。効果も不明。
けど、唯一分かることがある。それは―――。
「あのモードの時、機体性能が限界以上まで引き上げられる・・・・・・」
ということだ。
「兄さん・・・・・・!」
ダイキさんはすでにアキレスが自動で動いている事に気が付き始めた。頭のキレるダイキさんのことだ。すぐに手を打つ。となると、このままでは―――。
「―――見せてやるよ!これがジョーカーの必殺ファンクション!!【アタックファンクション!デスサイズハリケーン!!】
ダイキさんのジョーカーの一体が必殺ファンクションを放つ。
ジョーカーの持つ
「レーくん!このままじゃアキレスが!」
メアの動揺は僕も同じだ。アキレスの
どうにかしたいけど、僕らには何も出来ない。
そう思った時。
「ん?」
兄さんのCCMになにか文字が表示されていた。
なにかメッセージを受信したらしいけど・・・・・・。
「パンドラからの贈り物?」
画面に表示されていた文に疑問符を浮かべる。
兄さんは視線を観客席に移すのを見て僕も視線を追う。視線の先には白いスーツを着て、サングラスをかけた男性がいた。その男性の肩には見たことない白いLBXがあった。
「誰だ・・・・・・?」
取り敢えずクロノス経由でその人物を撮る。明らかに怪しさ満々だし。写真を撮り終えると同時に、ステージの方から歓声が聴こえる。
バトルフィールドを観ると―――。
「Vモードを制御出来るようになった・・・・・・?」
兄さんのCCMの動きと連動したアキレスがジョーカーと互角に戦っていた。
けど、アキレスはあと数撃も喰らえばブレイクオーバー。対してジョーカーは三体とも半分近くLPがあるだろう。例え一体倒したとしても、残りの二体がアキレスを攻撃しアウト。運良く二体まで倒しても、機動力の高いジョーカーが残り少ないアキレスのLPを奪い去る。つまり、この状況を打破するには―――。
「一度に三体同時撃破するしかない・・・・・・!!」
このフィールドの地形を利用すれば可能だろう。
そして今のアキレスの右腕はハカイオーの腕だ。攻撃力は上がってる。さらに、今Vモードによって全ての性能が上がってる。あとは兄さんがどうやるかだけど。
「―――っ!考えたね兄さん」
僕と同じ考えに至ったのか兄さんはアキレスを一方通行の峡谷へとジョーカーを誘い込む。
だが、それだけじゃダイキさんのジョーカーは倒せないよ兄さん。
峡谷を進み、半ば程で立ち止まり、追いかけて来るジョーカーへと向き直るアキレス。
対してジョーカーはジャンプをして三段攻撃が可能な、高低差を利用して攻撃を仕掛ける。一見、これでダイキさんが勝ったと誰もが思うだろう。・・・・・・・・・・一部を除いて。けど、これは兄さんの仕掛けた罠だ。
「この勝負、兄さんが勝ったね」
「「え・・・・・・?」」
メアとキヨカが顔をこっちに向ける。
僕の予想が兄さんと同じなら―――
「ここだ!―――【アタックファンクション!!ライトニングランス!!】
「兄さんは、"空中でジョーカー三体が重なる瞬間"を狙っていたんだよ」
空中で、避けようのない一条の紅色の光槍が、アキレスが持つ槍から放たれジョーカー三体を貫いた。
貫かれたジョーカー三体は一体残らず爆散。ブレイクオーバーした。
これで兄さんの決勝進出が決まった。ステージでは兄さんがダイキさんに何か聞いているが、大方、ダイキさんがイノベーターの刺客かだろう。
ダイキさんがイノベーターなんかの指示なんかに従うわけないのに・・・・・・。ダイキさんを知っている僕らにとって、ダイキさんがイノベーターの仲間というのは0だ。
ステージから去ったダイキさんを観ていると、兄さんに郷田さんが修理してくれたのだろう、アキレスの右腕を渡していた。
次は決勝。対戦相手はカズ兄か。海道ジンか。だが恐らく―――
十数分後
ステージ中央。決勝のバトルフィールが展開されたDキューブの前には二人の少年が自身のLBXを手に、スポットライトの光を浴びて立っている。
片方は兄さんとアキレス。そして、もう片方は―――。
「やはり・・・・・・海道ジンか」
圧倒的速さと強さで全ての試合を1分で以内で終わらせた、海道ジンとジ・エンペラー。
準決勝でのカズ兄との対戦ではハンターの必殺ファンクション【スティンガーミサイル】を全弾躱し、これまた一撃でハンターをブレイクオーバーさせたのだ。ホント、とんでもない強さだ。
「ここまでイノベーターの刺客はいなかった・・・・・・ってことは、やっぱり・・・・・・」
視線の先にいる海道ジン。アイツがイノベーターの刺客ということだ。
小さく呟きつつ、光の中の二人を見る。
やがて、アナウンスにより―――
「ジ・エンペラー!」
「アキレス!」
『決勝戦、バトルスタート!』
アングラビシダス決勝戦が始まった。
先に攻撃を仕掛けたのは兄さんからだ。
アキレスの
次々攻撃を仕掛けるアキレスをジ・エンペラーは余裕で躱す。対するアキレスも隙を見つけては攻撃してくるジ・エンペラーのハンマーを左手の盾《アキレスシールド》で防ぎ、カウンターでジ・エンペラーの左肩部分にかすり傷程度だが、確かなダメージを与える。
距離を取り、ジャンプするジ・エンペラーを追いかけてアキレスもジャンプし、ジ・エンペラーとアキレスは空中戦をし、地に着くと同時に再び激しいぶつかり合いをする。
「今のところは両者互角かな・・・・・・」
メアの呟きにカズ兄も声を漏らす。
「スゲェぜバン・・・・・・!」
「ええ。メアの言う通り互角ね・・・・・・」
決勝戦はアミ姉たちと観ている。
近くにはアミ姉とカズ兄の他、郷田さんや応援に来た兄さんの友達がいる。
「バン!一気に攻めろ!」
「行けっ、アキレス!!」
兄さんの声に応えるように、アキレスも攻撃を増していく。だが、ジ・エンペラーは見切っているように避けていく。
その動きは全く無駄がない。
「まったく隙がない・・・・・・だったら!!―――必殺ファンクション!!」
「早くも使うつもりか、あの技を」
「【アタックファンクション!ライトニングランス!!】」
兄さんのCCMからシステム音が響き、アキレス持つ槍《アキレスランス》に蒼白い光が輝き、槍の先端から一閃の光条が放たれる。
光の槍は一直線にジ・エンペラーへ突き進む。だが、それをジ・エンペラーは真上に飛び上がって躱す。
「ライトニングランスが!」
「かわされた!?」
ライトニングランスは確かに強力だが、かわすのは簡単だ。大きく距離を取るか、真上に避けるかだ。
カズ兄と郷田さんはライトニングランスがかわされたことを驚くが、僕はそこまで驚かない。兄さんの狙いは恐らく―――
「それを待っていたんだ!Vモード、起動!!【アドバンスドVモード!】」
兄さんの声に反応してCCMが光り、変形する。
それと同時にアキレスの体を、金色の輝きが包む。
「はあぁぁぁあーーーっ!!」
Vモードが発動したことにより、機体性能が大幅に向上したアキレスは、避け場のない空中にいるジ・エンペラーの元まで一気に飛び上がり、鋭い突きを繰り出しジ・エンペラーを地に突き落とした。
「やったわ!」
「狙ってたな、バン!」
「え、どういうこと?」
「どんなLBXだって、空中での完全な防御は難しい。ライトニングランスは、ジ・エンペラーを空中へ誘導するための囮だったんだ!」
アミ姉とカズ兄の話を聞きつつ、僕は少し不安がる。
確かに、ライトニングランスを囮にしたのはいい。けど、こんな序盤からVモードを使って大丈夫なのかと思う。
Vモードは性能を大きく上げるが、"永続"じゃない。一定時間のみ、だ。発動時間内に倒すか有利にならなければ・・・・・・
「バン兄、一気に決めるつもりだよ!」
「うん・・・・・・」
興奮して言うメアに僕は落ち着いて返す。
現状はアキレスがジ・エンペラーを押している。ジ・エンペラーが反撃する暇を与えない絶え間ない攻撃。しかし―――
「山野バンとアキレス。ここまでやるとはね」
「・・・・・・」
「なら、見せてあげよう。僕の本当のチカラ!」
「なにっ!?」
海道ジンの言葉に僕らに衝撃が走る。
本当のチカラ、ということは今のジ・エンペラーは全くの全力じゃないってことだ。その事実に僕らは驚く。
その驚きを見せつけるように、ジ・エンペラーの動きが変わった。
「行け、ジ・エンペラー」
さっきまでとは動きが違う。
速いだけじゃなく、攻撃力も上がっている。アキレスの有利から一転、ジ・エンペラーが今は有利だ。
「Vモードを発動してるのにそれと同等なんて・・・・・・」
「高速でCCMを操作しているからか・・・・・・!」
海道ジンの操作速度は物凄く速い。そしてそれに対応しているジ・エンペラーにも驚く。どれだけ高性能なCPUを搭載しているのか・・・・・・。
「始まったぞぉーーーっ!!」
「超高速攻撃だ!」
「いいぞ!ぶっ壊せっ!」
海道ジンの操作に周囲の観客から歓声が上がり、さらにボルテージの声が盛り上がる。
アキレスが反撃する暇すら与えない超高速の連続攻撃。武器がハンマーであるため一撃一撃の威力が高い。
「っ!しまった!」
やがて時間切れなのか、Vモードが終わりアキレスとCCMが元に戻る。
そこから先はもう一方的だ。アキレスは手も足も出ない。為す術なくジ・エンペラーからの攻撃を受ける。
『『『『『『壊せ!壊せ!壊せ!』』』』』』
ジ・エンペラーの攻撃にさらに観客のボルテージが上がり沸き立つ。
「立て、アキレス!」
兄さんも焦りが出る。
その焦りに追い打ちを掛けるように。
「これで終わりだ。必殺ファンクション!!」
「っ!?」
「な、なに!?この振動・・・・・・!!」
フィールドであるジオラマ内だけでなく、僕らのところにまでも地鳴りのような音が響く。
「まさかこれジ・エンペラーが放っているの・・・・・・!?」
少し怯えたように言うメア。
驚愕に目を見開く僕。アミ姉もカズ兄、郷田さんも同じだ。
「ヤツのジ・エンペラーが放っているんだ、この凄まじいエネルギーを!」
「【アタックファンクション!インパクトカイザー!!】」
海道ジンのCCMから響く重い音声のシステム音。
「地獄の業火で灰と成れ!!」
ジ・エンペラーから放たれた必殺ファンクションは、まさに地獄の業火そのものだ。火山から吹き溢れたような灼熱の奔流がアキレスを襲う。
「アキレス!!」
「っ!」
ジ・エンペラーから放たれた必殺ファンクションの痕を視て僕は息を呑んだ。
地が裂け、底のには僅かに余波の痕跡が残ってる。まさかここまでの威力だとは・・・・・・。
「こんなの・・・・・・」
「アキレスが・・・・・・いない・・・・・・!!!?」
言葉に出ない惨状に僕とメアは口を押さえる。あるのはアキレスの盾《アキレスシールド》が僅かに地から覗いてる。
「消し飛んだか」
誰もがアキレスの敗北を思ってる。
けど、ただ一人だけ違った。
「兄さん・・・・・・?」
俯いて立っている兄さん。けど、その身から感じる気配は微塵も諦めていない。アキレスを信じている雰囲気だった。たぶん、兄弟だからわかったんだと思う。
兄さんが諦めていないなら―――
「終わったようだね」
「・・・・・・まだだ」
「ん?」
「まだ、戦いは、終わっていない!」
CCMを操作する兄さん。それに呼応するように、ジ・エンペラーが放った必殺ファンクションの痕から地鳴りが轟く。
そして、勢いよく地の底から白い騎士が飛び上がってきた。
「っ!アキレス!」
土埃が僅かに付着してるアキレスの姿に僕は嬉しくなった。
アキレスもまた、兄さんに応えようとしているのだ。
アミ姉たちや、周りのギャラリー。観客から歓声が上がる。
「父さんを助けだすまで、俺は絶対に負けない!」
「ふっ。次こそトドメだ!」
再度高速操作で迫るジ・エンペラー。その攻撃をアキレスは《アキレスランス》で受け止める。
「なにっ!?」
「!さっきとアキレスのチカラが違う・・・・・!?」
「アキレスも兄さんと一緒に成長しているんだ・・・・・・!!」
互いに成長している。まさに、一心同体。アキレスは兄さんであり、兄さんはアキレスでもあるということだ。
「この右腕は郷田に!」
受け止めただけでなく、押し返すアキレスに海道ジンも動揺を浮かべてる。
「バカなっ!どこにそんなチカラが!?」
「Vモードはパンドラに!」
一方的から互角な勝負。
アキレスの槍とジ・エンペラーのハンマーがぶつかり合う。
「シグマDX9は店長に!今のアキレスには、みんなのチカラが宿っているんだ!!」
「ふっ」
そこから繰り広げられる戦いは一進一退。白熱の勝負が繰り広げられていた。アキレスが攻め、ジ・エンペラーが受け止め防ぐ。ジ・エンペラーが攻めアキレスが受け止め防ぐ。両者の攻防に僕は意気が高揚する。
それは海道ジンと兄さんもで、二人には僅かな笑みが浮かんでいる。
「どこまで耐えられるかな・・・・・・」
「楽しそう、二人とも・・・・・・」
「うん・・・・・・」
僕の小さな呟きに、心ここに在らずといった感じのメアが答える。
そして、二人の戦いの熱は周囲にも拡散し。
『『『『『『ジ〜ン!ジ〜ン!ジ〜ン!ジ〜ン!』』』』』』
『『『『『『バン!バン!バン!バン!』』』』』』
二人を応援する声がそこらじゅうから響き渡っていた。
「アキレス!」
「ふ・・・・・・」
アキレスもジ・エンペラーも、それぞれの操者に応えるかのように攻撃を増していく。
「やるな、山野バン。だが―――」
アキレスから大きく距離を取るジ・エンペラー。
そのまま、あの必殺ファンクション発動の体勢を取った。
再びジ・エンペラーから凄まじいエネルギーの波動が、重い音を響かせる。
「この一撃で終わらせる!」
「っ!!」
「あれは!」
「またあの必殺ファンクションを撃つ気だ!」
「バン兄!!」
「兄さん・・・・・・!」
ジ・エンペラーの構えに僕らは兄さんを心配する。
「必殺ファンクション!」
「負けるか!必殺ファンクション!」
「兄さんも撃つ気だ!あの必殺ファンクションを!」
両者とも、最大の一撃をこれに掛ける気だろう。ジ・エンペラーだけじゃなく、アキレスからもエネルギーの波動を感じる。
両者同時に動き、互いの最大級の威力の必殺ファンクションが放たれようとしたその瞬間。
「なにっ!?」
突然ジ・エンペラーの動きが止まり、そこから微動だにしなかった。
海道ジンも予想外なのか思わず前のめりになっている。
「なんでジ・エンペラーの動きが・・・・・・もしかして!」
ジ・エンペラーが動かない理由に僕はある予想が浮かんだ。
海道ジンはCCMを操作するが、ジ・エンペラーはうんともすんとも言わない。
「どうした・・・・・・!何故動かない!?」
『ジ・エンペラー、機能停止。バトル続行不能とみなします。よって、WINNER―――山野バン!!』
突然の幕切れに興奮絶頂だった会場の空気が一気に冷め、時が止まったように静かになった。
そこに、大会の無機質なアナウンスが流れ、勝者が発表された。
「・・・・・・・・・・え。俺が・・・・・・勝ったのか・・・・・・?」
兄さん自身も、ポカンと。唖然とした表情でいる。
まさか、こんな勝利で優勝するとは思ってもみなかった。それは、この場にいる全ての人が感じていることで・・・・・・
「海道ジンの操作速度にジ・エンペラーの内部CPUがショートしたのか・・・・・・・」
ジ・エンペラーの動きが止まった原因は恐らくこれだろう。普通、CPUがショートすることなどないが、ショートしたということはそれほどまでに海道ジンのCCM入力速度が卓越したものだという証拠だ。
誰も、喋らない会場に主催者であるLEXの声が響き渡る。
「アングラビシダス優勝は山野バン!アルテミスの出場権は、彼の手に!!」
兄さんに勝者であるスポットライトが降り注ぐのと同時に、静けさから一転。会場から歓声が沸き立った。
ステージから静かに降りた海道ジン。少し離れ、海道ジンはなにか兄さんに話した。
「?何話したんだろ」
海道ジンの付き人?なのか、白いスーツを着用した初老の男性が、ジオラマ内のジ・エンペラーを回収して海道ジンのあとを追いかける。おぼっちゃま、と海道ジンのことを呼んで追いかける初老の男性。
疑問符が浮かびながらも、僕はアミ姉やメアたちと一緒に兄さんの元に駆け寄る。
「バン!」
「やったな!」
「すげぇバトルだったぜ!」
「みんな・・・・・・」
「何度も立ち上がる姿。シビレたよ!!」
「兄さん、優勝おめでとう」
「ああ。決着はつかなかったけど」
「また、海道ジンと対戦する機会があるかもしれないでしょ?決着はその時にしたらいいよ」
「ああ」
「優勝出来た・・・・・・これで二人のお父さんとも」
僕らが兄さんと話していると、拓也さんとLEXが二階から降りてやってきた。
「バン」
「リストを渡したかいがあったぜ。お前には、こんな所で負けてもらっては困るからな」
「拓也さん、LEXさん。おかげで優勝出来ました」
「山野博士は、世界にとっても重要な人だ。バン、レイ。俺たちの手で助け出すんだ」
拓也さんの言葉に僕は力強く頷き返す。
絶対に、父さんは助け出す。その決意を胸に。
「あの・・・・・・父さんの居場所がわかったかも知れません」
「「!?」」
「え・・・・・・!?」
兄さんの言葉に僕、拓也さん、LEXは眼を見開いた。
数時間後
アングラビシダスが終わり、キヨカはダイキさんと一緒に帰り。決勝でのリペアをした兄さんのアキレスと、僕のクロノスとの数戦の模擬戦を終わらせ、僕らは地下のアングラビシダス会場から、地上のカフェでどうして兄さんが海道ジンから聞いたらしい、父さんがいる場所を検索していた。
「ポイント579・934。海道ジンは確かにそう言ったんだな?」
「はい」
「まさか、そのポイントは・・・・・・!」
「ああ」
拓也さんとLEXはなにか検討ついているみたいだけど、僕らにはさっぱりだ。
端末を操作し、拓也さんがそのポイントの地図を表示する。
そのポイントは都心近くの巨大な要塞みたいなものがある場所だ。
「海道義光。ヤツの屋敷だ」
「海道義光?」
「誰だこれ?」
拓也さんが映したウインドウに、一人の5、60代のグレーのスーツを着た如何にも政治家とわかるような男性が映っていた。
「海道義光って、確か先進開発省の大臣じゃなかった?」
確かこの間のテレビのニュースにも映っていた気がするが。
「ええ、そうよ」
僕の回答にアミ姉が肯定する。
「海道財閥の総帥でもある、とんでもない大物だ。そいつが、イノベーターの黒幕」
「「「「「えっ!?」」」」」
まさかの政治家のお偉いさんがイノベーターのトップという事実に驚きを隠せない。
「そして、海道ジンはこの海道義光の孫なんだよ」
「あ、だから、海道ジン、あの人におぼっちゃまって言われていたのか」
拓也さんの発言に納得する僕。
「アイツが、海道義光の孫・・・・・・」
「海道義光。ソイツが黒幕か!すぐにとっ捕まえましょう!!」
勢い込む郷田さんに僕とLEXが同時に、無理だと言う。
無理だと、少し考えれば分かるはずだ。なにせ、相手は政府の高官。しかも、イノベーターの仲間は警察組織にまで潜んでいると以前言っていた。
「―――ヘタをしたら、俺たちが危ない」
「っく!」
悔しそうに悪態吐く郷田さん。
「助けに助けに行きましょう」
「お姉ちゃん?」
「バンとレイ。二人のお父さんの居場所が分かったんだから」
「うん・・・・・・」
「アミ姉、助けたいけど、たぶん・・・・・・」
父さんを助けたいのは僕も兄さんも同じ気持ちだ。けど。
「海道の屋敷に山野博士が囚われてるとなると」
「助け出すのは、かなり難しいな」
「・・・・・・政府の要人だから、屋敷には何重にも張られたセキリュティが待ち構えてると思うよ。それに、警備の人も沢山いるとおもうし・・・・・・」
呟くような声で言う。
難易度でいえば、ルナティック級。EX級に該当するはずの難しさであること間違いない。しかも、ある情報は父さんがその屋敷に囚われているということのみ。屋敷の設計図や、人員、セキリュティなどといった情報が圧倒的に不足している。このまま乗り込むのは、無謀にも自殺行為に等しい。
何も出来ずに歯痒い思いをしていると。
「手伝わせてもらえないかしら」
入口の方から声が聞こえた。
声のした所を見ると、そこにはワインレッド系のぴちっとした服を着た20代後半の女の人が立っていた。
「あなたは・・・・・・」
「里奈・・・・・・」
兄さんと拓也さんは面識があるみたいだけど、僕らはさっぱりだ。
「海道邸のデータならここにあるわ」
「「「「「っ!!?」」」」」
里奈と呼ばれた女の人は一つのUSBメモリを取り出して見せてきた。
その後、僕らは知ることになる。
拓也さんたちと父さんの関係。
イノベーターに対抗するために創られた組織があるということを。
そして、衝撃の事実を。
僕らはまだ知らなかった。