〜レイside〜
ホームルームが始まる15分前、僕は一人でハーネスの司令室にいた。
司令室に来た目的は、つい先日受け取ったあの二つのアタッシュケースを取りに来たのだ。
ルーム内の金庫から、パスワードと指紋認証などして中からアタッシュケースを取り出す。
取り出したアタッシュケースをルームの台に置き、中身を確認する。
中にはキチンと計五種のアーマーフレームが納められていた。
それを確認して、アタッシュケースを手に司令室を後にして2年3組の教室に向かう。
やがて、ホームルームの始まる鐘の音が響くと同時に教室に入り―――
「来たなレイ」
「おはようございます日暮先生」
珍しくいた(てか、いるのが当たり前なのだが)日暮先生に挨拶をする。
「そのアタッシュケースがか?」
「ええ」
日暮先生と入れ替わりに教壇に立ち。
「・・・・・・・・・・」
ハーネスの生徒全員がいるのを確認する。
「第一小隊隊長乾カゲトラ。金箱スズネ。第二小隊隊長無敵ギンジロウ。第三小隊隊長白小路オトヒメ。第四小隊隊長鴻森シスイの五人は前に来て」
「「「「「??」」」」」
疑問符を浮かべながら五人は前に来る。
「五人には今日のウォータイムから新たなLBXで出撃してもらう」
『『『『『っ!!?』』』』』
驚くみんな(メアたちは除く)を前にアタッシュケースを開く。
「まず、カゲトラにはナイトフレームの[BCライアン]。スズネにはブロウラーフレームの[TCパイロン]を」
二つのアーマーフレームの箱をそれぞれ二人に渡す。
「そして、ギンジロウにはワイルドフレームの[ICシャークラー]。オトヒメにはストライダーフレームの[SCステリアス]。シスイにはワイルドフレームの[HCオウル]を」
もう一つのアタッシュケースに納められていた三種のアーマーフレームの箱をそれぞれに渡す。
「レイ、何故五機もなんだ?それに何故俺たちに?」
カゲトラの質問に
「いや、元々、近い内に五人には渡すつもりだったんだよ」
「はい?」
「え?」
「は?」
「え?」
「??」
当の五人の唖然とした表情にクスッと声が洩れる。
「だって、僕がこれ頼んだんだもん」
『『『『『『はああっ!!!??』』』』』』
教室中に響く声。
大音響の声に耳を塞ぐ。
「ちょぉマチ!この五機レイが頼んだん!?」
「そうだよ?」
「いやいやいや!!そうだよ?じゃねぇよ!」
「レイってたまに常識外れな事しますわよね・・・・・・」
「うーーむ。これが英雄の人脈か・・・・・・」
「おいシスイ。その呼び方は止めておけ」
「あはははは・・・・・・」
五人の会話に苦笑して。
「真面目な話、戦力強化が目的だ」
一転、凛とした口調で告げる。
「カゲトラの[BCライアン]は安定性に優れてる。スズネの[TCパイロン]は耐久性。ギンジロウの[ICシャークラー]は移動性。オトヒメの[SCステリアス]は機動性。シスイの[HCオウル]は狙撃性、と機体それぞれ特色がある」
僕の言葉に今まで騒がしかったクラスがシンと静まりかえった。
「みんなには予め言っておく。今後僕らはアラビスタだけではなく、ロシウスとも戦うことになる」
『『『『『っ!!?』』』』』
「それは、ロシウス領内を攻めるということか?」
「ああ」
カゲトラと問いに頷き返す。
「と言っても、今すぐにという訳じゃない。ジェノックやロンドニア、グレンシュテイムみたいにロシウスと領土がぶつかってる訳でもないし」
「だが、近い内にロシウスとぶつかる事があるということか」
「正解シスイ」
クラスの中で頭の回転が速いシスイの言葉に肯定する。
「僕らはこれまで、ここにいる全員でアラビスタからの障害を退けてきた。なら、今度はそれがロシウスになったってだけだ。それと、もう一つ」
一息ついてみんなを見渡して告げる。
「僕はここにいる全員をロストさせたくない。絶対に」
カゲトラたちはこの島で行われてるウォータイムの真実を知らない。
真実を知っているのは教師陣に、僕、メア、フラン、ルナ、キヨカ、そしてムラクぐらいだろう。
いや、もしかしたら他にもいるかもしれない。
真実を知っていそうな候補はジェノック第三小隊隊長東郷リクヤだ。
東郷リクヤは現日本の総理大臣の息子だ。
そして、このERPを提唱したのが東郷義一。現日本の総理大臣。
つまり、その息子である東郷リクヤが知らないはずないのだが・・・・・・
それに、東郷リクヤについては不可思議なことがある。
何故か、東郷リクヤの第三小隊のロスト率が高いのだ。
正確には、東郷リクヤの部隊メンバーであるプレイヤー二人が何故かロスト率が高いのだ。それも、全員東郷リクヤを守るようにしてロストしている。
キヨカからも東郷リクヤには何かあると聞いている。
あ、もちろん、ジェノックの機密とかは聞いてないよ?
まあ、他の仮想国の情報なんて知ろうとすれば知れるし。
伊達にオタクロスや父さん、紳羅さんからハッキングとか情報収集能力を教わってないよ!!(エッヘン)
「他にも何か聞きたいことはある?」
全員を見渡して聞くが―――
「ないみたいだね。それじゃあ、五人は今日のウォータイムから新型機で出撃するように。日暮先生、なにかありますか?」
「ないな」
「分かりました。それでは、ホームルームを終わりにする」
日暮先生に代わり、ホームルーム終了を告げる。
それと同時に鐘の音が鳴った。
時は進み、ウォータイム終了後―――
「お疲れ様。無事『リバーエンドブリッジ』を制圧完了・・・・・・。これにより、アラビスタの内陸部への進行の足利りが出来た」
クラスメイトが揃っているハーネスの司令室内で司令官の席に立ちみんなに言う。
「新型機も特に問題は無いようだね」
手元の端末を手に言う。
今回の『リバーエンドブリッジ攻略作戦』は四小隊合同で行った。
リバーエンドブリッジはアラビスタでもそれなりに重要拠点なため、結構な数防衛部隊が編成されていた。
だが、新型機のお披露目と性能確認もあり、拠点制圧が特に苦することなく完了。
「今日のウォータイムはこれで以上だ。各自、明日の整備を怠らないように」
そう告げ、全員が退室した後―――
「レイ」
ずっと黙っていた日暮先生が話した。
「今日も出たぞ」
「・・・・・・場所は?」
「アラビスタとクルセイドの領域境界線『ラブラド港区』」
「被害は?」
「アラビスタ。クルセイド、両国とも全員ロストだ。しかも―――」
「胸のコアボックスを貫かれて、ですか」
「ああ」
「一体何者なんです、【バンデット】って」
【バンデット】、それは最近セカンドワールドを荒らしてるLBX集団の事だ。
そのLBXは、どの仮想国にも登録されてない機体で、見境なく攻撃してくる。
そして、バンデットと相見えた機体はほぼ全て、胸のコアボックスを貫かれて破壊されている。
敵味方お構いなく攻撃してくる、山賊みたいだと言うことで、そいつらをバンデットと称されてる。
「バンデットが現れて既に一ヶ月が過ぎようとしてます。この間、既に五十以上の生徒がロストしてる。そちらでの調査の方は?」
「成果無しだ。プレイヤーが誰なのかすらも不明」
「・・・・・・・・・・」
各仮想国には諜報部が存在する。
シスイの諜報班とは違い、運営側が用意した部だ。
各仮想国に必要な情報を提供してくれるのだが、所詮は運営サイド。僕としてはシスイたちや自分で調べた方が手っ取り早い。
運営からはこのセカンドワールドで行われてる必要最低限の管理戦争の情報しか齎されてない。
僕が今回彼らに新型機を渡したのはそれを一風する、台風の目を作る為だ。
運営によって管理されてるこのセカンドワールドの管理戦争を変革するための、台風。
そしてそれはジェノックもだ。
日暮先生が業務連絡を伝え、保健室に戻り司令室で一人になった僕は、近くの椅子に座り手元にある端末を操作して、今回ジェノックが行った、ロシウス南東エリアにある『イーストエンドブリッジ攻略作戦』の詳細データと、ジェノック第一小隊に支給されたあの三機についてを見る。
「ふむ・・・・・・瀬名アラタは[ドットフェイサー]。星原ヒカルは[バル・スパロス]。出雲ハルキは[オーヴェイン]。指示した通りに渡してくれたみたいだね美都先生」
ジェノックに支給された三機は、カゲトラたちに渡した機体と同じく試験機。
実戦投入は初めてだったが問題ないようだ。
「元々あの三人は見込みがあるからね。まぁ、クセは強いけど」
苦笑しながら他の誰もいない司令室で言う。
ハーネスも中々にクセの強いクラスメイトが多いけど、その中でもジェノックは結構クセが強い。
磯谷ゲンドウ率いる第二小隊に、東郷リクヤ率いる第三小隊。キャサリン・ルース率いるオトヒメたちと同じく女子だけの部隊、第四小隊。そして、風陣カイト率いる第五小隊。
キヨカから聞くけど、笑うほどにクセが強すぎる。
けど、つい先日入ってきたばかりのアラタはその中でも逸脱していた。
初日の戦闘から素手で相手を殴ったり、ムラクの機体[ガウンタ・イゼルファー]にダメージを負わせたりね。
ムラクも少しは認めてるし、中々に面白いプレイヤーだ。
だから、あの三機のなかでもクセの強いドットフェイサーをアラタに支給させた。
あの三機は全て僕のセカンドワールドで使ってる[コスモスオリジン]の武装と同じく、
そして、アラタのドットフェイサーのMGSは変形種類が五種もある。これを使いこなすのは少し難しいかもだけど、ね。
僕自身、アラタには少し期待している。
「アラタ以外で、ドットフェイサーを使いこなせそうなのは・・・・・・ユノかな」
ユノのポテンシャルはまだ未知数だ。
けど、ユノもアラタと同じく面白いプレイヤーだ。
もっとも、ジェノック総勢で僕らに掛かってきても、返り討ちに遭うだけだろうけどネ。
伊達に、全員修羅場を潜って来てないよ。
今のところジェノックで僕と相対出来るのは、キヨカ以外いない。
けど、みんな存在は未知数だから、僕ら並の強さを掴むかもしれない。
セカンドワールドで僕と対等に戦えるのは、一応ムラクぐらいだからね。
まぁ、本気で戦ったことないけど・・・・・・。
「さてと・・・・・・」
部屋の扉をロックし、誰も入ってこれないようにして―――
「山野レイです」
連絡用に渡されているもう一つのCCMを取り出し連絡を取る。
「定期報告ですが、セカンドワールド内で謎のLBX集団バンデットが活動しています。―――はい。相対したプレイヤーは全員ロスト。LBXは胸のコアボックスを貫かれて破壊されてます。――――――分かりました。僕の方でも調査をしてみます。―――はい。それと、セカンドワールド運営に不自然な金銭の流れがありました。――――――ええ、偶然見つけたのですが、金銭の行方までは――――――はい。あと、C国が近々落とされるかも知れません。――――――ええ、アラビスタが本格的にクルセイドを落とすことになったらそうなると思います。最近アラビスタのクルセイドへの攻撃が強いので。――――――分かりました。現時点では以上です。あの場所への入口もまだ――――――はい。ジンと協力して探ってみます。――――――分かりました」
定期報告を終え、CCMを懐にしまう。
新たに端末にセカンドワールドの全体図を映す。
「一体どこにあるんだ・・・・・・ロストエリアは・・・・・・」
そんな一人言は誰も答えず、ただ司令室の冷たい空気の壁に吸い込まれて行くだけだった。