〜キヨカside〜
クラスの連中からあれこれ言われた私は呼びに来たメアとともにダック荘への帰路に就いていた。
「大丈夫キヨカちゃん?」
「ええ、大丈夫よ」
なんともない。
実際、私は彼らを騙していたわけだし。別に後悔も何も無い。
それにしても―――
「よく、タイミング良く来れたわね?」
今日は一人で帰ろうと思っていたのだけど。
「レイから、今日はキヨカに付いていてって言われたから」
「ええ。ジェノックがキヨカに何か言うだろうって」
「そう」
さすがレイ。頭の回転が速い。
「それに、レーくんがゴメンだって」
「え?」
何故レイが謝るのかしら?
首を傾げ考え込む。
「キヨカちゃんがジェノックに居づらくなるかもしれない原因作ったって」
「ああ」
レイの謝罪の理由が解り、納得する。
「別に私は気にしてないのだけど・・・・・・」
一年近くジェノックの中から見てきて、こうなる結果は私でも視えていた。
だから別に気にしてない。
こうして見ると私も少し他人と違ってるのかもしれないわね。
レイの影響かしら。
でも―――
「正直、あそこまでとは、私も思わなかったわ」
カイトやキャサリンをはじめとしたジェノックの面々。
特にカイトに関しては、少し経ってもまだムカついてる。
「というか、風陣カイト。今すぐにでも八つ裂きにしたいほどなんだけど」
ルナがにこやかに言う。
それは私も同感。
「ルナちゃん、八つ裂きじゃ甘いよ〜」
「え?」
「へ?」
「はい?」
クスクスッと微笑みながら言うメアに私、ルナ、フランはギョッとした。
メアのあの口調。他の人から見たらいつも通りかもしれないけど、よく知ってる私たちやレーくん。後は・・・・・・ハーネスの人たちからしたら、激怒も激怒の怒髪天を超越してる怒りの波動を感じられる。
メアはそのまま見る人によっては見蕩れるような微笑みを浮かべながら告げた。
「
「「「ひっ!?」」」
にこやかにとんでもない事を言うメア。
笑っているのに目が笑ってない。
というか目のハイライトが死んでる。
「う〜ん。それだけじゃ足りないよね〜〜。他にも〜、精神的や〜、社会的〜。肉体的にも、色々して殺らないとダメ、ダヨネ〜〜〜。フフっ、フフフフッ・・・・・・」
こ、怖い!怖すぎる!!
「ね、ねぇ、メアがいつも以上に怖いんだけど・・・・・・!」
「う、うん!」
「レイと同等レベルの殺気ね」
周囲にいた人たちも、このメアを見て小さな悲鳴を上げて一目散に、蜘蛛の子を散らすように逃げる。
それほどまでにメアから放たれる冷たい、絶対零度の殺気が恐いのだ。
ちなみにだけど、私たちの中で一番怖いのはメアである。
特にレイ関連では。
ま、まぁ、メアが怒ることなんて基本レイ関連以外無いんだけど・・・・・・
基本温厚な人が怒ると怖いとは、まさにこの事ね。
「あ、レーくんだけじゃなくて、キヨカちゃんにもやったんだよね風陣カイトって。なら〜〜、半殺しじゃ〜、生温いかな〜〜」
ヤヴァイ。ヤバいを通り越してヤヴァ過ぎる!!
このままじゃ本当にカイトを。ってか、カイトどころかキャサリンとかも殺りかねない!!
「だ、だだだ、大丈夫だからメア!私は平気だし!」
「そ、そうよメア?それに、レイが望まないと思うし・・・・・・」
「う、うんうん!そうだよそうだよ!」
慌ててメアを落ち着かせる私たち。
レイがいたら、メアの頭をナデナデするだけど治まるのだけど・・・・・・
生憎、レイは今明日の事や今日のウォータイムでの報告書とかの事で、帰るのは遅くなる。
メアをとにかく元に戻すため、私たちはスワローに行ってお茶にした。
少しして端末にユノからのメッセージが来た。
「ユノ?」
ユノは、ジェノックの中でも一番の良心の人物。
正直ユノになら話しても言いかと思ったほど。
端末に届いたメッセージを開き、メッセージを確認する。
メッセージには『今日の夜、二人きりで話せないかな?』と書かれていた。
私は少しだけ悩み、『二人きりでなら良いわ』と書いて返信した。
すぐにユノから時間と場所のメッセージが来た。
一応この事をメアたちにも話し、お茶を済ませた後ダック荘に帰り、自室に行ってからメアの部屋に行き、メアからある物を受け取り、私はユノが指定した場所に向かった。
指定した場所に向かうと、寮で着ているパジャマを着て夜の海風を浴びているユノの姿があった。
「お待たせ」
パジャマ姿のユノに対して私はジェノックの制服。着替えたりしないでここにいる。
「ううん。私も今来たところ」
振り返って私にそう言い、ユノは私と話し始めた。
〜キヨカside out〜
〜ユノside〜
基本夜は誰もいない海沿いのテラス。
本土の夜景が遠目に見えるこの場所で、私はキヨカを待っていた。
誰にも伝えずに来たから私一人だけ。
待って少しして―――
「お待たせ」
足音とともにキヨカがやって来た。
振り向いて私は真剣な顔で言う。
「ううん。私も今来たところ」
キヨカを見ると、キヨカは制服のまま静かに立っていた。
ついさっきまで学校で感じていた冷たい気配は感じない。何時ものキヨカだ。
「それで、話って何?」
少し気配が冷たくなった。
今更何?とでも言いたげだ。
「その・・・・・・ゴメンなさい!」
「・・・・・・・・・・?」
私はいの一番にキヨカに謝罪した。
「何に対して謝ってるの?」
「レイのことや、キヨカのこと・・・・・・」
カイトを止められなかったことやキヨカへのバッシングを止められなかったこと。その責がある。
「レイの事はともかく、私については別に構わないわ。どうでもいいし」
「なんで、そんなに自分を無下にするの・・・・・・?」
キヨカの無感情の返答に私は悲しくなった。
「キヨカ。私と貴女は友達・・・・・・だよね?」
「ええ。ユノ、貴女は私の友達よ。そしてクラスメイトにして、同じ第4小隊の仲間」
「なら教えて!!クラスメイトでもなく、小隊の仲間とかじゃなくて、ただの友達の私に!!」
キヨカの事が知りたい。
彼女にとって、私は。私たちはなんなのか。
「なら・・・・・・」
キヨカは制服のポッケから何かを取り出し、私とキヨカの間に放り出した。
「っ!?」
「ユノ。貴女が知る権利があるか、私に証明してみせて?」
キヨカが取り出して放り出したのはDキューブだった。
Dキューブのフィールドは城塞。
西洋風の城が聳え、草地があるフィールドだ。
「審判の正位置。結果の証明。ユノ、貴女に【箱の中の魔女】と呼ばれる実力の一端を見せてあげる」
キヨカのあの真剣な顔付きは見た事ない。
まるでプロプレイヤーと同等。いや、レイと同じ気配を纏ってる。
でも問題がある。
「でも、キヨカLBXは・・・・・・」
そう。キヨカのこの学園でのLBXは今まで一度も見た事がない。
そもそも持っているのかすら分からない。
「私のLBXならここにあるわ」
「え・・・・・・」
私の懸念は杞憂だったみたいで、キヨカは懐から見た事ない1機のLBXを取り出して見せた。
「私のこの学園でのLBX、[アルカナムクラウン]」
「アルカナム・・・・・・クラウン・・・・・・」
【アルカナム】は神秘や秘奥。秘密って意味のはず。
でも【クラウン】って王冠って意味じゃ・・・・・・・
「神秘の王冠?」
「違うわ。そのクラウンではなく、道化のクラウン。スペルはClown」
「つまり、道化の神秘・・・・・・ということ?」
「ええ」
見た感じアーマーフレームは[セイレーン]と同じストライダーフレーム。
機体のカラーリングは白と薄紫色。
キヨカの髪の色と同じ。
性能は未知数。だけど―――
「わかった。その勝負受けるわ!セイレーン!!」
念の為持ってきていた、学園で使ってる私の相棒のセイレーンをDキューブに投下する。
セイレーンはDキューブ内に着地し、装備している片手剣の『コンバットソード』の二刀流を構える。
「アルカナムクラウン!」
キヨカも持っていたLBXアルカナムクラウンを投下させ、武装を構える。
アルカナムクラウンの武装は
普通機動力が売りのストライダーフレームに重装備系の武装は不向き。故に基本的には剣や短剣、銃といった軽装備系が多い。
けど、キヨカはその基本を翻して重装備系のハンマー。鎌を構えてる。
キヨカと戦うのは初めて。
けど、二つ名を持つキヨカが弱い訳ない。
強さはレイたちに匹敵・・・・・・今の私にどこまで相手できるか・・・・・・
冷や汗が背中を流れる。
けど、それと同時に目の前の強敵相手にワクワクしてる自分もいる。
これじゃあ、アラタのこと言えないわね。
心の中で軽く苦笑し。
「行くよ!」
端末のCCMを操作してセイレーンを動かす。
まずは攪乱してヒットアンドアウェイで。
直線で行くと見せかけて、左サイドから攻め込む。
キヨカは全く動かず、こちらを様子見してる。
ファーストアタックはもらった!、と思ったが―――
ガキンッ!!
「っ!?」
「左サイドからの攪乱戦法。貴女の得意戦術よね」
キヨカのアルカナムクラウンは小さく動いて、武装の鎌を剣とぶつかり合わせ受け止めた。
読まれてた・・・・・・!!
だったら!
「―――!」
セイレーンは機動力が売りのストライダーフレーム。
速さで勝負を・・・・・!
アルカナムクラウンの周りを駆け回り、攻撃していくけど。
「そんなっ!」
アルカナムクラウンはその悉くを防ぐ。
「ユノ、私を相手に固定概念は棄てなさい」
「っ!」
固定概念を棄てる・・・・・・
それはつまり、今までの基本を。私の認識している戦術はキヨカには通じないということ・・・・・・
「私は貴女の戦闘を間近で看てきた。だから、貴女のクセは把握してる」
この状況は圧倒的に私に不利。
キヨカの戦闘が分からないのに対して、キヨカは私の戦闘を知っている。
勝てる見込みは2割にも満たしてないと思う。
「今度は私から行くわよユノ」
「―――っ!」
キヨカがそう言うと、アルカナムクラウンは神速と見紛う程の速度でセイレーンに接近して、武装である鎌を振るった。
あまりの速度で反応出来ずに城の方に吹き飛ばされるセイレーン。
「セイレーン!!」
今の一撃で3割近いダメージを負い、一気に
「のんびりしている暇なんかないわ」
鎌の重さを無視するような速度に目を見開く。
ストライダーフレームの長所である速さが重装備系の武装である鎌で阻害されてるのに、それを感じさせないように動くアルカナムクラウン。
城塞ステージの城壁を駆け回り接近する。
「負けない!キヨカの事を・・・・・・本心を知りたいから!!」
ギリギリの所で振るわれた鎌を受け止める。
「今の私じゃ、キヨカに勝てないのは分かってる。100回戦っても99回は負けるかもしれない。けど、1回は勝てるかもしれない。私はその1回を。奇跡を掴み取る!!」
「っ!!その言葉、もしかしてレイから聞いたの?」
優しく微笑み尋ねるキヨカ。
「うん。前に聞いたの。【わずかな光でも、手を伸ばした者に奇跡の光は舞い降りる】って」
この言葉を聞いた時、少し意味がわからなかった。
けど、今になって解る。
どんな状況でも、諦めない者に勝利の女神は微笑むって。
「・・・・・・フフっ」
初めて見たキヨカの笑う顔。
「けど、奇跡はそう簡単に掴めない。」
「分かってる。けど、私は奇跡を掴みたい!」
「・・・・・・なら、掴んで見せて。その奇跡を」
「もちろん!行くよ!セイレーン!!」
拮抗していた状態から振り払い下がってから一気に肉薄する。
絶え間なく攻撃する二刀に、アルカナムクラウンは防戦一方。
けど、なんとなくだけどセイレーンが伝えたい事が解ってきた。
今攻撃。ここは下がって、防いで。
LBXが喋るわけないのに、なんでかセイレーンが喋ってるように感じ取れる。
やがて、セイレーンの一撃がアルカナムクラウンの腕部に軽く掠った。
「やった!!」
アルカナムクラウンに微量だがダメージを与えたことに喜ぶ。
このまま一気に押し通す。
だが―――
「っ!?」
少しずつだけどアルカナムクラウンの動きが見えなくなってきた。
「ユノ、貴女に魅せて上げる。箱の中の魔女の一端を」
そう言うとキヨカはCCMをピッピッピとすごい速さで操作し始めた。
「っ!なに、コレ・・・・・・!」
目の前光景に私は信じられなかった。
キヨカが操作し始めると、アルカナムクラウンが3機になった。分裂したのかと思うほどだ。
「私のコレはお兄ちゃんから受け継いだスキル。お兄ちゃんのようにはまだ行かないけど」
「お兄さん・・・・・・?」
受け継いだという事は、コレを生み出したのはキヨカのお兄さんだという事だ。
これでまだまだというならお兄さんのスキルって・・・・・・
「でも、お兄ちゃんと私は違うわよ」
キヨカが告げると、アルカナムクラウンはまるで魅了するように動く。
攻撃しても、幻影のように消え別の所に現れる。
まるで魔女。
そこから先は正しく一方的に近い。
「これで終わりよ。必殺ファンクション!【アタックファンクション!ミラージュストライク!!】
アルカナムクラウンの鏡のような幻影がいくつも現れ、セイレーンを斬り裂いて行く。
キヨカの必殺ファンクションを喰らい、セイレーンのLPは0になり、蒼白い光を放ちブレイクオーバーした。
「・・・・・・・・・・」
「私の勝ちね」
圧倒的だった。
互角かもと思ったけど、後半から違うと理解した。
最初、敢えて手を抜いていたのだろう。
機体のスペックを十分に把握してなければあそこまではならない。
キヨカの実力に私は呆然とした。
レベルが違い過ぎる。
多分、これでも全力じゃない。実力の一端に過ぎない。
勝てなかった。奇跡を掴み取れなかった事に惚けていると。
「―――『立ち上がれ。諦めを知らぬが故に拓く道がある』」
テラスの階段の上から声が聴こえてきた。
夜遅いからこの時間帯、人が来ることは無いんだけど・・・・・・
声の聞こえた階段上を見ると、街灯の光で逆光になってるが見えた。
そこには二人の人物がいて、両方とも知っている顔だった。
「僕の師匠が遺してくれた言葉のひとつ。諦めない限り、いつか必ず道は開かれる。例え今負けたとしても、諦めない限りいつか必ずキミはキヨカに勝てる日が来るよ。ユノ」
階段を降りてきて私にそう告げるのは。
「レイ、何時から観てたの?」
学園最強にしてハーネスの司令官のひとり。そして、ハーネスジェノック混成軍の総司令官になった、レイだった。
レイの服装はハーネスの制服で、司令室で着ていたあの黒いロングコートは着てない。
「んー、キヨカがユノに固定概念を棄てなさいって言ったところら辺かな」
キヨカの問いにレイは苦笑しながら言った。
「つまり、随分前から観ていたのね」
「まぁね」
半目で呆れたようにレイを視るキヨカ。
そのやり取りはもう長年の付き合いがある風だ。
キヨカも半目で呆れたように見ていながらも、表情は優しく私たちの前で見せたことない、恋する乙女のような表情だ。
レイも優しく微笑んでキヨカと話してる。
もしかしたら、これがこのふたりの何時もの光景なのかもしれない。
いや、メアやフラン、ルナも入れた5人での光景なのかも。
これを見ていると、どうしてキヨカがあそこまでカイトに対して怒ったのか判る。
誰でも、自分の大切な。好きな人を馬鹿にされたり悪く言われたら怒るのと同じだ。
そう考えると、ジェノックって結構レイに迷惑掛けていたような・・・・・・
ふたりの会話を聴きながらそんなこと思ってると。
「こんな所で何をしてるんだユノ」
「ゲンドウ」
ゲンドウが声を掛けてきた。
レイと一緒にいたもう一人はゲンドウだったのだ。
「キヨカと話そうと思って」
「そうか・・・・・・」
ジェノックの中で数少なくキヨカやレイを擁護したゲンドウ。
ゲンドウはレイとキヨカの話してる姿を見て表情を和らげる。
「こうして見ると、レイも俺たちと同じ年齢の子供なんだな」
「そうね」
目の前で繰り広げられる様子に私はゲンドウにそう返す。
もしかしたらどこかでレイは私たちとは違う存在なのかもしれないって思っていたのかもしれない。
レイはレイなのに。
「所でゲンドウはなんでこんな時間にレイと一緒にいたの?」
何時もなら一緒に執事の綾部さんがいるのに今はいない。
それに、彼がこの時間帯に出掛けているなんて初めてだ。
「レイに呼ばれてな」
「レイに?」
「ああ」
ゲンドウとそんな会話をしていると。
「キヨカ、この二人になら話しても大丈夫だよね?」
「ええ。ジェノックの中でも私たちの協力者になってくれそうなのはこの二人」
「そう。ハルキたちはもう知ってるし、あの4人の事だから明日話すだろうけど」
キヨカとレイが私とゲンドウを見てそう言った。
話?大丈夫?協力者?一体なんのことだろう。
それにハルキたちが知ってるって・・・・・・
「ユノ、キヨカの友達でありがとう」
「え、う、うん」
突然のお礼に私は戸惑う。
「ゲンドウ、話があるって伝えたよね」
「ああ。しかも、ひとりで来てくれと書いてあったからな」
「うん。ユノ、ゲンドウ。キミたち二人にはこの学園の事と僕たちの事を話しておこうと思う」
「学園のこと?」
「お前たちの事もだと?どういうことだ?」
レイとキヨカ。ゲンドウと私。
二対二の状況で話す。
海からの風が私たちを包む。
「今から話すことは全て真実だ。心して聞いて欲しい」
「「・・・・・・・・・・」」
レイとキヨカの真面目な表情に私とゲンドウは気を引き締めた。
「この学園で行われてるウォータイム。それは―――」
レイから告げられたこの学園の真実と、レイたちの事。
それを聞いた私は言葉も出なかった。
隣にいるゲンドウも同じで。
その私たちの会話を聞いていたのは、この場にいる私たち4人と、海から来る夜風だけだった。