〜レイside〜
「構えな、ラン」
「・・・・・・」
「ラン。キミはLBXを動かす際、自身の身につけてる格闘技を使ってるよね?」
「そうだけど、それが?」
「それはつまり、身体に身に付いた格闘技の動きがLBXの動きに反映されているということ。つまりランは、理論で覚えるタイプではなく、実践的にやって覚える体感タイプだ」
「???どういうことよ?」
「簡単なことさ。ラン。今から剣と盾の動きをある程度で良い。付け焼き刃でもいいから身につけろ」
「ぇー・・・・・・」
少し不満そうに言いながらも僕の用意した木製の剣と盾を構えるラン。
何故僕がランといるのかと言うと、それは少し遡り―――
十数分前
アングラテキサスが始まって既に数時間。
あちこちで熱い、破壊の祭典らしい試合が繰り広げられ、戦いを勝ち抜いたプレイヤーのみが会場に残ってる。
もちろん、ヒロ、ラン、ジェシカも勝ち残ってる。
ジェシカは1回戦の苦戦以降は全くもって苦戦しておらず、スムーズに勝ち上がり、不得手なはずのハンマーを見事に操っていた。
それはヒロもで、僕や兄さんの教えた通りの動きで見事に槍と盾を使いこなして危うげなく勝ち進めている。
もちろんランも勝ち進み、今9回戦目をしていた。
既にジェシカは9回戦目を踏破し、決勝進出に王手をかけている。
一方ヒロは8回戦目と、ジェシカとランに一歩遅れを取っていた、が、そこはランダム抽選なので仕方ない。
そしてもう一人、ジェシカと同じ決勝進出に王手をかけているプレイヤーがいた。
「やっぱり、決勝進出の一人は彼か〜」
ビリー・スタリオン。
彼の強さは他のプレイヤーより群を抜いて強い。
「さすがディフェンディングチャンピオンね。最速最短だわ〜」
興奮したようにマダムが笑いながら呟く。
「あの早撃ちは反則でしょ・・・・・・」
まさにガンマン。
ビリーからのLBX[ジョーカー]の二丁拳銃から放たれた弾丸から逃れたLBXをまだ今大会では見てない。
「貴方なら彼に勝てるんじゃないかしら?」
「いやー・・・・・・どう、でしょうね・・・・・・」
さすがにアレに勝てるかどうかと言われると・・・・・・
僕の反応にマダムはやれやれ、と肩を竦めた。
なんで?
「まぁ、対策の仕様や、やり様は結構ありますけど」
ま、負ける気はしない。
負けたと思った瞬間、その場で負けが確定していると僕は思ってるから。
ようは気持ちの問題だ。
「さてと」
スクリーンに映る映像を観る。
画面にはランのミネルバと、ランの対戦相手のカブトとの戦いが映っていた。
未だに剣と盾を上手く使いこなせてないランに、相手のカブトは単発型の両手銃でミネルバの接近をさせないでいた。
いくら攻撃力が高くても、近づけなければ当たらないし意味が無い。
現にランは剣と盾を上手く扱えず、相手に近寄らせてすら貰えない。
もしミネルバ本来の武装なら問題んだろうけど、ミネルバ本来の武装はナックル型のクロー。
近接格闘型で、ストライダーフレームならではの速度重視を想定した軽量型の武装だ。
対して今ミネルバの装備している剣と盾は、ユウヤのLBX[リュウビ]が装備している武装だ。
リュウビのフレームはナイトフレーム。
正直、慣れてないとあの剣と盾は扱いにくいだろう。
もしミネルバが剣系の武装を装備するなら、軽量型の細剣系だろう。
現にメアのLBXはストライダーフレームでありながら剣系の細剣を装備していたし。
確か父さんも、去年のアルテミスの時のLBXも装備が細剣だったし。
メア曰く、長剣とかより細剣の方が扱いやすいし動きも速いからこっちの方がやりやすい、だったかな?
僕は普通に細身の長剣が無難でやりやすいけど。
ランが激情して自身の武装に変えないかの心配をしていると。
「あー、やっぱりそうなったか〜」
案の定、リュウビの剣と盾を放り投げ、武装を何時ものナックルに変えて一気に接近して必殺ファンクション【炎崩し】でカブトをブレイクオーバーさせた。
勝てて喜ぶランに、少しご機嫌ナナメなユウヤの姿が映る。
それから少ししてジェシカが10勝し、決勝進出一番手となった。
そのすぐ後に、大会最速で相手を倒したビリー・スタリオンも決勝進出した。
これで残りはあと一枠。
現状王手を掛けているのはランだ。
だが、場合によっては他のプレイヤーになるが・・・・・・
そう思ってると。
「ねぇ、レイ。一つ提案があるのだけどいいかしら?」
「え?なんですかマダム?」
面白いことを思いついたと言わんばかりの表情を浮かべたマダムが僕に提案をしてきた。
「もしあの坊や、大空ヒロが次の試合勝ち上がったら、花咲ランとの決勝進出を掛けたガチバトルをさせてみようと思うのだけど・・・・・・どうかしら?」
「っ!?」
マダムのまさかの提案に驚く。
それはつまり、ヒロが今やってる9回戦目で勝ち上がったら、ランかヒロどちらかが決勝進出となる、事実上最後の予選ラウンドが行われるという事だ。
本来なら他のプレイヤーの事を考慮するべきなのだろうけど。
「いいと思います。僕もヒロとランのガチバトルを見てみたいですし」
「決まりネ〜」
「まぁ、今の段階だとヒロが勝ちそうですけどね」
ランが今の自分から変化しなければヒロには勝てない。
オタクロスからはあんまり手は出さないように言われてるんだけど・・・・・・
「仕方ないか」
ふぅ、と小さくため息を吐く。
「マダム、ここって木製の剣と盾ってあります?」
「ええ、一応あるわよ?」
「少しの間お借りしてもいいですか?」
「構わないけど・・・・・・どうするつもりなのかしら?」
尋ねてくるマダムに、僕は椅子から立ち上がり答えた。
「ちょっとランを鍛えてきます」
と。
僕のこの返しにマダムは、あはは、と笑った。
「貴方は本当、優しいわね〜」
目尻に笑い涙が小さく浮き出ている。
そんなマダムに僕はんー、っと首を傾げて小さく唸った。
「いいわ。貴方のやりたいようにやりなさい」
そう言うとマダムは椅子から立ち、部屋から出ていってしまった。
部屋から出て少しして戻ってきたマダムの手には、木製の剣と盾の一式が二つ。
「ほら。貴方のお望みの物よ」
「ありがとうございます、マダム」
木製の剣と盾を受け取りマダムにお礼を言う。
僕は剣と盾の一式を2セット持ち部屋から出て、ランを探しに行く。
探しに行く途中で、いい歳した大人のような男が泣きべそを描きながら、その母親と主しき人に引き連れられて立ち去る姿があった。
てか、今泣いてた人ついさっきランと戦って負けた人じゃ・・・・・・
泣きべそどころか号泣してる男性に、勝気な女性を見送りつつ、僕は、ぇー、と思いながら頬を引き攣らせた。
で、ランを探して少しして。
「いた」
ランは会場の端にある、小さな広場のようなスペースで立っていた。
近くにコーチたるユウヤの姿は無い。
居るにはラン独りだけだ。
僕は、ぼーっと突っ立ているランに近づき。
「こんな所で何してるの?」
と、声をかける。
「っ!?レイ・・・・・・」
「もしかしてユウヤと喧嘩でもした?」
ランにしては珍しく意気消沈気味だったので、そう訊ねると。
「っ ・・・・・・!」
どうやら当たりらしい。
「ユウヤに、本気で大統領を護る気やアルテミスに
「ぁー・・・・・・」
ランがユウヤに言われた事を聴き納得する。
まぁ、ユウヤは過去が過去だからなぁ。
僕が最後にユウヤに会ったのは、病院。ユウヤの病室だ。
イノベーターによる人体実験の影響で昏睡状態だったユウヤが眼を醒まして、今の日常を送れるまでのリハビリ期間の最中だ。
ユウヤの過去については、紳羅さんから聞いている。
ジンや八神さんと同じ、『トキオブリッジ倒壊事故』の被害者。
あの事故以降、ジンは海道義光に引き取られたが、ユウヤは秘密裏にイノベーターの四つある部隊の一つ、『白の部隊』に引き連れられそれ以降はイノベーターで人体実験の日々だったらしい。
この事を知っていたのは海道義光や『白の部隊』の一部を含む僅かな者のみだったらしい。
ユウヤに関する研究資料は、サターンでの決戦以降、警察庁と警視庁。そして政府によるイノベーターの捜査で見つけたものらしい。
詳しくは聞いてないけど、壮絶な日々だった、らしい。
ちなみに現在イノベーターの施設は政府の管理下にあり、一般人の立ち入りは許可してない。
「それで、ランはどうするの?このまま何もしないつもり?」
「あたしは・・・・・・」
言い淀むランに、持っていた木製の剣と盾の一式を差し出す。
「?」
「強くなりたいんでしょ?」
僕の問いにランは静かに剣と盾を受け取り、右手に剣、左手に盾を持つ。
そうして冒頭に戻り―――
「剣を振った時の感覚を身体に覚えろ!」
「っ!」
振り下ろしてきたランの木剣を僕も左手に持つ木盾で受け止める。
「ただ無意味に振り下ろすな!力じゃ無い、肘から先を忘れ肘そのものを振るつもりだ!」
グッ、と地を踏みしめて勢いよく木盾でランの木剣を弾く。
「っ!」
「ただ無意味に振っただけじゃ意味は無い。剣と盾の最大の利点は何か判る?」
「・・・・・・攻防一体という事?」
僕の問いに少し悩んで答えるラン。
「盾は何も攻撃を受け止めて攻撃を流すだけじゃ無い。こうして―――!」
「っ!?」
木盾で身を隠しながらランへ
咄嗟に下がって避けるラン。
「相手へ怯ませることも出来るし、武器の手元を見えなくして予測しにくくすることも出来る」
木剣を右下に振り払って言う。
「確かに・・・・・・今の手元が見えないし、盾を構えて迫ってくるから」
ガシッと木盾を構えて、木剣を身体で隠して手元を見えにくくするラン。
「別に高度なことは求めない。けど、こうして身体に覚え込ませることで少しは対策が出来るし、動きもやりやすくなるでしょ」
ランは理論より、身体で覚える実戦型。
空手を習っているからかLBXの動きが自分の習った空手と連動している。
なら、少しの時間でもいい、こうして剣と盾の使い方を身体に覚え込ませることでさらに強くなる。
「そして、ラン。キミの最大の強みは格闘センスだ」
「そりゃ、あたしは空手をじいちゃんから習ってるし」
「うん。なら、その空手の動きを剣と盾にも組み込むんだ」
「どういうこと?」
「オタクロスからの条件は、自分の武器を使用しないこと。つまりは・・・・・・」
「っ!そうか!あたしの格闘技は禁止されてない・・・・・・!!」
「そゆこと」
ようやく気づけたね。
「なら、どうするか判る?」
「・・・・・・!」
良い目をしだした。
ランの眼にはさっきまでとは違い、キッとした眼差しが灯っていた。
「さぁ、時間もあまりない。かかって来い!!」
「はいっ!!はああっ!!」
すでにヒロは9回戦を突破し、マダムの言った通りヒロとランによる決勝進出を賭けたガチバトルが決まってる。
時間までもう30分もない。移動とかの時間も考えると少しでも時間が惜しい。
勢いよく上段から木剣を振り下ろしてくるラン。
その木剣の軌道に合わせて木盾を盾を構えて勢いを逸らす。
逸らしたそこに、ランが足払いをして体勢を崩してきた。
咄嗟に崩れた体勢から転がって追撃を避ける。
「そう!その調子だ!!」
興奮してきた。
ランの格闘センスは大会で優勝するほどで、下手すれば大人を超えると看てる。
左手を軸に身体を飛びあがらせ起き上がる。
「ラン、今のキミの武器は剣と盾だけじゃない!自身の培った格闘センスもある!オタクロスが禁止したのは自分のLBXの武器だけ。けど、キミの格闘センスはLBXの武器だけど、武器じゃない!!キミならではの武器だ!!」
「はぁっ!せいっ!!やあっ!!!」
僕が言いながらも攻撃の手を緩めないラン。
僕が教えた事をもう身に付けてる。
やはりランは理論や理屈より、身体で。直感的に覚えた方が速い。
「身体の動きは空手の動きを意識しろ!下手に無駄に動かなくていい!!」
「はいっ!!」
カンっ!カンっ!と木剣と木盾がぶつかり合う音が響く。
そのままぶつかり合い、互いの動きを止めたところに。
「ジン」
ザッザッと砂を踏む足音が聞こえ、聞こえた方を見るとジンがいた。
「・・・・・見られたか」
少し気まずそうに言うラン。
「意外だな」
「?」
「オタクロスの決めたルール、守るつもりなのか」
「まぁ、ユウヤに悪いし。それにレイにも・・・・・・・・・・」
そっぽを向いて素振りをするラン。
そのランにクスッと小さく笑みを浮かべジンと話す。
「まさかキミが教えるとはな」
「まぁね」
「それにしてもキミに剣の心得があるとは知らなかった」
「?別にないよ?」
「なに?」
別に僕は剣を習ったことは無い。
けど、僕のLBXの主武器は双剣。つまりは剣だ。
なら普通にLBXの動きを自分で模倣すればいいだけのこと。
LBXの動きみたいに高軌道なことは出来ないけど、何も別に難しい事じゃない。
「ただ、僕の視てきた経験や自分のことを教えただけだよ」
「・・・・・・」
なんかジンがマジか?って顔してる。
そんなに驚く事かな?
「バン君の気持ちが少し分かったかもしれない」
「へ?」
兄さんの気持ち?どゆこと?
ポカンとしてると。
「キミは相変わらずチートだなと思っただけだ」
とジンが呆れたように言ってきた。
いや、チートって・・・・・・
「ジンにだけは言われたくないわ!?このハイスペックチート!」
だってジン、LBXでリニアを止めるわ、戦車をハッキングして止めるわ、地下鉄を[トリトーン]の糸で止めるわ、でハイスペックチートにも程があると思う!!
「は、ハイスペックチート・・・・・・」
なんかショックを受けたような、心外だとでもいうような表情のジン。
僕からしたらジンの方がチートもチートのハイスペックチートだと思う。
「それで、ジンはどうみる?」
「どう、とは?」
「ランのこと。ジェシカについても、悟らせたジンなら解るでしょ」
「・・・・・・」
ジーッとランを視るジン。
「変化はしている。だが、今を超えるかどうかはランによる」
「ふぅん」
「キミだってそうだろう?今のままでは変化しないと判断したからランに特訓を付けたんじゃないのか?」
「まぁね。これからの事を考えたらヒロ、ラン、ジェシカにはもっと強く。進化してもらわないと」
相変わらずジンはよく見てる。
「それにしても、変わったねジン」
「そうか?もしそうだとしたら、それはバン君やレイ。キミたちのお陰だ。イノベーターの事件を通じて、僕は今ここにいる」
「そっか」
ジンも。ユウヤも変わった。
もちろん、兄さんも一年前と比べて変わった。
イノベーター事件があったから僕らは変われたんだろう。
もしイノベーター事件を知らずにいたら、僕はなんの変哲もないつまらない日常を過ごしていたことだろうね。
素振りをして、身体を動かすランを見ながらそう思う。
それから暫くして―――
「さぁて。ヒロ、ラン。この大会で培った二人の変化を観せて」
元の部屋に戻った僕はモニターからヒロとランの決勝進出を賭けたガチバトルを見届けたのだった。