〜Outer side〜
レイたちがアングラテキサスにいる同時刻。
日本の総理官邸の、総理の執務室に3人の男がいた。
「―――私がA国に?」
「ああ、NICSからの要請だ」
一人は現日本の総理大臣、財前宗助。
もう一人は、総理のエージェントになった八神英二。
室内は薄暗く、3人のみと機密性が高い事を表している。
「クラウディア・レネトン大統領暗殺の件、ですね」
「そうだ。暗殺が行われる日はアルテミスの開催日。NICSによると、暗殺者はアルテミス会場からLBXを操作して大統領を暗殺するそうだ」
「・・・・・・LBXを使った暗殺・・・・・」
財前総理の言葉に小さく唸る八神英二。
「まるで一年前に総理。貴方が暗殺されかけた状況と似てますね」
そこに最後の一人が告げる。
「ああ。だから、八神君だけでなく、君にも一緒にA国に向かって欲しい。頼めるか雪斗」
最後の一人は、警察庁警備局警備企画課所属の紳羅雪斗。
「一応上に聞いてみないと。でもまあ、すぐに通ると思いますけどね」
「上には私から打診しよう。しばらくの間、雪斗には私の下、直属で動いてもらいたい」
「分かりました。財前先輩」
他に誰かいたら咎められるであろう口調に、財前総理は特に咎めることは無く、その方が楽だとでも言うような表情を浮かべる。
「それと、アルテミスの方には山野レイ君たちが向かうそうだ」
「レイ君が?」
「ああ」
ここにいる3人とも、レイとは顔見知りのため驚いてはいるがそこまで驚いている感じではない。
というより、彼が普通じゃない気配を漂わさせているのに気づいている。
レイ本人は無自覚なのだろうが、彼らからしたらレイは不思議な感じの少年なのだ。
「レイと言えば、彼からつい先程情報が」
「なに?」
八神英二の発言に、なに?と言う財前総理。
「Mチップについてなのですが、MチップにはLBXの暴走を止めるのではなく、なにか別の役割があるのでは無いか、との事らしいです」
「ふむ・・・・・・」
「他の役割・・・・・・八神先輩、レイ君から他になにか情報は?」
「いや。だが、この事からオメガダインは何かを隠してるのは間違いない」
「そうなると、日本で稼働しているLBXの数を考えると・・・・・・嫌な予感しかしない」
「今のところ、クリスターイングラムは目立った動きを見せてはいません。タイニーオービットに沢村を新社長として送り込んだぐらいです」
「ふむ・・・・・・」
「財前総理、ディテクターの引き起こしたトキオシティ、A国Nシティ、中国の
「それに加えてディテクターとオメガダイン、クリスターイングラムは何かしらに接点があるだろうな」
「ああ。二人にはこれからも捜査を続けて欲しい。だが、まずは大統領の暗殺阻止が最優先だ」
「分かりました」
「了解しました」
〜Outer side out〜
〜ランside〜
ヒロとのバトル開始時刻になり、あたしはジンとともに元の会場に戻った。
戻る際、レイから。
「自分の思うがままにやってこい」
と激励を受けた。
レイの指導は的確で、この極短時間で少しは剣と盾の動きを身につけられたと思う。
剣と盾だけでなく、あたし自身の得意である体術。
格闘技を取り入れた戦いをする。
あたしは胸にそう秘めて歩く。
歩きながら、あたしはレイについて考えていた。
正直、バンからレイのこと聞いた時そんな大袈裟な、と思った。
何せ山野レイはそこまで知名度が高くない、知れたプレイヤーじゃなかったからだ。
去年のアルテミスを観てLBXを始めたあたしは、有名なLBXプレイヤー。
アルテミスや大きな大会で優勝したプレイヤーやLマガに載ったプレイヤーについて調べた。
そこに山野レイの名前は無かった。
けど、バンやジンはレイについて何度か話した。
曰く、天才。LBXに愛されたプレイヤー。奇抜な奇想天外なことをするプレイヤー。才能の権化、と。
他にも、絶対に怒らせてはならない、ともオタクロスや拓也さんが言っていた。
何故かこれを言った時オタクロスたちが遠い目をしてビクついていたけど・・・・・・。
内心それ程じゃないだろと思ってたけど、実際に会い、バトルした時本当にレベルや次元が違うということを実感した。
あたしとヒロ、ジェシカの3人に対してレイひとりだったのにほぼ完封での勝利
ジェシカが負けたことで気が立っていたあたしの攻撃を、受け流して避け必殺ファンクションを横に避けて[ミネルバ]をカウンターで倒した。
あのやり方でやられたのは二度目。
一回目は中国、香包でディテクターに操られスレイブプレイヤーとなっていたアミに。
そして二度目はレイ。
同じ轍を踏むなんて・・・・・・
正直ショックだった。
これでもLBXの操作には自信があったから。
けど上には上がいると叩き込まれた。
あの歳で
「ねぇ、ジン。なんでレイはああまでしてあたしの事見てくれたの?」
あたしは歩きながらジンにレイの事を訊ねた。
「それが彼の優しさだからだ」
「優しさ?」
ジンから返ってきた言葉に首を傾げる。
優しさってどういう意味だろ。
「はっきり言うがラン。さっきまでのキミでは、ヒロには勝てなかった」
はっきり過ぎるが、事実だとレイとの特訓で分かってるので口に出さない。
「だが、今は違う。さっきまでとは違い、レベルが上がった」
「レベル?」
「ああ。それはキミ自身の強さだ」
「・・・・・・・・・・」
「知識と経験は何物にも代えがたい物だ。実際、キミはレイとの特訓で剣と盾の扱い方を少しではあるが体に覚えられただろう?」
ジンの言う通りだ。
特訓前のあたしではヒロに勝てる見込みはなかったと思う。
けど、今は身体に少しは身に付いた剣と盾の扱い方で勝てる確率は上がったと感じる。
「レイは常に先の先を視てる。ランがこれからの戦いで必要な人材という点もあるだろうがな」
「えぇー・・・・・・」
必要な人材って・・・・・・
ジンの言葉に微妙な表情を浮かべる。
「と言っても、僕はバンくん程レイについて詳しくないが」
立ち止まって通路の、空いてる壁から宙を見るジン。
「彼は誰よりも優しいんだ」
優しい、ね・・・・・・
レイとまだ出会って数日だから分からないけど。
そう思ってるとジンが。
「まぁ、怒らせると誰よりも恐いんだがな」
ビクッと体を震わせて呟いた。
「え?」
どういう意味だろ?
ジンの言葉の意味が分からず首を傾げながらも、再び歩き会場へと戻った。
会場に戻ると、最初の頃にいた大勢の人はいなくなり、残っていたのはバンやヒロ、ジェシカ、ユウヤと、あたし達だけだった。
そしてあたしとヒロの最後の試合開始の時間となり―――
『さぁ〜、予選のガンスリンガーバトルを締めくくる時が来たわ〜!大空ヒロ、花咲ラン。紅蓮の炎が燃え上がるような熱いバトルを観せて頂戴!!オ〜ホッホッホ!!!』
マダム・ブルホーンの声がウインドウ越しに響き渡る。
すでにバトルを行う部屋にはあたしとヒロ、ヒロのコーチのバンが入ってスタンばってる。
ユウヤはいない。
「来ないのかと心配しました」
「そんなわけないでしょ」
ヒロの言葉にそう返すと、ドアがスライドしジンが入ってきた。
「ジン、どうして?」
「今回だけ、僕がコーチを務めることにする。構わないな?」
「・・・・・・好きにすれば」
ジンの問いに、あたしは少しの間の後素っ気なく返した。
正直ユウヤとは顔を合わせづらい。
なら、あたしの特訓を知ってるジンがいた方がいい。
「行くよヒロ」
「よろしくお願いします!」
『両者準備は良いようだね』
「っ!?レイさん!?」
突然ウインドウにレイが映し出され、ヒロが驚く。
あたしもバンも同じだ。
驚くあたしたちを他所にレイは話し続ける。
『この試合、僕が見届けさせてもらうよ。・・・・・・さぁ、それじゃあ始めよう!予選ガンスリンガーバトル最終戦!!決勝に進むのは、大空ヒロか。それとも花咲ランか!!―――レディー!!!』
「[ペルセウス]!!」
「[ミネルバ]!!」
レイのレディーという合図とともにヒロと同時にLBXをジオラマ内に投下する。
ジオラマのフィールドは地中海ステージ。
古代遺跡のような神殿跡がある、見通しの良く足場も安定しているステージだ。
『バトル、スタート!!』
レイの合図とともにあたしのミネルバと、ヒロのペルセウスが同時に動き出す。
ペルセウスの装備する、バンの[エルシオン]の槍と盾がミネルバに迫る。
あたしも装備している、ユウヤの[リュウビ]の剣と盾を構えて迎え撃つ。
剣と槍がぶつかり鍔迫り合う。
剣を押し込み、ペルセウスを後ろに下がらせ、そのまま追撃を仕掛ける。
上段から振り下ろす!
けどその攻撃をペルセウスは左手の盾で防ぐ。
けどそれは想定内。
カウンターを防ぐため追撃を仕掛けず一旦下がる。
レイやユウヤのように、剣を上手く使えはしないけど、あたしはあたしで剣と盾を操る!
刺突してきたペルセウスの槍を盾で受け止め、そのまま受け流す。
剣と槍ではリーチによる支点が違うため、力の利点が剣のほうが槍より重く伝わる。
盾で剣を持つ右手を見えないようにミネルバのボディで隠し、軌道を読まれにくくする。
反撃してきたペルセウスの攻撃を盾の中心で受け止めそのまま滑らせて横から剣を振り下ろす。
もし、レイやユウヤからこっからさらに反撃をしたりするんだろうけど、あたしにはこれが精一杯。
「なっ!?」
振り下ろしが避けられるのは想定済み。
だから―――
「あ、足技!?」
左後ろ回し蹴りで、ペルセウスのカウンターをさせる暇を与えない!
「オタクロスから禁止されてるのはあたしのLBX、ミネルバの武器だけ。つまり、あたし自身の
下がったペルセウスを追い掛けて剣と盾で攻撃をする。
剣で斬りつけ、盾で防ぎそのまま殴る。
たまに足技を使い撹乱する。
「ヒロ。これが、今のあたしだよ!」
ミネルバ本来の機動力は少し低下しているが。それでもペルセウスに劣ることは無い。
剣と盾を十分に扱いこなせてはいないけど、それはヒロも同じ。
ヒロ本来の二刀流に比べて操作速度が遅い。
槍を振るうのも大振りが大半だ。
そしてそれはあたしも。
けど、あたしとヒロにとって決定的に違うものがある。
それは―――
「この試合、あたしが勝つ!」
「っ!さらに鋭く!?」
盾でミネルバの剣や足蹴りを防ぐペルセウス。
突き、袈裟斬り、横切り、縦切り、盾の突進、と反撃の隙間を与えない。
「っく!」
「さっきまでのあたしと思わないでよ!」
ミネルバの言いたい事。
伝えたい事がCCMを通して少しずつ伝わってくる。
「今、あたしとミネルバはひとつとなってる。絶対に負けない!!」
「僕だって!負けるつもりはありません!!」
ミネルバの攻撃にペルセウスが追い付いてきた。
ヒロも今この瞬間成長している。
ペルセウスの持つエルシオンの槍と、リュウビの剣が何度目かのぶつかりが起こる。
今度はペルセウスがミネルバを押し込んで来た。
咄嗟にバックステップで下がり距離を取る。
「ホント凄いですランさん!剣と盾を自由に使いこなせてる」
「ううん。まだまだ。あたしなんかまだまだだよ」
ヒロの賞賛にあたしは首を横に振って返す。
あたしなんかあの二人やヒロに比べたらまだまだだ。
まだ自由に使えてない。
今はまだ使いこなせてるだけで、十分に。自由自在にって訳じゃない。
「でも、さっきまでとは段違いです!!」
「・・・・・・修行の賜物ってやつ?」
「え?」
正直、あたし自身こうなるなんて思ってもみなかった。
あたしはあたしのやり方で戦う、そうユウヤに言ったのに。
レイに呈されてあたしのやり方と、レイに教わった剣と盾の扱い方の、新しいやり方になった。
癪だけど、認めるしかない。
「今度は逃がさないよヒロ」
「っ!」
ユウヤの教えもあるのだろうが、レイの教えが一番決まってるのだと。
今のところミネルバとペルセウスの力量は互角。
なら、勝敗は互いの勝ちたいという意思と、如何に相手の先を往くか。
飛び上がって降ってきたペルセウスの槍の突進を盾で受け止めてそのまま滑らせ、着地したペルセウスの足を足払いをして剣を振り上げる。
けどそれは素早い反射速度で盾で防がれた。
速い。
ヒロの反応速度や反射速度はあたしより高い。
そのまま互いの武器をぶつけて行き―――
〜ランside out〜
〜レイside〜
ランとジンと分かれた僕は木剣と木盾の2セットを持ち、さっきまでいたマダムのいる部屋へと戻っていた。
空間ウインドウのスクリーンにはヒロのペルセウスと、ランのミネルバが一進一退の攻防を繰り広げているのが映し出されていた。
「・・・・・・・・・・」
静かに両者の戦いを見守る。
「花咲ラン。彼女の戦い方がさっきまでとは違って洗練された動きになってきたわね」
ワインを飲みながらマダムが言う。
ランの動きはさっきまでの試合とは違い、ギクシャクしてなく洗練された動きをしている。
剣と盾にラン自身の格闘技を取り入れた新たな、ラン自身に合った戦い方。
あの動きは格闘技有段者のランならではだ。
動体視力がランは高い。
この動体視力に、ランの格闘技がラン自身の最大の武器。
ヒロの反応速度と反射神経。
ジェシカの一度見たものを忘れない記憶力に、洞察力と観察力。
この大会で3人ともそれぞれの個性が伸びてる。
使い慣れない武器を使っての試合により、個々の
オタクロスはこれも計算して、兄さんたちをヒロたちのコーチに指名したんだろうね。
ホント、相変わらず抜け目のない事だ。
何時もはああなのに。
心の中で苦笑して、ペルセウスとミネルバの戦いを観る。
この大会を通して2人とも成長し、扱いなれてない武器を今は十分といえるほどではないが、扱えてる。
特にランは、自身の身体に覚え込ませたことによりその扱い方は群を抜き始めた。
やはり、ランには理屈っぽいのは効かないみたいだ。
ランのコーチに今ユウヤではなくジンが付いているのはある程度想定着く。
全く・・・・・・
「・・・・・・・・・・」
少しだがペルセウスがミネルバの動きを読み始めた。
ミネルバの剣の間合いを取り、余裕を持って避けてる。
となると次のランの動きは想定がつく。
そしてそのヒロの動きも視える。
大振りの突進攻撃を仕掛けたミネルバの剣を飛び上がって躱し、上から槍を振り下ろし、ペルセウスがミネルバをブレイクオーバーさせた。
「決まったね・・・・・・。―――ミネルバ、ブレイクオーバー!ペルセウスの勝ち。よって、最後の決勝進出者は大空ヒロ!!」
通信ウインドウを出して、会場全体に勝者を伝える。
勝者を伝えると、あちこちから歓声の声が響き渡る。
「2人とも、見事な戦いだったよ」
通信ウインドウを切り、ふふっと笑みを浮かべて呟く。
「見事な戦いだったわね〜」
「ええ」
「今回の戦いは私の期待以上だわ。会場のボルテージもヒートアップして、とてもいいわ〜」
ステージを見下ろす形で聳える岩塔の上にはアングラテキサスの観戦者や、大会に出場していたが負けて敗北したプレイヤーたちが大勢いる。
彼らの熱気は離れてるここにも伝わってくる。
すでにあちこちで今の戦いに感化されてLBXバトルをしようとしている者も大勢いる。
「―――さぁ、これでベスト
立ち上がり、通信ウインドウから言うマダム。
マダム自身楽しみで仕方ないって感じ。
もちろん僕も楽しみだ。
アングラテキサスを制するのは、ヒロか。ジェシカか。
それとも前回優勝者のビリー・スタリオンか。
「決勝開始は3時間後。それまで決勝進出者の3人は各々準備をして、この大会最後のバトルを大いに盛り上げ、我々を熱く、燃えるような熱で滾らせてくれ!!!!」
ウインドウ越しに会場全体に伝える。
身振りを大きくして伝え、最後の一言、右手を銃の形にしてバンッ!と人差し指から弾丸を放つ仕草をして締めくくった。
アングラテキサス最後の戦い。
決勝戦がついに始まる!