その後俺たちは刀都近くの手頃な狩場である玉鋼平野でモンスターを狩っていった
…一ツ尾狐達が。
「強ええ…」
ギンセツよりも大幅にステータスが下回っているものの初心者用の狩場では苦戦するはずもなく、しかもそれが3匹となれば恐ろしいほどのスピードでモンスターが狩られていき経験値が入ってくる。
この調子なら明日にでも狩場をより強いモンスターのいる場所に移すことになるかもしれない。
しかしこんな楽にレベリングが出来るのは肩透かしというか暇をもて余してしまう
「なあギンセツ、暇だから模擬戦の付き合ってくれる?」
「ええよ~、胸貸したるわ」
レベルが多少上がったとはいえまだステータスはギンセツの方が上だろう。しかし今の俺はジョブにつき使えるようになったスキルもある。かなりいい戦いができるかもしれない。
ある程度の距離を取って向かい合う
レベリングをしている他の初心者パーティー達、嘘の狩場ではないので当然何人もいるーは不審そうにチラッと見るだけでまたレベリングに戻る。
(狩場を移す時はパーティーを組んで一人じゃ行けない場所に行くのもありかもしれないな)
「ほな、いつでも来てええよ」
「じゃあ遠慮なく!」
言うやいなや駆け出す
ステータスで負けてるギンセツに正々堂々と戦っても勝ちの目は少ない。ここはいかに不意を突くかが重要だ。
あと数歩で剣が届くというまあいで手の内にこっそり忍ばせていた砂を顔に投げつけるがギンセツは腕で払いのける。俺は腕で視界が妨げられているその隙に懐に飛び込み鞘走ると同時に習得したばかりの【
「っ!女性の顔に砂なんて酷いことするんやねえ」
「化粧だよ化粧」
目論見通りギンセツの不意を突くことには成功したがギリギリで身をかわされる。しかし奇襲によって出鼻をくじかれたなら反撃より後退して立て直しを優先するはずだ。それを読んで後ずさる速度と同じ速度で前に進み剣の届く間合いを保つ
「そんなに迫られるても困りますえ?」
「つれないこと言わないでくれよ」
「笑顔が物騒やわあ」
ギンセツが大降りな回し蹴りで首を刈り取ろうとしてくるのを間一髪で避ける。回転し背を向けたギンセツに向かって突いた刀が肉を貫くと同時に刀が尾に絡めとられた。咄嗟に刀を離し防御の態勢を取った瞬間前に交差した腕に尋常ならざる衝撃が襲いかちあげられる。そして無防備になった俺の胴をギンセツの爪が引き裂いた。そして首に手が添えられる
「ウチの勝ちや~♪」
「くっそ…」
お互いのHPはどちらもレッドゾーンに突入しておりそこまで差はないがギンセツは出血の状態異常のみであるのに対し俺は出血に加えガードした両腕も骨折している。負けだ。
手早くポーションを飲んで体力と傷夷系状態異常を治そうとするも両腕が骨折して上手く動かない。仕方なくギンセツに飲ませて貰いようやく全快する。
「まさかここまで追い詰められるとは思わんかったわ、マスターは武術でもやってはったん?」
「齧るだけなら色々とね。どの武術も長続きしなかったんだけどさ」
「長くしなくてもそんなに動けはるんは凄い才能持ってはるんやねえ。打ち込めば一つに打ち込めば大成できるんやない?」
「俺に才能?逆だよ逆。才能がないからすぐに━」
「すいません。少しよろしいでしょうか?」
「はい?」
声かけられ振り向くと一人の男が歩み寄ってきていた。
その左手には鞘を握る骨の手の紋章が描かれている。マスターのようだ。もしかしてまた初心者狩りか?
「何か用ですか?」
「先ほどの戦いを拝見していましてね。、あなたの強さに感銘を受けてしまい声をかけずにはいられませんでした。」
「俺が強い?さっき負けたのは俺の方ですけど?それにレベルもまだ低いですし」
「いえいえ私が強いと言ったのはステータスやスキルではなくあなたの生来の技術です。武術を嗜まれているのでは?」
「あ、ありがとうございます」
一目で見抜かれたことに驚きつつも自分が培ってきたものを誉められ嬉しくなってしまう
「それで提案なのですが、私とパーティーを組みませんか?私は明日よりレベル帯の高い狩場に移るつもりなのですが、一人では少々不安でして。」
パーティー、先ほど組もうと考えていたがまさか誘うより先に誘われるとは思わなかった。狩場も移そうと考えていた所に渡りに舟だ
「こちらこそよろしくお願いします!」
「ありがとうございます。申し遅れましたが私はカゲロウと申します。」
「俺はイズモ、こっちはエンブリオのギンセツです。」
パーティー申請を受諾すると俺とカゲロウさん、そしてギンセツがパーティーになった。
「そちらの方もはやはりエンブリオでしたか。よろしくお願いします。」
「よろしゅうな~。ウチのことも知ったんならそっちのエンブリオも教えてくれへん?」
「そうですね」
カゲロウさんはそう言って腰に下げた鞘を取る。その鞘に刀は納められていなかったが、カゲロウさんが鯉口に手をかざすと紫に揺らめく刀の柄が現れた。それを掴んだカゲミツが刀を引き抜くと刀身も同様に不確かで紫の霧が刀の形をしているようだった。
「【霊幻刀鞘ツキカゲ】、TYPEはアームズです。」
「おお…!」
「能力の詳細はまた今度ということで」
ツキカゲは微笑むと刀を手放し鞘を戻す。刀は霧のように消えていった。その後カゲロウデイズさんとはリアルでの明日にまた会うことを約束して俺はログアウトすることにした。
(ログアウトする前に一ツ尾狐と戯れようかな)
「ギンセツ、狐を戻してくれ」
「はいよ~」
すぐに茂みから一ツ尾狐が飛び出してきた。
カゲロウさんの目の前に
「あっ」
そう言えばカゲロウさんは一ツ尾狐のことを知らないはずだ。野生モンスターかと驚かせてしまうかもしれない
一閃
「…え?」
「おや…モンスターではない…?」
気づいた時にはカゲロウさんは刀を抜きはなち濃口に戻していた。一ツ尾狐は少し遅れて首と身体が別れて消える。
「今のは…?」
「す、すいません!俺のエンブリオの一部で…」
「そうでしたか。驚いて咄嗟に抜いてしまいましたがどうかご容赦を」
「は、はい…」
「それでは私はこれで」
そう言ってカゲロウさんはログアウトしていった。
俺はそれを心ここにあらずで見送り頭の中ではあの一閃が焼き付いて離れなかった。
(なんて)
剣速はそれほど速くはなかった。サジンのステータス任せの攻撃の方が速度威力共に勝るだろう。しかし
(絶対に避けられない)
体の運びも、一ツ尾狐を認識してから斬撃を繰り出す判断の早さも、抜き放った後の残心も刀を納める所作も全てが流れるように自然でそれでいて体に叩きこむかまでに信じられないほどの鍛練を行ったことが一目でわかった。
なにより
「なんて、美しい斬撃…」
あの一閃には鍛練だけでは得られない輝きがあった。
俺では決して身につけられないと確信出来る程の
あの一閃だけは分かっていてもかわせない、そう確信させられるほどの『唯一』が宿っていた
「くそ…」
戦ったわけでもないのに敗北感と身を焼かれるような何かを感じた俺は気遣わしげに見るギンセツをよそに逃げるようにログアウトした。
カゲミツはカゲミツです