Blue Archive:Task Force   作:タクティカルおじさん

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13:エデン条約編:A penny for your thoughts

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<20██年初夏>

 フォード 特殊戦開発グループ 大尉

 トリニティ総合学園・合宿所への帰路にて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何か知っているのか?」

 

 ミカにそう問いかけるのはフォードである。しかし、その言葉の一方彼は疑っている。なぜなら、ナギサのように何か裏があってわざわざそのような話を持ち込んでいるのかと考えたからだ。

 

 「どうして俺たちにその情報を教えようと?」

 

 「....まあ私の方にも色々あってね。それと、外部のあなた達が先生みたいにこんな問題に巻き込まれちゃっているのが、申し訳ないと思ったからだよ。」

 

 あっさりと出てくる先生という言葉。先生と自分たちが置かれている状況は同じだろうか、と考えながらフォードは情報を聞き出す。

 

 「なるほどな。それで、その情報は?」

 

 「.....白洲アズサ。彼女がトリニティの裏切り者なの。」

 

 「アズサ....。」

 

 フォードは裏切り者と呼ばれた彼女の名を呟く。

 

 「あの子は実はトリニティから最初にいたわけじゃないんだ。ずいぶん前に分かれた、分派....『アリウス分校』出身の生徒なの。」

 

 「そうか。でもその情報を教えて結局、俺たちは裏切り者である彼女をどうすればいいんだ?殺害?ナギサに報告?」

 

 フォードたちは依頼もとい任務に何度か参加したことがある。しかし、それらの目的はターゲットの殺害や捕縛が目的であり、ミカのアズサが裏切り者であるという報告をそのように捉えていたのだ。

 

 「いやいや、殺害とかそんな物騒なことをしてほしいわけじゃないんだよ?私はあの子を守ってほしいの。」

 

 「守れ?一体どういうつもりだ?」

 

 フォードはミカの発言の意図がわからない。裏切者であるという情報を伝えながら、守るように伝えるのは彼にとっては理解出来なかったのだ。

 

 「少し話が長くなっちゃうけど、前あなた達にこの学校の軽い歴史を説明したよね?その時に、私は『最後まで、一つになることに大反対した学園』なんて言っていたと思うのだけど、その学園がアリウス。」

 

 ミカは続ける。

 

 「元々は私たちとあんまり変わっていなくて、ちょっとした経典の解釈違い以外は同じだったんだって、それでいてゲヘナを心底嫌っていた。でも、そのアリウスは連合を作ることに猛烈に反対して....最終的に争いに発展しちゃったの。」

 

 「新しい体制を作ろうとした結果、たった一つの学園との紛争が始まった。ということだな?つまり最終的に、強力な連合によってその学園は消滅したのでは?」

 

 フォードはミカの話から推測でありながら、そう述べる。

 

 「ふふっ、よくわかったね。あなたの言う通り、アリウスは消滅してしまったよ。そのアリウスはトリニティの自治区から追放されて、キヴォトスのどこかに隠れているみたい。...とまあ、そんな感じの学校なの。」

 

 「なるほどな...。」

 

 「それと、あなた達はナギちゃんが推進しているエデン条約について知っているよね?前に私が説明したはずだけど....。」

 

 「トリニティとゲヘナの平和条約ですよね?しっかり覚えていますよ。」

 

 ピアーズは初日に、ミカから教えられたエデン条約を覚えており、そう発言した。

 

 「....なんだか良い話に聞こえるよね?でも本当のところはどうだろ。だってその核心はゲヘナとトリニティの武力を合わせたエデン条約機構、通称''ETO''と呼ばれる全く新しい武装集団を作ることなのに。」

 

 「ほう...。」

 

 「つまり、エデン条約っていうのは、言ってみればある種の武力同盟。トリニティとゲヘナの戦力を合わせた、一つの大きな武力集団の誕生が目的....。そんな、武力集団を用いてナギちゃんは何を果たそうとしているのかな?」

 

 「....アズサを守ることで、その武力同盟を破棄させたい。ということになるが、武力同盟を破棄して何かメリットでもあるのか?」

 

 フォードはミカの言葉にそう返す。彼は彼女の話を聞いている限り、わざわざ武力同盟を破棄して()()()()()()()()。すなわち、メリットを理解できなかったからだ。

 

 「わからない。いや、正確にはナギちゃんが気に入らない存在を排除しようとするんじゃないのかな。.....昔、トリニティがアリウスにしたみたいにね。もしかしたらセイアちゃんみたいに....。」

 

 「セイア....?あの子は入院中だったとは聞いている。」

 

 百合園セイア。彼女の名前を、彼らは聞いたことがあった。以前、先生と出会ったときティーパーティーの内情について教えてもらえるよう頼んだところ、教えてもらったことがあったのだ。

 

 そして、先生から告げられたのはセイアは入院中であること。彼らはそれ以来、セイアという人物がなぜ入院しているのかが分からず、そのまま疑問を抱えたまま日々を過ごしていた。

 

 「え!?ど、どうして知っているの!?あなた達は知らないはず....。」

 

 しかし、ミカやナギサたちはフォードたちにセイアが入院中であることを伝えていない。そのため、どうやってセイアが入院中であると知っているのかということに、ミカは動揺した。

 

 「大人の人脈さ。」

 

 「ふーん.....。」

 

 フォードはミカにそう告げたところ、彼女はその情報を伝えた者が先生であるということに気付いたようだった。

 

 「それで、セイアをなんでわざわざこの話し合いの場に持ち出すんだ?」

 

 「そ、それは...。」

 

 「もしかしたら、何か隠さないといけないような事情があった?」

 

 フォードは一気に畳み掛ける。セイアがどうして入院しているのか、という情報を彼らは引き出したかったからだ。そのため、彼はどうにかして引き出そうとする。

 

 「居場所はどこだ?」

 

 その一言は少々刺々しいだけではなく、その言葉を放った本人である彼の表情は変化していた。眉根を寄せており、表情を僅かに険しく。そして、鋭利な眼光で彼女を正確に射貫く。

 

 「わぁ!!そ、そんな、怖い顔をするんだね....。いいよ、本当のことを話してあげる。」

 

 ミカはそんな表情に驚いたのか誤魔化そうとするのを観念し、本当のことについて述べ始める。

 

 「セイアちゃんは入院なんかじゃない。ヘイローを、壊されたの。」

 

 「ヘイローが壊された...?おいおい、死んだってことか?」

 

 フォードはキヴォトスに派遣される前、キヴォトスの文明や存在する勢力といった事前情報を教えられた。それにはヘイローというキヴォトスに存在する生徒にしかなく、破壊されると彼女たちの生死に関わるということも知らされていたのだ。

 

 そして、ミカはフォードたちにセイアに何が起こったのかを説明し始めた。

 

 「....冗談じゃないよ、本当のこと。去年、セイアちゃんは何者かによって唐突に襲撃された。対外的には「入院」ってことになっているけど....そっちの方が真実。」

 

 ミカは続ける。

 

 「私たちティーパーティーを除けば、このことはまだトリニティの誰も知らない。もしかしたら、''シスターフッド''には知られているかもだけど....あそこの情報網は半端じゃないからね。とにかく、それくらい秘密事項なの。」

 

 「シスターフッド....今頃、自分たちはそこから情報を入手出来ていたはずなんですけどね....。」

 

 ピアーズはふとシスターフッドから情報を入手する目的があったことを思い出し、そう呟く。

 

 「それもそうだが....。ところでその襲撃した人物は何か分かっているのか?」

 

 「...わかっていない。捜査中っていうか、何もわかっていないっていうか....もともとセイアちゃんは秘密の多い子だったこともあってね。....うん、まあそういうことなんだ。」

 

 ミカはまだもっとそのことについて知っていそうな雰囲気を、フォードは感じ取った。しかし、彼はこれ以上追及しない。

 

 「....とはいっても、目星が付いていないわけではないんだけど.....今の段階でただの推測をするのもね。...それで話に戻るけど────────」

 

 「ああ、アズサを守れって話だろ?」

 

 「うん、そしてあの子を学園に転校させたのは、私なの。」

 

 「転校?なぜだ?」

 

 フォードはミカの言う、転校について尋ねる。

 

 「実は....ナギちゃんに内緒でね。生徒名簿とかそういうのを全部偽造して、あの子を入学させた。」

 

 「....。」

 

 フォードは少し怪訝な顔をする。

 

 「....そんな怖い表情をして、どうしてかって知りたそうな顔してるね。アリウス分校は今まだ、私たちのことを憎んでいる。私たちはこうして豊かな環境を謳歌しているのに、彼女たちは劣悪な環境の中で『学ぶ』ということが何なのか分からないままでいる....。」

 

 ミカは熱心に話を続けた。

 

 「私たちから差し伸べた手も、連邦生徒会からの助けも拒絶し続けているの。過去の憎しみのせいで。」

 

 「過去の憎しみか...。俺たちの世界でも似たようなことがある話だな。」

 

 「....私はアリウス分校と和解がしたかった。でもその憎しみは、簡単には拭えないほど大きくて....これまで積み上がった誤解と疑念はあまりにも多い。私の手には負えないくらいに.....。」

 

 ミカは同情の眼差しを見せる。きっと彼女はアリウス分校と仲良くなれると思っているのだろう、しかしそれが今になっても実現しないあたり、憎しみという溝はかなり深いものであるということをフォードは考えた。

 

 「....なあ、捏造までをもしてそんなにそのアリウス分校とやらと、仲良くしたいのか?」

 

 フォードはミカに問うと、少し沈黙をした後に返答した。

 

 「ナギちゃんやセイアちゃんは政治的な理由で仲良くなることに反対しているの。でも私は....お互いの誤解を解いて、前みたいにお茶会をしたいという気持ちがあるの。たったそれだけ、と言われればそうだけど...。」

 

 ミカの話はまだ続く。

 

 「私はあの子....『白洲アズサ』という存在に、和解の象徴になってほしかったの。あの子についてはそれほど詳しいわけではないんだけど、アリウスでもかなり優秀な生徒とは聞いているし、その可能性に賭けたかった。ナギちゃんを説得して、ちゃんと正式に進める────────」

 

 それから彼女から様々なことを聞いた。ミカから見たナギサの印象、なぜナギサは必死になってトリニティの裏切り者を探し出そうとするのか、そしてミカはナギサの言う''裏切り者''にあたる存在であるといったことであった。

 

 それらの話を聞いたフォードはこう返す。

 

 「ああ、わかったよ。君はとにかく、アリウスと和解がしたいんだな?で、そのためにアズサを守る必要があると。彼女を守るかどうかは俺たちの判断で決める。これでいいな?」

 

 フォードがやや強引にまとめるとミカは何か伝えようとする。

 

 「......最後に、ナギちゃんは補習授業部の中に裏切り者がいるという確定路線になっているから.....気を付けてね。」

 

 「....どうせ俺たちに話していることは、全て先生にも伝えられているのだろう?」

 

 「そうだけど....一応、先生とあなた達のような大人にしかあの子を守れないと思うから....。」

 

 「わかったよ。過度な期待はよしてくれ。」

 

 フォードはそう伝えるとミカとの話しを打ち切り、彼らはすぐに合宿所に帰るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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