Blue Archive:Task Force 作:タクティカルおじさん
<20██年初夏>
フォード 特殊戦開発グループ 大尉
トリニティ総合学園/合宿所の一室
「.....で、朝の賭けのビールはいつ奢ってもらえるんですか?」
まるで子供のおねだりのようにビールを要求しているのはピアーズである。そして、今朝の賭けに負けてしまった張本人であるフォードはというと。
「えぇ....今?確かに、もう夜だが....。」
「何か問題でもあるんですか?ないなら奢ってくださいよ~~。」
「問題だらけすぎるぞ?」
そう今回、賭けたビールを奢るには実はいくつかの問題がある。まず、学園都市キヴォトスにビールなどの酒類を販売している店はあるのかという点。ここ、キヴォトスでは未成年の煙草の喫煙や飲酒が生徒たちには禁止されている上、酒が購入できたとしてもまともにキヴォトスの店を巡ったことすらない彼らは、購入できる場所すら分からないのだ。
余談だが生徒は酒類の入手を禁じられているため、どこかの美食研究会という名の実質テロリスト集団のリーダーがエタノールとぶどうジュースを混ぜて、ワインの代用品にしたこともある。
「....つまりだな、ビールを奢るにはここを抜け出すか早く任務を終えるかの二択しかない。」
「うーん.....抜け出しません?もしかしたら、美味い物も食べられるかもしれませんよ?」
「言われてみれば、そうだが....。」
ピアーズの言葉に惑われそうになるフォード。さらに、彼は誘おうとしてくる。
「あのクソッタレなMREよりはマシでしょう?それとも、MREの味が好きになってしまったのですか?」
MREは不味い。これはフォードも納得するどころか事実である。MREは近年においては改良され続けているものの、一般的な家庭料理の味や通常のレトルト食品と比べた場合は不味いと評価される食べ物だ。
あまりの不味さに、MREの略は こう言われている。
そのように言われているほどMREは不味い、不味過ぎるのだ。ただ、ゲヘナの給食部に所属するとある部員が作る生物兵器にやや近い料理よりは幾分かはマシかもしれないが....。
とにかく、彼らは合宿所に来てからMREしか食べておらず我慢の限界とでも言うべき時が来ていた。ピアーズの言う通り、他にも美味しいものを食べたいという欲求がフォードも出ていた。
「.....そうだな、今日ぐらいどこかに行くか。金は....経費で....いや、俺たちで払おうか。」
「じゃあ早速、行く準備をしましょう!」
「ああ。今日ぐらいは楽しむか。」
彼らはそうやり取りをすると、外出時に銃撃戦に巻き込まれても大丈夫なように装備を整え出発するのであった。
行き先はここから少し離れたトリニティの繁華街である。
<1時間後>
トリニティ自治区/繁華街・大通り
「おしゃれな街並みだな。」
「ええ、中世の街並み....ほどではありませんが綺麗ですね。」
彼らは繁華街の大通りを歩きながら会話していた。通りには様々な店....煌びやかな衣服を取り揃えた店、たくさんの可愛らしいぬいぐるみが棚に並べられている玩具店、女子高生を虜にしてしまう焼き菓子を売る店などが活気づいていた。
「....絶対こんなところにビールなんかないぞ。」
「いいえ、子供ビールならありますよ。多分。」
「じゃあ、それがいいのか?」
「嫌です。」
見た感じから大人向けの嗜好品を販売している店は、この美しい雰囲気が漂う繁華街にはないだろう。
「とりあえず、見て回りません?」
「了解だ。」
彼らは石造りの通りを歩く。時々、店に目をやるとガラス越しからトリニティの制服を着た生徒たちが、楽しそうに会話をしている様子が目に入る。
「楽しんでいるなぁ....羨ましい限りだ。」
「何か高校時代に悔やんだことでも?」
「いや、そんなことはないさ。」
そんな風に彼らはやり取りをしながら、街中を探索していると一つの店が目に入る。そして、その店の中には見たことのある姿の5人組がいた。
「ピアーズ、あのスイーツ店を見ろ。先生たちがいるぞ。」
「んん....?ほんとですね。何をしているのでしょうか?」
先生たち御一行は体格がかなりデカい正義実現委員と会話をしているようだった。そして、体格がデカい少女はどうやらパフェを三個食べているようであり、そのうち二個は既に空の器である。
「そういえば、先生は酒飲めるよな...。この辺にあるいい店を教えてもらうか。」
「じゃあ、教えてもらいに行きましょう。」
彼らは店に近付く。そして、ガラス張りのドアを押して中に入った。中に入ると、彼女たちがいる席に向かう。
「よう先生、何をしているんだ?」
フォードが先生に話しかけると一同は彼に視線を集中させ、先生は答える。
「あれ?奇遇だね。そっちこそ何をしているの?私たちは限定パフェを食べに来たつもりなんだけど。」
「なるほどな。お楽しみ中だったところすまないな、ここら辺に美味いビールが飲める店を探しているんだが.....何か知らないか?」
「うーん、特には....。」
「無いのですね....。」
ピアーズは少し声のトーンを落とし、がっかりした。きっと、上官から奢られるビールを楽しみにしていた分その反動でこうなったのだろう。
「あら?あなた達は....キヴォトス派遣隊の兵士ですよね...しかも、ティーパーティー直々に合宿所の警備を依頼された方たち....。」
正義実現委員の制服を着た彼女がフォードたちに問いかける。彼女は羽川ハスミ、正義実現委員会の副委員長である。
「なぜ、俺たちのことを知っている?」
「噂...とまではいきませんがそういった情報を耳にしたことがありますし、以前にあったシャーレ奪還作戦に私も参加していましたので。」
「噂ですか?どういったものが?」
ピアーズが尋ねる。
「はい。シャーレの奪還作戦の話も有名ですが、アビドスでカイザーPMCに攻撃を仕掛け、基地の兵力をほとんど壊滅状態に追い込んだことがシャーレの活躍に併せて広まっていますね。」
「ああ....あれか。」
「それと、去年の冬ぐらいにゲヘナ自治区で暴れていた多くの不良集団を叩きのめした、正体不明の武装勢力がキヴォトス派遣隊ではないか?とも最近になって噂されていました。」
そのハスミの話にハナコが割って入ってきた。もちろん、ハスミはそれを知っているようで二人はやり取りをする。
「ああ。あの話ですか、その噂の武装勢力はよく風紀委員会と衝突する集団や自分たちに攻撃する集団のみに攻撃をしていたらしいですね。」
「当時の生徒たちの間では遂に、反社と風紀委員会が手を組んだ────────というのが憶測で、広まっていたようですね。」
「ゲヘナ学園は大変だね。」
先生はその噂話にそう反応する中、フォードたちは黙っていた。そして、ハスミは再び話を始める。
「ああそうそう、まだトリニティの中でしか広まっていませんがあなた達二人は学園に入って、銃撃戦を起こして捕まったというのも。」
「学園内の規定を破ったのは申し訳なかった。ここで改めて、隊長として謝罪する。」
フォードは頭を下げて、ハスミに謝罪する。
「全然気にしなくていいですよ、あなた達は彼女を救おうとして破っただけのでしょうし。」
実際、あの時戦わなければ彼女はどうなっていたのかは分からない。でももし、あの時助けずに放置していたらどうなっていたか、彼女の身に何が起こるのか。それ以上はフォードは想像したくなかった。
''ヴヴヴヴ ''
突然、着信音が店内に響き渡る。
「....?こんな時間に、連絡?」
ハスミは不思議そうな雰囲気を醸し出しながら、スマホを取り出す。そして通話を始める。
「はい....イチカ?どうかしましたか?」
「ハスミ先輩、ちょっと問題が発生しちゃいまして。今どちらに?」
「問題.....?詳しく聞かせていただけますか?」
イチカと呼ばれる少女は何が起きているのかをスマホ越しに説明する。彼女曰く、どうやら学園の近郊にゲヘナ側の生徒4名が侵入し、様々な施設に対しての破壊活動のほか無差別な銃撃戦を行っているとのこと。そして、その生徒たちの狙いはゴールドマグロと呼ばれる希少種の強奪だとか。
どうやら正義実現委員会が交戦しようとしているのはテロリスト相当の集団だろう、とフォードは判断する。
「えーっと....どうやら正体はゲヘナのテロリスト集団''美食研究会''らしいっす。」
訂正、どうやら相手はテロリストのようだ。テロリスト相手なら、フォードが所属する部隊のDEVGRUが出番となる。つまり、フォードたちが協力すればこの銃撃戦は容易に解決できるに違いない。
そう判断した彼は、ピアーズと顔を見合わせる。見合わせた彼は小さく頷いた。彼も同じ考えのようだ。
イチカとの通話を終了した後ハスミにこう伝える。ただ彼らの部隊は秘匿されるべき存在、そのため言い換えて彼女に申し入れする。
「テロリスト相手なら、何回か戦ったことがある。協力させてくれないか?」
「....。」
突然、彼らから申し入れされた彼女は困惑する。しかし、少し思案する顔を見せた後話始める。
「....じゃあ、お願いします。あと皆さん、突然ですみませんが皆さんの力が必要です。お願いできますでしょうか?」
彼女は補習授業部一同に呼びかける。
「今はエデン条約を目前に控えて、色々と過敏な時期です。この問題が傍から見て『トリニティの正義実現委員会とゲヘナ間の衝突』と捉えられてしまうと、状況が不利になることは想像に難くありません。」
彼女は続けて。
「つまり、ここにいる皆さん....補習授業部とシャーレ....そしてキヴォトス派遣隊が一緒に解決してくださる.....そういう構図が望ましいのです。」
つまるところ政治的な理由を付けられたくないという理由から、このお願いを要求しているようだ。そして、皆は嫌がる様子もないため先生はこう言った。
「よし、じゃあ補習授業部一同出発。」
「久しぶりの戦闘だ。腕が鈍ってしまう前に戦えて嬉しいぜ。」
フォードがそう呟きながら店の外へ出るのであった。
<数十分後>
トリニティ自治区/学園・近郊
空に響き渡る爆発音や銃声を頼りに追跡。しばらく追跡していると遠くに光り輝く大きめの魚を抱えながら、話し合っている集団を発見することが出来た。
もしかしたらあの光り輝く魚はゴールドマグロで、集団は例の美食研究会だろう。
「先生、交戦の準備は出来ているか?あまり遮蔽物から出るなよ。」
フォードはそう伝えると、ピアーズと共に放置された車へと移動し盾代わりにする。車道に放置された車は数多く、銃撃戦の影響によるものだと察しが着いた。
距離は大体150m。気付かれていない。さらに接近する。そして彼らの後続からは補習授業部の生徒たちが近付いていた。
「君たちは俺たちから見て、左側の道路に展開。俺たちはこの真正面の道路を担当する。二方向からの射撃を仕掛けるぞ。相手は反撃できずに、あっという間にやられるだろうな。」
そう伝えると、彼女たちは律儀に移動した。配置が完了すると、フォードは先生と連絡を取る。
「先生、準備ができた。あとはそっちの合図で任せる。」
フォードはインカム越しにそう伝えると、ピアーズが話しかけてきた。
「さっさと終わらせて、ビール奢ってくださいね。」
「....私語は禁止だぜ?」
そして合図がやってくる。
「それじゃあ、戦闘開始!」
その先生の合図を皮切りに戦闘が始まった。最初に彼らの左手の道路にいる補習授業部から、発せられる連続した射撃音が聞こえる。そして、彼らもセミオートによる射撃を加え始める。
サプレッサーによる銃声と共に、肩に強い衝撃が叩きつけられると、マグ二ファイア越しから、狙いが定まっている先のターゲットに5.56mm弾は飛翔。
その弾丸は美食研の会長こと黒舘ハルナの胴体に向かい命中した。
しかし、たった一発では無力化が出来ないのは分かりきっていたので、再び撃ち込む。同様に、補習授業部からの射撃も加えられていた。
射撃を加えられている美食研はというと、二方向からの射撃により完全に混乱しているようだった。
しかし────────
「おい!あいつら、俺たちの射線が通らないところに隠れてしまったぞ!」
たまたま美食研が集合していた場所にはコンクリートブロックが複数あり、それはフォードたちの射線を完璧に遮る遮蔽物としては最適であった。そのため隠れられてしまい、射撃を加えるのが不可能と化した。
その出来事と同時にインカム越しにヒフミとアズサの声が聞こえてきた。
「あわわ....こっち側にたくさんの銃弾が飛んできます!」
「問題ない。撃ち返すだけだ。」
彼女らはそう言っているが、連続した銃声が美食研がいる方向からも聞こえ始めた。フォードたちがいる方向からの射撃は不可能な状態であったため、美食研は熾烈な射撃を加えられているのは間違いなさそうだ。
「ねぇ、
コハルの声が、地面に銃弾が命中した時に発生する甲高い音と共に聞こえる。どうやら、相手の機関銃手を先に倒す必要があるみたいだ。
「先生、スモークを補習授業部の前方に炊いてくれるようにハナコに指示を。俺たちは背後から攻め込む。」
フォードがそう伝えると、ピアーズと共に前進。しばらく20メートルほど進むと、スモークが着弾。次第にスモークの発生規模が拡大し、あっという間に補習授業部の姿を隠した。
「補習授業部、聞こえるか?気を逸らしているうちに下がれ。あとは俺たちに任せろ。」
そう伝えるとピアーズは美食研がいるであろう方向に銃口を向け、フォードはハイレディと呼ばれる銃口を上に向ける待機姿勢に移行。
そしてピアーズを先頭に、フォードはその待機姿勢のまま前に位置する彼の右肩を左手で掴みながら前進し始める。
しばらく前に進むと美食研との背後を取り、距離は50メートルほどまで距離を詰めることができた。
「先にガンナーをやれ。」
フォードがピアーズに伝えると先ほどまで、彼女らに射撃を加えていたイズミに彼は狙いを定める。そして、引き金を何回か絞った。
「うわっ!?」
数発にわたるセミオートによる射撃は正確に命中し、機関銃手であるイズミを無力化した。もちろん、突然イズミがあっけない声を出して倒れたことに他の美食研のメンバーは動揺し始める。
そして倒れこんだ彼女を除いた面子は行動不能となった彼女を置いてその場から離れようとする。
しかし、彼らは攻撃の手を緩めなかった。ピアーズは立射からニーリングによる射撃に切り替えると、フォードは彼の右肩から左手を離しての射撃をし始めた。逃げようとする彼女たちに数発もの銃弾が襲いかかる。
「どこから攻撃されているのか分かりませんが、逃げるしかありませんね。」
「んんんんーーーーーっ!!」
サプレッサーの音は意外と大きいのだが、彼女たちは逃げようと必死になっているのであろうか、しこたま撃ち込んでいるこちら側に全く気付かない。
肩に強い衝撃が何回か叩くと、美食研の擲弾兵らしき
あとは首謀者のハルナと、赤髪で低身長の生徒であるジュンコ。それとどこかに隠れていたのかエプロンを着用し、まるで人質かの扱いを受けているように口がガムテープで抑えられている生徒のみとなった。
そしてフォードは残弾がいくらあるのか知る為に、マガジンに取り付けられている透明な窓を覗く。窓を覗くと、バネが伸びておりそれは残弾が残り僅かであることを示していた。
「リロードする。」
確認し終えたフォードはピアーズにそう伝え、予備弾倉が収められているポーチから新しいマガジンを取り出し、古いマガジンと素早く交換。
古いマガジンは空となったポーチへと収められた。
こうしてリロードを行なっている間はしっかりとピアーズは射撃をしていたが、命中しても無力化させることはできずに、二人の距離がだんだん遠くなる。
そしてフォードと入れ替わりでピアーズがリロードを行おうとしたところ、不運にも逃走中の彼女たちが彼らの視界から消えてしまった。
「ああ、クソ!見失った!!!」
フォードが悪態を突くが、すぐさま彼は先生へと連絡する。
「こちらフォード。先生!あの二人に逃げられてしまった!方位は.....。」
インカム越しに少々、声を荒げながらフォードは報告すると先生からの返答が来る。
「今、追っているところ。」
「え?」
「さっき、後退させたでしょ?あの時に、実は美食研が逃げるかもしれない方向へと先回りさせたの。」
「.....了解、俺たちは無力化した二人を確保する。あとは頼んだ。」
先生から突然、逃げられた方向へと先回りさせたという報告はフォードは驚いた。彼はこのまま取り逃してしまうことを恐れていたが、先生のおかげでなんとかなりそうだ。
彼はこの作戦の後、ピアーズと先生の2人にビールを奢ってやろうかと想像したが、今のやるべきことを思い出して目的を達成しようとする。
彼らは倒れたイズミとアカリに銃を向けながら近付く。そして、腰のベルトに取り付けられたポーチから白いプラスティック製のハンドカフを取り出すと、もし意識が復活した時に逃走されるのを防ぐために彼女たちの両手と両足それぞれに掛けた。
そして確保したことを報告する。
「フォードだ、二人確保。そっちは?」
「こっちもちょうど二人捕まえたところ。あとゲヘナの給食部の子と一緒連れ回されていたみたいだから、これで三人。」
「....給食部?とにかく、合流して彼女たちを正義実現委員会に引き渡すぞ。」
彼はそう伝えて、通信を終了したのだった。
「それでこの魚どうします?」
ピアーズは地面に放置されているゴールドマグロを見つめながら、尋ねる。
「...そうだ。肴にして食べてしまうのはどうだ?」
フォードがそう提案するとピアーズはこう返した。
「魚を肴にですか?」
海軍特殊戦開発グループ(Naval Special Warfare Development Group)
通称:DEVGRU 別名:SEAL Team6
部隊特性:対テロ特殊部隊
説明:海軍特殊部隊(Navy SEALs)から独立した特殊部隊。現役のSEALs隊員から選抜されるため、精鋭中の精鋭が部隊に集まる。なお公ではこの部隊の存在が認められておらず、秘匿され続けている。
キヴォトスにおいては一個小隊(50人)が派遣されており、アルファチームとブラボーチームに分けられている。余談だが、一部の噂ではゲヘナ自治区においてのとある出来事がDEVGRUの関与を疑われている。しかし、その噂の真相は定かではない上、公式見解としては否定されている。