Blue Archive:Task Force 作:タクティカルおじさん
<20██年夏>
フォード 特殊戦開発グループ 大尉
トリニティ総合学園/屋内射撃場
「....いい腕になったものだ。」
フォードは的に命中した弾痕を眺めながらそう呟く。弾痕は人型の的の胴体部分に対して集中しており、正確な射撃が加えられていることがわかる。
「最初の頃よりはだいぶマシになったな。こんな短期間で上手くなるものか?」
「ちゃんと練習をしているから....でしょうか?」
彼の問いに対して、的に弾痕を付けた張本人であるツバサが答える。
「どのくらいだ?」
「....夏休みが始まってからほぼ一日中です。」
「....今なんと?」
フォードは耳を疑い、聞き返すが。
「一日中ですよ。」
「....。」
彼女は気が狂ったとでも言うべきだろうか。ツバサは夏休みに入った日から、丸一日籠って練習に励んでいるのだと言うのだ。やはり彼女の自分自身を変えたいという思いはかなり強いのだろう。
「銃の扱い以外にもルームクリアリングやら教えているが、ちゃんと覚えているもんな。よく、頑張っているな。」
「そう言われると....少し嬉しいです。」
彼女は明るい顔を見せる。ツバサはフォードが居ないときですら練習に励んでいるのだ。その努力が実り、そして褒められるということはさぞかし嬉しいことに違いない。
だが彼は一つあることを気にする。
「....楽しいか?」
「?」
彼女はきょとんとした顔を見せた後に。
「楽しいと思います。こうやって充実した時間が過ごせるわけですし。」
「いや、もっと学生らしいことをしないのか?」
学生らしいこと。夏休みといえば大概、海へ行ったりするものだが彼女がこうやって練習に励んでいる限り''遊び''ということを体験できないはずだ。
単純にフォードはツバサが学生らしいことが出来ていないのでは無いかと心配しているのだ。
「とりあえずだ、実は先生から明後日に海へ行くことを誘われているんだ。」
「そうなのですね、楽しんできて────」
「いや、君も来ないか?せっかくアズサもいるから、以前言っていたことをちゃんと果たせるかもしれないチャンスでもある。」
「!!!」
ツバサはフォードの言っている意味が分かったようだ。もちろん、その言葉にすぐ反応し彼女はこう返した。
「私も行きます!!絶対にですよ!?」
急に勢いがある発言だっため彼は少し困惑しながら。
「わ、わかった。」
とにかくこうして彼らは海へ行くこととなったのだった──────……
<20██年夏>
フォード 特殊戦開発グループ 大尉
無為ヶ浜
「ったく、どうして不良に襲われるんだ?俺たちは海への戦闘に来たわけじゃないんだぜ?」
フォードは愚痴を呟きながら、自身のMk.18のマガジンを交換する。それもそのはず、先ほどビーチを縄張りとしている不良たちの戦闘に巻き込まれたからだ。
「あはは....とりあえず追い払えましたし....。」
「次またやってきたら叩きのめす。」
「きひひっ!!」
「ツルギ先輩がいるにも関わらず戦おうとしてくるとは...。」
少女たちはしばらくやり取りをしているがその中にツバサの姿を見当たらない。フォードはそのことに気付いた。
「あれ?ツバサさんはどこに?」
しかしどうやらヒフミも気付いたようで、フォードがそのことを伝える前に彼女が口を開いたのだった。
「さっきの戦闘には参加していたはずなのですが.....どちらに?」
マシロはそう口にしながら周囲を見渡す。周囲には海の家や不良以外の人の姿が見えるが、ツバサらしき姿の人物はいない。
「ヒフミ、あれじゃないか?」
「ん-?あれは....。」
アズサがヒフミに呼び掛けながらある方向に指を差した。なおそのことはフォードも気付き、一緒にその方向へと振り向く。
「楽しんでいるな。いつの間に遊んでいたんだ?」
「ツルギ先輩があの様子を見て、羨ましがっていませんか?」
そう言われてツルギの様子を見ると、まるでヤクでもキメたかのような物凄い形相をしていた。
ツルギも同じく、あまりこういった学生らしいことをしたことがないからかツバサの楽しんでいる姿を見て、嫉妬心みたいなものを抱いたに違いない。
「きぇぇぇぇぇぇっ!!」
ツルギはそう雄たけびを上げながら、青く透き通った海へと突撃していくのだった。なお彼女は泳げずに、浅瀬でおぼれかけるという奇妙な事件が起きたのは内緒だ。
<数時間後>
時折、不良たちが再び戦闘を仕掛けてきたことがあったが全てを払いのけつつ皆で遊んでいるのだった。たった一人の大人を除いて。
「久しぶりの休暇は最高だ。たまにのんびりしたいものだ。」
その男はそう呟きながらパラソールの中で皆が楽しんでいる姿を眺めていた。
その男は誰か、それは────
「フォードさんは、遊ばないのですか?」
「....休暇中にナンパはお断りだぜ。」
何を言おうか、フォードである。彼はジョークを交えながら、質問を投げかけてきた少女であるツバサに返す。
「それに....その服装って...水着じゃなくてただの短パンじゃないですか。しかもちゃんと防弾ベストにヘルメットまで....。」
フォードはいつものボディアーマーに、GPNVG-18を取り外したヘルメットを着用。そして一般的なTシャツに短パンといった姿である。
「海は楽しいが、泳ぐと疲れるから泳ぎたくないんだ。」
「そうですか....変わっていますね。」
「ああ。」
海に来たのに疲れるから泳がない。これほど身勝手なことがあるのだろうか?しかし、元々は先生からただ誘われただけでありしかもたった一日の休暇と日程が重なったため、彼は休暇を楽しむという選択をしたのだ。
「そういえば聞きたいことがあるのですが。」
「なんだ?」
彼は質問を投げかけようとするツバサの方へと振り向く。振り向くと学校指定の水着のスクール水着を彼女は着用しているのが見えた。
「以前助けてもらったときに居たもう一人の大人って...。」
「ああ、ピアーズのことか。あいつは今、本国に帰国したんだ。どうやらあいつの奥さんがまた妊娠したそうで、出産やらあるから戻ったんだ。」
「へぇ、そうなのですね。」
ツバサはピアーズを見かけない理由ついて知ることが出来たからか、納得した顔を見せる。
「あともう一つ聞いてもいいですか?」
「ご自由に。」
「どうしてあの日、トリニティに来たのですか?色々と自由に出入りしているから、気になって....。」
突然、そのことを尋ねられて彼は困惑するが出来る限り本当の目的を明かさないように、誤魔化しつつ説明する。
「上の命令で歴史的な資料が欲しかったんだ。それでトリニティの古書館に諜報任務として派遣されたんだ。とてつもないクソッタレな任務だぜ。」
「ふふっ、大変だったのですね。」
「ああ、そうだったさ。でもやっとその任務はほぼ終わりだ。エデン条約の調印式に合わせて、トリニティでの任務を終える予定だ。」
「調印式....あと3週間ほどでしょうか?短いようで長いような...。」
ツバサに銃の扱いやらを教えていないとき、フォードとピアーズたちはシスターフッドに接触し本来の任務の情報を入手しようと活動していたのだ。そしてそれがつい最近になって、目的の情報を文書として入手することが出来たのだ。
これによって彼らの任務は達成された。そのため彼らは撤退する期限が設けられたのだ。
撤退期限を迎えると、今までのように堂々と自由に出入りすることは不可能になってしまう。戦術を教える日々は二度と戻ってくることもないのだ。
「残された時間で私は変われたら....いいな。」
彼の隣でそうやってツバサは小声でつぶやいた。
「既に君は変わることが出来ているさ。最初は的に当てても、バラけていたが最近は同じ所に当てれている。それに、銃の扱い以外にも教えているが出来ているじゃないか。」
フォードがそうやって言葉をツバサに投げると、彼女は少し思案した後に。
「....それなら良かったです。でも...。」
「アズサに礼を伝えたいのだろ?君なら絶対できるよ。」
「....はい!頑張ってみますね。」
ツバサは笑顔を見せる。パラセールの中は光を通さないはずだが、彼女の笑顔は眩しく感じられた。
「じゃあ、私そろそろ戻りますね。」
「わかった、良いバカンスを。」
彼女は立ち上がり、遊びが繰り広げられている皆の元へと駆けていく。そして、彼女をまるで見守るかのようにフォードは眺めるのだった。
「アズサさん、あの言いたいことが....。」
「ツバサ、どうしたんだ?」
「その、改めてお礼を伝えたくて────────」
<夕方ごろ>
日は沈みつつある。黄金色の太陽の光が海の波に当たり、乱反射を引き起こす。その乱反射による光は眩しく、そして海を美しく着飾っていた。
「綺麗だ。」
フォードはその景色に感動し、ボディアーマーに取り付けられているポーチから彼のスマホを取り出す。そして取り出すと、その景色にカメラの照準を定めて写真を撮る。
「こっちの世界の景色はどうですか?」
不意に後ろからツバサに声を掛けられる。声を掛けられた彼は振り向き、その問いに答える。
「ああ、最高だぜ。」
「良ければ写真を見せてくれませんか?」
「もちろん。」
彼は彼女の頼みに応え、写真を見せる。
「写真で見てもやっぱり綺麗ですね...。忘れられない光景になりそうです。」
「....今日は楽しめたか?」
フォードはツバサに問いかけると彼女は即座に。
「そうですね。こうやって皆と遊ぶのも良かったと思います。」
彼女はそう答えながら海の方へと眺めていた。そしてフォードは一つ、あることについて尋ねたかったので尋ねる。
「どうして自分の口からアズサにお礼を伝えようと?」
「え?」
彼女はその質問が突拍子であったためか、少し唖然とした表情を見せた。少しの沈黙の後、彼女が答えた。
「わたしの言葉をわたしで表さないと駄目な気がするから...です。」
「別にマリーに頼んだのであったのなら、それでいい気がするのだが...。」
フォードにとってツバサ自身の口から告げるというのは正直、そこまでしなくてもいいだろうと思っていた。今になってそれを尋ねたのは、彼女の願いが叶ったからこそだ。
しかし、二人の考えは違うようでツバサは続けて。
「自分から言葉にしないとわたしの気持ちは相手に伝わらないと考えています。どれだけ素敵な言葉で、どれだけ他人に影響を与える言葉でも、わたしのその気持ちを伝える言葉は自ら表さないと伝わらない気がするんです。」
「なるほど。」
だから────と彼女は付けて。
「わたしはアズサさんに直接、その気持ちを伝えました。それが出来て本当に良かったです。」
ツバサはアズサに感謝を伝えられたのか嬉しそうな顔をフォードに見せた。彼女にとって長い間、願っていたことが実現できたのはさぞかし嬉しいに違いない。
そして彼女はフォードの顔を見つめて何か不思議そうに。
「どうかしましたか?」
「いや、何も。」
「何か悩んでいそうな顔をしていましたよね?」
「数週間前の嫌な記憶を思い出しただけだ。」
「どういったものですか?良ければ相談に乗りますよ?」
彼女は親身に尋ねてきたので、彼は説明してあげた。
数週間前の嫌な記憶。彼にとっての一つの後悔でもあるミカとのやり取り。
彼は彼女に最初からそのつもりではなかったが、人殺しの罪を着せてしまった。セイアは生きているにも関わらずにだ。そして、彼女にセイアが生きていることをまだ伝えていない。
フォードにとってあの時、本当はどう対処すればいいのか分からなかった。ただ一人の少女、彼女にとって大切でもある友人。そんな人を殺しかけたという過ちに対して、どう彼女を償わさせるのか。
彼の選択が間違ったものであると考え始めたのは戦闘から数時間経過した時だった。戦闘時に放出されていた興奮を促すアドレナリンが収まり、物事を冷静に考えれるようになったからか時間が経過するごとに自分の選択が正しいとは思えなくなってきた。
そして最終的にそれは間違ったものであると彼は判断した。しかし、その判断を踏まえてその後はどうするべきなのか。大人として、一人の兵士としてどう彼女に何をしてあげたら良いのか。それが思いつくことは今までなかった。
ただ
──────「なるほど。今日までにそんなことが...。うーん何か良い解決策は....。」
「いや、もう解決策は必要ない。」
「え?」
解決策を考えようとするツバサはその言葉にぽかーんとした顔を見せる。
「君のさっきの話があっただろ?あの話を聞いて、どう解決するべきか決心がついた。感謝する。」
「え、えぇ...。でも解決できたのなら良かったです。」
彼女は突然、感謝されたことに戸惑ったが彼の悩みの解決策を見いだせたことに安堵する。
自分の気持ちを伝えるには自分で表すしかない──────。
ミカにセイアが生きていることも、存在しない罪を着せてしまったことにも。そして、謝罪するには自らの言葉で彼女に伝えてあげないといけないと、彼は感じた。
そう遠くないうちに彼女に会おうと彼は決めるのであった。
「あっ。空が。」
「どうした?」
不意にツバサが空について言及しようとしたので、彼も空について目を向ける。
「綺麗です。」
「ああ。」
黄金色の太陽は完全に水平線よりも下の世界へと沈み込み、僅かな光が暗黒に包まれた海を照らす。空は太陽が沈んだせいで辺りはほぼ暗くなっていた。
しかしその空には大きな音と共に花火が連続的に、広がっていた。向かいの浜辺から打ち上げているのだろうか?
「あと三週間でしたっけ。」
「何が?」
彼はその言葉の意図が分からなかったため、聞き返す。
「撤退期限です。」
「....もっと戦術を叩き込んであげるつもりだ。安心していいぞ。」
彼は冗談交じりに笑いながらそう伝えると、彼女もまた笑いながら。
「ええ。」
残された時間はそれまで長くはない。
彼女が本当に変われるように、フォードは少しでもあの子が広大な空に飛び立つことができる
彼はそう思いながら花火を眺めるのであった。
人物紹介
名前:フォード
所属:DEVGRU ブラボーチーム隊長
階級:大尉
詳細:元LAPDのSWATチーム所属。軍への入隊を勧められ、入隊。さらにその後、DEVGRUに入隊した。
使用銃器:Mk18 MP17
服装:タンカラーのFASTヘルメットにGPNVG-18を装着。ベストはマルチカム迷彩が施されたJPC2.0を着用している。
基本的に私服と上記の装備で任務に従事していることが多い。本格的な戦闘任務に就く場合はコンバットシャツなどを着ている。