Blue Archive:Task Force 作:タクティカルおじさん
<20██年秋/16:25>
バンダーマン 特殊戦開発グループ 大尉
トリニティ自治区・外郭の大橋 移動中
何両にも連なった様々な車両がゲヘナ自治区からトリニティ自治区に向かっている。その車両隊の先頭車両にバンダーマンは乗車していた。
車両隊を構成しているのは、そこらの一般車両と何ら変哲もない黒色の塗装がなされたSUVやオートバイクなどであった。
そもそもキヴォトスにおいて、彼らがこういった一般的な車両を使うのにはいくつもの理由があった。
まず一つ目は、軍用車より小型で目立つことがないという点。軍用車は大抵は装甲化されており、小銃弾程度の銃撃なら防ぐことが出来るがその分機動力が失われる。また、軍用車は明らかに一般的な車両の見た目と違うため比較的に敵味方ともに安易に区別がつき、隠密作戦で使うのには適していない。
もう一つの理由としては、学園都市という特徴。文字通り、キヴォトスは市街地が比較的多く大型の軍用車の走行には適していない道路や重量制限により使用できない道路などがある。それならば、一般的な車両を使うことで重量制限等の制約を避けようという発想に至ったわけである。
なお、それにより小銃弾を防ぐ手立てがないため銃撃戦に巻き込まれたらかなり危ういのである....が、特殊部隊の彼らはそもそも正面衝突をするような作戦に投入されることは基本ないため結果的には大丈夫なのだ。
「一号車より、全車へ。この大橋を越えたらもうすぐトリニティ自治区だ。気を付けろ。」
バンダーマンは車内に取り付けられている無線機から、隊員に通信を入れる。バンダーマンは助手席に乗車しており、運転席の右隣である助手席から外の景色を眺めていた。
外の景色を眺めていると次第に、視界が捉えている世界が減速しているように見えた。そして、それと同時に口の中から銅の味を感じ始めた。
これらの現象が彼の身に起きたのは、アドレナリンが分泌されている証拠である。
そうして、車両隊は何事もなく大橋を通過したところだった。しばらく道なりに進んでいると次第に放置された車両が増え、車両隊の通行を妨害するようになってきた。
「大尉、これ以上進めません。」
一号車の運転を担当する隊員がそう伝えるとバンダーマンは即座に。
「
彼はそう伝えるとHK416と共に、車外に出る。古聖堂までの距離はそこまで遠くはない。徒歩で向かったとしたら、およそ40分少しで着くだろう。
「FTゴルフは車両が違反切符を取られないようにここで待機。ドローンからの偵察でFTエコーとデルタを作戦通りに援護しろ。」
バンダーマンはそうやって隊員に適宜命令を伝えていくと、FTゴルフに属する隊員はSUVのトランクからRQ-16と呼ばれるドローンを取り出す。
RQ-16は垂直離陸が可能な無人偵察機だ。また人が携行可能な大きさ、重量であることから今回のような作戦以外にも投入されてきた兵器だ。
バックパックに通信機などを背負っている隊員がドローンの離陸準備を終わらせると、ドローンは離陸していく。
そして灰色の空に向かって、ある程度の高度まで上昇したところでドローンは古聖堂がある方へと向かった。
ドローンを操作する隊員は端末越しに地上の様子を確認する。端末から映し出される映像は白と黒のみだ。しかし、これはレトロチックな白黒映像ではない、モダンな赤外線カメラである。
「状況は?」
バンダーマンはドローンを操作する隊員に尋ねた。
「トリニティとゲヘナの部隊が衝突している。酷い状況だ。」
隊員はそう報告しながら、ドローンを使い索敵を行う。
「....大破した車両を確認。きっとフォード大尉たちはこの周辺だ。」
白色に強調表示された車両はセナの緊急車両11号であった。バンダーマンたちが事前に掴んでいた情報の通りであれば、近くの建物にいるはず。
「もっと探せ。」
バンダーマンがそう伝え、ドローンを操作していた隊員がさらに偵察を行おうとしたときだった。
''NO SIGNAL''
操作する端末に突如、そのように表示された。これが意味することはただ一つ。ドローンが撃墜されたか、はたまたは端末との通信を何かの手段によって妨害されたと考えるのが妥当だろう。
「はぁ...最悪だ。正確な状況が掴めないじゃないか。」
バンダーマンは愚痴を吐いた。確かに彼の言う通りで、リアルタイムで敵味方の位置を把握できないのは戦略上不利である。戦闘において情報は戦局を左右するのだ。
今回の作戦は悪天候により、ナイトストーカーズは投入されない。基本的にDEVGRUが行う作戦にはナイトストーカーズが投入されるが、今回のように投入されないのはあり得ないことである。
しかし、墜落の危険が高いと予想されるなかで投入しない判断を下すことは流石に致し方ないことである。ただ彼らはそんな状況のなかでも、この救出作戦を遂行せねばならない。
「FTエコー、デルタはこのまま古聖堂の付近まで一気に前進。極力、発砲は控えておけ。酷い雨が降る前に見つけるぞ。」
バンダーマンはそう命令しながら、古聖堂の方へ部隊を率いていくのだった。
<20██年秋/16:25>
フォード 特殊戦開発グループ 大尉
ビル内・敵地にて孤立中
────────「少なくとも、
フォードはそのうち、再び戦うことになるであろうアリウススクワッドの編成を分析していた。そして彼は続けて。
「ヒナはこの建物から10メートル先の装甲車の近くに倒れているはずだ。だが...外の様子の通り....。」
キリノたちはこのビルの唯一の出入り口である、かなり堅牢な構造をした両開きの扉に取り付けられている小窓から外を眺める。
すると、一面には大量の異形たちが包囲しているのが目に映るのであった。
「「「.....。」」」
あまりの多さからか、彼女たちは閉口した。
「...ここで敵は俺たちのことを殺すつもりだろう。」
「あまりにも無茶すぎませんか?命を捨てるようなことをしてまで....。」
キリノはフォードが言っていることに驚いた表情をしながら尋ねると、彼は答える。
「俺は.....仲間を救うためなら命を懸けることはできる。嘘じゃない、本当だ。」
「....英雄気取りってやつ?」
フブキは笑いながら呟いた。
「英雄?俺は少なくとも英雄になるために戦うつもりはない。仲間のために戦ってきた。今までも。」
「.....。」
「それで君たちは結局、ヒナを助けることに協力するのか?......迷っているのなら、俺一人でやるぞ。」
ただの脅し文句と捉えてもおかしくないフォードの言動。それは彼がこれから実行するであろう出来事に対する決意であり、覚悟だった。
キリノとフブキたちはそんな状況からか、以前の前向きな雰囲気とは打って変わって、沈黙していた。
そして彼女たちは二人でひそひそと話し合ってから、結論を下した。
「....私たちも....協力します。....今は、市民はいません。ですが、市民を守る警察官であるからこそ仲間を見捨てるなんてことは....私たちにも出来ません。」
キリノは続けて。
「仲間のために私たちも戦います。」
「...あたしはお礼にドーナッツを奢ってくれたら嬉しいな。」
フブキは突拍子にそんなことを呟いた。なお、それにフォードは反応を示し。
「ああ、奢ってやるさ。無事に誰も死ななかったらな。」
「意外と冗談が好きだったりする?」
「皮肉なことにな。」
フブキとフォードたちはそうやって言葉を交わした。なお彼にとって、彼女とは気が合いそうな感覚がしたのは言うまでもなかった。
それはさておき。
ヒナを助けるためにキリノ、フブキ、フォードによる作戦を計画する必要がある。その計画においてまず、大量の異形どもを排除することが第一の目標となる。
今ここには圧倒的な火力優位を立てることが出来るMG42や、ミニガンはない。ここにはあとマガジンが6本のMk.18と、同口径のAC556。そして、火力という点では微妙な.38スペシャルの弾薬を使うS&W M360。
これらの銃器を駆使してどうにかせねばならない。
まずキリノの銃を火力という点では、それよりも優れているフォードのサイドアームであるMP17に持ち替えさせるべきかもしれない。
そんなことを考えたフォードはMP17に持ち替えさせる前に、当の使用者であるキリノに対して射撃の腕前について尋ねようとする。
「キリノ、君の射撃の腕前は?」
「....え、えーとですね。」
尋ねられたキリノは慌てふためく。そんな様子をすぐ隣で眺めていたフブキが、フォードの質問に答えた。
「人質ヘッドショット。」
「は?もう一度。」
先ほどの言葉はフォードの鼓膜から鼓膜へと通ったような気がした。きっと聞き間違いに違いない。
「訓練中に人質の的にヘッドショットしていたんだよね~。」
「え、えぇ...。」
あまりにも酷すぎる射撃の腕前に彼はドン引きした。なお、当の本人であるキリノはというと。
「この銃が悪いんですから!!私の腕は悪くありません!!!」
彼女は完全に開き直っていた。これが将来、警察官になるであろう生徒なのだろうか。
フォードはキヴォトスに住んでいる訳ではないが、将来的なキヴォトスの治安について考えると頭が痛くなるものであった。
とにかく、射撃の腕が悪い明確な理由は不明であるが反動制御等が出来ない可能性等も考慮すれば、MP17に持ち替えさせても扱うことが出来ない可能性がある。
結局のところ、キリノのM360を持ち替えさせるという考えは無しになった。
次はフブキが使用するAC556。同口径であるMk.18と比べればやや時代遅れではあるものの、5.56mm弾という軍用の小口径高速弾を扱えるため火力はキリノよりもあるはずだ。
それに加えて、同口径であるという点からフォードとフブキの間では弾薬の補給が可能となる。つまるところ、まともな火力を提供することが可能であるのはフブキとフォードぐらいだ。
対して敵の数は多い上、あの四人組と対峙する必要がある。あまりにも火力が不足している。
フォードはこういう状況だからこそ、AC-130や
無線機が使えなくなったからだ。いくら周波数を切り替えてもノイズが流れるのみであり、キリノやフブキたちも同じ状況であった。これが意味することはおそらく、通信が妨害されている。
「周りにいる奴らは全て敵...。」
彼は考えつつも言葉に漏らして、唯一外の状況を確認することが出来る扉の方へと近づいた。すると、外の様子を確認した。
この扉より10メートルほど離れたところにヒナが倒れこんでいる。そして、相変わらず大量の異形たちがいつでも襲ってきやがれという具合に、待ち構えていた。
そんな周囲の状況であったが、彼はある物を発見した。
一丁の汎用機関銃。ヴァルキューレの装甲車に取り付けられていたM240らしきシルエットをした銃のことである。銃座は装甲化されており、キヴォトス派遣隊が使用しているOGPKと同じようであった。
残弾はいくらあるのかは分からないが、使えるのであれば火力は十分。この状況を脱することが出来るに違いない。
「キリノ、フブキ来てくれ。」
フォードは彼女たちを呼び出し、これからヒナを救うための作戦について話した。
まずヴァルキューレの装甲車まで近付いて、倒れているヒナを装甲車に乗せる。そして、彼らのうち一人が銃座を使って敵を排除している間に負傷者のアコを乗せる。
全員を乗せたら装甲車を運転して、トリニティ学園かゲヘナ自治区まで逃げるといったものだ。
「なるほど...名案ですね。」
「あたしもいい作戦だと思うよ。」
二人は同意した。なおアコはその様子を眺めているようであった。きっと彼女にも、これから何が起こるのかということが伝わったはずだ。
「準備は出来たな?仲間を助けに行くぞ。」
フォードはそう告げると、頑丈な扉に近付き──────
────ついに彼らの反撃と仲間の救出が始まろうとしていた。