Blue Archive:Task Force 作:タクティカルおじさん
<調印式まで30日前>
ソフィア 中央情報局 CIA分析官
アメリカ合衆国・秘密施設
「はぁっ、はぁっっ!!」
苦しい少女の喘ぎ声がコンクリート製の壁に反響して、施設内に響く。
「俺たちの国を襲った張本人...ベアトリーチェの居場所を教えろ。」
屈強な筋肉の上にタンクトップを着用している元陸軍所属の彼は、冷酷に彼女に向けてそう告げる。しかしながら、先程まで水責めを受けていた彼女は新鮮な空気を取り入れるために、呼吸を試みようとした。
「.....息を吸う暇があったら教えろって言ってるだろ!?」
一向に答える様子がない彼女に対して、彼は怒鳴りつけると再び彼女の口に濡れた布を被せ、そこからちょっとずつ水を垂らした。これはCIAで考案された尋問方法だ。
この尋問は至って単純で、対象者が呼吸できないようにするものだ。濡れた布を口と耳元に被せられるだけで、随分呼吸がしにくくなる。そこで更に水を与えてやることで、全くもって息が出来なくなってしまう。この尋問を耐えた人間は私が知る限り誰もいない。念のために言及しておくが、これは立派な尋問であり拷問ではないということを分かって欲しい。
そして尋問を行っている彼はそれを既に彼女達に対して、数十回も行っている。側から見れば、子供に対して拷問を行う凶悪な犯罪者に違いない。
「ん"────!!ん""ん"""──────!!!」
──────数ヶ月前に、ニューヨークに現れたテロリストと同じ格好をしていた彼女らはキヴォトスで捕縛され、尋問の為に現在はアメリカに輸送された。どうやらキヴォトスでトリニティという学校に襲撃をしたらしく、その際の部隊から引き抜かれた数人が捕虜として扱われている。
そしてその捕虜数人を尋問に掛けた結果として、『ベアトリーチェ』という人物がアリウスという組織の司令官であるという情報まで掴めていた。
しかしそれでも彼女たちとのテロ戦争を終戦させることが出来ないため、捕虜解放の見通しは全く立っていない。
「し、死んじゃ──うから!!」
「吐く気にはなったか?最後にベアトリーチェを見たのはどこで、いつだ?」
彼は水を垂らすのを止める。それから伺ったが、望む返事は一切来る様子はない。しかし、それが彼の堪忍袋の緒を切らせてしまった。
「ふざけるな!!」
「っ!?」
彼は彼女の顔に右手で強い平手打ちを喰らわせた。もちろんその様子を遠くから見ていた私は、驚いたのと同時に流石に止めに入る。
「やめなさい、マイク。」
「...すまない。」
「どうやらあなたは一旦冷静になるべきようだね。ほら彼女の顔を見なさい。」
彼女の右頬には赤く染まっている平手打ちの跡が残っていた。流石、退役軍人といったところであろうか。力は一切衰えてなさそうだ。しかし、平手打ちが招いたことは彼女を気絶させてしまったことだ。
これでは尋問にならない。
「....目を覚ましたら....私に伝えて。方法を変える。」
私はそう言い伝えると、コンクリートに覆われている薄暗い部屋から退出した。
<調印式まで28日前>
ソフィア 中央情報局 CIA分析官
アメリカ合衆国 某州・CIA秘密基地
CIAが保有する秘密基地の屋外では、私とマイクの二人が捕虜である彼女に食事と共にある試みをしていた。
「それで君は────俺たちに情報を教えてくれたんだ。そのおかげで沢山の命を救ったんだ。」
「....。」
「さぁ、もっと食べたらどうだ?」
マイクは尋問を掛けている際の姿とは裏腹に、今度は優しく接していた。実はこの対応も予め決めておいたものであり、芝居だ。もちろん尋問を受けていた可哀そうな彼女は意識を失っていたため、先日のことは覚えていないはずだ。
私たちはそれを利用して、彼女を騙すことを試みていた。ストーリーは単純明快。彼女が私達に対してテロ攻撃の詳細な計画を知らせてくれたことで、多くの人々の命を救ったこと。そのお礼に、御馳走を与えてあげる────という流れだ。
「先日はすまない....だけど君のおかげで沢山の命を救えたんだ。これ以上の感謝はない。」
「.....はい。」
少女は顔を俯きながら、目の前にあるハンバーガーとフライドポテトの皿からハンバーガーを手に取り、大きな口を開いて咀嚼した。彼女自身、この状況に困惑している中での食事は中々進まないだろう。しかしこれは私達にとっては、重要な機会である。
「俺はそのバーガーが好きでな....本当のお気に入りなんだ。キヴォトスから来た君も、きっと気に入ると思うぜ。」
「....。」
彼女は食べながらコクコクと頷いてくれたところで、彼は本題に入ることにした。
「さて、本当に申し訳ないのだが.....もっと俺達に情報を教えてくれないか?そう....例えば君の組織について、とか...。」
「...ベアトリーチェ。」
彼女は本来ならばアリウスの生徒会長ではないはずの名前をボソッと俯きながら呟いた。このまま上手くいけば潜伏先まで聞き出せそうな雰囲気だ。
「続けてくれ。」
「...ティーパーティーのナギサに襲撃するように命令されたのはマダムで間違いありません。そしてこのアメリカ合衆国に襲撃をしたのも彼女の命令です...。」
「なるほど。そのマダムの居場所について教えてくれないか?」
マイクが彼女にそう質問すると、彼女は両手で持っていたハンバーガーを皿に置いて冷静に伝え始める。
「...マダムはアリウス自治区にいます。実はトリニティ自治区の地下に────────」
アリウス自治区という言葉はこの場にいた誰もが知らない地名であり、私たちの興味を強く引き付けたのだった。
<調印式まで21日前>
ソフィア 中央情報局 CIA分析官
キヴォトス ウトナピシュティム空軍基地
トリニティを襲撃した小隊長である彼女から入手した情報を得て、私たちCIA職員もキヴォトスに入った。ニューヨーク製の核攻撃にも耐えうる分厚い防護壁に守られた転送装置の向こう側は、今まではアメリカ軍関係者のみしか立ち入りが許されていなかった。
しかしCIA主導による今回のベアトリーチェの潜伏先を割り出す作戦にあたり、私たちCIA職員も許可が下りたのだった。そして私たちがキヴォトスに来る前に、ブリーフィングがあった。
そのブリーフィングではキヴォトスは数多くの女子高校生がおり、ロボットや獣人が言葉を交わすことが可能な世界であるという説明を受けている。もちろん私たちの母国よりも、銃社会が形成されているということも知っている。
そんな風に対テロ戦争が盛んに行われていた2000年代の米軍兵士が真っ青になるであろう紛争地帯がキヴォトスである。さて、私たちは唯一の安全地帯であるウトナピシュティム空軍基地の敷地内でまず同施設を警備してもらっている彼らに案内してもらう。
「どうも空軍警備隊の者です。これより指定の施設まで案内いたします。」
USAFと刻まれた腕章を左腕に、M4A1をスリング付きで携帯している彼が私たちCIA職員に向けてそう伝えると、私たちはついていく。移動の間、私は基地の外周に設置されている様々なオブジェクトを目に留めた。
長く連なる鉄条網に、高く積み重ねられたヘスコ防壁。そして複数の米軍兵士によって保護されている入場ゲートが存在していた。
「ここも、海外にある基地と同じ防備だな。」
元陸軍兵士でありイラク戦争などで派兵されたことがあるマイクはそう言った。そして彼は続けて。
「他の基地では自爆攻撃があったりしたが....ここでは流石に無いといいが....。」
基地に対しての自爆攻撃はアメリカ国外で発生することは少なくはない。しかし、いくらなんでも女子高生が多くいるこの世界で自爆攻撃をする物騒な子供なんていないだろうし、実行する気にもならないだろう。
私自身にそう言い聞かせているうちに、一つの施設に集められていた。その施設は、唯一キヴォトスに存在する米軍によって拘束された人々を収容するパルワン拘留所である。
パルワン拘留所では現在、アリウス分校に所属する生徒たちが集められている。そして囚人はティーパーティーを襲撃した部隊に構成されていた者たちである。
私たちCIAがここに来た理由は単純である。そう、情報収集だ。
「さぁ、仕事を始めましょう。」
私の上司であるアビゲイル主任は、独房棟に繋がっている鉄製の扉の前で私たちCIA職人、数十人にそう伝えた。アビゲイル主任は三児の母親でありながら現場で働いている。そして彼女は来月に結婚5周年を迎えるそうで、私はそのパーティーに招待されることも分かっている。
「はい。奴の居場所を突き止めてやります。」
私は心に留めてあるテロ攻撃の首謀者に対する執念を抱きながら、尋問の準備に移った。
なぜなら私にだって、家族が
「ソフィア、あなたはあのトリニティの生徒の尋問よ。」
アビゲイル主任がそう言いながら、尋問対象の個人情報や経歴を纏めたファイルを私に渡す。私の尋問対象の経歴はどうやら学園の生徒会に位置する役職であるティーパーティーに就いていたようだが、そのティーパーティー襲撃事件に加担していた生徒である。
私はそれらの情報を頭に叩き込みながら一人で、その生徒が収容されている独房へと向かった。
「...あれ~?こんな所に看守以外の人が来るんだ~?」
独房に到着すると、彼女はやや陽気な雰囲気で言葉を交わす。もちろん私はCIA分析官として話を始めることにした。
「ええ、私の名前はソフィア。あなたとお話をしに来たのよ。」
「...。」
彼女は、黙ってこちらに鋭い目つきを浴びせてきたものの口元は笑っていた。