Blue Archive:Task Force   作:タクティカルおじさん

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セイアちゃんが来たな!!


47:エデン条約編:Justice has been Done

<20██年秋/02:36>

アリウス自治区 海神の槍作戦

作戦開始から二時間半経過

 

 

 

 

 

 地下回廊から出ることが出来た彼らは、増援部隊がバシリカに接近される前に至聖所内まで移動することが出来た。ただ一つだけ問題があった。それはヘリの着陸地点を確保する必要があったことだ。

 

 少なくともアリウスの防衛部隊が集結するであろうバシリカの近くは、敵の砲火に晒されるのは目に見えており、無防備なヘリが降下するにはとても危険すぎる。したがって、彼らは安全にヘリが着陸できるような別の場所を確保するか、または現在地を死守するかのどちらかの選択が迫られた。

 

 しかしながら、たった一個小隊程度の戦力で一個大隊規模の敵と戦うのは明らかに分が悪い。たとえAC-130対地攻撃機から提供される近接航空支援があったとしても、これほどもの戦力差があれば彼らが優位に立つことは無理に等しいところだ。

 

 基本、戦いは数が多い方が有利なのだ。

 

 それを痛感していた彼らは、ここで着陸地点を死守するのではなく着陸地点を変更して、彼らもそこに移動するプランに変更することに決めた。そうすれば、一個大隊規模の敵との衝突を避けながらも、リスクを冒さずに基地に帰投することが出来るのだ。

 

 

 「プリンス5-1、こちらアルファ6-1。LZをポイントブラボーに変更してくれ、どうぞ」

 

 「アルファ6-1、こちらプリンス5-1。了解、プリンス隊の回収地点をポイントブラボーに設定する。おわり」

 

 

 バンダーマンはプリンス隊のリーダーと通信すると、ブリーフィングで予め決めておいた着陸地点に向かうことにした。だが突入時に破壊したバシリカ正面から行くとすれば、防衛部隊と遭遇することになる。

 フォードはこの儀式を実行していた部屋から、どうしたら辿り着けるのか思いつかなかった為、彼に尋ねた。

 

 

 「ここからどう向かうつもりだ?」

 

 「幸いにも()()()()がここにあったから行ける。そっちが戦っている間に、部屋を隅々クリアリングして損は無かったさ」

 

 「隠し通路...? 私の記憶じゃ無かったはず....」

 

 

 アリウス自治区の地形に詳しいサオリはバンダーマンの言っていることに対して、疑問を抱きながらも口にした。彼女でも知らないことがあったといったところだろうか。言い出した本人であるバンダーマンは磔台がある中央に向かい、さらにそれなりの大きさがあるレンガを地面から拾うと、そこから磔台の後方に位置するステンドグラスに向かって、軽くレンガをステンドグラスに投げつけた。

 

 すると強化ガラスでもないただのガラスは、あっさりと割れてしまった。そして即席の外に通じる()が出来た。どうやらここから着陸地点へ向かうつもりらしい。

 

 

 「俺はあいつの姿が嫌いなんだ」

 

 

 彼はそう軽口を叩くと、もう一度レンガを投げた。すると何十メートルにも及ぶ大きさを誇るベアトリーチェを模したステンドグラスは、盛大な音を立てながら完全に割れてしまった。しかしながら、やはり彼が突拍子にガラスを割るという行為に驚いていた者がほとんどだった。

 

 

 「さあ、行くぞ。俺たちには時間があまり残されていない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「プリンス5-1、こちらアルファ6-1。ポイントブラボーを確保した、ストロボが見えるのが俺たちだ。どうぞ」

 

 

 バシリカより一キロメートル近く離れた地点に着陸地点を設定し、安全を確保することが出来たバンダーマンはそう伝えた。するとプリンスリーダーはすぐさま答えてくれた。

 

 

 「アルファ6-1、こちらプリンス5-1。ストロボを確認、このまま着陸する」

 

 

 FASTヘルメットのマウントトップに取り付けてあるストロボライトは、暗視装置や赤外線画像越しで発光することが確認出来る代物だ。基本的には、夜間の特殊作戦などで目視ならば敵味方を識別することが困難であるが、ストロボによる等間隔の発光のおかげで識別が容易になるのである。

 

 

 

 その間、ステルス型ブラックホークは次第にレンガ造りの道路へと接近しつつあった。プリンス隊は4機からなるヘリコプター隊であるため、今まさに着陸しようとしているプリンス5-1以外の機体にも隊員を分乗せねばならない。

 

 そうなると搭乗から離陸までの時間が掛かってしまい、こちらと距離が離れている防衛部隊に近付かれてしまう可能性があった。だからそのような事態に陥らないように、バンダーマンは迅速に搭乗する順番を伝えることにした。

 

 

 「各自、()()と同じチームで搭乗せよ。着陸次第、アルファ6-1から搭乗開始」

 

 

 彼は無線でそう伝えてやると、プリンス5-1の機体はちょうど着陸したようだった。その為、デルタチームとベアトリーチェが収められた黒く不透明の死体袋と共に彼らが真っ先に搭乗した。彼らが素早く搭乗すると、すぐさま機体は離陸し他の機体であるプリンス5-2が着陸する。

 

 そのようにしてプリンス5-2が離陸しプリンス5-3がやってくるかと思われたが、後続の機体が先に着陸してしまい、他のアルファチームの隊員らが搭乗する番となる。しかしフォードが率いるゴールドチームはLZの安全確保の優先を建前にして、他のチームを先に行かせることにした。

 

 フォードがいつもやっていることと変わりなかった。

 

 そして遂にゴールドチームのみがその場に残されると、両手に白いプラスチック製のハンドカフが両手に掛けられていながら伸びているミカに対して皆で怯えながら、機体が来るのを待った。その間、彼らはいつ目覚めるのか分からない彼女に対して、抱いていた恐怖を口にしないように堪えていた。

 

 もし目の前で眠っている彼女が起きて、再び彼らに襲い掛かるかもしれない────これに対して気を抜くことは出来なかったからだ。しかしブラックホークのローター音が聞こえてくると、これ以上の懸念は和らいだ。そしてブラックホークが敵の銃火に晒された場合に備えて、彼らは再び銃を構えてLZに集合する。

 

 

 ────「周囲の建物にぶつけたら不味いな」

 

 「前の不時着の時よりも楽だろ?」

 

 「そういう話じゃない。俺たちは遅れてしまっている」

 

 「途中でエンジントラブルが起きたのは、俺のせいじゃない。整備班が悪い」

 

 

 レイとウォルコットの二人はコックピットで慎重に周囲の様子を伺いながらも、彼らは着陸が余裕であるかのように言葉を交わした。

 

 ブラックホークが着陸するとまず最初にミカと彼女の運び手が乗り込んで、続いてあとの全員が乗った。両舷のドアを閉めると次第にブラックホークは空に舞い上がり、ウトナピシュティム空軍基地に向けて飛び始めると、隊員たちは安堵し各々のヘルメットを外して、ローターの騒音を防ぐ目的でヘッドセットのみを着けたままになる。

 

 そうしてアリウス自治区から離脱し、基地に向かっている道中で遂に機内でミカが目を覚ましたようだった。だが彼女はテラー状態のように不気味なヘイローの形ではなく、いつもの状態だった。

 

 

 「ん...あれ? わたしはトリニティに居て....それにここは────」

 

 

 彼女は周囲の状況を確認しようと、一生懸命に首を捻らせて機内を見ていたところで、近くに居た隊員が目覚めたばかりの彼女に声を掛ける。

 

 

 「ここはヘリの中だ。暴れると目覚めの口付けを地面とする羽目になる」

 

 「えー? ヘリの音が大きすぎて聞こえない〜」

 

 

 声を掛けてあげた隊員はそう言われると、ブラックホークの備品であるヘッドセットを彼女の頭に着用させる。彼女は拘束されている為、代わりにそうしてあげたのだ。

 

 

 ────「トリニティのお嬢さん、ようこそプリンス53(フィフティー・スリー)便へ。当機では銃火器のご使用を禁止されておりますので、到着地に着き次第お近くの客室乗務員にお声がけください。

 なお当機は目的地まであと12分程です。引き続き空の旅をお楽しみ下さい」

 

 

 ウォルコットはミカがヘッドセットを着用したのを見た際に、タイミング良くジョークを飛ばした。だが機長であるレイは真剣に操縦桿を握って飛行しているので、お調子者の言葉に耳を貸す様子では無かったし、お咎めも無しのようだ。彼らにとってこれはいつもの光景なのだろう。

 

 

 「ところで....もしかして監獄に囚われた悲劇の姫を助けに来てくれた感じかな?」

 

 「(ネガティブ)だ」

 

 

 レイは事務連絡の要領ですぐさま彼女にそう伝えた。ただ彼女の様子から恐らく、テラー状態であると記憶があるようには思えなく、率直な思考からそう発言したようだった。

 

 

 「え〜ナギサちゃんのせいで一か月も、毎食ロールケーキしか食べていないのだから凄くもう飽きちゃったんだよ?」

 

 「...とりあえず俺たちは基地に帰ろうとしているんだ。そこでお嬢さんはアリウスに操られて────どうにか元に戻して、今に至るわけだよ」

 

 

 機内で小説本を読んでいる隊員は横目でありながら彼女にそう伝えた。するとミカはどうやら彼女自身が置かれている状況について理解したようで、彼らに尋ねた。

 

 

 「じゃあアリウス分校の生徒会長は────」

 

 「俺たちがやった。君の考えは理解しているつもりだが、俺たちにとっては見過ごすことが出来ない存在なんだ。恐らくあのまま見過ごせば...キヴォトス最大の敵にもなる」

 

 

 ミカの分派もとい考えをある程度理解していたフォードがそう言った。きっとあのまま野放しにしておけば、人体実験の被害者となる生徒は更に増えるに違いなかった。それに加えて、テラー状態を適用させた戦力がそのうち何処かの局面で投入される可能性に、実験段階であったもののヘイローを破壊できる銃弾も開発していたのだ。

 

 これ以上、放置しておけば取り返しのつかない事態に陥るのは間違いなかった。

 

 ベアトリーチェが大国であるアメリカに攻め込んだ時と同じように、相手の情報が無いまま彼女が欲するありとあらゆる事物に手を出す可能性がある。

 

 彼女は()()を知らない敵なのだ。これほど面倒な敵は居ない。

 

 

 ────「私は、彼女たちとお話をしてて思ったんだ。トリニティに居る子たちと何ら変わらない同じ生徒なんだ────って、だから彼女たちとは仲良くしたかったし私は出来ると思った。セイアちゃんは私のことを難しい言葉で馬鹿にしてきたけどね」

 

 

 他の隊員らは大人として()()を知っているつもりであるが、そのことを彼女には敢えて伝えずに話に耳を傾ける。

 

 

 「実はね、私のせいでセイアちゃんがいなくなった」

 

 「もうハナコから聞いていたよ。君がアリウスに暗殺の依頼をしたということも、ここにいる皆も分かっている」

 

 「そう。それで私のせいでセイアちゃんが────」

 

 

 ミカは何かを諦めた様な声で、伝えようとする。が、それを遮るようにフォードが言った。

 

 

 「少なくとも彼女は生きている。うちの諜報機関(CIA)が概ね動向を把握しているが....何処かで一緒に姿をくらませた救護騎士団の生徒と共に隠れているはずだ」

 

 「え?」

 

 「最初から『ヘイローが破壊された』なんて嘘だったんだよ。ただ()()()()()ということにしておけば、これ以上正体の分からない人物や組織から刺客が送られてくるリスクは減らせる。

 そしてその情報がバレるまではある程度犯人捜しの時間稼ぎにもなるから、流しておいて損はない。情報戦ってやつだよ」

 

 

 ミカの近くで座っている隊員がそう説明した。しかし、ミカはセイアが生きているという現実を受け入れることは出来ないようで、彼らに再び尋ねる。それも名指しだ。

 

 

 「それなら....なんで『人殺し』だなんて貴方(フォード)は言ったのかな? 私が色々と悪行を重ねた悪い子だから? それとも...シャーレの先生にそうするように仕向けられたから?」

 

 

 そして最後に、付け加えるかのように彼女はこう言った。

 

 

 「私は貴方が憎い。サオリやロイヤルブラッドの子たちと同じくらい....でも私は本当のことを知りたいの」

 

 

 彼女にとってこの一か月間は、ただ胸が苦しく、煮えたぎるような焦燥感に駆られていたからだ。それも全ては『セイアちゃんのことを殺してしまった』という嘘によってだ。

 

 ただでさえティーパーティーの政治派閥は荒っぽい手段が好まれている為、彼女が属する分派以外の子たちから惨めな思い・いじめを受けていた。その思いをあの兵士は知るはずもない────だから少しでも苦しんでいた気持ちを分かってほしいというのが彼女の本心だった。

 

 

 「俺は間違った選択をした。子供にただ存在のしない罪を着せたクソッタレだ。すまない」

 

 

 フォードはヘリの中で平謝りをする。

 

 一か月も前────実際にミカをただ苦しめる目的で、『人を殺した』などと言い張るのは面目ないつもりだった。だが、彼女にとってはその取り返しのつかない線引きが曖昧であるように彼は思えた。本当に彼女の為になるなら────という思いから敢えて厳しい言葉を選んだ。

 

 しかしながら、それで彼女が傷付いてしまうのは彼が望んだことではない。そしてこれに関しては、完全に大人の過ちであるというのが現在の彼の考えだ。

 

 だから彼はまず謝ることにした。大人として、あってはならないことを子供に負わせたからだ。

 

 

 「....そう」

 

 

 ミカはそれ以上、追及する様子はないようでそう言うと食い下がった。彼女にとっても、すぐ謝って貰えるとは想定していなかったからだ。加えて、彼女自身が『悪い子』という印象を突き付けられることもなく、流されてしまった。

 

 あっさりと謝罪を受けたミカは、色々と感情が込み上げてきたが抑える。ついでに彼に何かもう一言でも言ってやろうなどと考えていたが、彼の態度をみるに再び流されてしまうように感じた。実際には『流された』というよりは、大人の余裕とでも言うべきか────彼女が伝えてもそれ以上何も起こらなさそうな雰囲気を感じとったからだった。

 

 彼女はこれ以上追及しないことにした。

 

 だがその代わりに、ミカはここ最近気になっていたことをフォードに尋ねることにした。()()()()について、彼女はその後を知りたかったからだ。

 

 

 「私ね、あの調印式の日テレビで式典を見ていたんだけど....先生は大丈夫なのかな?」

 

 「先生は────基地の病院に入院している。俺が上手く助けれなかったばかりに先生は死にかけたんだ」

 

 「そうなんだ...無事だと...いいね」

 

 

 ミカはまた声色を硬く変えた。先生の身を案じてからか不安そうな声だった。

 

 それから彼らは何も喋ることが無くなってしまうが、ヘリは着々と空軍基地に向かっていった。近くに居た隊員のうち何人かはヘリの中で眠り、休息を取り始めていた。そしてヘリは間もなく、通過地点であるD.U.シラトリ地区上空に接近していた。

 

 そんななかレイの声がヘッドセットに漏れた。

 

 

 「────が起きたらしい」

 

 「なんて言った?」

 

 

 幾らローター音を軽減してくれるヘッドセット越しだとしても、ノイズは相変わらず酷いので最初の言葉を聞きそびれた彼らは、尋ね返した。するとレイは大きな声ではっきりと言った。

 

 

 「先生が起きた! それに....」

 

 

 レイは更に続きを伝えようとする。

 

 

 「基地にトリニティのお偉い方────ユリゾノたちが御出ましになったらしい。曰く、俺たちアメリカ軍に伝えたい重要なことがあるとのこと」──────────・・・・・

 

 

 

 

 ──────ウトナピシュティム空軍基地に真っ先に着陸したプリンス5-1は、積載されていたベアトリーチェの死体袋をすぐさま基地内の死体安置所に送った。そのうちCIA職員による死体の確認が行われる予定だ。

 

 外は未だに暗く、基地に設置された電灯のみが頼りとなる唯一の灯りであるが、暗視装置を使用するほど真っ暗な訳でもないため、バンダーマンを含むデルタチーム一行は、アリウススクワッドも連れてヘリポートから隊舎へと向かっていた。

 

 しかし彼女らの扱いについては作戦開始前と違い、彼女たちを拘束したり武器を没収することなく、せめて安全装置を掛けるようにと軽く彼らが伝えた程度だった。

 

 加えて、明確に彼女らに対して敵意を向けたりする訳でもないので、酷く扱われるだろうと覚悟して、ビクビク震えていたヒヨリ────ではなくリーダーのサオリは、彼女の予想と現在の状況のギャップに対して混乱していた。

 

 特にアリウス分校に自身の姉を殺されたというバンダーマンに至っても、彼女たちに敵意を示さず、寧ろこの作戦がなんとか遂行出来たことで緊張と懸念が緩和され、安堵している様子だった。

 

 ひとまず彼女はアリウススクワッドのリーダーとして、ベアトリーチェを打ち倒してくれたことに対し礼を告げることにした。

 

 

 「バンダーマン大尉。アリウススクワッドリーダーとしてマダ...いえ、ベアトリーチェを打ち倒したことに深く感謝します」

 

 

 サオリが隊舎に向かう道中で突然、そう告げたのでバンダーマンは勿論答えた。

 

 

 「...それが俺たち大人の仕事だ。謝意は無用だ」

 

 「それと私達アリウス分校の子が、貴方の姉を殺して────」

 

 「サオリ、謝らなくていい。作戦中でありながら私情を持ち込み、感情的になった俺が悪い。すまなかった」

 

 

 サオリが謝罪の言葉を並べ終わる前にバンダーマンはそう言った。そして彼は更に続けて。

 

 

 「俺はアリウスが憎い。いや、キヴォトス人そのものが許せない。だがアイツ(フォード)が言っていたことがよくわかったよ。君たちは俺が思っていたよりも違って、立派な子供だ」

 

 

 彼にとって復讐の原動力と言えるものは姉を殺したアリウス分校そのものではなく、キヴォトス人という存在が本心から憎いと思い続けていた。加えて現在アメリカ国内の世論を二分している首謀者の殺害を優先とし融和的な姿勢を見せる勢力と対極に位置し、アメリカ軍内のキヴォトス人を許さない思想を持つ強硬派勢力のうちの一隊員という立場にもいた。

 

 しかしながら今夜の出来事を通してアリウス分校の生徒であるアリウススクワッドの子たちと接してから、彼が思っているような卑劣で人を殺すことを厭わない悪魔のような子供たちであるとは思えなかった。寧ろ普通の高校生と変わらないただの子供であると思ったのだ。

 

 だからこそ彼はキヴォトスに配備される前にフォードから言われた言葉を思い出した。

 

 『キヴォトスには良い奴がいることも俺は知っている』────と。

 

 以前は彼はその言葉の意図を図りきれず疑ったが、現在ならば何となくだが意味が分かったような気がした。そして彼が最も憎むべきなのはキヴォトスそのものではなく、姉を殺したアリウス分校の生徒のみであるというのがはっきりとした。

 

 また彼女らに対して人殺しなどを教えていたのは、あの汚い大人によるものだ。彼女らに全ての責任があるわけではない。それに作戦の終盤ではテラー状態のミカを鎮圧するために、サオリ達に頼った。これ以上、敵などと呼ぶわけにはいかなかった。

 

 一先ず彼は感謝と連絡事項を伝えることにした。

 

 

 「改めて今回の作戦に協力してくれたことにこちらこそ感謝する。きっと大統領から君たちに向けて感謝状が送られるだろう。それとベアトリーチェを殺したことで、俺たちは連邦生徒会と()()()が出来るから助かった。

 アツコだったか...あの子は病院で君たちのことを待っているそうだ。暫くの間は基地で君たちのことを保護したいところだが────これは提案だ...君たちはどうする?」

 

 

 そう伝えられたサオリは深刻そうな顔で思案し始めた。こちらが保護することに都合が悪い理由などが彼女たちには有るのだろうか。それから暫くの間、彼女は真剣に考えていたのですぐに結論を出すのは難しい様子に見えた。だから彼はこの場で彼女の考えを聞き出そうとするのを止めることにした。

 

 

 「今日は疲れただろうゆっくり休息を取ってくれ。子供はもう寝る時間だ...今夜は君たちのおかげで助かった。ありがとう、未来のある子供に幸があらんことを」

 

 

 バンダーマンは彼女らにそう伝えると彼は隊舎がある方角ではなく、死体安置所がある方へと向かい始めた。そして重なりつつ合った足音は遠のき、すっかり聞こえなくなってしまった。

 

 

 「リーダー、私たちはこれからどうするつもりなの? 長い間、ここの大人達に迷惑を掛けるわけにはいかないけど...」

 

 「ミサキたちは暫くの間はここに居てもいいだろう。私は...もう少し私自身のことについて考えたい」

 

 

 ミサキに対してそう言ったサオリは今でも困惑している様子だった。この基地に到着してから、バンダーマンらが彼女に対して接している態度が大きく違うからだ。作戦開始前のヘリポートで向けられた視線は軽蔑に近い酷いものだった。

 

 だからこそ彼女は作戦が終わり、こちらに再び戻ってきてもそう扱われるのだろうかと思っていたが、実際は違った。あの大人たちの価値観が変わったのだ。

 

 ────なぜ、私は大人の価値観を変えることが出来たのか?

 

 ────私には大人の価値観を変え得るほどの影響があったのか?

 

 ────人殺しなどと言ったバンダーマンは、どうして本来なら敵である私たちを許したのか?

 

 かつて人生で体験したことが無いほどの疑問が彼女の頭に浮かび上がってきた。特に恨まれても仕方がないと思っていた彼に関しては、根っこから恨まれているような様子でもない。

 

 マダムから教えられてきた大人の絶対的価値観に従って行動していた彼女だったが、その価値観を変えたのは他でもない彼女自身だということが受け入れられなかった。

 

 そしてそれと同時に知らない未来があるのかもしれない私自身を知りたいと思ってきてしまった。

 

 つまるところ彼女には考える時間が必要だった。そして頭の中がぐるぐると混乱してきたところだ。

 

 彼女は混乱のあまり独り言を告げる。

 

 

 「私たちに素晴らしい未来があるのというなら....」──────

 

 

 未来のある子供たちは、大人の為ではなく自身の為に考え始める。

 

 彼女たちにとって初めてのことかもしれない。

 

 未来は動き出したのだ。

 




プリンス(王子)隊に姫がエスコートされてますね...まさかそういうことだったのか!?

次話でエデン条約編完結します。
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