Blue Archive:Task Force   作:タクティカルおじさん

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時系列ちょっと飛びます。


48:エデン条約編:エピローグ/Ember(残り火)

<20██年/海神の槍作戦から一か月後>

ウトナピシュティム空軍基地 名誉勲章叙勲式

 

 

 海神の槍作戦から一か月もの月日が流れた。あれからアリウス分校と戦争状態にあったアメリカ政府が、連邦生徒会と友好条約を締結したのにはさほど時間が掛からなかった。

 

 そして現在はというとキヴォトスとアメリカ双方の交流を建前に、アメリカの優位を示すことを目的とした名誉勲章叙勲式が行われようとしていた。本来ならばホワイトハウスで行われるはずの歴史的で名誉のある式典だが、アメリカ政府としては軍事力を改めて示す絶好の機会であるがゆえに、利用したのだった。

 

 そのためウトナピシュティム空軍基地では初となる一般公開が行われる他、来賓として他学園の最高権力であるティーパーティーや風紀委員会、セミナーといった各学園の生徒らが招待された。なお対策委員会に関しては自治区内の内政を優先することを理由に欠席している為、この式典には居ない。

 

 基地内はアメリカ陸軍の主力戦車M1A2エイブラムスやM3A3ブラッドレーが展示されていたり、ヘリポートの近くではAH-64EアパッチガーディアンやAH-6キラーエッグといった兵器が軍事力を誇示する役目を担っていた。

 

 勿論、キヴォトスでは珍しい固定翼機であるF-16やA-10、AC-130といった機体らも格納庫から引っ張り出され、生徒の注目の視線を集めていた。

 

 

 ────エデン条約調印式襲撃事件に関する調査は、ケリー陸軍少佐の主導で進められた。ケリー少佐は、襲撃に関する情報を知っている米兵とキヴォトスの生徒の計90人に事情聴取を行った。

 

 報告によれば、アリウス分校は古聖堂を乗っ取るために、襲撃事件から半年前に情報収集と人体実験、ヘイロー破壊銃弾の開発を行う為にアパートに見せかけたアジトを築いたり、一か月前にはアメリカ軍が打ち上げた人工衛星の映像を録画して、その映像を襲撃事件で使われた巡航ミサイルと見せかけたりするという緻密な襲撃計画を立てた。

 

 まず巡航ミサイルで古聖堂にいる大多数の生徒に対して攻撃し、火力で圧倒的優位に立つまで地上での強襲は開始しなかった。アリウス側は、カタコンベに複数のチームとアリウススクワッドを配置して、事前に計画していた強襲ルートを実行させた。

 

 こういったことが全て可能だったのは、アリウス分校の生徒を指揮するベアトリーチェの他、ゲマトリアという組織が関与していたからだと、ケリー少佐の分析は明らかにしている。

 

 

 

 

 

 

 あの襲撃から3週間が経過しフォードとピアーズが共に基地内で、戦闘訓練を丁度始めようとしたとき国防総省に勤務するある大佐から、電話が掛かってきた。二人とも飛行機に乗ってバージニア州まで来て、ちょっとオフィスに寄ってくれないか、と大佐が言った。

 

 どういうことなのか、全くわからなかったがすぐさまその要請を応じることにし、翌日には有給休暇を取得してニューヨークからバージニア州行きのフライトを取って、国防総省(ペンタゴン)へ行った。すると、長いテーブルに大佐や将軍がずらりとならんでいる会議室に案内された。そこで二人が呼ばれた理由を説明してほしいと頼んだ。

 

 

 「知らないのか?」

 

 

 誰かが聞いた。

 

 二人とも首を振ると、調印式の戦いにおける二人の行動を綿密に検討した結果、米軍兵士にとって最高の賞である、名誉勲章を授与する候補に挙げられたのだという。

 

 困惑した表現とは言い切れないほど二人はまごついた。それどころか、まったく道理に合わない。そんな最高の叙勲に選ばれるのは間違っているという気がしたからだ。

 

 あの日にやったことは二人が最も重要だと思っていたこと──称揚に値すること──についての価値観に反しているように思えた。それに受賞したからといって、彼らが選ばれて拝受した栄誉と、それがもたらす様々な出来事について、彼ら自身がどう感じるかということには、ほとんど影響を及ぼさないこともわかった。

 

 彼らは勲章に相応しくない人間を選んだのだ。

 

 その三日後に叙勲式の予定が決まり、そこから程なくしてホワイトハウスで行われるのが恒例であるが今回は異例のキヴォトスで行うこととなった。そこではあの日を共に過ごしたレイとウォルコット、そしてベアトリーチェを最終的に仕留めたバンダーマンとも出会った。

 

 あの3人はシルバースター勲章の受賞者だった。

 

 出会った彼ら全員が式典などという高尚な環境は馴染めないと感じた。大統領に挨拶をするのは苦手だと思い、ウォルコットを無理矢理先鋒に立てた。

 

 

 「最初に突入し、最後に撤退だ」

 

 

 レイは、ウォルコットがこの5人の中でいちばん階級が低いことを思い出させて、祭壇の方へと押した。

 

 

 「よりによって階級かよ」

 

 

 ウォルコットがぶつぶつ言って、首を振った。

 

 大統領にどういう挨拶をすればいいのか、見当もつかなかったので、ウォルコットは言葉を失ったまま大統領と握手を交わした。しかし、夜になるといつものおしゃべりに戻った。

 

 

 「大統領の手は柔らかかった」

 

 

 彼はそう報告した。米軍の最高指揮官である大統領との短い出会いの第一印象は、そのことのようだった。

 

 

 「いや、本当に柔らかいんだ。俺の体には、あんな柔らかいところはないと思うね」

 

 

 出席者の多さは別として、彼らがほかに強い印象を受けたのは、来賓の中に先生やヒナたちがいたことだった。

 

 30分後授賞式は終わり、彼らはあの日救うことが出来たヒナと先生の二人の前を進んで、二人に挨拶し、握手を交わした。

 

 その日に読み上げられた公式の軍功特記で、フォードは機関銃とハンヴィー内で生活安全局の生徒(フブキ)の手から奪った第14号ヴァルキューレ制式ライフルで敵兵士を10人以上倒したとされていた。戦闘中に現地の戦闘員とされているヒナが失血した際には、キリノとの協力により彼女に輸血を行い、後送に繋ぎ止めたことについても功績があったとされた。

 

 同じくピアーズにあっても自らの生命の危険を顧みずヘリから降下し、現地の要人である先生の応急処置を行い、後にフォードらと分断されてしまいつつも敵の銃火から逃れ、負傷していたセナと共に搬送を行なったことの功績が認められた。

 

 そしてシルバースター勲章を授与した三人は、30人以上アリウスの生徒を打ち倒していたこと。更には、孤立した彼らを救出する際にバンダーマンが率いていた兵士たちがアリウス生15人を倒したことについても間接的な功績があった、と。

 

 少なくとも彼らのあずかり知らない数字だった。そういう推計が不正確であることは良く知られているが、彼らが最も重視しなかったのは、公式な記述があまりにもきれいごとで、整然としているからだ。戦闘中に繰り広げられる現実の出来事とは、まったくそぐわない。

 

 結局、彼らにとって意味がある数字の組み合わせは一つしかなかった。彼らが救えた命の数と、彼らが──聖テレサ病院の虐殺──違う行動を取っていたら、助かったかもしれない命の数だ。

 

 彼らが最善を尽くしたのは事実だ。もっとやれたのかもしれない、というのも事実だ。その二つの事実の間に60人の墓標があり、墓標に60人の生徒の名が刻まれる。だから、キヴォトスという異世界の地で最高の勲章を授与されることに、フォードは心の底で複雑な気持ちを味わった。

 

 その事実が──彼が抱いている信念とともに──なによりも彼自身の支えになっている。

 

 失われた戦友・生徒をひとりでも取り戻すことが出来るのなら、勲章とそれに伴う様々な特典をすぐさま差し出すはずだ。彼は一抹の迷いもなく、そう思っている。

 

 

 

 

 

 

 授賞式も終わり、本日の予定が全て消化されると彼らは逃げるように祭壇から降りた。やはりこうした品位がある場は、なかなか機会が無いものであるから馴染めない。

 

 見終えた聴衆はというと入場管理ゲートに向かう者が居たり、そのまま展示されている兵器群を見ようと向かう様子だった。それから彼らは動く聴衆のおかげで、身動きが取れなくなり人が居なくなるまでじっと待機していた。

 

 そして遂に周囲から人がいなくなり、隊舎へと向かおうとしたときだった。

 

 

 「あら? 風紀委員長から直々に感謝状が贈呈されておきながら、受け取るのを拒否した方々がここに2人いますよ」

 

 

 彼らに向けてそう言ったのはアコだった。そしてアコは、身長差がありながらすぐ傍にいる彼女の方へと視線をやった。

 

 

 「ならば直接もう一度、ここで渡すしかなさそうだわ」

 

 

 ヒナはそういうとフォードとピアーズの分の感謝状を二人の前に差し出す。が、やはり彼らは素直に受け取って貰えるようではない。どうやら受け取ることが、かなり負い目を感じるようだ。

 

 それでも風紀委員長という座に位置する彼女直々から贈られる感謝状を受け取らないという行為は、むしろ無礼だと二人は感じた。だから二人は素直に、受け取ることにした。

 

 

 「ありがとう」

 

 「ありがとうございます」

 

 

 二人は彼女に感謝を伝えると、しっかりとそれを受け取った。

 

 

 「フォード大尉、アコから聞いていたけども左腕は大丈夫かしら?」

 

 「少なくとも生活に支障はないよ。だが俺としたら心配なのは...先生の方だ」

 

 ''え!? この流れで私!?''

 

 

 いつの間にか、彼らの近くにはシャーレの先生がいた。生徒と違い、ヘイローを持たず彼らと全く同じであるただの大人だ。

 

 

 「それなりに酷かったですからね。今まで見てきた傷の中でも厄介な部類でしたよ」

 

 

 ピアーズは先生の傷の治療を行っていた為にそう言った。要するに、海外の地で従軍している兵士の傷と同じくらい酷いというわけでもあった。彼は神経が切断されたわけでもないからか、後遺症もなさそうで、回復して何よりだ。

 

 

 ''あの、フォードさんとピアーズさん、それにバンダーマンさん...その''

 

 

 先生からそう呼び掛けられると、先生は感謝の言葉を彼らに何度も述べてきたので、気にするなといった。どうやら彼は昏睡中に起きた出来事について、責任を感じているようだった。だが実際のところ、彼がいない間はフォードらがどうにかしなければならない問題だった。

 

 彼らの選択によってテレサ病院で60人の生徒の命が失われ、負傷した者が100人もいた。

 

 先生が負い目を感じるのはおかしいと彼らは思った。この結果を招いたのは彼らが上手くやれなかったからだ。それでも先生は、彼自身に責任があると主張するので食い下がらない。

 

 だから彼は、激励の意味を込めて厳しい言葉を送った。

 

 

 「先生としての務めを果たせ」

 

 

 彼はその言葉を聞くと、すんなりと受け入れてくれた。彼にも先生という立場としてそれなりのプライドがあるのだろう。

 

 そうしていたところフォードの肩を誰かが叩いた。おしゃべりなウォルコットがデジタルカメラどころかスマホ1台で写真撮影が事足りる現在では珍しいモデルの大型カメラを手に立っていた。

 

 

 「よしオメーら、記念写真を撮るぞー」

 

 「CIAに没収されて50年間機密指定行きだ」

 

 

 レイは言った。

 

 

 「大丈夫。フィルムカメラだから()()()()機密保持が出来る」

 

 「そういう問題なのか?」

 

 

 口では反対していたフォードだったが一瞬考え込むと、判断を一転させ写真撮影にGOサインを出した。すると彼らは写真に写るために段々と撮影の輪を形成していった。

 

 

 「私も入っていいかしら?」

 

 「どうぞ、ゲヘナのお嬢さん」

 

 

 バンダーマンは撮影の輪に入りたがっているヒナにそう言った。

 

 

 「アコ、あのカメラを持っている隊員の代わりに撮ってあげて」

 

 「はい、委員長がそう仰るのなら」

 

 

 アコは嬉しそうに快諾すると、ウォルコットの代わりにカメラを持ち皆の姿を捉える。きっと彼女にとって可愛らしいヒナの姿を写真に収めたいのだろう。

 

 

 「皆さん祭壇をバックにして....そのままですよ。はい、チーズ!」

 

 

 シャッター音。

 

 そこにはフォードが映っていた。バンダーマンが、ピアーズが、ウォルコットが、レイが、先生が、ヒナが、風にたなびく星条旗と式典の祭壇を背景に、手の平大の写真1枚に勢揃いしていた。

 

 

 

 ──そして未来は動き出す。キヴォトスを破滅へと導かんとする最悪な未来へ。




さてこの章が完結したことですし、後書きらしいことをやります。

・ヘイロー破壊銃弾:本作の初期の段階から爆弾以外にもヘイローに致命的な効果を誇るモノが欲しいと思い、21話で初登場させました。本作では開発途中で、コストも高かったので少数しか生産されませんでしたがアズサじゃない方のガスマスクの女の子によって、トリカスに流れました。もし本当に実用化されたら、それこそ防弾装備などがメタになりそうですね。
・人体実験:38話で明確に描写されました。実験に失敗した死体はドラム缶に詰めて隠蔽を図っていたようです。さて47話の儀式は一見、生贄がなさそうですがどうやってミカを反転させたのでしょうか? 彼らはあの場では生贄を目にしていません。どうやら実験は無駄では無かったようで、彼女の方が一手早かったようです。
・黒服とマエストロ:実は本作の黒服はかなりのやり手です。アビドスで人体実験をしていましたが、それはフォード達に見つかってしまいます。ですがその実験をベアトリーチェに押し付けることで、結果的に米軍のヘイトが彼女に向き、殺害されたことでゲマトリアからの排除と、十分な実験結果を得ることになります。これはネメシスを彼女に利用させたマエストロも同じです。

さて次話は1~2話程度の政治を挟んだ閑話となります。さらにその後は私が涙腺崩壊したパヴァーヌ2章を通過させていただきます。


オペレーションネプチューンスピア編からのみならず、また初期からここまで拙作にお付き合い頂き、また感想まで書いて下さいました読者の皆様、本当にありがとうございました。
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