Blue Archive:Task Force 作:タクティカルおじさん
ウィリアム・ケリーは、非戦闘時の制服であり勲章と階級が彼の右胸に飾られるアーミー・グリーンサービスユニフォームを着用し、ミレニアムサイエンススクールへと足を運んでいた。エデン条約調印式襲撃事件から一か月近く経過し、現地の生徒との合同調査も終え、残るはキヴォトスの破滅関連の調査に乗り出そうとしたところで、彼に新たに別の任務が割り振られた。
時刻は午前9時頃、キヴォトス特有の気候である残暑は全く感じられず涼しい風がそよぐ中、最新鋭の機械化された校門正面で、彼は先生を待っていた。しかし合流を予定していた時刻になかなか現れず、この後の予定が押してしまいそうであったため、ケリーは仕事用のスマホを取り出し、電話を掛けようとした時だった。
'' ごめん、遅れちゃった ''
「彼はさっきまで、荷物を運ぶのに苦労していた
先生の言葉に続き、護衛の一人であるホプキンス准尉が遅刻しかけたことについて弁明し、そう言った。
────先日の調印式襲撃事件だけではなく、聖テレサ病院の虐殺も含めて極めて危険な出来事が発生していたことで、それなりに重要人物であると米軍やアメリカ政府そのものに認識されている先生の命が危険に晒されたのは既に公に知られている事実だった。
そして以前からアメリカ政府はキヴォトスの政治機関である連邦生徒会と、米国を繋ぐ橋渡し役として先生のことを期待していたのだが、前述のようにここ最近において物騒な出来事が頻発し、危うくキヴォトスにおける利権を手に入れることが不可能になりかねなかった。
今後将来、そのような出来事が起きることはアメリカ政府にとっては、とても都合が悪い事に繋がる。それを未然に防ごう────と、合理主義者でありながらも、米国の損得勘定を入れるビジネスマン気質である大統領とその側近らは考えた。そこで彼の護衛として、過去においても重要人物の護衛の経験と実績があるDEVGRUに割り振られ、さらにブラボーチームがその他の任務と兼任する形で護衛の任を与えられたことで現在に至るのだった。
「予定時刻が押していますので、急ぎましょうか」
ケリーにとって、遅刻しそうになったことは事実でありその言い分などは気にしていなかった。彼が唯一、気にしていることは、これらの行動が今後の協議に悪影響を及ばさないか、否かだった。
そして彼らは校門に向かい、ミレニアムサイエンススクールのキャンパスに足を踏み入れ、協議会場へと向かった。先生が到着する数分前から協議会場には外交官達が待機しており、後は彼らとセミナーの仲介役である先生を待つだけの状態であった。そうした状況のなか、遂に先生が会場に入った。
会場には背広を羽織い、ネクタイを着けた外交官ら数名が席に鎮座し、さらに長机を挟んでその向かい側にはコユキを除くセミナーの生徒が勢揃いして、彼女らも席に着いているようだった。つまるところ、この空間内に立っている者は先生とケリーらの4人しかいない。勿論、彼らは注目の視線を浴びるがそれぞれ用意された席へと向かった。
そして彼らが席に座る前に、再び米国の外交官らは一斉に起立した。そうして外交官らの代表である男が言った。
「この度はお集まり頂きありがとうございます。今回、偉大なるアメリカ合衆国とミレニアムサイエンススクールにおいて有意義なお話が出来ればよいかと思います」
「ええ、こちらこそ。本日はよろしくお願いいたしますね」
この場に居るセミナー所属の生徒の中で最も役職の地位が高いユウカはそう言い、代表の男が差し出してきた右手と軽く握手を交わした。そうして事前に彼女らにも通知したうえで、取り決めていた内容であるが、さっそく米国側の外交官が話を始める。
「既にご存知でしょうが、我々は貴女たちが保有しているレールガン技術について非常に興味があります。数年前から合衆国でもレールガンの開発計画を進めていましたが、電力面や実用性において課題が幾つか残ったことで現在は中止されています。
しかしながら、キヴォトスではレールガンが実戦運用されていること。そしてミレニアムサイエンススクールはキヴォトスの最先端を行く技術を開発、保有していることから是非、貴女たちの科学力をもって我々の開発に協力を頂きたいところです」
外交官はホワイトハウスからの提案をそう伝えると、ユウカが答えた。
「そうですね。先ほどのお話で出てきました『実戦運用されているレールガン』についてですけど、カイザーPMCがゴリアテ...云わばロボットに独自開発のレールガンを搭載しているそうですね。
それと私たちの学校のエンジニア部が開発した持ち運べる
人が持ち運べるほどの小型化され、実際に使用可能なレールガンの存在を聞いた外交官らは少しざわついた。恐らく、一部の技術においては完全に地球の科学力を上回っているだろう。第二次世界大戦時に運用されていた戦車が現代の都市を走る姿が見られるキヴォトスであるが、これほどまで科学力があるとは思いもしなかった。それどころか、彼らの予想を軽々と超えてきた。
此処は異世界であるということを再認識させられた彼らは、内心では焦りながらもそれを隠して、冷静に話を続けることにした。
「今回の提案では、アメリカ国防省が主に賛同しているほか地球上の安全保障にも大きく影響を及ぼすため開発資金等は合衆国が全て負担する方針です。そして、開発が完了した際は今後将来に渡って貴女たちに資金援助を継続して行っていく形となります」
事前に収集していた情報では、ミレニアムサイエンススクールはキヴォトスの唯一の研究機関ともされている。そして研究には多額の資金を必要とし、さらにそれを数年単位で継続して出費する必要がある。しかしながら彼女たちの学校の資金は十分であるとは言い難い状況のようで、どうやら費用削減の一環として実績を持たない部活動の廃部や、研究の資金援助を躊躇なく行うほどらしい。
無駄な出費は彼女らも避けたいのは当然のことであるが、それでも資金に問題があるとみて交渉の付け入る隙があるのは事実だろう。
そこでアメリカ合衆国が彼女らの学校に資金援助を行うという形に至れば、彼女らの悩ましい資金の問題を解決出来ることから、この提案にはメリットがあるのは
「かなり魅力的な提案ですね...なるほど」
ノアはそう言いながら相槌を打ち、彼女の手元にある手記へと筆を走らせた。やはり、資金援助は彼女らにとっては美味しい話であるのは間違いなさそうだ。彼女らの反応から手応えを感じた外交官は、さらに詳細を伝えることにした。
「具体的な数値ですが、保有している資金の20%ほどの費用をこちらが年度ごとに出費する予定ですね。我々としては、貴女方の素晴らしい最先端の科学技術に注視していますから」
「20%もですか!?」
「凄い...そこまで支援してくださるのですね」
さらに良い反応を彼女たちは見せた。すると、外交官はこの交渉が成功したもの同然であると確信する。それから彼女たち二人で耳打ちし、遂に取り決めたようだった。
「ええと、そうですね...なんとお伝えすればよろしいでしょうか...?」
ユウカは言葉を詰まらせながら伝えようとするが、外交官の男にとってもどかしかった。男にはこの交渉が既に成功しており、彼女がこれ以上言葉を選ぶような状況ではないはずだと確信していたからだ。
しかしながらユウカが次に言葉を発した時、彼が期待していた言葉、結末からは大きく外れることとなる。
「既にお気づきでしょうが生徒会長の調月リオは、諸事情によりこの会談に出席していません。この場には私たちがいますが、彼女はミレニアムサイエンスクールの運営に当たり
非常に残念ですが、私たち会計と書記の立場で今後の学園運営全体に及ぼす重大な決定を決めることが出来ません」
「な、なるほど...貴女たちの権限ではどうしようもないということですね?」
逆に今度は、男が言葉を詰まらせながら尋ねた。彼女が放った言葉は、あまりにも予想外の一撃だったからだ。
「はい。生徒会長が出席した際に決定が可能になるでしょうね」
それから外交官らは沈黙し、男たちは目を配らせた。どうやら事前に何かを決めていたのだろうか、それからしばらくすると代表の男が突然彼女たちに向けて言った。
「本日はこれまでとしましょう。また生徒会長がいらっしゃるときに我々から伺います」
「あの次会の日程は────」
ノアが彼らを引き留めようとするものの、外交官らはすぐさま競技会場から逃げるように帰っていった。その場に残されたユウカたちは困惑しつつも、様子を見ていたケリーとホプキンスは外交官らの一連の行動に対して何か勘付いたようであった。
そうしてケリーは出席していた先生に対し、仲介役としての役目を与える機会すらなく会談が終わってしまったことに対して謝罪する。
「先生、今回は非常に申し訳ないです。本来ならば彼方に彼女たちと外交官の仲介をしてもらい、技術援助が行えるようにしたかったですが...このような結果になってしまい、わざわざ開けてくださった時間を浪費させてしまいました」
'' 仕事とはいえ、彼方も大変そうですね ''
「いえ、私にとっては重要でしたよ。それにまた近いうちに『キヴォトス終焉の件』でお会いするでしょうから、またその時に。私たちの
ケリーは先生に対して平謝りすると次はユウカとノアたちには、一礼をしてから「本日はこちら側の勝手で申し訳なかったです」と言うと会場から立ち去って行くのだった。ケリーにとって外交官らの相手を尊重しない傲慢な態度で、身勝手な振る舞いをする行動には耐えきれなかったというのは言うまでもなかった。
それから彼はミレニアムサイエンススクールの敷地から出て、D.U地区にあるウトナピシュティム空軍基地へ行きの電車に乗ろうと駅まで歩く。その間、彼は外交官らの行動を思い返した。
実際のところ、相手に対して極めて無礼であったというのは勿論だった。しかしながら最も核心的であると言うべきか、彼らが交渉を早々と切った意図が読めなかった。もし即時の決定は出来ないというのであれば、生徒会長である
しかしながらその再交渉をする時間が惜しいという理由からなのか、はたまたは彼女らと協議しているうちに援助の件を取り付けることが難しいと彼らは判断したからなのか、何かしらの理由で交渉の余地が無いと判断したのだろう。
その理由をケリーは考えてみるが、一切合理的な理由を見つけ出すことが出来なかった。
それでも彼の頭の中には、これから起こり得る
それから基地に帰投すると、帰り際に報告していた内容をミリー大将にも再度伝えた。勿論、交渉が成立しなかったということだけではなく、外交官らの態度や行動も含めた上で事細かにケリーは伝えた。
大将が勤務する個人のオフィスには、他の幹部級隊員が居たということもありケリーが報告した内容を聞いていた隊員のうちの一人である陸軍大佐────ハンプトンは言った。
「おれの推測だが、開戦準備でもしているのだろう」
「ジョークですね」
「バレたか?」
ケリーは大佐に対してそう返した。
実際のところ開戦をするというのであれば、今頃にでも部隊の編制や配置、補給についても考慮する必要があるため、それらのために準備期間が必然的となる。だが現時点ではその準備を行うように命令されていないことから、戦闘が起こる可能性は低いはずである。
それらの事情を知っている隊員にとっては、すぐさま冗談であると見抜ける内容であった。それからハンプトンは冗談を交えた後に、次は真剣そうな雰囲気で言う。
「話を聞く限りだと、手っ取り早く交渉を纏めるのが無理だと判断して一旦引いた────といった感じだと、おれは思うね。
生徒会長が必要とされている会談でわざわざ欠席されてしまっただけじゃなく、これ以上上手く締結に運ぶための手札を見せびらかすわけにもいかない。そのことも考慮して長期的にみれば、あの場に長々と居座るのは寧ろアメリカにとっては国益を損ないかねない状況じゃないのか?」
「本当にそうですかね? それでもあの無礼な態度をとる理由が見当たらないように思えますね」
佐官である二人はそのように考察を交えたところで、タイミングよくミリーはケリーに尋ねた。
「ケリー少佐、本日だけではなくキヴォトス終焉の件で忙しいところだろうが、明日の予定は?」
「午前中はシャーレとの提携業務の一件で埋まっていますが、午後なら問題はありません」
「わかった。明日の14時頃から、連邦生徒会防衛室室長と特定地区における治安維持に関する協議会が入っているから、少佐も参加するように。以上だ」
ミリーから予定とその時刻を伝えられるとひとまず報告を終え、まだ残っている事務作業を片付けるために、彼自身のデスクに戻ろうとしたときだった。
「ケリー少佐殿」
ハンプトン大佐が退室する寸前、そう声を掛けた。階級と名前で呼ばれた彼は、振り返った。
「君は佐官の中ではそれなりに若いだろうし、初めての海外勤務だと聞いている。それに到着した初日から色々と....何か困ったことがあれば、おれを頼るように」
実際のところケリーは一度も海外に駐留した経験はなく、ここキヴォトスが初めての海外における実務経験であった。
キヴォトスに派遣される兵士の殆どは、少なくとも一度の実戦を経験したことがあり、加えて勤務歴が4年以上の者が派遣されるということが多くの兵士には知られている。それに軍歴は2年を基本としているの中での措置だ。それだけではなく、3年以上も勤務し勤務成績が良好であった場合は、名誉除隊が可能となる年数でもある。
これらが意味をすることはキヴォトスはかなり危険な地域と認識されていることだ。無論、そんな危険な異世界に派遣されたケリーの身を、彼の上官が心配をするのも無理はない。
「ありがとうございます、ハンプトン大佐。是非とも、困ったことがあれば相談しますね。それでは」
ケリーは大佐に気に掛けて貰っていることに感謝を示し、大将のオフィスから完全に退室するのであった。
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